ファイナルファンタジー14 異譚 獅子の子タジムニウス 作:オラニエ公ジャン・バルジャン
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ボルドロー城内
ボルドローは無血にて陥落した。
その立役者はラ・フェール伯爵と暁の賢人であった。
彼らは先ずラ・フェール伯爵と接触する為に帝国軍司令官室に入る直前その部屋だけを停電させるため、回路に細工したように、今度は城と城壁の動力炉に侵入し、これを停止させたのだ。
シド
『どうやら外の軍勢が侵入したようだな。
城の防衛設備をむりくり魔導兵器化したのが仇になったな。』
ヤ・シュトラ
『でも、まだ油断出来なくてよ。
帝国兵がここに来るかもしれない。』
そう言った直後に複数の足跡が聞こえてきた。
三人は戦闘体制に入るが、ラ・フェール伯爵とレパンが騎士と兵士を引き連れてきたのだ。
ラ・フェール
『おお、卿ら無事だったか?
お陰で全て上手くいったボルドローは開城された、それも無血で‼︎』
レパン
『本当に信じられません‼︎
アルフィノ殿、シド殿、シュトラお姉様本当にありがとうございます!
我が王太子殿下もさぞ御喜びになられるでしょう‼︎』
アルフィノ
『お役に立てて光栄ですリヨネース卿。
動力炉を復旧させましょう。
そうすればクーロンヌにも通信が可能になる筈、無線封鎖も解いてあげた方が宜しいかと。』
レパン
『そうですね、では早速。』
レパンはリンクシェルで通信を取り、シドは動力炉を再稼働させた。
ボルドローの全ての機能が復旧した事により、長距離通信も可能になり、レパンの命令を受け、通信妨害は停止、タジムの耳にもボルドロー完全制圧の通信が流れるまで時間が掛かることは無かった。
タジム
『ボルドローは完全に我が支配下か。
通信兵、レパンとアルフィノ、あとボルドローの指導者に通信を繋げ。
オープン回線だ。』
通信兵
『はい殿下。
………繋がりました、リンクシェルを起動して下さい。』
タジムはヘルムを脱ぐと、耳に手を当て、リンクシェルを起動した。
タジム
『アルフィノ、シュトラ、シド、本当によくやってくれた…。
ボルドローは無血開城出来たのは君たちのおかげだ、ブレトニア王国を代表して感謝する。』
アルフィノ
『タジム…いやタジムニウス殿下にお褒め戴くとは光栄だ。』
アルフィノはどこか嬉しそうな声を抑えて答えた。
タジム
『レパンも、良く兵をまとめ上げてくれた。
この賭けをするに当たって重要な事はそちらの兵が毅然と任務に専念する事。
大変な事だった筈だ。』
レパン
『殿下も、此度の戦の勝利、臣下としてお喜び申し上げます。』
タジム
『うむ、それとボルドロー側の指導者に通信を繋ぎたい。
予備のリンクシェルをその御仁に。』
レパンはタジムの意を受けてリンクシェルをラ・フェール伯爵に渡すとその旨を伝えた。
ラ・フェール
『声のみで御意を得る無礼をお許しください。
私はアレクサンドル・ラ・フェール伯爵でありますタジムニウス殿下。』
タジム
『伯爵、此度の事なんとお礼して良いかまだ余には分からぬが、必ずその功績と名誉に敵うものを約束しよう。』
ラ・フェール
『殿下…ありがたき幸せにございます。』
タジム
『そこですまぬが、ラ・フェール伯爵、貴公とボルドロー軍一万はそのまま残り、ボルドローの守備を頼む。
我らはこのままオルカル山地に向かう、今守備兵はたった五千、通信妨害を解除した事で敵もボルドローが落ちた事は承知のはず。
なら敵がどちらに来るにしてもその前にオルカル山地を解放したい。
とても強力なかの要塞を我が方で抑えれば戦略的にも戦術的にも有利になる。』
タジムがそう言うと横からクーロンヌ公も口を挟んだ。
クーロンヌ公
『大丈夫ですか?
幾ら同じブレトニア人とは言え、先程まで敵軍に組みしていた者達ですぞ。』
タジム
『大丈夫だ、もし彼が裏切るのなら動力が戻った今、城壁を閉じ、レパンを人質にするなりなんなりできた筈だ。
だがしなかったと言う事は彼を信用しても良いと思う。
ましてやボルドロー公の腹心ともあればその信用に万金に値するのではないか?』
クーロンヌ公は少し考え込むと、頷きその通りだと同意した。
タジム
『よし、負傷者のボルドロー入城がすみ次第、一気にオルカル山地を奪還する‼︎
エオルゼアのウルダハでは『勝敗は速さと早さが分ける』そうだ。
ならば我らがそれを実践し、教えてやろう、ブレトニアの軍法の疾さを‼︎』
タジムニウス率いる軍は負傷兵のみを置いて、オルカル山地に向かった。
総兵力約一万九千、オルカル山地までの行軍行程をたった一日と半日で達成し得た所にはタジムニウスの用兵の非凡さが出ていた。
だが奇妙な事が此処で起こる。
オルカル山地に到着後布陣を開始したブレトニア軍が異変に気づいたのはタジムニウスが斥候を放ってからの事だった。
迷彩を施された軍服を着込んだアルトワ・レンジャー連隊(アルデンの森を領有するアルトワ家にて創設された偵察を主任務とする、主にライフル兵と弓兵、双剣士によって構成される散兵連隊)の内の一個小隊が山肌に設けられた塹壕やトーチカを偵察していた。
だがいくら五千という少ない兵数でそれら全てを稼働する事は出来なくても山の内部に繋がる山道を守る為のトーチカ位は稼働させる筈…されどそれらは動いておらず塹壕にも人っ子一人居なかったのだ。
レンジャーA
『おい、本隊に連絡を入れた方がいい。
敵が誰もいないぞ、スナイパーの気配すら無い。
こんなことあり得るか?』
レンジャーB
『本当だ…幾らなんでも妙だ。
CP、CP、こちらbooze1(酒屋)敵地偵察中なれど、敵の姿が確認出来ない。
繰り返す山腹の防衛兵器その全ての稼働を確認出来ない指示を求むOver。』
レンジャー達は本隊に通信を入れた。
CP(コマンドポスト(司令部))
『こちらCP了解、殿下に通達する、暫し待て。
全レンジャー小隊に通達、新たな指示があるまで周辺の偵察を続行せよOver。』
タジムに敵兵なしの報が届いた時はその司令部が騒々しくなった。
クーロンヌ公
『いくらなんでも妙だ。
確かに五千ではその全ての防衛兵器を扱うのは難しい。
だが幾らなんでも無防備は考えられぬ、何かの罠かと臣は考えます殿下。』
タジムはそれを聞いても何も言わず、従卒にブランデー入りの紅茶を頼んでそれを飲み干すまでの20分間何も言わなかった。
だが20分後決断したのか前進の命令を出す。
つまり罠は承知で山の中に入り、巨大地下都市に侵入すると言うことである。
アルトワ・レンジャー連隊の綿密な偵察と狙撃による支援を得たタジムニウス直衛の徒歩騎士団が主君を護りながら亀甲体系を作りながら前進した、タジムが自身も行かねばならぬと行った時には周りは反対したが、頑固にそれを拒否した。
タジムは自身が安楽な後方から踏ん反り返っているのに対し、騎士や兵士達を死線に叩き込み、それを眺めるを良しとはしなかったのだ。
タジム
『地下の出入り口まで本当に誰にも合わずに来ちゃったな。』
騎士
『本当に敵も居ないようですが…。』
するとミコッテ族の騎士が急に耳を動かし、意識を集中した。
するとハッとしてタジムの前に跪いた。
騎士
『殿下、畏れながら申し上げます!
分かり申した、何故敵がここに来ても迎撃してこないのか。』
タジム
『如何に。』
騎士
『地下都市より剣戟の音が聞こえまする‼︎
中で戦闘が起こっている模様。』
タジムはあっという間に状況を理解した。
タジム
『馬を持て‼︎
足の速い者と、下馬しても十分に戦う自信のある兵と騎士は私と共に先行する‼︎
都市内の民草が蹶起したに違いない、幾ら数で上回るとはいえ、正規軍相手では長くは持たぬかもしれん‼︎』
タジムの号令に騎士や暁の賢人達が馬を駆って地下都市への道を駆けて行く。
アリゼーはタジムの斜め後ろから声を掛けた。
アリゼー
『でも蹶起してる人達を助けるって言ったってどうやって助けるの?
地下都市は巨大洞窟の中に作られた城壁を構えた都市何でしょう?
先行する騎士や騎兵だけじゃ何も出来ないんじゃ無い?』
タジム
『鉤縄位は有る。
城門に引っ掛けて登って開けるしかない!』
ヤ・シュトラ
『そんなまどろっこしい事はしなくて良くてよ、私に任せてちょうだい。』
そうこうしているうちに坂を降り終わり、地下都市が見えてきた。
各所から煙が上がり、それは工房からの物と燃えた建物から出た煙だった。
遠くからでも怒号と剣戟の音は聞こえてくる。
急がねばならない。
するとヤ・シュトラは杖を構えて詠唱する。
ヤ・シュトラ
『文明の象徴たる火よ、我が意に応え怒りと死の鉄槌を彼奴等に与えん、デスペア‼︎‼︎』
すると杖の先からとんでもない大きさの火球を作り出し、それを城門に放ったのだ。
鈍い鉄の音を立て、門の中心が大きく凹み、多少狭いが騎馬の一団が通れる位の隙間が出来た。
全員があんぐりと口を開け、ヤ・シュトラをみると、ヤ・シュトラは口元に指を当て、こう言った
ヤ・シュトラ
『魔女マトーヤを舐めないでちょうだい。』
タジムは首を振ると剣を掲げて叫ぶ。
タジム
『間違えても民草を殺すな!
今正しく混戦状態だが、敵将を討てば止まる!
皆、雑魚には構うな。
目指すは敵将の首ただ一つ‼︎』
城門を抜けた一行は門を確保する役目を担った部隊に馬を任せ、徒歩で乱戦の中に入っていった。
暴徒と化していたのはやはりドワーフ(ララフェルより一回り大きい小人の種族、屈強な種族として有名だが、冶金技術にも優れた種族)とルガディンが主流の非純粋のブレトニア人達であった。(勿論純粋のブレトニア人であるヒューラン族やその他各種族も紛れている)
この連中がとりわけガレマール帝国統治下に於いてなかなか粗逆な扱いを受けていた事は既に述べた。
そんな時にボルドロー救援の為戦力の2/3も留守にし、しかもどうやら壊滅したらしいと感じ取った彼らは遂に工具やらなんやらを武器の代わりに持ち遂に蜂起したのだ。
彼らは口々に祖国の愛とガレアン人に対する憎悪を口々に叫んだ。
されどいくら数が少なくても暴徒相手に倒されてやる程帝国軍も甘くはない。
数万人に及ぶ暴徒もそれの何割にしか満たない帝国軍に劣勢を強いられていたが、ブレトニア軍の参加で事態は変化した。
タジム
『間違っても同士討ちだけはするな‼︎
各小隊纏って動け、民草達をこれ以上やらせるな‼︎』
タジムは徒歩で帝国兵を斬り倒しながら命令し続けた。
ある程度の安全を確保する事に成功したタジムは帝国兵狩りを将兵に任せるとその場にいた民衆の中に事情を話せる者を探し出し、詳細を問いただした。
この蜂起はかつてここを収めていたドワーフ族の戦士『アイアンロック・グリムハンマー』(ブレトニア・ライクランド地方のララフェル族は独自の命名規則を持つ)なる男が帝国統治下も工房や鉱山で労働に従事していたが、遂に反旗を翻し、それに同調した民衆達が起こしたのだという。
元々誇り高い戦士であり、民衆も彼以外の指導者には従わず、遂には帝国統治下であろうとそれを変える事はなかった。
事情を知ったタジムの元に伝令が届く、それは残存した帝国兵が都市部中央に撤退している事と、中央部に孤立してしまった民衆の一隊と刺し違える気である事を伝えてきた。
その一隊はアイアンロック・グリムハンマーの指揮する旧ブレトニア王国ドワーフ・ルガディン族精鋭選抜部隊所属だった兵達で構成された連中でこの暴徒達の中で最もマシに戦えた部隊であったがそれ故に孤立してしまい、引こうにも、他の民衆を助けに行こうにも動けなくなってしまったのだと言う。
タジム
『すぐに助けに行こう。
クーロンヌ公はこの場で待機、賢人方は私についてきてくれ。』
賢人達が頷き、近衛兵が馬に騎乗したのを確認するとタジムを戦闘に百人余りの騎士達が中央部に急いだ。
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オルカル山地地下都市中央部
多くの帝国兵が殺到している中その只中で大立ち回りを演じている集団がいた。
アイアンロック・グリムハンマーとそれに付き従う屈強な戦士達である。
彼らは斧と丸盾というこの地方のドワーフやルガディンの伝統的な武器で戦っていた。
防御、攻撃に於いても強力な重歩兵である彼らが幾ら大暴れを繰り広げても無理があり、次第に少しづつ削られ、奮闘虚しく包囲されていた。
アイアンロック
『なんじゃあ⁉︎
掛かってこんかぁ‼︎‼︎
こちとら死に損ないの老耄どもじゃぞ、こんなジジィ達も殺せんのか帝国兵は‼︎‼︎』
とドワーフ族にしては少し体が大きめのこのドワーフ族の初老の男は吠えた。
帝国兵は包囲こそしたものの彼らにとどめを刺す事を恐れていた。
この状態になるまで帝国兵が払った犠牲の多さが問題だったのだ。
天下無双と謳われたオルカル山地の戦士達はその強靭な体を持った斧の使い手としても有名であったが、一分野に限ればガレマール帝国以上の科学力を持つ彼らは正しく歩く武器庫であり、現に彼らは斧以外に手持ちサイズにまで縮小した魔導カノン砲まで引っ提げており、それがこんな狭い所で大暴れすれば火を見るより明らかだった。
その為、彼らは命が惜しくなってしまったのだ。
だが彼らが討ち取られれば、この反乱も終わる事を理解していた。
遂に誰かが鬨の声をあげて走り出したものだから帝国兵全員が突っ込んできた。
アイアンロック以下戦士達が応戦するも獅子と無数の蟻ではいずれ勝敗は蟻に帰する。
戦士達はここまでかと覚悟を決めた。
しかし、後方から騎馬の一段が帝国兵に喰らい付き、敵兵を跳ね飛ばしながら突っ込んできた。
馬上で若い騎士が、反乱の首謀者は何処かと叫びながら剣を振るっていた。
アイアンロックはかつての主人(フィリップ王)の面影を感じ、それは我だと叫びながら斧を振るい騎士に近づいた。
タジム
『百人余りを殺すために五倍も兵を連れてくるとは、穏やかではないな‼︎』
タジムは剣で帝国兵を斬り殺しながら上手く馬を捌いた。
この乱戦の中騎馬で戦うのは容易な事ではないため、騎手と馬の強い絆と技能が試された。
最もブレトニア産の軍馬はその忠誠心と猛々しさで有名であり、騎手以外が乗ろうとすると蹴り殺そうとするくらい荒い事でも有名であり、それを知ってか帝国兵も進んで近づこうとはしなかったのだ。
結果としてこれは正しい判断であり、戦意を折れた事を感じ取ったタジムは降伏を呼びかけた。
徒歩騎士や兵士達も中央区に駆けつけて来たこともあり帝国兵は降伏した。
そもそも帝国兵が降伏したのは何も戦局が悪くなったからではない。
勿論それもあるが、彼らの忠誠心の向けるべく相手(偽りの忠誠心であろうと)であるガレマール帝国皇帝が存在していない事にある。
彼らは従うべき規範を失ったが故に故郷への想いや、命惜しさに降伏してきたのだ。
もっと言えば規範が消滅した為、彼らは何をするにしても精神的なハードルが無いも同然であり、各部隊がそれぞれの指揮官の思惑で動いている以上、兵士一個人が自身の思惑で動く事は至極当然の事である。
何より相手側の司令官が慈悲深い事を彼らは感じ取っていた。
自分達が彼らの同胞に対してやった仕打ちを知らないわけが無いであろうにも、彼は敢えて降伏を促した。
尤もタジム自身は無条件に寛大であったわけではなく、占領民に対して暴虐な行為に及んだ者は老若男女問わず容赦無く処断し、ギロチン、絞首刑、八つ裂き、銃殺と…極刑の見本市でも開いているのかという有り様であった。
その類ではない兵達には寛大であり、衣食住を確保し、全軍そして民衆に対しての暴力行為を禁じ、帰る先のない彼らを労働力、ないしは兵として役に立つのであればという条件をつけ、市民権までも与えたのだ。
もちろん、占領民に対しても処置は完璧だったと言って良い。
衣食住の完全確保、解放、名誉の回復など、行うべき事は全て行った。
この事から後にタジムは解放王、慈悲王、そして残虐王と様々な歴史書や歴史家達にその名を書かれ、呼ばれる事になるがそれは本人にとってどうでも良い事であるし、知る筈の無い遠い未来の事である。
都市は多くの住人達が外に出て、皆で無数の大鍋を囲い、食事を取っていた。
彼らは満足な食事すら取る事は許されなかった故に痩せこけ、餓死寸前の者達も大勢居た。
因みに後に書かれた歴史書には、
『この時まだ王太子であるタジムニウスは、処刑を免れた捕虜達に三日間の断食を命じており、彼らは水すら摂ることも許されなかった。
それは彼らに住人と同じ苦しみを与え、彼らに対しては後悔と罪悪の念を抱かせ、民草に対しては、その報復心を少しでも慰める為であった。』
と書かれてる。
彼らに必要なのは武器でも自由になった手足でも無い、今は一飯の食事である事を理解していたタジムは兵力それも自身も含めた全員で、都市の住人全員が食事出来るように粥を作ったのだ。
帝国軍によって備蓄されてきた食材を使ったそれは、麦と蒸して潰した馬鈴薯で作られた粥に牛や豚、羊、更には先頭で死んだ馬や予備の馬で使い物にならなそうな老馬を潰して得た肉を入れていた。
長期に及び死なない程度の食事しか与えられていない彼らに固形物を摂らせると碌なことにならないとヤ・シュトラの助言を受けたタジムが馬を走らせながら叫び、これを徹底させた。
合わせて、果物や野菜を搾って作った野菜ジュースも飲ませる事により、壊血病の予防と治療の促進を促す事も忘れなかった。
豊かな地で育つ故に他の地で作られた物とは比べ物にならないほど豊富な栄養と美味を謳われるブレトニアの食材で作られた騎士と兵士達の心づくしの料理が不味い訳もなく、民草達はあっという間に元気を取り戻した。
特に影響を受けたのはドワーフ族達であった。
この地方に住まうドワーフ族はララフェル族を始祖とするが、それよりも大きく屈強な肉体と力を持つ。
そんな彼らは食べれば食べる程、その骨と皮だけ身体に筋肉がつき、本来の姿を取り戻していった。
当初グリムハンマーとそれに従った兵達が帝国兵に包囲されながらも戦っていた時は小柄の痩せこけた老人という見た目をしていたが、それとはうって真逆の姿をしており、兵や騎士達は最初本当に彼らが勇敢な戦士なのかと疑っていた事を決して口外すまいと心に誓う者もいたと云う。
タジムは寝ている愛馬に寄り掛かりながら賢人達と食事していた。
民達と同じ物を食べていたが、量は彼には珍しく一杯のみであり、どうやらそこからは香辛料を利かせた干し肉を齧っていたようだ。
賢人達は民達に食わせる事を何より優先した為に自身を抑えたのだと理解した。
尤もタジム自身は飯よりも目の前で涙を流し、笑いながら貪り食う民草達を見て満足していた。
そして微笑すると口を開けた。
タジム
『飯はいい、これ一杯でどんな善人も、悪人も心が豊かになり、心から笑う。
腹の飢えも心の飢えもこれで全て解決し、二つの飢えで起こる問題もかたがつく。
これ程優れた特効薬は無いさ。
…ひょっとして生きとし生けるもの皆が平等に美味い飯を食えれば、戦なんて起こらないかもしれないな…。』
そう言ってタジムは干し肉を齧った。
余程塩味が効いてるのか、彼の足元にはワインボトルが置かれ、それを一人で飲んでいる。
それを聞いたアルフィノはまだ手元にある中身の入った粥の杯を見つめながら呟いた。
アルフィノ
『何故か、イゼルのシチューを思い出したよ。
あの時、目的は同じでも考え方が違う我々は互いに対立したが、あのシチューを食べている時確かに私たちは一つだった。』
もう食べる事は出来ないがそれは確かに美味であった。
氷の巫女として千年戦い続けた人と龍の戦争を止める為に命を散らしたエレゼン族の美女の事を思い出したタジムはワインボトルに口をつけ、こう言った。
タジム
『また食いたいと言ったんだかな…。』
思い出に耽る彼らに兵士が近づいてきた。
兵士
『殿下、賢人方、先程アイアンロック・グリムハンマー殿が意識を取り戻しました。』
タジム
『おお、そうか。
終わった瞬間に倒れたから一瞬死んだかと思って心配したぞ。
父上の事近くで見ていた数少ない生き証人に死なれると父上に申し訳が立たぬ。』
アリゼー
『んで、そのララフェル族のおじさん本当にもう大丈夫なの?
もうほぼ骸骨みたいな感じになってたけど。』
兵士
『もう意識を取り戻した瞬間兎に角飯と酒を寄越せと騒ぎまして、用意した瞬間あっという間に平らげて…もう別人じゃ無いかと思う位巨大化しております…。』
タジム
『この地方のララフェル族はみんなこんなもんだよ…俺も城に着くまで知らなかったし…。
じきになれるさ。』
と声を掛けたが賢人達は呆気に取られていたと後にタジムは叙事詩を作るに当たって言及していると記録に残されている。
すると何処からか、ウードの音色が聞こえてきた…それは騎士達がよく歌う古い歌であった。
タジム
(そういえば母上が、母上が亡くなってからは義父上がよく歌ってくれたっけな…。)
タジムは歌い出した。
(鉄拳に槍を柄を持ち
左手に手綱を握りながら
王国騎士団は勇み行く
我らの旗をはためかせながら
heja heja heja! heja!
彼らの剣を煌めかせながら
heja heja heja! heja!
彼らの剣を煌めかせながら)
タジムの歌を聴いていたアリゼーはタジムにその歌はどんな物なのかを聞いた。
アリゼー
『良い歌ね、何処か懐かしい気もするわ。
ねぇ、タジム今のどんな歌なの?』
タジム
『古い騎士の歌だ。
我らの勇気と覚悟を示す歌でもある。
今はこの辺の子ならみんな遊びながら歌ってくらいの民謡に近いけどね。』
戦乱の時代にまだこうして人々は音学を奏でるなど文化的な行動を取ろうとするのはとても健全であろう。
これが極致に至ればそれすらも敵対行為であり、同胞間で憎しみ合うような事にすらなるのだから、まだ我々には救いがあるとタジムは内心そう考えていた。
暫くして筋肉隆々のドワーフ族の老人が現れた。
重く硬そうな鉄の鎧を身に纏い、斧と丸盾で武装した歴戦の戦士という闘気を出していた。
アイアンロック
『アイアンロック・グリムハンマーと申す。
お久しゅうございます、タジムニウス・レオンクール殿下。』
タジム
『む、私は卿とは初対面の筈と思っていたが何処かで会ったことがあったかな?』
アイアンロック
『ハッ、殿下とは殿下が御生まれになった直後に他の諸侯らと共に忠誠を誓いました。
当然ですが、殿下はこの時まだ赤子…覚えている筈も御座いません。』
タジム
『どうだ、その赤子が成長して剣を振るい、槍を持ち、馬に跨って暴れているのだ。
寒い時代とは思わんか?』
アイアンロック
『恐れながら殿下、今は世界は戦乱の世に御座いまする。
今や、誰もが鬼を身の内に飼う様な乱世に情け容赦などありましますまい?
殿下もそれを解った上でこの地に舞い戻って参ったのでしょう?』
タジムは軽く微笑すると、アイアンロックに今後もよろしくと挨拶をすると、この初老のドワーフも父王陛下以来の忠義を誓う事を改めて誓約したも束の間、伝令の兵が息せき切って走ってきた。
何事かと問うと、カルカソンヌ、パラヴォン、バストンヌの帝国軍合計六万(内半数は各公爵領所属軍)がここを目指して出陣したと言うのだ。
タジムは直ぐに、全軍に戦闘態勢を言い渡し、ボルドローの一万五千の援軍を呼び寄せた。
アイアンロックより、オルカル山地の戦士達で戦えそうな者は英気を取り戻す時間と武器と防具を拵える時間さえあれば一万は居ると聞くと、直ぐに取り掛からせ、工兵達にもそれを手伝わせた。
この時点でブレトニア軍は五万人であるが、帝国軍は六万人であった。
一万の差は大変大きいものである事は皆が承知していた。帝国軍内に居る、幾ら書状や口では言っても、三公爵が此方に寝返ると言う保証は無い上、ライクランド側より敵の援軍が現れ、守りが薄くなったブレトニア領を制圧してしまう恐れがある以上、タジム達の不利な状況は重くのし掛かった。
タジムは野戦での勝利を望めない事を理解していた、このオルカル山地の防衛兵器が届く距離まで敵を引きつけなければ勝機は無い事を。
山全体を無数のトーチカや砲台で固めたこのオルカル山地は山内の地下都市とそれ守る為に建てられた城壁に敵がたどり着く前にそれらを使って撃退すべく要塞化が進められていた。
長射程の砲台や榴弾砲、対空砲で軍を掩護させ、帝国軍を出血させ、後退に持ち込む。
これがブレトニアが勝つ唯一の方法であった。
だが…それは相手も分かっている。
しかも懐に入り込んでも地下都市に構えられた城壁も一級の要塞である。
寧ろこうしてタジムを惹きつけ、その間に他の公爵領を征服してしまう方が楽だと分かりきっている以上…彼らは積極的に攻勢を仕掛ける可能性は皆無であった。
タジム
(やはり、こちらから仕掛け、敵を引き込むしか無いか…。
多少の犠牲はやむを得まいか…せめてあと、二万…いや一万五千あれば…こんな事を言っても始まらないか。)
敵が来るまでの三日間に全ての用意を終わらせねばならない。
敵方に居る同胞が裏切る確証は無い。
それをアテにして戦ってはならない事をタジムは分かっていた。
タジム
『よし、動ける者達から戦闘準備に入れ!
空爆を避ける為の塹壕を掘り、撃つための火薬と弾を確認し、斬り倒す為の刃を研いでおけ…これから散々殺さねばならないぞ。』
タジムは戦闘準備のためにアイアンロックとその場を後にし、この場には暁の賢人達が残された。
アリゼー
『これだけの会戦は…ギムリト以来ね。』
シド
『カルテノーは、もっと多かったが十数万人の人間があの場でぶつかり…そして半数以上がオメガ計画で死んだ。
あの事件程では無いにしても大勢死ぬだろうな…そして俺たちがその大量虐殺の片棒を担ぐ訳だ。
俺は要塞兵器の調整を手伝ってくる、技術者が一人でも多く必要な筈だしな。』
ヤ・シュトラ
『私は医療テントに……負傷者を一人でも戦線に戻して戦える様にしなくてはね…。
また殺し、殺される為に治す…正しく文字通りの魔女ね。』
シドとヤ・シュトラは立ち上がりそれぞれの場に向かった。
残されたアルフィノ、アリゼー、グ・ラハ・ティアは戦うための英気を養う為に天幕に引き下がる事にした。
時は少し進み、深夜ごろにアリゼーは眠れず起きてしまっていた。
眠気がでる様に少し腹に入れようと天幕を出ると一つの天幕が灯が灯っていた。
その天幕の持ち主に心当たりのあるアリゼーは話しかけにその天幕に向かった。
持ち主の若き王太子はテーブルに地図を広げて青い駒と黒い駒を引っ切り無しに動かしては元の配置に戻し、ブランデーの少しづつ飲みながら、頭を働かせていた。
アリゼー
『……少しは眠ったら?
今すぐ…まぁ、もうすぐ来ちゃうけど少し寝るくらいの時間はあるんじゃ無い?』
そう言われて顔を上げたタジムは右目のモノクルをしまうと微笑して答えた。
タジム
『この局面での大一番だ。
妥協はしたく無いんでね、それに…正直言ってどう戦っても此方に勝ち目は少ない。』
タジムはブランデーの杯を干すと、地図を指差しながらアリゼーに説明した。
タジム
『今さっき、物見が敵の布陣を報告して来た。
同士討ちを避けるためか分からないけど、多少の間隔を開けて中央をガレマール帝国軍、両翼を向こう側についているブレトニア諸侯軍で構成している。
恐らく正面に指向できる火力と物量で抑えて、両翼のブレトニア軍のランスチャージと魔法と間接射撃で包囲殲滅する腹づもりだろうな。
対する此方は敵を要塞砲の射程に引き摺り込まないといかんから、敵を逆上させて引き込むか、偽装撤退を行わなければならないが、相手に身内が居る以上、その危険は承知の筈。
つまり敵は決して挑発に乗らない。
もうこうなると、全軍を挙げての中央突破を敢行するしか無いのさ。
さっき、全軍に防衛線の構築命令を解除させた、此方から動くとなると返って邪魔になる。
数の上では劣っていても敵の右翼、左翼、そして中央を一つ区切りと考えたら、敵は二万、此方は五万、敵は決して離れているわけではないから、恐らくすぐに包囲されるが、その前に崩壊させれば両翼のブレトニア諸侯軍の気も変わる、そこにこそ勝機はある。
多少の犠牲は致し方ない…せいぜい派手に暴れてやるさ。』
アリゼーはタジムの物言いに不快感を覚えた。
そして何かが音を立てて破裂したのを感じ…そして口を開いた。
アリゼー
『辛い戦いになりそうね。
時間の制限付き、しかも貴方の正統性を訴える為には両翼の敵は攻撃してはならない。』
タジム
『貴方…?
随分引っかかる言い方をするじゃ無いか。
君が、君たちがこの戦いに無関係だとでも?』
アリゼーは声を荒げた。
アリゼー
『関わりたくも無いわよ‼︎
あんなに殺して、殺させて‼︎
尚も殺そうとしている‼︎
貴方の考えは正直に言って立派よ、腹立たしいぐらいにね!
でも、私から見て、貴方は悪戯に戦火を拡大させてる様にしか見えないのよ‼︎
こんな時期に、いえこんな時期だからこそ貴方は戻った。
だけどもう少し時間が経てば、帝国は崩壊する‼︎
血を流さずに王国だけは取り戻せた筈、なのに貴方は血を流して取り戻す事を選んだ。
貴方は故郷を取り戻しに来たんじゃ無い、故郷を戦場にしに来たのよ‼︎
きっと大勢の人が影でそして後世でそう言われるでしょうね‼
貴方は気付かなかったろうけど声を掛ける前に私は見たわ、貴方が地図に広げた駒を動かしている時の顔は正しくおもちゃを与えられた子供の顔よ、貴方は戦争を楽しんでいる…貴方はゼノスと同じなの‼︎』
アリゼーは自分の言葉にハッとした。
今言ったことは彼女に秘めていた事だった。
戦争という理由でたくさんの命が消えていく残酷な場に居合せ、そして自らがそれに身を投じたという事実は16歳の少女に見えざる負担を与えていたのだ。
エオルゼアを救う為に戦う覚悟はあった。
されど…戦争という異常事態に身を投じられる程心は強くなかったのだ。
そしてここに来てから感じていたタジムの違和感…そう本性が垣間見えていた事へのショックであった。
彼自身は自身の行いを皮肉ったり、臣下や民に見せる優しさを示し、エオルゼアの英雄として変わらぬ姿を見せていた。
だがそれよりも覇者としての覇気と恐るべき凶暴性が顕著に現れた事への失望が彼女の自制心を失わせたのだ。
そして彼女へのトドメというべきか…目の前の英雄は彼女が聞いた事ない様な低い声で一言こう言い放つのだった。
タジム
『言いたい事はそれだけか…。』
アリゼーは…取り返しのつかない事をした事を理解した。
英雄タジムンティス・フェデリウスは今この場で死んだのだと。
目の前にいるのは祖国奪還と自らの野望の為に何かを捨てた男、慈悲という仮面を被った覇者…。
タジムニウス・レオンクールであり、タジムンティス・フェデリウスとは別人である事を…。
アリゼーは震える体を抑え、涙を飲みながら踵を返して天幕を出ようとした。
無情にも死体蹴りの如くタジムの言葉が彼女に襲い掛かる。
『覚えておけ…私は、俺は『言った事は必ずやり遂げる』。』
アリゼーは天幕を出ると走り出した。
悲しいのか…恐ろしいのか…それとも自分を許せず怒り狂っているのか…戦争によって人は変わってしまうその現実を目の当たりにするには彼女は…幼すぎた。
一人天幕に残されたタジムもまた、自分の今までの言動を振り返り、唖然としていた。
自分は今、何をしていた?
何を言った?
…もう遅い。
情けは無用。
これも乱世の所為なら甘んじて受け入れよう。
遅かれ早かれ、この自分の本性はいずれ向き合わなければならなかった。
自身の野心は少しずつ成長し、戦いの中で確実に興奮を覚えていたのは事実であった。
大勢の命を預かっておきながらそれを死地に立たせてそれが殺し殺されることに悦びすら覚え始めている罪深い男。
どんなに善政を引いてもそう書かれることは間違いないのだから開き直った方が良いくらいだ。
そう思おうとした。
しかし、自業自得ではあるが、タジムにとってはこれはショックだった。
タジム
『他人に何がわかる…。』
自らの苦悩など…誰も理解できる筈などない。
それが指導者の苦悩だと彼は押し殺してしまうのだった。
______________________
オルカル山地郊外防衛線…オルカル山地の戦い当日…。
ドワーフ族の冶金技術は流石であり、あっという間に彼等の分の武具を作り上げてしまい、全員が二日前まで虜囚されていた者達とは思えぬ姿をしていた。
タジムは再度、諸侯達に手紙を送り、此方に帰参する様に促した事を皆に伝え、その為には我らは堂々と戦わねばならない事も伝えた。
良くも悪くも好戦的な一面を持つ彼らはやるしか無いと覚悟を決めてしまった。
アリゼーは兄に、そして他の賢人達にタジムの本性を明かそうかと迷っていた。
だが明かしたところで何になるのか?
彼は危険な男だったから今すぐエオルゼアに戻って、彼らが勝手に死ぬのを見物しようとでも言うのか?
それは彼女にはどだい無理な事であった。
そして今後の事を考えればタジムによって再建されるであろうブレトニア王国の力は必要になることは間違い無い上、ハイデリンの使徒無しにアシエンは討てぬのだ。
だが、それらが終われば?
その武を自分達に向けるのではないか?
アリゼーは悶々としていた。
その危険性と、昨夜の理性を失った自分に対しての怒りによって。
アリゼーとタジムの間に何かあった事は賢人達や、軍の敏い者達は感じ取っていたが、今はそんな事よりも目の前の敵に集中せねばならないので気にしている暇はなかった。
その日の早朝、午前6時頃タジムニウス・レオンクールは全軍出陣を下令、全軍が一斉に前進を開始した。
対するガレマール帝国・ブレトニア諸侯連合軍も、陣形を維持したまま前進を開始、双方の投射兵器の射程ギリギリまでの距離まで歩を進めた。
この戦いに於いて最初に戦端をひらいたのは意外にも空中であった。
双方の制空権確保の為、小型飛空艇と魔導アーマー、そして飛行巨獣の空中戦が繰り広げられ、質のブレトニア軍、数の連合軍の戦闘は一進一退であった。
その流れを打ち砕くべく、虎の子のガレマール軍高速駆逐艦6隻が現れた事により形勢は決定したかに見えたが、ボルドローより出撃した鹵獲艦合わせた飛行駆逐艦5隻と、ドック入りしていた飛行装甲巡洋艦アレイジャンスが戦線に到着した事により、再び形勢は拮抗、むしろブレトニア軍が僅かに有利となる形となった。
兎も角も双方は空爆や空中から機関銃掃射は出来なくなり、単純な陸戦での勝負を強いられる事になる。
空の戦いの結果を聞いたタジムは空戦隊と飛行軍艦を防空の為下がらせると、自ら先頭に立ち、騎兵突撃を敢行する。
タジム
『突撃‼︎‼︎』
先制攻撃と敵の釣り出しの為に出撃したブレトニア騎士団の突撃がガレマール軍に襲い掛かる。
帝国軍は迎撃を開始し、騎兵突撃を断念させようと砲火を集中させる。
両翼からの反撃もあり、騎兵突撃は最初の一撃こそ有効のダメージを与えるもそれ以降損害を与えられず、むしろ多くなくとも少なく無い損害を被り、後退することになる。
尚、この時諸侯軍は騎兵を出さず遠距離からの弓矢やクロスボウや銃弾で迎撃するに留めている。
午前8時56分、今度はガレマール帝国軍が突撃隊形を取り、ブレトニア軍側に白兵戦を挑んできたのだ。
射撃戦を展開しようにも、ブレトニア軍側は障壁魔法を張り、帝国軍の攻撃を防ぎ、更に前進する度に簡易的な陣地構築を繰り返し、守勢の構えを取っていた。
これは最初の騎兵突撃の効果が期待出来ない事を予見し、更に敵のつり出しに失敗する事を踏まえたタジムの戦略であり、両翼側の騎兵突撃を警戒する意味もあった。
結果、此方の攻撃は通らぬのに、向こうの攻撃は僅かなれど刺さる(ブレトニア軍側も射程ギリギリで攻撃している為)、豪を煮やした訳である。
然し、敵は中央前進に伴い、両翼も前進し、同じ様に騎士や騎兵を出しはしなかったが、前衛の歩兵団を展開した為、これによりブレトニア軍側の前衛部隊は自身よりも多い兵の衝突を受け止めねばならなくなったのだ。
タジム
『今来るのか…まぁ望んだ事だが…払った代償が少し高くついたな。』
タジムは本陣より、ラッパを吹かせると後衛の歩兵団まで投入し、事実上の全力を以て強烈なカウンターパンチを敵前衛に喰らわせることにしたのだ。
敵がこの動きに対処するために兵を引かせるにしろ、予備兵力を出すにしろ、一度前衛に噛みつければ、此方のものであった。
クーロンヌ公トロワヴィル
『よし、行くぞブレトニアの勇者達よ‼︎‼︎』
将兵
『オオオオオオオオオオオ‼︎‼︎(鬨の声)』
兵を鼓舞するために下馬したクーロンヌ公自ら前線に立ち、自ら剣振るった甲斐あって敵の前衛は想像以上の抵抗を受け、跳ね返されることになった。更に再編を済ませた各騎馬部隊が魔法攻撃の援護を受け、両翼側より突っ込んできたのだ。
騎兵隊の中には、レパン、アリゼー、グ・ラハの姿があり、魔法部隊の中にはアルフィノとヤ・シュトラの姿があった。
ヤ・シュトラ
『氷塊よ…我が敵の頭上より振り下ろされる鉄槌と化せ、ブリザド‼︎』
落ちていった氷塊によって数人から数十人の命が消える感触をエーテルで感じ取ったヤ・シュトラは内心穏やかでは無かったが、その不快感を拭い去るように更に詠唱していた。
ヤ・シュトラ
(こちらの士気が高いお陰で、敵に対して優勢に戦えているようだけど、消耗戦になれば此方が不利な筈…両翼の軍勢が消極的だから拮抗しているのかしら?
ならば何故、彼らは兵を出さないの?
タジムに味方する気が無いのなら最初から全力で戦えば、この戦いは決着がついた。
仮に味方する気ならその時を窺っているとでも言うの?)
ヤ・シュトラが疑問を抱いていると味方の伝令から火力支援を要請された為、彼女はそれについて考える時間を奪われた。
一方本陣のタジムも一万の兵力差で良く拮抗していると思いつつも両翼の同胞の帰参はまだか、まだかとヤキモキしていた。
すると本陣を任された将達は、この状態が続けば良い事など一つもないので遺憾ながら乱戦を解くべしと進言してきたのだ。
タジム
『やはり…無理か。』
将
『敵の守りも固く、騎兵による突撃が失敗している以上一度乱戦を解かねば、歩兵は兎も角、騎兵の損耗が増します。
敵も決定打を欠いているようなので今こそが引き時かと、幸いにも中央軍だけを相手取るなら歩兵戦は優勢なので、敵の追撃も無いかと。』
タジムはそれを受け入れ、全軍に撤収を命じた。
この撤収作業は正に神業であると後世の歴史家はそう語ったと言う。
簡易的な塹壕を掘ってある、第二線までの後退をタジムは指示、先ず銃兵や弓兵を先に後退させた後、騎兵、歩兵共に中隊規模に部隊を再編、それらを数部隊ずつ順番に下がらせ、先に後退させた投射兵と、重砲の支援砲撃で掩護させながら、午後6時半には完全に秩序を保ったまま後退に成功させたのだ。
それらを完璧に遂行できる部隊指揮官の優秀さが光る後退運動であり、各部隊指揮官との連携を大事にしたタジムの用兵冥利であり、その後も彼の前に相対する敵に対して如何なく発揮される事になる。
この後退をかくやと言わんばかりに見ていた者がいた。
???
『見事、これには私も驚きましたぞ。
父王陛下がご覧になっていたら、大いに誉められたでしょう。』
と拍手喝采をあげる頭髪を全て剃った頭に司教帽を載せ、鎧の上に聖職者のコートを着た初老の男性が居た。
この男こそ、『カルカソンヌ公爵兼ブレトニア聖杯教大主教ジャン・アブラハム・ド・カルカソンヌ』であった。
カルカソンヌ
『全く見事だ。
用兵家としては父君を超えましたな殿下。
だが…それだけでは、及第点すらもあげれませぬぞ?
…例の軍団はもう上空の飛行軍艦に感知される距離に着いたはず、遅かれ早かれその存在に気づくでしょう。
さぁ、殿下、慌てふためていて居てはレオンクール王朝は絶えてしまいますぞ…。』
一人ほくそ笑んでいると伝令が彼に告げたのは帝国軍が、両翼は何故前進しない事への説明と、両翼の指揮を取る、公爵二名に出陣させろと言う催促であった。
カルカソンヌ
『フフフフフフフフ、流石に仮初とは言え占領していた地の人間の事が分かってきたようですねぇ〜。
気難しいブレトニア人は決して余所者の指図は受けない、バストンヌ公と、パラヴォン公を動かしたかったら、私が言わねば動かぬと…。
彼らに伝えなさい、カルカソンヌ公は病に罹り軍勢の指揮どころでは無いと。
しばらくこれで騙しましょう。』
そう言われた伝令は返事をすると、馬に跨り、帝国軍側の陣地に向かって走っていった。
カルカソンヌ公は少し考え込むと多少のポーズは取った方が良いと考えたのか、両翼より数千規模の兵を出して前方のブレトニア軍を圧迫する様にだけ再度伝令を送った。
一方のブレトニア軍は狼狽していた。
パラヴォン方面から一万以上の軍勢が向かってくる上、両翼より6,000程の部隊が前進してくる始末、つまりブレトニア側は中央部20,000、両翼合わせ12,000、合計32,000を相手しなければならない。
数の上では未だ優勢だが、両翼共に14,000、合計28,000、更に援軍合わせて43,000の無傷の軍勢が控えている。
誰も口にはしなかったが、敗色濃厚である事は否めなかった。
然し、此処にまだ諦めていない男がいた。
タジム
『両翼の6,000の部隊はこちらを圧迫するだけで、今のところ白兵戦や射撃戦を展開する様子は無いのだな?』
レパン
『はっ、まるでこちらにその存在を強調するように展開しています。』
クーロンヌ公
『殿下…。』
タジムは席を立つと、陣を出て、一人息を深く吸うのだった。
配下の将も、賢人達も何をしているのかわからないが、共に陣を出て、総大将が次に発する言葉を待った。
タジムは敵の前線を凝視したまま動かなかった。
敵は塹壕を掘る暇は無かったので、ブレトニア側が建設した簡易的な陣地を改造し、二つあるラインをそのまま使用するつもりのようだった。
正面の騎兵突撃はこの陣地群に相殺され、更に機関銃トーチカとしても機能させるべく重機関銃を配置させていた。
その様子を眺めていたタジムは振り返った。
振り返った時に一陣の風が吹き、総大将の決意が固まった事を一同は感じた。
そしてそこから覇気の篭った檄が飛ぶのである。
タジム
『グリムハンマー卿‼︎』
アイアンロック
『これに‼︎』
タジム
『其方らオルカル山地の戦士達が此処より今すぐトンネルを掘り、敵の陣地悉くそれも同時に爆破するとなると如何程掛かるか?』
獅子の咆哮…先程のまでの決め手を欠き、苦悩する若者の声ではなく、勝利を確信した覇者の声であった。
アイアンロック
『はっ、今より掘れば明後日にはあれら全て地中より爆破してご覧に入れましょう‼︎』
タジム
『ならば、すぐに取り掛かれ‼︎
空中艦隊に打電、明後日は防空ではなく、敵艦全艦を撃沈するつもりで掛かれ、その為に此方より、精鋭の兵と、全てのペガサス騎士、ピポグリフ騎士をつけるとな‼︎
ヤ・シュトラ、いや魔女マトーヤ殿。
此処に魔法で霧を起こせるか?』
ヤ・シュトラは指を湿らせると風向きを調べた。
ヤ・シュトラ
『多少の手間は掛かるけど、出来るわ。
その為に殿下が、魔道士を大勢借してもらえるならだけど?』
タジム
『宜しいグ・ラハ、君も手伝ってあげてくれ。』
グ・ラハ
『分かった。』
タジム
『アルフィノ、アリゼー、シド、君達は我が軍の揚陸艦でレパンと一緒に各飛行巨獣騎士団と一緒に敵艦に乗り込んでくれ。』
アルフィノ
『敵艦に白兵戦を?』
タジム
『そうだ、可能な限り敵艦は拿捕したい。
ボリス・ドートブリンガーと戦う為には空中艦隊が必要だ。
少しでも戦力を確保したい。』
アルフィノ
『了解した。』
タジム
『他は決戦の際、余と共にあれ!
各自命を捨てる覚悟で当日は望むべし、gott mit uns(神は我らと共に)‼︎』
諸将
『gott mis uns‼︎‼︎』
オルカル山地のドワーフ族、ルガディン族の工兵達が塹壕より土を掘り、敵の塹壕を目指して掘り進め、他の者は明後日の戦いに備えるべく、武器を整備したり、英気を養うべく腹を満たすなど、皆が思い思いの事をしていた。
その頃一度オルカル山地の地下都市に戻っていたタジムはクーロンヌ公トロワヴィルに地下都市内の聖堂まで呼び出されていた。
タジム
『して、何用で私を呼んだのかな公爵。』
クーロンヌ公
『殿下にお渡しするものがございます。
こちらを…。』
クーロンヌ公が差し出したものは見事な剣だった。
金の柄に赤地に金細工の施された鋼鉄製の鞘、剣を引き抜くと、銀色に輝く鏡の様な白刃が姿を表した。
タジム
『見事な剣だ。
これを私にくれるのか?』
クーロンヌ公
『正確にはお返ししたと言ったところでしょうな、その剣は…。』
途中まで言いかけたクーロンヌ公は咳払いをした後改まり、威厳を込めた表情と声音で続けた。
クーロンヌ公
『殿下、いやタジムニウスよ。
同じレオンクール家の血の者としてこの剣がなんであるかを明かすゆえ、しかと聞くが良い。』
タジムは真剣な表情を浮かべると剣を両手で持ち直すと跪いた。
クーロンヌ公
『その剣は、レオンクール王家の王冠と等しく、いやそれよりも価値のある物、これぞ音に聞く『クーロンヌの剣』、古くは始祖王ジル・ル・ブレトン、獅子心王ルーエン・レオンクール、そしてフィリップ・レオンクール九世が振るった我が王国の魂、これを賜る者、即ちレオンクールの正当な後継者である。
次期王としてその剣にそぐわぬ言動をせず、それに恥じる事なき武勇を示すとその剣と剣に宿し諸王の魂に誓え!』
タジム
『レオンクール家の血を引く者として、剣を振るに値せぬ言動を為ず、比類なき武勇を振るう事をここに誓う。』
クーロンヌ公
『宜しい、それでは殿下、クーロンヌの剣をもう一度私に、もう一つ用がございます。』
クーロンヌ公が手を叩くと、戦時用の礼装を着た騎士達やレパンやアイアンロックと言った諸将、そして暁の賢人達やシド、ボルドローより駆けつけたラ・フェール伯まで現れた。
そして聖堂に入りきるだけの民衆である。
クーロンヌ公
『殿下、もう一度跪かれよ。』
タジムは何が何だかといった心境だったが、恐らく冗談では無いと思ったのか言う通りにした。
クーロンヌ公
『レオンクールのタジムニウス、フィリップ九世陛下より委任されし権限により、これより卿の騎士叙勲を行う。』
そうクーロンヌ公は剣を引き抜きながら大声で言うと、騎士達は剣を抜くと刃を持ち、柄が天に向く様にした。
クーロンヌ公はタジムの肩に剣を当てて儀式の言葉を唱えた。
クーロンヌ公
『礼節と勇敢を以って、騎士道の模範となり、王を、民を、愛すべき全てを守る盾となり、悪しき敵に天誅を下す刃となれ。
立て、レオンクールのタジムニウス。
貴公はこれよりサー・タジムニウス、ブレトニア王国の騎士となった。
その武運が永遠に続きますよう。』
聖堂にいた者達も全員が復唱する。
『その武運が永遠に続きますよう。』
ブレトニアの騎士タジムニウス・レオンクール。
名実共に騎士になったタジムニウスは、これでブレトニア貴族達とも渡り合う資格を持ち、彼がブレトニア王室出身者として申し分ない立場を得た事になる。
そして騎士タジムニウスの初陣は訪れようとしていた。
翌日の昼頃、戦場にこの季節には珍しく霧が掛かった。
それも濃霧であった。
帝国兵達は驚いたが、それ以上に普段よりも神経を研ぎ澄まさねばならなかった。
視界不良に託けて歩兵が近づいてきて陣地を攻略して騎兵を突撃させたりなんて事のないように見張らねばならない上、空中の艦隊も霧の中での飛行は危険を伴うので高度を上げてしまうのでもしもの時の支援は望めない。
正しく自分達こそが生命線なのであるから。
そしてそれはブレトニア王国側もそうだろうと帝国軍の兵士達はそう考えていた。
結局その日は双方、何もせず過ごしたが、更に翌日、『まるで誰かが意図的に起こしたような霧』は地上からは全く先が見通せず、空中からは白い靄が、地上を隠してしまった。
その日の早朝、帝国兵達は朝の身支度なり炊事なりをしながら仮設陣地の中で過ごしていた。
眠い目を擦りながらいつくるかも分からないブレトニア軍の襲撃を警戒しながら…。
帝国兵
『よぉ、今日は早いな、どうした?
顔色が悪いぞ?
一度後方に戻って軍医に見せた方が。』
帝国兵
『いや、寝不足なんだ。
夜から変な耳鳴りが止まらなくてな。』
帝国兵
『気のせいじゃないか?
他の陣地の設置のために土を掘ってるだけとかそんなじゃないか?』
帝国兵
『だが、どうも真下あたりから聞こえてくるんだがな…』
と言いかけたぐらいだろうか。
帝国軍が建設した陣地は全て纏めて爆炎の中に消え去った。
吹き飛ばされる五体不満足のズタボロになった骸、火だるまになる女兵士の悲鳴、陣地の後ろで野宿した兵士たちの足元まで飛ぶ焦げた同胞の首、そしてまるで『意図したよう』に晴れた霧の中から、まるで何かに取り憑かれたかのように走ってきたブレトニア軍歩兵団と徒歩騎士団。
ガレマール軍中央は地獄絵図になった。
更に陣地があった場所から次々と穴が開き、そこからドワーフ族やルガディンの重歩兵まで這い出てくる始末。
そしてその先頭を、白く光る白刃を掲げる王太子が敵を切り刻みながら進む。
タジムニウス
『殺せ‼︎‼︎
容赦するな‼︎‼︎
我らの勝利は近い、我らに神の加護ぞありけりと示すのだgott mis ans‼︎‼︎』
陸戦では死に物狂いになったブレトニア軍の決死の突撃が行われている間、空中では互いに防空に徹し、動きの無かった両者の艦隊が砲火を交えたていた。
可能であれば鹵獲を行いたいブレトニア軍は戦艦の一歩手前の艦種である装甲巡洋艦が居るがその火力を活かせず、消極的に留めていたが、帝国軍は全力の攻撃を仕掛け、艦載機として魔導アーマーや、小型飛行艇を発艦させていた。
対するブレトニア軍も小型飛行艇や、ペガサス騎士、ピポグリフ騎士といった飛行巨獣に騎乗する騎士団を出動させ対抗する。
そんな中、砲火を掻い潜って帝国軍駆逐艦に強行着艦した飛行艇が何機かいた。
そしてその中にはそれに特化した騎士団と暁の血盟の賢人達が居た。
アルフィノ
『この駆逐艦は頂いていく‼︎
命が惜しくば降伏しろ‼︎』
帝国士官
『小童め‼︎
追い落とせ‼︎』
空中の戦いも熾烈を極めているがまずは地上に焦点を当てねばならない。
正面をほぼ同数の兵で抑えられているのにそれでも中央突破を図ろうとするブレトニア軍を見ていた、カルカソンヌ公は先頭で白刃を振るう若い騎士に目がいっていた。
カルカソンヌ公
『殿下…貴方は、自らの信念の為に身を焦がすことの出来る人間でしたか。
どこまでもフィリップ様を彷彿させる…。
『ブレトニア王たる者、汚濁に屈せず、常に先頭に立ち、勇敢とはなんたるかを示せねば、王たる資格なし。』か…。
合図を出せ、これより我らはブレトニア王国再興の為、叛旗を翻す‼︎
ガレマール帝国軍から我らの故郷を取り戻せ‼︎』
両翼より、角笛とラッパが鳴り、戦太鼓も盛大に打ち鳴らされ、遂に総力を以て自分達に襲い掛かるとブレトニア軍の誰もが覚悟した刹那、両翼の軍勢はガレマール帝国旗を下ろし、それぞれの諸侯の旗、カルカソンヌなら青と赤の地に黄金の一振りの剣、パラヴォンなら黒地に金天馬、バストンヌなら黄色の地に赤きドラゴンと言った各公爵領の印章が描かれた旗を掲げた。
そして両翼から騎士達が中央のガレマール軍に突撃し、両翼側最前線で戦ってた兵達は乱戦を解きつつ、帝国軍に向かっていった。
更に後方の援軍15000も緑の地に白い鹿の角という印章の見た事ない旗を掲げて帝国軍に襲い掛かった。
帝国軍が潰滅する迄にそう時間は掛からず、そこから一時間半後にはブレトニア側の勝鬨が上がっていた。
レパン
『殿下‼︎
勝ちました…勝ちましたよ‼︎
殿下の勇気が、彼らを…諸侯の心を動かしたのです‼︎』
タジム
『どうだかな…。
私は彼らに試されていた様にも思う。
……騎士の高潔さなんて持ち合わせているつもりは無かったが、彼らのメガネに叶ったのなら、それはまた良しだ。』
将
『殿下、カルカソンヌ公、パラヴォン公、バストンヌ公と…アスライの王と名乗る方がお見えになりました。』
タジム
『うむ、暁の賢人方もお呼びしろ。
彼らにも立ち会ってもらう。』
暫くして天幕に、僧侶風の出立をした、カルカソンヌ公と、位の高い騎士らしく豪華な装飾の施された鎧を身につけたパラヴォン公とバストンヌ公が現れた。
カルカソンヌ公
『御目通り願います殿下。』
タジム
『どうぞ、楽にして。
御三方には礼を尽くしても足りませぬ。
カルカソンヌ公、バストンヌ公、パラヴォン公、長きに渡り、敵国の虜囚となり、傀儡にされる憂き目に遭いながらも良くぞ今日迄耐えてくれた。
父王に代わり礼を申す。』
バストンヌ公アルベルト・パラヴォン公シグルド
『ありがたき幸せにございます。』
タジム
『それで…こちらの御仁は?』
タジムがこの緑色の独特な戦装束を着たエレゼン族の男の事を問い質した。
カルカソンヌ公
『あぁ、こちらはパラヴォンとカルカソンヌの東南に隣接するアセル・ローレンの森、ないしはアスライ公国公主オリオン公で御座います。』
オリオン
『殿下、お初にお目に掛かります。
アスライ公国公主オリオンと申します。
公国の全てを賭けてこれより貴方様に忠誠を誓います。』
タジム
『助力感謝するオリオン公。
卿もブレトニア公爵か?』
カルカソンヌ公
『厳密にはアルトドルフ帝国公爵になりますが、ガレマール帝国占領時に最後まで抵抗したアスライ公国の降伏を促す代わりに私とパラヴォン公で分割統治する約束を取り付けた結果その影響下にあるというだけです。』
パラヴォン公シグルド
『ブレトニア軍の多くの残存兵を匿って貰っている都合上何としても帝国の奴等に土足で踏み入れさせたく無かったので…苦肉の策でしたが…。』
オリオン公
『いや…お陰で我らは生きている。
あのガレマール人に統治されるよりは何倍も良い結果になった。』
タジムは分かったと意志を示すと話題を変えた。
タジム
『して…私は卿達のメガネに叶ったかな。
諸君らが私を試したのには理由が有るのであろう?
例えば…父王の言いつけとかな…?』
それを聞いた一同はタジムの方へ振り返り、3人は跪いたまま、頭を垂れている。
タジム
『その沈黙は答えであろう?
正直、このタイミングで王家の血筋を名乗る者が現れるのは誰でも考えつく事だ。
その名声を不当に得たいと思う者など、碌でもない者達が名乗りをあげる事があるだろう。
正直、それでも良いのだ。
旗印にさえなれば。
だが、我らは力なき者には決して従わぬ。
それが正当な者であれ、簒奪者であれ、その力有る者が我が王国を統治すれば良い。
そうお考えだったのであろう、父上は?
母上も…お亡くなりになる時に、私に王家を継ぐ事を望まれなかった。
レオンクール王家自体に存続する価値は無い、だが我が子がその意思あれば、力ある者であるか見極めよ、さもなくば卿ら3人の手で我が王朝に幕を引き、次代の為礎とせよ。
そんな所であろう?』
タジムの発言に全員が驚愕するが3人は変わらず沈黙している。
カルカソンヌ公
『タナトス卿からですか…?』
カルカソンヌ公は恐る恐る聞いた。
彼の心情としてはよもやそこまで考えていたのか…若干25歳の若者がそこまで…。
タジム
『いや…歴史を学び、過去を見れば、似た様な事など腐るほど有る。
それだけの事だ。』
カルカソンヌ公
『殿下も、例外ではないと?』
タジム
『無論だ。』
カルカソンヌ公
『殿下、確かにフィリップ陛下は殿下のお考え通りの事を仰りました。
されど殿下は、我らに力有りと証明し、現に多数の騎士や兵士達からも慕われ、王家の人間としての責任を果たすべく、先頭に立ち、自ら武を振るい戦っておいででした。
陛下は歴史の影に消えていった者達では有りませぬ、貴方は間違いなく天命に従って歴史の表に立つべき存在なのです。
貴方こそ…』
と、言い掛けた瞬間であった‼︎
伝令
『急報ー‼︎
急報ー‼︎‼︎
申し上げます!
中つ海街道、つまり王都クーロンヌ、ライクランド帝国マリエンブルク公爵領間の街道より、ライクランド帝国軍出現‼︎
その数100000‼︎
対する、我が方はカムイ・タナトス卿以下15000で街道にて迎え撃ちましたが、数的不利は如何とし難く、後退。
現在王都クーロンヌは包囲されている模様に御座います‼︎』
クーロンヌ公
『な、なんだと⁉︎』
カルカソンヌ公
『なんと…我らにもその様な連絡は無かった。
知っていれば王命に反してでも犠牲覚悟で帝国軍に叛旗を翻したのに。』
皆がタジムを見たが、彼は何も言わない。
だが、彼は無言で馬に跨ると剣を抜き、こう叫んだ…後にいう英雄王の激励と云われる出来事が今起きようとしていた。
タジム
『友よ…よく聞いてくれ。
今我らは正しく滅亡の危機にある。
苦節25年…再び統一されたブレトニアが今、恥知らず共によって再び分たれようとしているのだ…諸君、問おう。
我らは、騎士だ、泉の女神の騎士だ。
その生涯を騎士の高徳を完成させる為に捧げ、信念と正義を以って愛すべき者達を守ると誓った騎士だ‼︎
諸君らにその誇りはあるか?
答えよ‼︎』
将兵
『応ッ‼︎‼︎』
タジム
『諸君‼︎
友よ‼︎
英雄達よ‼︎
今ブレトニアは諸君らの死を望んでいる‼︎
共に戦ってくれ、全ての守るべき物の為に‼︎』
士気の爆発…
古来より多くの名将が自軍を覚醒させる際に起こしたそれは度々、奇跡を起こして来た。
ブレトニア史であれば、始祖王ジル・ル・ブレトンが初めて聖女の祝福を受けて突撃した戦いが最初であろうか。
タジム
『これより軍を分ける、オリオン公、バストンヌ公、貴公らの軍と我が軍の動きの鈍い重歩兵はこの場に置いて行く、山岳要塞オヴェリアやライクランド公爵領から軍勢が来ぬとは限らぬ、ジソルーにて守備に当たれ‼︎』
バストンヌ公アルベルト・オリオン公
『ははっ‼︎』
タジム
『他は全て着いてこい‼︎
騎兵は当然だが、砲兵隊は可能な限り騎馬砲兵にして連れて行く。
歩兵も荷馬車にでも何でも乗るだけ乗せろ‼
物資も最小限にし、速度を稼ぐのだ。
飛行艦隊は損害が激しい、オルカル山地とボルドローにて修復作業に入れ‼︎
シド殿はそちらに付いてあげてくれ。
優秀な技師は必要だ。
以上だ、総員怠るな‼︎』
諸将
『御意‼︎‼︎』
タジム
『翌日には我ら全員が馬上にて敵に突撃していなければならぬぞ、そしてその上で勝つのだ‼︎
良いな…明日は勝ち戦とする‼︎‼︎』
諸将・暁の賢人
『必ずや‼︎‼︎‼︎‼︎』
______________________
王都クーロンヌ
王都は混乱の渦であった。
ライクランド帝国軍(以降選帝諸侯派と呼称)100000に包囲されている以上、仕方のない事であった。
対するクーロンヌは迎撃に出たカムイ率いる15000と各地から参集した皇帝派ライクランド軍残党の中で補給が済んで戦闘に耐えれそうな兵とクーロンヌより緊急徴募した兵合わせて10000合計25000、数的不利に加えて、クーロンヌを守り切るには兵力がやや不足している状況であった。
しかし、流石は国王が最も信頼する騎士であった。
その防衛指揮は的確であり、圧倒的不利を兵の士気と、堅城である王都、そして一流の戦士であるカムイの武勇が相まってボリス・ドートブリンガーの尖兵達の手を焼かせていた。
されど、大量の火砲で武装した選帝諸侯軍の攻撃に遂に城門が破壊されてしまう。
兵
『タナトス卿‼︎
城門が破られました‼︎敵が侵入してきます‼︎』
タナトス卿
『狼狽えるな‼︎
敵は王都を破壊する気は無い‼︎
敵が城壁や街を破壊する気のないのなら勝機はある‼
ハルバード徒歩騎士団とツヴァイバンダー徒歩騎士団は︎私と来い、アーキバス兵とクロスボウ兵は城壁より引き続き弾幕を張れ、敵が梯子を掛けても剣兵と徒歩騎士団が付いているから落ち着いて対処せよ。』
騎士
『城壁外の敵に対して順調にトレビュシェットで攻撃を加えておりますが、敵に怯む様子が全く有りません。
敵もこちらも高位魔導士が居ない事は最初は救いと思いましたが、却って状況を悪くしたやも知れませぬ。』
カムイ
『いや、居ない方が良い、居ればこんな物では済まぬ。
敵将は分かったか?』
騎士
『はっ、マリエンブルク公爵軍将軍ボーアン・フーセネガーとの事。』
カムイ
『マリエンブルク公爵の旦那か…。
あの女公爵同様掴み所のない戦い方をする男だ…なら妙だぞ?
奴ならこんな平押し等せずもっと何か奇策を弄して来そうなものだが…大兵に策なしと言う事か…いや今は良そう。
城門より来る招かれざる客を相手せねばな…。』
城門では突入してきた選帝諸侯軍を追い返そうと騎士達が奮闘していた。
選帝諸侯軍兵
『行けぇ‼︎
叛逆者のブレトニア人を殺せぇ‼︎‼︎』
ブレトニア騎士
『どの口が言うか‼︎』
剣戟と怒号が城門を支配していた。
すると選帝諸侯軍の最前列が全員倒れた。
骸の前には東洋の具足をブレトニア風に加工した特殊な鎧を着た一人の騎士が刀を持って立っていた。
その鎧は金色に輝き、兜には獅子を模した白い立髪が靡いていた。
ブレトニア騎士
『王の盾(キングス・ガード)だ‼︎
王の盾がきたぞ‼︎‼︎』
騎士達にはどれほど心強かったか。
ブレトニア王国の中で最強の騎士にして…ただ一人の武士が参陣したのだから。
選帝諸侯軍の兵達は仲間の仇と武士に斬り掛かるが…一人…また一人と斬り倒される。
カムイ
『天下…』
カムイは刀を鞘に収め、居合の構えを取る
カムイ
『五剣ンンンン‼︎‼︎』
五つの飛ぶ斬撃が兵士達を切り刻む。
カムイ
『王都無き王など存在させる訳には行かぬ‼︎
ブレトニアの騎士達よなんとしても守り切るのだ‼︎‼︎』
その頃、ブレトニア側の奮闘を本陣より見ていたフーセネガー将軍は賛美していた。
フーセネガー
『全く流石だ…腕は衰えてはおりませぬなぁ…公爵。』
フーセネガーはそう言うと東は見た。
まるで何かが来るのを待っている様に。
フーセネガー
『おい。』
フーセネガーは自軍の士官を呼ぶと自軍だけにこう命令した。
フーセネガー
『俺達だけは最後方に配置しておけよ。』
士官
『…こっそりとですな?』
フーセネガー
『そうだ…どう転んでも俺たちの犠牲は最小限にしないとな…儲けるのは好きだが…損をするのは嫌いな俺達マリエンブルク人のモットーに倣ってな?』
結局その日はフーセネガーより後退が命じられ、ブレトニア側は城門を守り切る事に成功したが翌日再び破壊された城門に敵が殺到し、早くも城門の戦いは熾烈を極めていた。
業を煮やした選帝諸侯軍は鹵獲した魔導アーマーとライクランド帝国式の機動兵器を投入したのだ…コロッサスとゴリアテ(ガレマール帝国軍のコロッサスを参考に作った機械人形。性能は同等と言われている。)の突入に流石の騎士達も劣勢を強いられた。
連日戦い続けていた騎士達も疲労には勝てない。
この鉄巨人を抑える事は出来なかった。
遂に城門は突破され、敵が雪崩れ込んでくる。
それでもブレトニア騎士達は諦めず食い下がる。
カムイ
『まだだ‼︎
まだ街や城に入ったわけではない‼︎』
そう言い切った刹那カムイはルガディン族の兵にハンマーで頭を横殴りにされ吹き飛ばされた!
苦痛の声を挙げ、体勢を整えられず後ずさるカムイ、それを助けたくても騎士や兵士達は動けない。
騎士
『タナトス卿⁉︎⁉︎』
兵士
『公爵様‼︎』
選帝諸侯軍兵
『死ねぇ老ぼれが‼︎』
カムイは死を覚悟した。
然し、挙がった断末魔はカムイの物ではなく、ルガディン族の兵士であった。
彼の前には緑色の古代の騎士の装いをしたエメラルドに光る騎乗した騎士が居た。
それは明らかにこの世の物では無いと一目見て分かる姿であった。
神々しい光を帯びた騎士は一振りでさらにその周辺に居た敵兵を倒してしまう。
カムイはそれが何であるかを理解していた。
一度だけ…若かりし頃に見たその姿…そう今目の前にいる騎士こそ、ブレトニア神話において何度も何度も現れ、聖杯騎士達に試練を与え続けた存在緑の騎士その人であった。
掠れた…しかしよく聞こえる声でそれは吠えた。
緑色の騎士
『奮い立て‼︎
ブレトニアの子らよ、そなたらは泉の女神の加護ぞ受けし戦士達ぞ。
お主達は決して負けぬ‼︎
ジル・ル・ブレトンの子らが諸悪に負ける事は決して有り得ぬ‼︎
誇りを失ったシグマーの子らよ…我が刃を受けよぉぉ‼︎‼︎』
選帝諸侯兵達は恐怖に呑まれた、緑色の騎士の様な何かに仲間が斬られていくのにその騎士は撃たれても、斬られても刺されても死なないどころか…当たらないのだ。
馬も同様であるのに、その蹄によって踏み潰され、跳ね飛ばされる兵は数知れず。
そして遂に緑の騎士は魔導アーマーを全て壊してしまうのだった。
それに合わせてカムイ達は士気を取り戻し、再び城門まで押し戻したのだ。
そして緑の騎士は何も言わず戦いの最中であるにも関わらず何処かへと消えてしまった…。
カムイ
(まさか…今になって現れるとは…。)
『皆‼︎
緑の騎士の助力を無駄にするな‼︎
殿下は必ずや戻られる‼︎‼︎
それまで耐えるのだ‼︎』
ブレトニア軍
『オオオオオオオオオオオ‼︎‼︎』
緑の騎士出現はすぐさまフーセネガーの元に届けられた。
フーセネガー
『何だって⁉︎
あれは伝説の存在だろう⁉︎
本当に現れたってのか…だがで無ければこんな短期間に押し戻されるわけ無いか…。』
士官
『し、将軍‼︎
東より軍勢が‼︎
ブレトニア軍と思われます…もう既に突撃して来ています‼︎‼︎』
フーセネガー
『気を取られ過ぎた…。
恐らく中列にいるナルン公爵軍とデイッターズランド公爵軍はボコボコにされるだろうな…。
全軍に退却命令を出せ。
尤ももう遅いだろうがな。
ブレトニア騎士団の突撃は速い上に強力…避ける手段など無い。』
フーセネガーは迫り来る軍勢を見た。
そして彼の言う通り、ブレトニア軍は瞬く間に敵を捉えた。
そしてそのランスはしっかりと彼らの敵を捉えていた。
タジム
『聖女の為に‼︎‼︎』
ブレトニア騎士団
『王国の為に‼︎‼︎』
ブレトニア騎士団は突撃した‼︎
真横からの完全な突撃を受けた選帝諸侯軍は大混乱に陥る。
白刃を振るう王太子の側にはクーロンヌ公、リヨネース公、ラ・フェール伯、そしてアルフィノ、アリゼー、グ・ラハ、ヤ・シュトラがそれぞれの得物を振るって戦っていた。
タジム
『奮い立て騎士達よ‼︎
我らの騎士道に掛けて‼︎
我ら決して諸悪に屈せぬ‼︎‼︎』
そう言った瞬間クーロンヌの剣は黄金に光り輝いた。
それを見たブレトニアの騎士はこう言った。
ブレトニア騎士
『その剣、王たる者の手にある時、金色に光輝き、太陽の光の如く我らを照らすべし。
皆、殿下に…いや国王陛下に続けぇ‼︎‼︎』
ブレトニア国王…その名を聞いた選帝諸侯軍は戦慄する…。
かつてこの地にてフィリップ九世はカムイを除く王の盾数百騎を引き連れて、彼らを大いに血祭りに挙げ、道連れにしていた。
その記憶を持つ兵達は震えが止まらなくなり…やがて若き王太子をその武勇に優れたかつて自分達の大将軍と重ね合わせてしまった。
選帝諸侯兵
『逃げろ‼︎
殺されるぞぉ‼︎‼︎』
選帝諸侯兵
『フィリップ九世だ…生きてやがったんだ…逃げろぉぉぉ‼︎‼︎』
恐怖は伝染する。
選帝諸侯軍は瞬く間に士気崩壊を起こした。
本陣で見ていたフーセネガーは何故かほくそ笑んでいた。
フーセネガー
『フ…フフフ。
流石に驚いたな…緑の騎士にクーロンヌのの剣を光らせるだと…?
……時は来たか…。
全軍の退却を支援する!
マリエンブルク軍前へ‼︎』
士官
『はっ‼︎
全軍前へ‼︎‼︎』
フーセネガー
『程々にな?
連中に文句を言われちゃ堪らんからな。
ポーズって大事だからな。』
城門付近の敵を蹴散らして来たカムイと合流したタジム達は勢いのまま、マリエンブルク軍に襲い掛かる。
然し、フーセネガーののらりくらりとした戦いにいなされ、結局損害も出せずに逃してしまった。
タジム
『マリエンブルク軍は殆ど損害を出さずに後退したか…。
それでも敵の大半は倒せた。』
大勝利と言おうとしたが…悲劇が起きてしまう。
騎士
『殿下‼︎
直ぐにこちらに…クーロンヌ公が…‼︎』
それを聞いたタジム達は血相を変え、馬を賭けた。
近づく度に騎士や兵士達の態度が変わっていき、事の次第が明らかになっていった。
タジム
『大叔父上‼︎‼︎』
タジムは馬から飛び降りると地面に寝かされたクーロンヌ公に駆け寄った。
然し…遅かった。
もう既にクーロンヌ公トロワヴィルは戦死していたのだった。
タジムは涙した。
その場にいた皆が泣いた。
最後を看取った騎士はクーロンヌ公の死に様を語った。
クーロンヌ公は老体に鞭打ちながらツヴァイバンダーを振るい、味方を鼓舞しながら戦っていたが、敵がせめて一太刀と浴びせた剣の一撃を食らったのを皮切りに幾つかの太刀傷を負ってしまった…結果落馬し、徒歩騎士や兵士に助けられたが既に致命傷であったという。
死ぬ間際までトロワヴィルはある事を口にしていた。
トロワヴィル
『殿下…どうか良き国を…良き国をお造りください…。』
そしてタジムが到着する少し前に息を引き取ったのだという。
タジム
『………約束する。
大叔父上の骸に誓う。
必ずやブレトニア王国を良き国にしてみせる。』
タジムは再び騎乗すると剣を天に掲げ叫んだ。
クーロンヌ公トロワヴィルの戦死と、全軍の勝利を、そして自身が良き国を作ると誓った事を。
タジムの手には光り輝くクーロンヌ剣が握られていた。
タジムの叫びの後、一瞬の沈黙があった。
すると一人の騎士が剣を天に掲げ叫んだ。
騎士
『ブレトニアの王‼︎』
それは王位についた者に対しての祝福の言葉や自身が忠誠を誓う証として挙げる鬨の声であった。
それに続き、
カムイ
『ブレトニアの王‼︎』
レパン
『ブレトニアの王‼︎』
全軍
『ブレトニアの王‼︎ ブレトニアの王‼︎ ブレトニアの王‼︎』
ブレトニアの王と何度も何度も鬨の声は挙がり続けた。
賢人達も同じ様に鬨の声を挙げたが…アリゼーだけは挙げなかった…彼女にはタジムを王にしてはならないいう危機感を拭えずにいた。
タジムの本性…それだけ…たったそれだけで彼女は彼を信じる事は出来なくなった。
そして彼女は兄達とは独自の行動を取る事を覚悟したのだった。
憧れていた英雄が王になる瞬間を目にしながら…