ファイナルファンタジー14 異譚 獅子の子タジムニウス    作:オラニエ公ジャン・バルジャン

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第三話 呪詛ではなく剣を以って…

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クーロンヌ城下町

 

若き王太子の凱旋。

 

民衆は歓呼の声で迎え入れた。

 

歴史から見れば実に小さい勝利かもしれない。

 

だがこれはブレトニア王国がガレマール帝国より20数年ぶりに勝ち取った偉大な勝利だった。

 

民衆にはそれだけで十分だった。

 

しかしそれを快く思わない者も居るのは必然であった。

 

全身を粗末な外套で覆った人物が人目に隠れてクロスボウを用意している事をたまたまアリゼーは見逃さなかった。

 

そしてそれは数人おり、奇しくも賢人達の視界に入り、しかも止められる位置にいた。

 

普通なら助けに入るだろう。

 

だがタジムはかつての仲間という以前に将来的な敵勢力の指導者になり得る存在であったし、マキャベリズム主義的に判断すれば彼を見殺しにしてしまう方がエオルゼア諸国としては都合が良くなる可能性は高くなる。

 

皆がそれを考えなかった訳では無かった。

 

だがそれ以前に身体と口は動いていた。

 

アリゼー

『タジム危ない‼︎』

 

タジムはその声にハッとし、暗殺者達の存在に気がついた。

 

それはカムイやレパンも同じである。

 

レパン

『殿下はお下がり下さい‼︎皆、殿下をお守りするのです‼︎‼︎』

 

民衆はパニックになりしっちゃかめっちゃかである。

 

だが訓練された暗殺者にとってそれは些細な事、彼らは喧騒の中獲物をしっかり捉えていた。

 

兵や騎士が止めに行くが間に合いそうにない。

 

タジムは身動きが取れずにいるのか…いや動いていなかったのだ。

 

自身が今この場で討たれるのならその程度だったのだと覚悟を決めてしまっていた。

 

カムイとレパンが馬を前に立てるが既に遅い。

 

次の瞬間

 

クロスボウが放たれたのか男の断末魔が大通りから挙がった。

 

しかしタジムは馬から落馬もして居なければ傷もついて居ない。

 

暗殺者はシドの隠し持っていた銃により絶命していたのだ。

 

他の暗殺者達も死んではいないものの、その場に居合わせた賢人達に倒されていた。

 

賢人達が倒した暗殺者に騎士や兵士達が殺到し、今にも八つ裂きにしてやろうと息巻いていたが、タジムの鶴の一声が飛ぶ。

 

タジム

『決して殺すな‼︎背後を調べなければならぬ、その者らが息を吹き返して暴れてその所為で手や足が其奴らからもぎ取れようが決して殺すな‼︎』

 

カムイ

『殿下、彼らはいかが致します?』

 

タジムは自身の命の恩人達の方を向いたがこのゴタゴタの所為で賢人達の偽装がバレてしまっており彼の良く知る自分たちの姿を曝け出していた事に驚愕した。

 

タジム

『なんの冗談だ…。』

 

カムイもタジムの声に反応して賢人達の方を向き、驚愕の表情を浮かべた。

 

賢人達はカムイをよく知らないがカムイ自身は賢人達の顔は知っていた。

 

タジムが冒険者の部隊を募って帝国軍や様々な危険地帯への調査にはカムイは幾度も参加しており、その都度賢人達の誰かと全員の顔を見ていたのだ。

 

カムイ

『なんと…まさかどうやって。』

 

タジム

『その者らを我が前に、我が友人にして命の恩人、そしてエオルゼア諸国同盟からの違法入国者だ!』

 

すぐさま兵と騎士達がアルフィノ達を捕らえたが乱暴される事が無かったのは王太子の友人と有れば粗末な扱いが出来なかったからだ。

 

その為全員が騎士達に連れられタジムの前に連れてこられた。

 

アルフィノはこうなっては仕方ないと覚悟を決め、そして敢えて、タジムが出奔する前と変わらぬ態度で臨むことにした。

 

アルフィノ

『やぁ、タジム元気そうみたいだね。』

 

アルフィノのこの行動には一つの意図がある。

 

冒険者タジムンティスが今も王太子タジムニウスの中に生きているかという事を調べる為だ。

 

タジム

『やぁアルフィノ。お坊ちゃんも随分とやんちゃになったものだ。今のブレトニアの混乱にかこつけて不法入国とは。』

 

タジムはチラリとシドの方を見遣ると騎士をシドの周りに配置させ話を続けた。

 

タジム

『シドがここにいると言う事は…成る程エンタープライズ号に何かしたな?

 

ここに来るまでウェルリト位しか燃料を補給出来るような所は無い上距離的に間違いなく足りない。

 

なら増槽を積んで、しかもこんなに早く着いたからにはブースターの類をつけたと見える。』

 

シド

『ヘッ、ご明察さ。それで俺の周りだけこんなに厚くしたのは俺がガレアン人だからか?』

 

タジム

『そうだ。まだこの地にはガレアン人に対する差別意識が凄まじい。

 

下手をすれば貴方は民衆や兵士達に殺されかねない。だから今信用に於ける騎士達で背後を守らせてるって訳さ。』

 

タジムは柔らかい表情を浮かべていたが、キッと表情を正すとさらに続けた。

 

タジム

『貴女方は私の命の恩人でもあるが、不法入国者だ。よってそれ相応の措置を取らせてもらう。

 

丁重に城へお連れしろ。それと暗殺者達も牢に繋げ‼︎お客人は男性陣はカムイ卿、女性陣はリヨネース卿が面倒を見たまえ。』

 

これを聞いたクーロンヌ公は猛反対であった。

 

クーロンヌ公

『殿下⁉︎この者らを城に入れるのですか?北方と南方の蛮族共を城に入れるなど言語道断ですぞ‼

 

︎ブレトニア王室の全てが揃ったクーロンヌ城に蛮族が足を踏み入れた事など一度も‼︎』

 

タジム

『トロワヴィル‼︎』

 

タジムは少なくとも賢人達が聞いたことも無いような低い声を出し、この老人を叱責した。

 

 

それはまるで怒り狂った獅子の咆哮のまさにそれであった。

 

タジム

『私の、いや余の目指す統治はいかなる種族も我が栄光と治世に基づき、平等たる国を作ることぞ!

 

それを一の忠臣たる卿が蔑ろにするなどそれこそ言語道断であるぞ。

 

それに卿の言い分は既に破綻している、それを言えばリヨネース卿は純粋なブレトニア人で無いが我が城に出入りしておるし、王都クーロンヌには数多の種族が手と手を取り合って暮らしているでは無いか!

 

産まれた地の問題で卿が余に問答を仕掛けたようであるならもはや卿に言う事は何も無い。』

 

カムイが言い過ぎです。と言わんばかりに咳払いをしたので、タジムも一旦深呼吸すると、表情も言葉も柔らかくし、こう付け加えた。

 

タジム

『…大叔父上、何にしても彼らは我が友人。彼らを大手を広げて迎え入れられなければ私の何処に王たる資格がございます。

 

責任は私が取りますゆえ、どうかお許し頂きたい。』

 

クーロンヌ公はまだ何処か煮え切らない顔をしたが、自身の君主の言う事も尤もだと理解していたのか頭を垂れ、『殿下の随意に』と態度を示した。

 

タジム

『では城に戻ろう。民達も不安気にずっとこっちを見ているしな、そろそろ安心させてやらねば。』

 

レパンはタジムの言葉に頷くと声を大きくして民達に伝えた。

 

レパン

『陛下は御無事である、皆それぞれの家や勤めに戻りなさい。今宵はささやかながらの勝利であるがワインを開け乾杯しましょう‼︎』

 

民衆はレパンの声に応え歓声と安堵の声を出しながらそれぞれの場所に戻っていった。

 

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クーロンヌ城

 

賢人達は男女に分かれそれぞれの部屋に通された。

 

皆、独房か何かに連れて行かれると覚悟したがなんと連れてこられたのは来賓用の豪華な一室であった。

 

金細工で加工された豪華な家具や赤いビロードの高価なソファーやクッション、そして有名な絵描きが描いたであろう立派な絵画が飾られていた。

 

アルフィノ

『こんな豪華な一室を私たちにお与えくださるのですか⁉︎私達は不法入国者なのでは?』

 

アルフィノの問いにカムイは笑って応えた。

 

カムイ

『あれは建前です。殿下が本気でそうお考えになられてたなら有無も言わさず拘束しております。

 

それに他の者がそれを追及したとしても殿下は入城直後に私とレパン、そしてクーロンヌ公に仰いました、『彼らの罪は不問に処す一級の客人としてお迎えしろ』と…。

 

さて、お久しぶりですな、アルフィノ殿、シド殿、そして…。』

 

カムイは少し貯めると口を開いた。

 

カムイ

『グ・ラハ・ティア殿。』

 

グ・ラハ

『俺…いや、何故、私の名前も知っているのですか?初対面ですよね?』

 

シドもアルフィノも頷いたが、カムイはフフッと笑うとこう続けた。

 

カムイ

『ああ、素顔を見るのは初めてでしたか?賢者の行進作戦も、調査団ノアの調査も、その他エオルゼアにおいて殿下が冒険者を募った戦いに実は私は参戦しておるのです。

 

勿論正体がバレぬようローブを纏っていましたので。』

 

そう言われた三名は確かに目深にフードを被った人物がいた事を思い出し、合点した。

 

グ・ラハ

『あの時に居た人だったのですか…失礼致しました…貴方も大事なノアの仲間だったのに!』

 

カムイ

『気にすることは有りません。私は…あの時の楽しそうな殿下のお顔を見れただけで十分。』

 

アルフィノは話を聞きながら首を傾げた。

 

アルフィノ

『話に水を差すようで悪いのですが、タジムは、いや王太子殿下は何故殿下のままなのですか?

 

国王がいない今、彼は王位を継ぐ筈。それが未だ殿下止まりなのは何か理由でも?』

 

カムイは少し考えて末、それに対しての返答を行った。

 

理由は先ずタジムニウス・レオンクールがブレトニア王国の騎士(他国からはジャッジと呼ばれる事もある)として叙勲されていない事にある。

 

尤も騎士の叙勲ならこの場に直ぐにでも出来るだろう。

 

しかしブレトニア王ともなればただの騎士では務まらない。

 

代々国王に即位する者は聖杯騎士として叙勲されている事が前提とすると言う法律が王国にあるからである。

 

聖杯騎士(ジャッジ・マスター)とはブレトニア王国の中でも指折りの力を持つ騎士のことで有り、かつて女神の代理人である泉の聖女フェイ・エンチャントレスより賜りし聖杯の水を飲む資格を与えられる事で初めてそう名乗る事が出来るのである。

 

然し先代のフェイ・エンチャントレスは死去し、当代のフェイ・エンチャントレスもまだ見つかっていない。

 

そしてフェイ・エンチャントレスの代理人として儀式を執り行う資格を持つ聖杯教大主教座カルカソンヌの現状もあり、

 

タジムニウスは自身が聖杯騎士としての実力がある無しに関わらず決して僭称することは良しとせず、即位の要請を固辞し続けている。

 

次に国王フィリップ九世が生死不明である事が挙げられる。

 

タジムはもしフィリップ九世が生きているのであれば、それを差し置いて王座に着くことなど言語道断、それこそ簒奪である事を理解している為、これも王座に着く事を固辞する理由としている。

 

最後に、これが最も大きな要因と言っても良いが、タジムの目的がブレトニア王国奪還では無く、アルトドルフ帝国の再建であり、

 

そしてブレトニア王になろうとも、クーロンヌ公より公爵位を相続したとしても、自身が帝国の臣である事には変わりなく、

 

帝位も未だ空席(事実上はボリス・ドートブリンガー四世が簒奪)であり、帝国統一後相応しい人間が皇帝、ないしは女帝の即位しら彼等の任命なしに王を名乗る事は出来ないと言っているからだった。

 

 

カムイ

『始祖王ジル様と今日までの歴代アルトドルフ皇帝陛下がブレトニア王に暗君が生まれること有ってはならぬと取り決めた掟をその子孫が破る事は決してあってはならぬ。

 

殿下はそうお考えなのです。そして殿下は自身が王足りえる自身が無いと言うのも事実。』

 

アルフィノ

『では殿下が王位を継ぐ条件として国土再統一で有ると?』

 

カムイ

『そしてそれが叶った暁には是が非でもなって頂く。殿下しかおらぬのです、金獅子の王旗を掲げるべきお方は。』

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クーロンヌ城 女性用来賓室

 

先の男性陣が通されたのと同じ様な部屋から悲鳴が上がっていた。

 

…喜びの……。

 

レパン

『アリゼーさん可愛いです‼︎やっぱり赤のドレスは正解でした‼︎‼

 

赤と銀の飾り紐に腰のリボン、白スラックスとロングブーツという見た目とは裏腹に咄嗟に細剣を抜いた時に邪魔にならない様にしている工夫︎、正に美しい薔薇には棘がある。

 

ああもう兎に角、本当にお人形さんみたいです‼︎‼︎』

 

アリゼー

『ありがとう、でもなんかヒラヒラして落ち着かないんだけど、私スカートもあんまり履かないし。』

 

アリゼーは豪華なドレスをあれよあれよとレパンに着せられ、第一世界の妖精達との時間を思い出し苦笑していた。

 

すると試着室のカーテンが開き、中から出てきたヤ・シュトラは黒色の大人の色気を醸し出すこれまた豪華なドレスを着ていた。

 

ヤ・シュトラ

『あら、私には何も無いのかしら?』

 

レパンは口に手を当て、目を輝かせた。

 

レパン

『ヤ・シュトラ様…いえお姉様と呼ばせて下さい、凄い素敵です‼︎

 

すらりと伸びた御御足を強調するスリットに絹のストール、高級ハイヒールから覗く御御足のペディキュアとノースリーブの色気がああ^〜。』

 

ヤ・シュトラ

(この子ひょっとして自分があんまりこういう事が出来ない反動で他人にやったら止まらなくなるタイプかしら。

 

そう思うと可愛らしくなってきたわ。

 

それに何処かライザに似ている気もするわね。)

 

ヤ・シュトラはこのハーフヴィエラの女性が第一世界にて知り合ったヴィエラ族の戦士と重なって少し面白くなった。

 

アリゼー

『リヨネース卿はこういう格好はしないのですか?私達だけこの格好するのもちょっと。』

 

レパン

『お気になさらず、私は確かにリヨネース家の女として産まれました。

 

しかし私は長女、リヨネース家は始祖レパンス・リヨネースへの敬意を払い、必ず産まれた女の子にレパンス様に纏わる名前をつけ、それが長女なら当主としての教育をせよと決められてきました。

 

だからあまりそういう事をする機会は得られませんでした。

 

でも良いんです、父の様な騎士になりたいというのも有りましたし、病に斃れた父に変わってリヨネースの御旗、『赤地に正面を向く金獅子』を守る名誉を得たのですから。』

 

ヤ・シュトラ

『病に斃れたって…お父様はじゃあ…』

 

レパン

『まだ召されては居ませんが…もう間も無く。』

 

アリゼー

『近くに居なくても良いの?お父さん何でしょう?』

 

レパンは少し顔に影が刺したが未練を立つ様に真剣な表情を浮かべ口を開いた。

 

レパン

『父には母がついています。

 

それに父は最後の願いとして『命ある限りレオンクール王家に忠誠を誓い、タジムニウス殿下の剣であれ』と私に言い残したのです。

 

この剣と共に。』

 

レパンは背中に抱える大剣を触れ応えた。

何処の世にも国にも使命を帯びて戦う女性は居るものだ。

 

そして彼女達の運命は幸福であった事は少ない。

 

それをヤ・シュトラとアリゼーは理解していたし、自分達も例外では無いことを分かっていた。

 

集合の時間までこの三人は女同士の会話で花を咲かせるのだった。

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クーロンヌ城 玉座の間

 

暫くして玉座の間に集結した賢人達は騎士や魔道士、そして文官達の並ぶ列の真ん中に立たされ、玉座に座るべき人間の到着を待っていた。

 

カムイが青と赤のコートと白いズボン、そして黒い皮のブーツを履き、肩に国王親衛隊を表す金マントをつけて現れた。

 

カムイ

『王太子殿下、ご入来である‼︎』

 

居並ぶ騎士と文官、そして近衛兵達は敬礼し、賢人達も恭しく頭を下げた。

 

タジムはカムイと似た様な格好をして現れた。

頭に金で細工されたトライコーン(三角帽)を被り、脹脛まであろうか白いロングマントをつけていた。

 

タジム

『楽にせよ、お客人はどうか近くに、楽にして、さぁ、もっと近くに。』

 

タジムに催促された賢人達は玉座の前にある階段の真前まで歩く事になった。

 

後ろから騎士や文官達が興味と侮蔑の目で見ている事は彼らは理解していた。

 

アルフィノは賢人達を代表して今回はちゃんと礼儀に基づいて目の前の英雄に相対した。

 

アルフィノ

『王太子殿下、御目通り感謝致します。

 

私共は貴国とエオルゼア同盟の間に友誼を結ぶべく参上致しましたが、いかんながら貴国は戦争状態にあり、図らずもこのような形となった事をどうかお許し下さい。』

 

タジムはアルフィノが言い終わると口を開いた。

 

タジム

『アルフィノ、今まで通りに接してくれ。

 

私は君達の前ではどんなに着飾ろうが虚勢を張ろうが一人の冒険者なのだから。

 

さて先ず、先の事件で私の命を救ってくれた事に感謝を、それに伴い不法入国、身分詐称の罪は一切問わず、乗ってきた飛空艇も我が王室の権威に掛けて、完全に修復する事を約束しよう。』

 

これを聞いた賢人達は安堵の表情を浮かべた。

とりわけシドに至ってはエンタープライズの事もあった為尚、それは大きかった。

 

タジム

『飛空艇が直る間、諸君らの才覚に見合った仕事を我が国で披露して頂きたいが宜しいか?

 

それ如何では我々がエオルゼア同盟諸国に対しての反応に影響すると思うのだが?』

 

タジムが彼ら賢人を短期間とは言え登用しようとしている事は明白であった。

 

しかし彼らからしても内情の把握という意味では願ったり叶ったりであったし、交渉に影響をもたらすなら彼等に断る理由はなかった。

 

アルフィノ

『その申し出、謹んでお受けいたします殿下。我らの働きが殿下の期待に叶った暁にはどうか我が祖国との友誼を御考慮頂きたい。』

 

タジムは頷き、口を開く。

 

タジム

『シド、貴方の飛行艇は確かランギーユに泊めていたと聞いた。何かあれば事だ、このあとカムイ卿と共に回収しに行くと良い。

 

エンタープライズの停泊地としてこの城のドックを貸そう。』

 

この言葉に文官武官が騒めいたが、カムイが刀を鞘から少し抜き、高い金属音を出しながら収めて威圧した為騒ぐ者は居なくなった。

 

タジム

『客人達については以上だ。聞いた通り、彼等はエオルゼア同盟からの使者だ。

 

民族的、種族的差別を以ってこの方々に対して不貞な言動を働いた者は余に対して弓引いたと同じと心得よ。』

 

文武百官全員が頭を垂れたのでタジムは続けた。

 

タジム

『御客人らは騎士達の列の後ろに、このまま先の事件の実行犯を尋問する』

 

と言いかけた瞬間玉座の間に一人の騎士が慌てて入ってきた。

 

騎士

『で、殿下!捕虜達がたった今死亡しました‼︎』

 

一同騒然とはまさにこの事であった。

 

カムイ

『馬鹿な‼︎とても自殺など出来る状態では無かった筈であろうに‼︎』

 

騎士

『奴ら全員、奥歯に細工を施していた様でして、中に毒薬の類を仕込んでいた様です。現在錬金術師が成分を確認中です。それとこの様な物が。』

 

クーロンヌ公が騎士から受け取ったそれを見て、声を上げた。

 

クーロンヌ公

『な、なんと…‼︎』

 

クーロンヌ公はそれをタジムに手渡した。

それは赤い宝石で、出来たブローチであり、それに黒い龍の紋章が彫られていた。

 

タジム

『これは?』

 

クーロンヌ公

『これはライクランド帝国領東西バットランドに広がる新興宗教組織カーシュタインの子供達、言いやすく吸血鬼教と云われる組織の証です。』

 

タジム

『その吸血鬼教とは何なのだ?』

 

クーロンヌ公が説明するには、かつてライクランド帝国にてヴォイドを信仰し、挙句帝国内に巨大なヴォイドの門を開け、闇の世界の軍勢を招き入れその力を以って帝国を簒奪せんとしたヴラド・フォン・カーシュタインという、バットランド選帝公爵領を治める貴族がいた。

 

通称吸血鬼公と言われたこの男は自身は正統なライクランド帝国の支配者で有る事を信じて疑わなかったが、時の皇帝に帝選に敗れた以降、

 

その地位を奪う為にヴォイドを密かに信仰し、その力によって人の形をし、そして人の生き血を啜る文字通り吸血鬼となり、その力を妻と子、そして一族と家臣に分け与え吸血鬼とし、民衆をヴォイドの信徒ないしはゾンビに変え、帝国に戦いを挑んだ。

 

結果多大な犠牲を払いながらもブレトニアの援軍もあり、ヴラド達は打ち倒された。

 

しかし生き残った信徒達は雌伏し遂に行動を起こしたのだ。

 

キスレヴ会戦時にミドンランド軍に参加していた彼等はバットランド公を戦いの中で弑逆し、ミドンランド公ボリス・ドートブリンガー四世の後援を持って不当に公爵領を占拠し、

 

公爵領内に信仰国家ズィルバニアを建国、国民の半分を信徒化、残り半分の半数を強制的に改宗、残り半数を催眠状態に掛け信仰させ、日夜ゾンビや妖異を信徒が拐った人間ないしは信徒自身を生贄にして召喚している集団だと言う。

 

クーロンヌ

『あの戦いでバットランド軍は半数が戦死、残り半数は訳も解らず、我らを追っていたそうです。

 

戦いの直後、口封じで殺されそうになり、瀕死の状態で逃れてきたバットランド公の腹心が語った事なので間違い無いかと。』

 

カムイ

『バットランド公は先帝陛下の信頼篤き宿将であった。だからあの時ドートブリンガーなどに味方した時は解せなかったが、そんな事情が有ったとは…クソッ‼︎』

 

カムイは無念を口にしているとタジムも口を開いた。

 

タジム

『何にしても下手人が分かっただけでも結構だ。

 

現在の我々の支配下にあるクーロンヌ、リヨネース、アルトワの3公爵領全域に目を光らせておけ、それと死亡した者の始末は内密に、ここで公表すれば、彼奴等は殉教の徒として英雄視されるから癪でしか無い。

 

とにかくこれで解散とする、今宵は戦勝とエオルゼア同盟の使者をもてなす為宴とする、18時に各自参集すべし、各都市や街、村にもこう伝えろ。

 

今宵の晩餐は全て王家の奢りである盛大に飲み、食い、英気を養えと。

 

以上、解散。』

 

諸将

『ハッ!』

 

タジムが退室すると、各々はそれぞれの待機場所や屋敷に戻って行き、暁の賢人達も先の部屋に戻り、シドはカムイ卿に連れられエンタープライズを回収しに行った。

 

18時の鐘が鳴った時、王都や町は人々の賑わいが一層大きくなっていた。

 

何せ今日はいくら飲み食いどんちゃん騒ぎをしてもその金は全て王家が払ってくれるだけで無く、先にも述べたガレマール帝国に対しての小さくとも久方の勝利に沸き立っていたからである。

 

王城でも大賑わいであった。

 

久し振りに勝利、王太子の帰還など幸先の良い吉事が続いているからだった。

 

そしてこの宴の主役は何と暁の賢人達であった。

賢人達の周りには騎士や文官達が集まっていた。

 

勿論、侮蔑の言葉を放つ為で無く、それしようとする者は少数であったし、そうで無い者が大勢集まってしまったのでそれも出来ずに隅に追いやられていた。

 

賢人達とブレトニア人の間を取り持ったのは他でも無いタジムとカムイとレパンの三人で有り、それぞれがそれぞれの話をして聞く者達を釘付けにしていた。

 

そしてそれとは別の人集りが出来ていた。

それはシドの周りに沢山の技術者や鍛治士が集まっていたのだ。

 

天才シド・ガーロンドの力はここにまで轟いていたのだ。

 

ブレトニア人の技術者達はその仕事柄かガレマール人に対しての偏見は全く無く、ガーロンドに、有りとあらゆる(大半が飛行艇、飛行軍艦についてだが)難問に対しての助力を乞い、シドもそれに合わせて的確かつ発展を促す意見を述べ、有意義な時間を過ごしていた。

 

宴もそこそこにタジムは城のテラスで一人グラスを片手に星空を眺めていた。

 

いや正確には星空を眺めていたのではなく、超える力で過去を見ていたのだ。

 

超える力が発動したタイミングと星を見たタイミングが重なってそうなっただけだった。

 

過去の情景はかつてブレトニア内で起こったテロ事件の場面を映し出されていた。

 

この時、ブレトニア王国は急激な近代化の代償により財政難に陥っており、タジムの曾祖父より始まったこの問題を祖父、そして父であるフィリップ九世がやっとの事で終結したが、この情景は父がまだ即位して間もない頃で、国民が財政難の所為で生活が困窮した事による一揆が発生した所と言った具合だろう。

 

タジム

『義父上から聞いた事は有ったが…父上はこの一揆を収めるのに大変苦労したと聞く。』

 

タジムの視線の先には若きフィリップ王とカムイ卿が居た。

 

フィリップ王

『また民衆の一揆が起きたそうだな、場所は何処だカムイ卿。』

 

カムイ卿

『ジソルー伯爵領で御座います陛下。』

 

フィリップ王

『ジソルー伯の治世に問題があるとは思えぬ…ここ最近の治安の悪化と言い…ガレマール帝国の関与の疑いはないか?』

 

カムイ卿

『可能性は高いかと、一揆勢はかなりの人数が武装しており、帝国製の物が紛れている様です。』

 

フィリップ王

『直ぐに鎮圧せよとジソルー伯とボルドロー公に伝えよ、必要とあらば余も出る。

 

ライクランドに座すジギスムント皇帝陛下に良い報告をそろそろせねばならぬしな。』

 

カムイ卿

『御意、しかしよもやガレマール帝国がテロ同然の行動に出るとは…やはり我が国に対して連中は剣を向ける勇気も無いとみえますな。』

 

フィリップ王

『カムイ卿…ならば奴らに教育してやれ、テロリズムは時代を逆行させる事は出来ぬが時代を停滞させる事は出来る…。

 

それを知っているからこそ我らブレトニアは決してお前達を好きにはさせぬとな。』

 

ここで過去視は終わった。

 

父と義父は今、まさに此処で一揆の対応を行っていたのだ。

 

タジム

『テロリズムで時代は動かない…ならば今回の事件に対しても、私が取るべき態度は一つしかない。』

 

そう一人で呟くきながら目を開くとなんとテラスに賢人達やカムイやレパンと言った騎士達が集まっていた。

 

アリゼー

『目、覚めた?』

 

アルフィノ

『皆で君の元に行こうとした時にはもう君は過去視を初めていたから慌てる皆んなに説得するのは大変だったよ。それで何を見たんだい?』

 

タジムは見たものを話した。

 

カムイ卿

『そうですか、あの時の事を視ましたか。あれは事実上の最後の民衆達の一揆となりました。』

 

タジム

『カムイ卿、父上はどのようにしてこの一揆を収めたのだ?それはまだ聞いていなかったのだが、差し支えなければ教えてほしい。』

 

カムイ卿

『あの後、暴徒と化した平民達はあろう事かジソルーの武器庫を襲い、大量の武器、特に銃火器を奪い、各地で同志を募り、クーロンヌまで進軍しようと思い上がりました。

 

陛下はこれ以上の被害を出すわけにはいかぬと、王室フュージリア連隊(射撃を専門に行う戦列歩兵部隊を指す)と擲弾兵連隊、そして竜騎兵隊を私に指揮させ、ジソルーに向かいました。

 

そして暴徒共にある情報を流し、とある路地に誘い込みました。

 

そして、陛下は自らフュージリア連隊の指揮を執り、暴徒に斉射、二度ほどの斉射を喰らっても暴徒は指揮を崩しませんでした。

 

そこで陛下は兵士達の壁で隠していた2門の12ポンド野砲を見せつけ、暴徒共が戦慄している間に散弾を喰らわしたのです。

 

一気に血の海になり、パニックを起こした民衆は逃げ惑いました。しかし出入口は私に率いられた竜騎兵隊と擲弾兵部隊が塞いでおり、こちらに逃げてくる暴徒も同じように射殺、残った暴徒は20人ほどだったと思います。』

 

これを聞いた者達はフィリップ王の苛烈さに恐れを抱かずにはいられなかった。

 

カムイはワインの一口飲むと更に続けた。

 

カムイ

『自己弁護と聞かれても致し方ありませぬが…あれは避けようが無かったとしか言いようが有りませんでした。

 

そして陛下は暴徒の死体を見て一人こう呟いておりました。

 

『テロリズムでは決して時代を作れぬ。だからこそ私は決して屈せぬし、二度とこんな事は起こさせぬ、決して、決して!』

 

とね、ですが、あれは陛下自身に言い聞かせて居たのです。押し殺した嗚咽と怒りを胸に。』

 

タジム

『そうか、父上は敢えて強硬姿勢とる事で結果として国を守ったのか。』

 

皆が怪訝そうな顔をするのでタジムは分かりやすく説明した。

 

民衆を治めるにあたって国家がその政体によって最上に置くものは違うが、民衆に規律を与えるのはそれによる規範とそれを犯した者に対して処罰とそれによって被る不利益に対してであると言う根本的な部分は変わらない。

 

言うなれば盗みを働けば当然警察が動き、牢に入れられる。

 

誰もが好き好んで牢に入りたくは無い。

 

当然だが、酷ければ生きたまま首を刎ねられたり、家族が盗人の一族と揶揄される様などそんな目には遭いたくないし、もっと視たくも無いだろう。

 

この様にその国を治める機構が罪を犯した者の結末を明らかにし、そして一切の妥協無く刑罰を与える能力があると民衆が知れば、早まった行動を取れない。

 

つまり暴動の類いを起こしにくくなるのだ。

 

そして外に対しては民衆を利用した謀略が無意味である事を喧伝する事でその手の策を練りづらくする。

 

もっと言ってしまえば、軽い騒動を起こしたとしてもその起こした者達を一族郎党皆殺しにして見せる事で立案者側の良心の呵責を狙うという事もできるのだ。

 

タジム

『極端に言えば恐怖による統治さ。

 

罪を犯した者にはただしき罰を、与える。

 

それが民衆の知る所であれば、何もしていなくても、警察機構を持つ国家であれば警察に、それを軍隊が兼ねていれば兵士に、睨まれたり、こっちがその姿を見ればドキッとするものさ。

 

国家の治安とはまさしく民衆の恐怖心のまさにそれなのさ。

 

尤も父上はその後憲法を制定され、議会を開く準備を行なって限りなく民主制に近い政治を取り行われた。

 

そのお陰で国政は豊かになり、多くの民がひもじい思いから抜け出し、民衆の父上の認識は英雄となったのだ。

 

そして鉛玉で蜂の巣にされた暴徒は必要な犠牲と言うだろうよ…。』

 

最後はタジムなりの皮肉だったのか、何処か冷笑的なものを感じたとアリゼーは母への手紙に綴ったという。

 

その時は夜も更けていた事もあってか、この日の祝宴はお開きとなり、各自それぞれの場所に戻り、明朝の9時より朝食を兼ねた軍議を開くとタジムは言い、人々を解散させた。

 

タジム

『いかに善政を敷いても人が従うのは個人では無く、その国の規範や主義で無ければならないと賢者は言う。

 

だがその主義、思想そして規範が恐怖によって成り立っているのだとしたら…果たしてどちらが正しいのだろう。』

 

______________________

クーロンヌ王城大広間

 

ブレトニアの一般的な朝食(パンやトースト、ベーコンエッグやフルーツ、紅茶等)がズラリと並んだグランドテーブルの両側に座るブレトニアの騎士や文官達に混じって暁の賢人達も食事を摂っていた。

 

アリゼーは流石に朝からこんなに食べるのかと一瞬辟易していると親切な騎士が何も全て食べねばならない理由は無いと教えてくれた。

 

お陰でアリゼーは気が楽になったがなんでこんなに沢山用意しておくのかと聞くと、騎士がタジムの方にチラリと視線を向けた。

 

アリゼー

『あぁ…成る程…。』

 

アリゼーはあぁ、納得と言わんばかりに短く答えた。

 

タジムニウス・レオンクールには後に冒険者としても君主としても逸話が多く存在するが、必ず出てくるのが彼の大食いである。

 

決して肥満ではなく、筋肉こそあれど細身の彼の何処に其れだけの料理を平らげる土壌があるのかと皆が疑うが、毎日毎食どんなに少なくとも二人前は必ず食べるこの男の食いっぷりは尋常ではない、カムイ卿はこの件に関してこう記していたという。

 

ある時私は我が王に剣のみを与え、自然の中で生きる術を与えるべく訓練を施した。

 

王は不慣れながらも少しづつ生きる術を学び、遂に初めて獲物を取ることに成功し、その肉を喰らった。

 

その時、王は取り憑かれたのだ、この世に存在する全ての食物の美味さに。

 

以降タジムは大食いの道を走り出した。

 

それによって起こる健康状態の悪化など心配されたがそこはタジム自身が気をつけているお陰でそれは無かった。

 

なんなら今彼が食べているのは大きめのボールに入れられた山盛りグリーンサラダである。

 

ほぼ独りの人間のせいで騒々しくなった朝食を終えた一同は軍議に臨んだ。

 

現在のブレトニアはクーロンヌ、リヨネース、アルトワ、そして分割したアキテーヌのおよそ三分の一しか領土を持っていない。

 

そしてカルカソンヌ、パラヴォン、バストンヌ(及びその支配下にあるアキテーヌ領の残り半分)を蜂起促す為には、ブレトニア軍の支配地域が少なくともブレトニア王国の半分を占めていなければ困難であるというのが現在帝国の支配下にあるカルカソンヌ公の結論であり、秘密通信を用いて義兄クーロンヌ公に伝え、そしてタジムはそれを聞くとその条件を満たす為の戦略を立てた。

 

完全な帝国の支配下に落ちているボルドロー公爵領とオルカル山地とその地下にある巨大地下工房都市を奪還する事であった。

 

だが肝心な事にその二つはとても近い位置にあり、どちらか一方を攻撃されれば、残りの一方が援軍を即座に差し向けられることが出来るという地理的な強みを持ち、

 

目下タジム率いるブレトニア軍にはその両方を攻める力は無かった。

 

現在のブレトニア軍の遠征可能戦力はニ万五千であった。

 

残りは防衛用の兵力と、遠い地や帝国軍の支配下から逃れてきた将兵や部隊だが、後者を直ぐに戦いに引き摺り出すことは到底出来なかったのだ。

 

タジム

『彼らに休息を与えることが出来ても彼ら全員に満足に兵装与えてやったり、貿易や、後のために空中艦隊の根拠地としてボルドロー、オルカル山地は必ず奪還せねばならない。』

 

クーロンヌ公

『諸君も知っての通り、現在ボルドロー公爵家は断絶、オルカル山地にはその地に住まう混血ブレトニア人特にルガディン、ドワーフを主に強制的に収容し、徹底的な強制労働に就かせている。

 

彼らの解放が遅れれば遅れるほど大勢の無辜の民が命を落とす事になるのだ。』

 

カムイ卿タナトスはその言葉を聞いて思わず聞き返した。

 

カムイ卿

『クーロンヌ公、ボルドロー家が断絶したとはどういう事ですか⁉︎』

 

クーロンヌ公は無念の表情を浮かべた

 

クーロンヌ公

『残念だが…タナトス、ボルドロー公爵は2年前に病死したのだ。

 

御子息もキスレヴの戦いで戦死しているし、ボルドロー公も高齢だったしな…本当に残念だが。』

 

カムイ卿は嗚咽まじりの咽び泣いた。

 

タジムは目を閉じ、喪を示した。

 

タジム

(父上とボルドロー公はとても親しかったと聞く、無理もないか。

 

いやそれ以上にボルドローが完全な帝国支配下にある事が何倍も問題だ。

 

ボルドロー軍は解体されてしまっただろうか?もし解体されて無いのならこのままの策で行けるのだが。)

 

タジム

『クーロンヌ公、ボルドロー、及びオルカル山地の戦力を教えてくれ。』

 

クーロンヌ公は地図を持ってこさせると説明を開始した。

 

ボルドロー、オルカル山地共に兵力は守備隊合わせ一万五千、尚、ボルドローは五千がガレマール帝国軍であり、残り一万はボルドロー公爵軍であった。

 

守備隊を除く出撃可能の兵力は共に一万だが、野戦を仕掛ければ二万対二万五千になる為、帝国側がそれを仕掛ける可能性は低い。

 

そしてブレトニア側は両方の拠点を奪還しなければならないが一つずつ落とさなねばならないのでどちらか一方を攻撃している間に残り一方が全戦力を出動させる事が出来るので、事実上ブレトニア軍二万五千対三万の戦いになるのだ。

 

タジム

『これについてはもう策を考えてあるんだ。

 

その前に先ず我が軍の攻撃目標はボルドローに定める。

 

次に策だが、我が軍はボルドローに軍を進めるがその間に五千程の兵を帝国軍に見つかる前に分けておく、ボルドローを攻囲する二万の兵に対して敵は必ずオルカル山地に援軍を要請だろう。

 

少なくとも一万はオルカル山地から出撃する筈だ、その一万を機動力に富んだこの別働隊五千で撹乱し、進軍を遅らせ、敵を疲労させ、最後には時を掛けずにボルドローの包囲軍と一気にカタをつけ、ボルドローに立て篭もる敵軍の戦意を打ち砕く作戦だ。』

 

クーロンヌ公

『正しく奇策ですな。

確かにボルドローを攻囲するのに二万もあれば余裕でしょう。

 

されど敵の援軍を止めるのにたった五千とは、どうするおつもりです?』

 

タジム

『この五千はその戦力全てを騎兵で賄う。

 

槍騎兵、剣騎兵、竜騎兵、弓騎兵といった戦力だな、それらは馬の機動力でヒットアンドアウェイを仕掛け続けて敵の疲労を誘うのだ。

 

だが決して乱戦には持ち込まず常に殴れば逃げを敵がボルドローに着くまでの二日間これを繰り返す、夜通しな。』

 

なんと…と諸将は顔を見合わせた。

 

この作戦に従事する騎兵、つまり大半が騎士であるが、この作戦に参加する者は居るのか?

 

そもそもこの精神力と忍耐を必要とする作戦を指揮する指揮官が居るのかと顔を見合わせた。

 

タジムはフッと笑うとその別働隊の指揮官は自らがやると言い出したから一同騒然となったのは言うまでもない。

 

アルフィノ

『タジム自身が指揮を取るのか⁉︎

 

総大将が自ら…失敗すればどうなるか分かっているのか⁉︎』

 

ヤ・シュトラ

『そうよ!それに二日の間にボルドロー軍の指揮が落ちなかったり、城から打って出てきたらどうするつもりなの⁉︎』

 

 

タジム

『それについては今話すよ。

 

あとこれは私が立案したんだ、指揮を執るのは当然のことさ。

 

そしてクーロンヌ公、此度の攻囲軍は卿が指揮を取れ、カムイ卿が今回の留守居とする。』

 

カムイ卿

『…何故私は留守居なのです。』

 

タジム

『カムイ卿、貴方は喪に服すべきだ。

 

それにそんな状態でついて来られても邪魔なだけだ、これは命令だ。』

 

カムイ卿

『御意、ですが殿下お願いがあります。

 

別働隊五千と言いましたが、七千に増やして頂きたい。

 

ボルドローを攻囲するなら一万八千でも充分、もしもの為に兵をお増やしください。

 

それに城攻めでは騎兵は役に立ちませぬ。』

 

タジムはクーロンヌ公を見たが、クーロンヌ公も頷いたので、別働隊五千を七千に訂正した。

 

タジム

『では次に、攻囲軍について話をしよう。

 

別働隊の働きがうまく行ったとしても、ボルドローの敵軍が戦う気満々のままで居たら結局挟み撃ちにされてしまう。

 

これはヤ・シュトラ女史の言う通りだ、そこで、遂に暁の賢人達の出番と言うことだ。』

 

タジムが指を鳴らすと五人分の帝国軍の軍装が用意された。

 

うち一つは帝国軍士官の軍装であった。

 

タジム

『暁の諸君には帝国軍に成りすましてボルドロー侵入し、ボルドロー軍の指揮官にあって我が意とボルドローの防衛兵器を無力化して欲しい。』

 

暁の賢人とシドは目を丸くし、タジムは少し後ろめたそうに頭を掻いた。

 

タジム

『実はシドが来た時点でこの作戦は考えついていたんだ。

 

配下の兵が非ガレアン人でも問題ないが、士官がガレアン人では無いとなると色々面倒だが、シドがその役をやってくれれば違和感は全て払拭出来る。

 

それだけじゃない、攻囲軍は防衛兵器の被害を受けなくて済む、何より内側からボルドローを落とせるとあれば何倍も戦いは楽に進み、死人が減るんだよ。』

 

シド

『簡単に言ってくれるぜ、まぁ俺達らしいと言えば俺たちらしいな。

 

前にミンフィリア達を助けに行った事を思い出したぜ。』

 

タジム

『やってくれるか?』

 

暁の賢人達は互いの顔を見合わせ、首を縦に振ってくれた。

 

アルフィノ

『勿論やろう、だがタジム、こちらも一つお願いがあるんだが?』

 

タジム

『俺はン・モゥ族じゃないんだけど?

 

まぁ聞きましょう、んで何をお願いするの?』

 

アルフィノ

『この潜入なんだが、アリゼーとグ・ラハ・ティアを除く私達三人で行く、そのかわりこの二人をタジムの側に置いてくれないか?』

 

省かれた二人は驚愕し、そこに追い討ちを掛けるようにヤ・シュトラも続ける。

 

ヤ・シュトラ

『そうね、暴れ盛りの二人を連れて行っても可哀想なだけね。

 

それよりも憧れの英雄の側で戦わせてあげればこの二人は喜ぶし、何よりタジム、貴方は二人に対しても約束が有るのではなくて?』

 

タジムはこれは…と言わんばかりに頭を掻いた。

 

そして二人次第だと言った。

 

二人の返答はついて行くであった。

 

タジム

『よし決まりだな。

 

陣触れをだし、クラリオン・コールを鳴らせ‼︎

 

ブレトニア軍はこれより出陣する‼︎‼︎』

 

ブレトニア軍二万五千はこうして出撃した、タジムの軍団司令官としての初陣が今始まろうとしている。

 

______________________

ボルドロー城門付近…

 

ガレマール帝国軍の兵士達が朝の見回りをしていた。

 

まだ夜が明けたばかりで空はまだ暗く、兵達は重い瞼を擦りながら職務にあたっていた。

 

然しその中でも少し離れた平地から爆炎が上がるのを彼らは見逃さなかった。

 

帝国兵

『敵襲ー‼︎‼︎‼︎』

 

警報が鳴り、次々と兵が城壁に殺到する。

 

どうやらたった三人の帝国兵をブレトニア軍が大軍で追い掛けている様だった。

 

追われている帝国兵は近隣のパトロール小隊だろうか?

 

たった三人になりながらも懸命に味方の元に走って行く、ボルドロー側も銃撃や城壁に備え付けられたトレビュシェットやバリスタ、大砲を使って迎撃してきた為、ブレトニア軍は被害を出す前にあっという間に逃げていき、朝靄の中に消えた。

 

三人の為に城門を開けたボルドロー側は直ぐに何が有ったのか問いただすべく司令官が逃げてきた三人の元に訪れた。

 

ボルドロー占領軍司令官

『お前達、一体何が有ったのだ?

 

あのブレトニア軍はなんだ⁉︎』

 

帝国軍士官

『自分ら第二一八七パトロール小隊はこのボルドロー郊外にてパトロール行動を終え、野営していたのですが。

 

突如、同数のブレトニア歩兵部隊と遭遇、戦闘になりました。

 

戦闘を始めた途端、一気に敵の数が二倍、三倍と増えたので堪らず敗走したら、追ってくる敵部隊の後ろには我らの逃げる先に向かって進軍する敵の大軍が居たのです。

 

そこから容赦なく部隊が差し向けられ小隊も我ら三人を残して全滅、我らもどうして生きて帰ってこれたか…グッ…。』

 

士官は息を切らせ、戦傷の痛みに耐えながら少しづつ話した。

 

他の二人は息を切らせすぎたのか、口も開かなかった。

 

帝国軍士官

『兎に角、命に変えても敵軍襲来の報を司令官閣下にお伝えせねばと無我夢中で走ってきたのです…。』

 

ボルドロー占領軍司令官

『そうか…ご苦労だった。

 

最後に敵軍の総数を聞きたい。

 

推定でも構わん、如何程の兵力で彼奴等は迫ってきているのだ。』

 

帝国軍士官

『二万以上であります、閣下。』

 

ボルドロー占領軍司令官

『に、二万だと⁉︎

 

叛乱軍め、何処にそれだけの戦力を…‼︎

 

直ぐにオルカル山地の軍に報告を入れろ、援軍を要請するのだ‼︎』

 

帝国兵

『ハッ‼︎』

 

伝令の帝国兵が走って行くと、防衛体制の維持と逃げてきた三人は休むように指示を与えた司令官はボルドローの城に戻っていった。

 

逃げてきた三人のうちの1人である小柄の兵士は司令官の傍にいた騎士をじっと見つめていた。

 

______________________

ボルドロー郊外 ブレトニア軍本陣

 

ブレトニア騎士

『御三方は潜入に成功したようですクーロンヌ公爵閣下。』

 

騎士の報告を受けたクーロンヌ公は椅子から立つと夜が明け切る前に全軍に包囲陣形を完成させる様に指示を出した。

 

ブレトニア騎士

『御三方は大丈夫でしょうか?』

 

クーロンヌ公

『どうだかな。

 

あの蛮族…いやシドとか言ったあの機甲士が裏切らぬかがワシは心配だ。』

 

クーロンヌ公は嫌みたらしく答えた。

 

ブレトニア騎士

『公爵様、シド殿は殿下のご友人ですよ?

 

それにこんな事を言っていたと殿下に知れたら間違いなく御立腹になられますぞ。』

 

クーロンヌ公

『ならば卿はあのシドというのを本当に信じているのか?

 

ガレアン人は平気で人を裏切るし、裏切らせるそういう奴らの血が入っているあの男を信用出来るのか…。』

 

ブレトニア騎士

『それは…。』

 

騎士が返答に困っている事を察したクーロンヌ公はその騎士に詫び、こう続けた。

 

クーロンヌ公

『いや、すまぬな。

 

癪だが、あの男を信じなければ殿下を信じないのと同じになる、ここは信じるべきだったな。』

 

一方その頃、前線を指揮していたレパンは軍の配置が済んだ事の報告を受けていた。

 

レパン

『分かりました、それでは始めましょう!』

 

レパンは馬を全軍の前に立てるとこう叫んだ。

 

レパン

『ブレトニアの男たち、女たちよ‼︎

 

勝鬨を挙げなさい‼︎‼︎

 

一時間毎に全軍の半数が勝鬨を挙げ、城に籠る敵に我らの威を示すのです‼︎‼︎』

 

以降敵軍は眠ろうにも眠れず憔悴する事になる。

______________________

オルカル山地地下工房都市

 

ボルドローより敵軍襲来の報を受けた帝国軍はすぐに軍を出撃させた。

 

出撃した軍は一万、敵は守備兵五千を残した事になる。

 

タジムが想定した敵軍の最低数であった。

 

一万が出陣した事はタジムの耳に届くまでそう時間は掛からなかった。

 

アリゼー

『一万と七千、数は不利だけど仕事は楽になったわね。』

 

グ・ラハ

『此処から二日掛けて敵を削って行くわけだな?司令官どの。』

 

タジム

『七千全てが騎兵とは敵も思うまいよ。

 

機動力を捨てる軍隊なんて歴史を見ても先ず存在しないからな。

 

さて、アジムステップの遊牧民族よろしく敵を引っ掻き回してやろう。

 

先陣はこの私が自ら斬る。

 

猛きブレトニアの騎士達よ、我に続け‼︎‼︎』

 

全軍

『『ウオオオオオオオオオオオオオオオ‼︎‼︎』』

 

帝国軍救援軍司令官

『ん、なんだこの音は…馬鹿な敵襲か⁉︎

 

防衛陣形を取れ、急げ‼︎‼︎』

 

七千の騎兵達は先ず竜騎兵の馬上射撃によって敵に被害を与え、両翼に展開した弓騎兵に支援された槍騎兵と剣騎兵の突撃で敵を崩す戦法を取っていた。

 

だが如何に崩しても兵力差と敵が立ち直れば被害が出るのはタジム達である。

 

だからこそタジムは突撃したら直ぐに後退を命じた。

 

当然敵の射撃が後ろから放たれ、僅かな被害を出したが、敵の射程外からは悠々と退去する事に成功した。

 

ガレマール帝国軍一万の軍勢は、道中撹乱を受けるという事実がある以上全力で進軍する訳にもいかなくなった。

 

むしろこの軍の司令官は疑心暗鬼に陥った。

 

敵は二万と聞いていたが、この撹乱に出された兵は七千近く、もし総数二万ならこれだけ兵を割いていては間違いなくボルドローは落とせない。

 

実は各地で蜂起したブレトニア、ライクランド軍残党が想像以上に集まっており、ボルドローの攻囲軍と襲ってきた七千は囮で、少なくとも更に二万近くの軍がオルカル山地に迫っているのではないかとすら考えだしていた。

 

しかしこれに対しては参謀がそれは無いと根拠を以って否定した。

 

もし敵が本当にそれだけ動員できるのであれば、最初から全力を以って我が軍を駆逐し、一挙に殲滅してしまえばいい話だが、それをしてこなかったのはそれだけの動員が不可能である証拠であると、然しボルドロー側が援軍要請を出した事を鑑みるに敵の総数は撹乱兵力を除いても二万近くである事は間違いなく、我が軍が向かわねば、ボルドローは確実に落ちる。

 

なので我が軍はこのまま戻らずボルドローに向かい、もし敵の撹乱部隊が再度襲撃してきたら今度は手痛い反撃を喰らわせ行動不能にして仕舞えばいいと言ったのだ。

 

司令官もこれに同意し、スピードこそ落ちるものの、ボルドローへの進軍を再開した。

 

もしこの時この参謀が敵の総数が撹乱兵力も合わせて二万五千程だと看破していたら結末は違うものになっていたかも知れない、しかし時は戻ってこないのだ。

 

この時点でタジムの作戦の半分は達成している。

 

結果ボルドローへの内部工作を行う時間的猶予が生まれたからである。

 

この時アリゼーとグ・ラハは軍議の前に起きたタジムとの会話を思い出していた。

 

タジム

『仮にこっちが相当の戦力を持っていたとしても結局は二箇所全ての場所を攻撃するのは時間と手間の無駄でしかない…アリゼー達ならどうする、こういう時?』

 

アリゼー

『そうね、それなら一箇所にまとめてドカンと叩くのよ‼︎』

 

グ・ラハ

『そうだな、俺もそう思う。

 

その方が結局のところ此方の被害は少ない。』

 

タジムは頷きながら、口を開いた

 

タジム

『発想は素晴らしい。

 

だが問題点がある、一つは敵を集める方法。

 

今回敵は我々に兵力を分散させる事が目的であり、その優位性を捨てる事は考えられない。

 

もう一つは敵に戦力を集中させずに各個撃破すべしという用兵学の基本に劣る事になる。』

 

アリゼー

『うーん…難しいわね。』

 

タジム

『発想は素晴らしいと言ったろう?

 

必要なのは応用さ。

 

そうだな集める方法は問わないとして、敵を集めるなら集まりきる前に進軍ルートを抑えて、各個撃破してしまえばいい。

 

更に今回の場合兵力同数、敵は二つに分かれている場合、我が方は全体でA集団、次にB集団を叩いて行く。

 

此方は常に敵の二倍以上の戦力で戦えるから勝算も高いだけでなく、犠牲も少なくて済む。』

 

タジムの戦術論に2人は目を輝かせながら聞いていた、憧れの英雄がより一層彼らに影響を与えている瞬間であった。

 

タジム

『だが今回の場合それをやろうにも敵を引き摺り出さないとそれが出来ない。

 

おまけに今回は必ず攻囲戦を強制され、各個撃破しようにも時間が掛かってしまう上、たった五千とはいえ、戦力が上の相手に挟み撃ちにされるとあれば我が方が分が悪いのは自明の利だ。

 

なんとしても時間差つけ、かつ短時間で各個撃破する方法を考えないとならんか…ヤレヤレ。』

 

グ・ラハ

(結果この人は敢えて敵の策に乗り、用兵学の基本も無視して戦力を分散させた。)

 

アリゼー

(でもお陰で敵は出てきた。結局時間との勝負になったけど各個撃破するチャンスを作り出した。この人は優れた戦士だと思っていた。けれど…)

 

グ・ラハ

(この人は優れた戦士である前に優れた用兵家なのかも知れない。だからこそあれだけたくさんの人々がついて行くのだろう。)

 

と考えていたが、実はこの時タジムは全く真逆の事を考えていた。

 

タジム

(やれやれ、こっちが戦力を分散して敵を誘き出さねばならんとはな。

 

此方は分散せず、かつ敵を集結させずという基本中の基本を捨てるなんてとてもでは無いが良い用兵家とは言えないな。

 

どうにか各個撃破されないようにしてるとはいえ、もし敵がもっと戦力があって、しかも優れた将帥がいたらこの作戦はあっという間に破綻していただろうな。

 

寧ろこれを考えた人間は凄いな、此方が決して多くの戦力を動員出来ない事を予見して立てた戦略だ、敵もなかなかやる。)

 

タジムは敵が前進を開始したと報告を受けると直ぐに指示を出した。

 

タジム

『よし全軍、次の地点に移動だ。

 

だが次は敵もしっかり迎え撃つ準備をしてくるだろう。

 

ここからは予断は許されない、我々は攻囲軍と合流した際には各個撃破する為の要だ。

 

こんな無謀な戦いを強いて言うのは心苦しいが、我々が消耗すればする程、この後の各個撃破戦の猶予が短くなると思え‼︎

 

我らが1人でも多く生き残る事がこの戦いの勝利を決めるのだ‼︎』

 

将兵

『『ハッ‼︎‼︎』』

 

タジム

『よし、移動開始!』

 

最初の襲撃から少し経った頃、またタジムの別働隊が仕掛けてきた。

 

しかし今回は帝国側も対応が取れた事もあり、既に防御陣形は完成している。

 

タジムはそれを見ると、竜騎兵隊を両翼展開させると、槍騎兵を前衛に出した。

 

確かに敵の兵に騎士達が持つランスより長いパイクを持った兵士は居ない。

 

しかし槍襖の中に騎兵が突っ込んだら自明の理である、しかも今回は魔導アーマーが支援射撃を開始したので接近する前にいくら散開しても被害を出してしまう。

 

だがタジムは対策済みだった。

 

よく見ると騎士達の持つランスは長さこそ変わっていないが、普段のものより二倍近く太くなり重厚感のある物に変わっており、持ち手は中心寄りになり、更に槍の根元には穴が空いていた。

 

この大型ランスこそブレトニアの新兵器『ガンランス』であった。

 

大型ランスに45mm無反動砲を内装し、ランスチャージの前に砲撃し、敵の戦列、ないしは魔導アーマーを破壊するというコンセプトで作られた新兵器であった。

 

尤も射程が短い為、遠距離からの射撃は出来ないが彼らは基本的に近づいて戦う存在なのでそこは問題にはならない。

 

兎も角、この新兵器は火を噴いた。

 

これ食らった敵は胴体が吹き飛び、流石の魔導アーマーも数発喰らえば爆散した。

 

戦列が崩れた所に騎士と騎兵達は突っ込んだ。

 

しかし敵は最初から防御陣形を敷いていた手前立ち直りは早い。

 

程々に暴れた後別働隊はまた退却していった。

 

いくら新兵器を使用しても今回は敵の準備が出来ていた事もあり、別働隊の損耗は前回の二倍になった。

 

まだ許容の範囲であったが想像以上に消耗していく為、タジムは次の夜襲を最後に撹乱を止め、集結地点へ急ぐ事に決めた。

 

理由は敵の援軍の数が少なかった事とそれによって此方の撹乱によって、少ない戦力が少しずつ少なくなっている事。

 

時間差をつけて各個撃破ができる可能性が高い事であった。

 

タジム

(尤も敵の数がやはり少ないと言うことも大きな要因だな。

 

この作戦をする上で敵は外に出せる戦力を最低でも二万は用意していなければ、せっかく有効な策を無碍にしてしまう。

 

恐らく帝都の混乱で幾らか出て行った可能性が高い、帝国での問題が我らに対して好都合に働いてくれるのは幸運だったと言わざる得ないだろう。)

 

夜襲も完全に夜が更け切った時間を狙った奇襲であった事も功を奏し、帝国軍に期待以上の損害を与える事に成功した。

 

タジムはこの戦いについて後に回想録を残しており、敵の不甲斐なさに驚いた旨を書き記したと言う。

 

しかし、これは事実であったし、無理もないとこであった。

 

帝国の版図を見ればブレトニアなどは帝国の内地といっても過言では無い。

 

そこに精鋭の兵を置く必要性がなかった事、そして過度にブレトニア旧勢力を挑発したく無かったからである。

______________________

ボルドロー城内

 

少し時を戻しボルドローの中に入った帝国兵三人組についても少し語らねばならない。

 

三人は兵舎にて休む様に命じられそこで多少の時間を潰した。

 

そしてブレトニア軍の攻囲が始まり、タジム達が撹乱しているその頃遂に行動を起こす事にしたのだ。

 

アルフィノ

『ここ迄は予定通りだ。

 

後は如何にボルドロー軍側の有力者に接触するかだ、幸いにも敵の司令官の傍に控えていた騎士はどうやら高位の様だから、まず彼に接触を試みようと思う。』

 

シド

『だが、どうやって接触するんだ?

 

敵の司令官のそばについてる人間にどうやって近づくんだ。』

 

アルフィノ達が話していると外から話し声が聞こえてきた。

 

帝国兵

『司令官殿が二時間おきに戦況の伝令を寄越せと言ってきたそうだ。』

 

帝国兵

『何でわざわざ伝令なんか、通信が使えないとでも言うのかよ?』

 

帝国兵

『敵が電波妨害を開始したらしくてな。

 

お陰で援軍に向かってる筈のオルカル山地の連中や、カルカソンヌ、バストンヌの味方にも連絡がつかないそうだ。』

 

兵士達の会話を聞いたヤ・シュトラはニヤリと笑った。

 

ヤ・シュトラ

『これは使えるわね。』

 

暫くして司令官に伝令を届けるべく城の中が兵士やってきた。

 

すると兵士が歩いていると角から別の兵士が出てきて彼に寄りかかった。

 

兵士はミコッテ族の女だった。

 

ヤ・シュトラ

『ああ、ごめんなさい。

 

体の調子が少し悪いの。』

 

兵士はヤ・シュトラを助け起こしながら答えた。

 

帝国兵

『おい大丈夫か?

 

すぐそこに医務室があるからそこまで運ぼう。』

 

肩を貸してもらった兵士とヤ・シュトラは医務室に入った、どうやら軍医も衛生兵も休憩に行っていて不在の様だった。

 

すると、ヤ・シュトラは軍服の胸を開けると兵士をベットに抱き寄せた。

 

そして耳元で囁いた。

 

ヤ・シュトラ

『ねぇ、知ってる?

 

私達ミコッテ族は発情期が存在するのよ。

 

私丁度発情期なのよ、疼きを止めてくださらない?

 

好きに触って良いからぁ…。』

 

完全に帝国兵が骨抜きになった瞬間、ヤ・シュトラが猫撫で声で詠唱し、哀れな帝国兵は気を失った。

 

ヤ・シュトラ

『フフフ、ごめんなさいね坊や。

 

この先はちゃんと好きな相手としなさい。』

 

そしてヤ・シュトラは伝令書を兵士から抜き取ると、とある細工をする為に先に行っていたアルフィノ達と合流した。

 

アルフィノは不思議になった…と言うより察しがついてしまったのか恐る恐る聞いてみた。

 

アルフィノ

『ヤ・シュトラ…あの…なんだ、一体どうやって手に入れたんだい?』

 

ヤ・シュトラはクスクス笑うと、

 

ヤ・シュトラ

『坊やにはまだ早くてよ。』

 

とはぐらかした。

 

はぐらかした事によってアルフィノはまさかと思いながら深刻な顔をして考え出したのでそれを見たシドは面白くて堪らんといった顔をしていた。

 

そして司令官に伝令書を渡すとそれを一読した司令官は下がってよしと合図を出した。

 

流石に兵士一人一人の顔、特にシドはフルフェイスで覆っている為分からないし、当然他の二人の顔など司令官は覚えていなかった。

 

すると途端に司令官室が停電し、真っ暗闇になった。

 

一同がなんだかんだと騒いでいると、ボルドロー軍の指揮を取る騎士が何者かに近づかれ、鎧の上に来ているローブのポケットに何かを入れられたの感じた。

 

そしてそれはこう言い残した。

 

『後でこちらを人目のつかないところでお読み下さい。

 

レオンクール王家からの書状です。』

 

騎士は驚きの表情を浮かべ、その声の主を捕まえようとしたが、虚しく空を掴むだけであった。

 

そして停電が治ると司令官は一体何の騒ぎか調べてこいと三人を追い出した。

 

三人もさっさと出て行ってしまい、騎士は渡された物を確認したい為、前線に出てくると司令官に言うと敵の司令官も許可すると答えたので騎士も司令官室から出て行った。

 

ちなみにこの騎士の名前はアレクサンデル・ラ・フェールと言い、ボルドロー家に使える重鎮であり、ボルドロー家とは遠い血縁の関係でもあった。

 

ラ・フェールは城壁の、それもブレトニアボルドロー軍が配置されている地点まで行き、手渡された書状を見ると、それはタジムが直筆で書いた物であった。

 

ボルドロー軍側の代表者へ

 

先ず変わらぬ主家の忠義、大義である。

 

亡きボルドロー公に代わり、礼を申す。

 

永らく国を開けた者が図々しく頼むことでは無いが諸君に協力して欲しい事がある。

 

敵司令官及び敵の重要人物を捕縛、無いしは無力か我が軍がオルカル山地の帝国兵を粉砕するまでの間打って出る事が無い様にしてもらいたい。

 

もし、諸君らが王家への忠誠心も失っていないのであれば、一時で構わないので協力して欲しい。

 

このボルドローの民草や諸君ら将兵が傷つくとこなど私は見たくないのだ。

 

そしてそれは帝国兵も同じだ。

 

無用な犠牲を強いることは果たして聖女様がお喜びになろうや?

 

もし諸君が一時でも時を稼いでくれれば私は諸君らの前に堂々と立ち、再び王家の旗を高らかに掲げるだろう。

 

どうかその時まで壮健なれ。

 

タジムニウス・レオンクール

 

ラ・フェールは包囲するブレトニア軍を見た。

 

彼らは城壁内に用意された防衛兵器の射程ギリギリで待機しているが、大砲や投石機も撃てる体制にはしておらず攻城塔や破城槌すら彼らは用意しておらず、ただただ鬨の声を上げるだけだった。

 

ラ・フェールは自身の横で翻る青地に金の三つ矛の印章の旗(ボルドロー公爵旗)を見ると、何かを決心したのか、兵士にボルドロー軍の将校を数人づつ自身の元に秘密裏に来させる様に命令し、城壁を去っていった。

 

そして兵舎に赴いて、伝令に来た三人だけしか居ないことを確認すると部屋の鍵を閉め、三人に質問した。

 

ラ・フェール

『お前達は何者だ?

 

一体どこの家から派遣されたのだ?』

 

アルフィノは自身の本当の名前と身分、そしてタジムニウス・レオンクール殿下の意を受けて潜入したと説明した。

 

ラ・フェールはそれを聞き真と捉えると彼は膝を屈し、嗚咽した。

 

ラ・フェール

『そうか…そうか…王家は本当に滅亡して居なかったのだな…殿下は…生きておいでなのだな…おおおお…。』

 

アルフィノ

『ラ・フェール卿、タジムニウス殿下は今手勢を連れて、オルカル山地の敵軍の到着を遅らせるべく自ら死地に立っておいでです。

 

殿下を今救えるのは貴方だけなのです。』

 

ラ・フェール

『あいわかった。

 

これも殿下の為、ところでアルフィノ殿卿らそれだけの為に来たのではあるまい?

 

この城の防衛兵器を止める為にも来たのであろう?

 

ならば城の地下の主動力炉を停止させるといい、この城の大砲やバリスタ、投石機などは魔導兵器化、つまり無人化されていて、城からの動力で動いておる。

 

従ってそこを落とせば、全て止まるのだ。

 

寧ろ私からもお願いしよう、動力炉を落として下され。

 

さすれば我ら騎士達が敵将達を捕らえ、帝国兵達を無力化致します。』

 

アルフィノ

『ありがとうございますラ・フェール卿。

 

必ずやり遂げます、あとは時が来るのを待つのみです。』

 

こうしてボルドロー城内の調略も着々と進んでいた、そして遂に戦いは最終局面を迎えようとしていた。

______________________

ボルドロー城城外

 

その夜、包囲軍から7千の兵が後方に移動した。

 

指揮を取るのはクーロンヌ公である。

 

包囲軍残存一万一千はレパンが臨時で指揮を取っている。

 

クーロンヌ公

『この闇に乗じて我らは無事に離れられるが、残りの者達が襲われないとは限らん。

 

私にはまだあの男を信用することは出来ぬが…殿下の奮闘を無駄にするわけにはいかん。』

 

敵の進路を塞ぐ形で布陣したブレトニア軍は朝を待った。

 

彼らはこれから同数から多少多い敵の兵を食い止めなければならない。

 

だが、彼等の救いを与える勝利の女神もまた、蹄の音と共に現れようとしていた。

______________________

ボルドロー城壁

 

翌日、帝国兵達は驚いた包囲していたブレトニアの戦力の半分近くが消えていたのだ。

 

残り半分は微かに見える程度の離れた位置で布陣していた。

 

帝国兵達は間も無く自分たちに出撃命令が下ると覚悟した。

 

彼等が二万の兵(帝国はそう考えていた)を半分にしなければならない理由、それは援軍が到来したからである。

 

帝国兵達は自身の勝利を確信した、一万では包囲はできるかも知れないがボルドローは落とせないからである。

 

ボルドローの帝国司令官も全軍に打って出る準備をする様に命令を出した。

 

そんな司令官をラ・フェールは剣の柄に手を置き見ていた。

______________________

ボルドロー郊外

 

帝国軍とブレトニア軍が戦端を開いたのはそこから二時間後の事である。

 

ブレトニア軍七千に対し、オルカル山地所属帝国軍約八千九百である。

 

ブレトニア軍は大砲や投石機を使うために簡易的な陣地を敷いて待ち構えていた。

 

帝国軍は撹乱され疲労困憊ではあったが魔導アーマーなども使い潰す気で必死の猛攻を掛けた。

 

これにはブレトニア軍一の猛将と言われたクーロンヌ公トロワヴィルの指揮が合っても堪えるものがあった。

 

それでもトロワヴィルは前線の兵を叱咤激励し、自身も塹壕の中や平地で剣を振るい、戦いに身を投じていた。

 

クーロンヌ公

『殿下はもう直ぐ此方に来られる、それまでなんとしても支えるのだ‼︎』

 

騎士

『然し、敵も必死ですな。

 

彼等にとってもボルドローは重要と見えます。』

 

クーロンヌ公

『彼奴等としても人の家に巣食う白蟻の自覚はある様だな、自分たちの巣がある家が倒壊でもすれば目も当てられぬしな!』

 

そう言ってクーロンヌは敵を両断した。

 

彼の使う剣はツヴァイバンダーであった。

 

長い刀身には敵の血をつけ、それを齢七十を超えるとは思えぬ剣捌きで扱っている。

 

然し、ブレトニア騎士や将兵の奮闘も流石に数の差に押され少しずつ押され始めていた。

 

突破される事は事実上の敗北を意味する事から兵士達は死守すべく、銃兵達は銃剣を着けて白兵戦に参加する始末になった。

 

だが遂に敵の後方よりよく聞き慣れたラッパと角笛の音が聞こえてきた。

 

帝国軍は後ろを見るとそこには行方が分からなくなっていた騎兵軍団が後ろに列を為していた。

 

布陣を完了したタジムは各部隊指揮官に突撃目標を伝えるために走り回っていた。

 

それを終えると全軍の前に立ちこう叫んだ。

 

タジム

『諸君‼︎

 

これは記念すべき日だ‼︎

 

我らはここで敵を打ち破り、この地一帯に我らの旗を再び立てることが出来る‼︎

 

この国に残る帝国軍、いや世界に再び喧伝出来るのだ、我らブレトニア王国は決してまだ牙を抜かれた訳ではないと‼︎

 

我らは呪詛の言葉で敵を女々しく呪うのではなく、我らの剣を持って高貴なる心を示す事を忘れてはいないと言う事を‼︎

 

槍を構えよ男達よ‼︎‼︎

 

剣を高々と掲げよ女達よ‼︎‼︎

 

この勝利を聖女と大神シグマーに捧ぐ‼︎

 

いざぁぁ‼︎‼︎』

 

グ・ラハ、ブレトニア将兵

『いざぁぁぁぁ‼︎‼︎‼︎‼︎』

 

タジムはもう一度叫ぶ

 

タジム

『いざぁ‼︎‼︎』

 

アリゼー、ライクランド帝国残党軍

『いざぁぁぁぁ‼︎‼︎‼︎』

 

全軍

『いざあぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎‼︎‼︎‼︎』

 

タジム

『戦太鼓を叩け、角笛を鳴らせ‼︎‼︎』

 

角笛が鳴り、戦太鼓は轟く。

 

帝国軍は予備戦力と投射戦力を後方に展開し、迎撃の構えを取る。

 

タジム

『進めェェ‼︎‼︎‼︎‼︎』

 

約七千騎の騎士と騎兵達が馬を走らせる。

 

完全な密集突撃陣形を組んだ彼らは真っ直ぐに敵戦列に向かって走っていく。

 

帝国兵は砲撃と銃弾と魔法と矢の嵐を騎士達食らわせた。

 

もはや犠牲を顧みない完全な攻撃陣形を組んでいるから大勢の騎士や騎兵が犠牲になった。

 

だが、彼らは止まらない。

 

勇敢と高徳な精神を具現化した彼らを止めるものは無い。

 

帝国軍は戦慄し、未熟な兵は恐怖に押し潰され、古参兵は何度も喰らい続けたブレトニア騎士団の突撃が何を意味するかを思い出した。

 

騎士の突撃は遂に帝国軍に襲い掛かる。

 

夥しい兵士が馬に弾き飛ばざれ、踏みつけられ、剣や槍の餌食になっていった。

 

それに合わせ前方のクーロンヌ公も突撃を敢行、騎兵と歩兵に完全に挟まれた帝国軍が血祭りに挙げられるまで時間はそう掛からなかった。

 

乱戦の中、孤立した救援軍司令官はガンブレードを抜き、敵を捌きながら逃げ道を探すことに専念していた。

 

だがそこにタジムが馬に乗り立ちはだかる。

 

タジム

『総大将か?』

 

救援軍司令官

『あ…ああ…あああ…』

 

タジム

『総大将かと聞いている。』

 

救援軍司令官

『だ、誰かこの男を殺せぇ‼︎‼︎』

 

タジムは馬に拍車を入れると敵将に向かって突進した。

 

敵将はガンブレードを向け、タジムを撃ち殺そうとした。

 

だがそれよりも早くタジムの剣は敵将の頭を跳ね飛ばす。

 

首を失った体は血を吹き出し倒れる。

 

返り血塗れになったタジムは敵の首を掲げ叫ぶ。

 

タジム

『敵将は、フィリップ九世の子、タジムニウス・レオンクールが討ち取った‼︎‼︎

 

これ以上の流血は無用である‼︎

 

即刻降伏せよ‼︎‼︎』

 

司令官の恐怖で引きつったまま固まった首を見た帝国軍は戦意を喪失、残った約一千五百人余りが捕虜になった。

______________________

ボルドロー城

 

その頃、帝国軍は出陣が来ない事で浮き足立っていた。

 

援軍は目の前に来ているのに何故敵を挟み込もうとしないのか分からなかったのだ。

 

そうこうしているうちに残ったブレトニア軍が遂に城壁に接近してきたのだ。

 

もはや上官の命令を待っている事はできぬと帝国軍は防衛兵器を起動した。

 

然し防衛兵器は全て動かなかった。

 

なんとそれと同時に全てのエネルギーが停止したのだ。

 

帝国軍は混乱した、ボルドロー軍を除いて。

 

するとボルドロー軍の将兵がその場にいる帝国兵に武器を向け、拘束したのだ。

 

帝国兵

『貴様達、何の真似だ‼︎

 

友軍だぞ‼︎』

 

ボルドロー兵

『我々は貴様達を一度たりとも友軍とは思った事はない。

 

貴様達蛮族にこれ以上我が祖国は犯させない‼︎』

 

帝国兵

『おのれ…蛮族が‼︎』

 

ボルドロー兵

『…同じ窯の飯を食ったよしみだ。

 

命は取りたくない、お前達も死にたくなければ抵抗しないでくれ。』

 

帝国兵達が降伏していく中司令室にはラ・フェール達に倒された司令官以下重要人物達が倒れ、指揮系統は完全に崩壊。

 

ボルドローの城門は開き、レパンは兵達と共にボルドローに入城した。

 

レパン

『信じられない…本当に無血で入城しちゃうなんて…まるで魔法よ。』

 

ボルドローから帝国旗が降ろされ、ブレトニア王国旗とボルドロー公爵旗が高々と掲げられるのをタジムは満足そうに見ていた。

 

そんなタジムにアリゼーが声を掛ける。

 

アリゼー

『おめでとうタジム。』

 

タジム

『まだこれからだよ。

 

残りの公爵領にいる帝国軍は勿論だけど、流石にこれでライクランド側の奴らも刺激した事は間違いない。

 

ここからが大博打の始まりだ。』

 

タジムはそう言い終わると勝鬨をあげ、自らの名を連呼する兵達に剣を掲げた。

 

タジムニウス・レオンクールは王たる者であるという声はブレトニア中を覆いつつある。

 

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