ファイナルファンタジー14 異譚 獅子の子タジムニウス    作:オラニエ公ジャン・バルジャン

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今回は二本立てです。

本当は一話にして出したかったのですが長過ぎて力尽きました。笑

七話も下地は出来上がってますのでそう遠く無いうちに後悔したいなと思います。

それではどうぞ‼︎


第六話 泉の聖女

ブレトニア王即位…。

 

世界中がこの出来事に注目した。

 

恐怖の帝王が蘇ったのか…それとも英雄の誕生なのか…?

 

それは生きとし生ける者達それぞれの観点で測られるだろうそれは多大な影響を及ぼした。

 

東側では出る杭は打てと吠える者とともに歩む気のある者を後ろから刺すなど言語道断であると二つに紛糾し、北側ではかつての仇敵の復活で困惑するか、狂喜する者の二つに分かれ、西側では自分達に所縁のある英雄の正体を知り、動揺し裏切られたと思う者と彼への恩義により、武器を取って力を貸そうする者で阿鼻叫喚の嵐を起こしていた……。

 

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エオルゼア某所

 

?

『あいつ本当に王様になっちゃったか〜。

 

まだまだひよっこだと思ってたのになぁ〜。』

 

青い髪のミコッテ族の女魔法使いがエールを飲み干しながらしみじみと語っていた。

 

その言葉にピンク色の髪をしたミコッテ族の女格闘家が頷きながら口を開けた。

 

『元々、真っ直ぐな子だったもの。

 

やると決めた事はやらないと気が済まない、だからこそああして人が集まるのかもしれないわね…人には自分の知り得ない所でカリスマを養っている事があるものだけれどあの子は顕著ね。』

 

格闘家が思い返す様に話すと隣から別の質問をその格闘家に投げ掛けようとする紺色の髪をしたミコッテ族の侍がおり、口を開く。

 

?

『あの、ユイコさん。

 

結局俺達はタジムさんと戦わなきゃいけないんでしょうか?

 

戦士としては兎も角…指揮官、一人の将としてのタジムさんは何度か戦場で見たけど、あの人にはそう簡単には勝てないと俺は思うんだけど。』

 

ユイコと呼ばれた女格闘家は微笑むとこの年若い青年の頭を撫でてやるとこう返した。

 

ユイコ

『そうはならないと思うわよ、いま世界中がアシエンの危機に晒されている最中に世界を燃やし尽くす様なバカはしないわよ。』

 

青い髪をした魔法使いは、杯にジンをドカドカと注ぎながら同意した。

 

?

『そうそう、それにアイリス忘れたの?

 

アイツが酒に酔うと必ず言ってた言葉。』

 

アイリスと呼ばれた侍は首を捻ると、それを思い出したのか口を開く。

 

アイリス

『そう言えば、こう言ってましたね。

 

『俺は麒麟が来る世の中を作るんだ』って。

 

でも、トウカさんそれがなんの関係があるっていうんです?』

 

トウカは一冊の本を取り出した。

 

それは東洋の辞書であった。

 

それには麒麟という幻獣について書かれており、それは平和な世を作れる者のみが天より連れてこれる獣だという。

 

トウカ

『タジムが本当にその気があるのなら今私達やドマの若殿様相手に喧嘩を売る様な事はしないよ、アイツの理想から最も離れた行動だからね。

 

でもねアイリッスよ。』

 

アイリスの前にトウカは一枚の紙切れをチラつかせた。

 

トウカ

『それを見定めるチャンスが実はあるんだなぁコレが〜。』

 

アイリス

『これは?』

 

ユイコ

『私達に宛てられた暁の血盟と同盟軍の連名で出された召集令状よ。』

 

トウカ

『私達、暁の血盟の一員でもあるけど、各国のグランドカンパニーの将校でもあるわけだしね。

 

これから派遣される義勇軍にはうってつけの人材というわけだよ。』

 

アイリス

『じゃあ、行くんですね?

 

ブレトニア王国に!』

 

トウカはそこから何故か少しバツが悪そうに続けた。

 

トウカ

『まぁ…そうなんだけど…。

 

あの娘にも伝えなきゃいけないんだけど…伝えない方が良いかもしれないって言うか…。』

 

ユイコも少し冷や汗をかきながら続けた。

 

ユイコ

『まぁ、怒るだろうし、今も怒ってるでしょうね。』

 

アイリスは何の事だかと言った表情をしたが、外から破壊音が響いてきたので、彼は何の事かあっという間に理解したのである。

 

アイリス

『…あっ。』

 

トウカ

『全く私達は骨が折れそうだってのに、アイツは今どうせ城で自堕落にしてんだろうなぁ。』

 

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クーロンヌ城

 

その頃自堕落していると言われた若き騎士はと言うと…

 

タジム

『うぅ…うぅ…』

 

謎の呻き声をあげていた。

 

しかもそれは彼だけでは無い、ブラックストーン城を始めとした灰色山脈東部公爵領の領主に復帰したカムイも、カルカソンヌ公も、別働隊指揮官として呼び出されたオリオン公とパラヴォン公も同じ様な呻き声をあげていた。

 

毒でも盛られたのか…それとも酒に酔っているのか…いや違う。

 

彼らにとっての不運が今最悪の形で足を引っ張っていたからである。

 

この惨状をみていた眼鏡をつけた背の高い文官は頭を押さえていた。

 

この文官はカムイ・タナトスの弟で、シリュウ・タナトスと言う。

 

兄に代わり公爵領(シリュウ本人は兄に押し付けられたと頑なに言い続けた。)を良く収めた功績や彼の事務能力を買われて王城にて勤務することになったが、彼の初仕事はブレトニア全軍を食わすだけの兵糧の整理であった。

 

そしてそれはとんでもない事実を告げていた。

 

なんと、現在ブレトニア全軍に行き渡らせる事のできる兵糧の全てを確認すると長期の軍事作戦には耐えられず、近年徴兵と兵器生産が重点化された都合で生産量が減少してしまっていたのだ。

 

おまけに先のオルカル山地の惨状もあり、そこに物資を割かねばならない以上僅かな資源をやりくりしなければならないのだ。

 

かと言って民からの強制徴収などもってのほかで有り、その様な事をすればあっという間に支持を失う事間違いなしという状態であるので、正しく八方塞がりであった。

 

つまり大穀倉地帯ブレトニアという利点があっても、その利点を使える環境ではない事をタジム達は知ってしまったのだ。

 

それ故に全員頭を捻ったが何も浮かばず全員机に突っ伏すハメになったのだ。

 

シリュウ

『まぁ、致し方ありますまい。

 

ガレマール帝国軍がここで生産出来る農作物を次から次へと兵糧にして各地に分散させてしまったのがいけないのですから。』

 

誰に聞かれたわけでもないが、誰かの問いに応える様にシリュウは口を開いた。

 

シリュウ

『一応、双頭の獅子作戦が行えるだけの兵糧はございます。

 

長期化しなければですがね。』

 

カムイ

『現地徴用をすれば間違いなくライクランド人の反感を買いましょう。

 

これでは我が方が反乱軍になってしまいます。』

 

オリオン公

『ボリス・ドートブリンガーの言い分ではそうであろうな。』

 

パラヴォン公

『されどあと数ヶ月もすれば収穫期、そこまでは守勢に持ち込めば長期戦にも耐えられ…いやその時間はないのでしたね。』

 

タジム

『あの変な塔の情報は入ってこないのかカルカソンヌ公、ライクランド帝国側には一本生えてきたと言うではないか?』

 

カルカソンヌ公は机に突っ伏したまま資料を捲り、目を通したがめぼしい情報はなかった。

 

カルカソンヌ公

『ありませぬな。

 

選帝諸侯軍もかなりの箝口令と情報操作を徹底しているようです。』

 

タジム

『余程の秘密兵器なのか…それとも誰にも知らされていないのか…。』

 

するとノックが聞こえたので部屋に通すと、伝令はカルカソンヌ公に耳打ちしてまた部屋を出て行った。

 

カルカソンヌ公

『皆々様、どうやら悪い知らせとは続くものですなぁ…。

 

ボリス・ドートブリンガーがライクランド帝国内にいたガレマール帝国軍を吸収したようです。』

 

カムイ

『な…なんだと⁉︎』

 

一同は騒然とした。

 

軍団クラスには満たぬもののそれなりの兵力がいた筈だ。

 

それがおいそれと接収するなど出来るわけがない、無傷で軍団を手に入れる方法など無いのだ。

 

だが、ライクランド帝国側で選帝諸侯軍とガレマール帝国軍が戦った情報は無かった。

 

どうやらガレマール帝国軍が内輪揉めをしたらしく、それで生き残った各部隊を吸収したようであり、その裏にボリス・ドートブリンガーが居る可能性が高いという事だった。

 

カルカソンヌ公

『帰るべき祖国も焼け落ち、蘇った挙句父を、皇帝を殺した皇太子の国に帰るなどゾッとしないものが有るのかほぼ全ての兵が選帝諸侯軍に加わったそうです。』

 

タジム

『これで、クーロンヌで散々殺しまくった甲斐が無くなったな。

 

少なくとも死傷者の半分は回復できた筈だ。』

 

カムイ

『戦力差は埋まらずか。』

 

ブレトニアの首脳陣は頭を抱えているその頃、賢人達はクーロンヌ公領内に存在する海に面した城塞都市ランギーユにいた。

 

ブレトニア王国でも有数の交易地であるランギーユは中立国との交易で栄えており、ブレトニアの財政を支える需要地である。

 

賢人達がここに来たのはエオルゼア側の情報提供者との接触と中立国を経由して、シャーレアンの動向を確認するためであった。

 

飛行軍艦に混じって、大中小の帆船や蒸気船、飛空艇や飛行貿易船が港に所狭しと泊まっており、桟橋を抜けた先には出店がまた水兵や異国の船乗りを相手に商売をしていた。

 

アルフィノ

『ここは凄いな、本当に世界中の商船が泊まっている、エオルゼアの商船もここにいつか停泊する日も来るのだろうか?』

 

アリゼー

『来るわよ。

 

戦争が終わればね?』

 

『おーい、こっちだ。』

 

呼び掛ける声の方に向くと金髪のヒューラン族の男が手を振っていた。

 

ヤ・シュトラ

『あら、暁の血盟に於いて諜報の第一人者である貴方自らここに来るとはね。』

 

アルフィノ

『リオル!

 

こんな遠くまで来てくれたのか。』

 

リオル

『エオルゼア同盟の盟主達の直々の依頼でな。

 

アイツの演説で今エライ騒ぎだ。

 

同盟軍どころか民衆まで戦意高揚状態で、他種族交渉も凄い勢いで拍車が掛かってる。』

 

ヤ・シュトラ

『良くも悪くも英雄ね。

 

同一視といった人間の感情を刺激して民衆をコントロールする才能を持つのは英雄の特権ね。』

 

リオル

『勿論、良いことばかりじゃ無い。

 

アマルジャの様に未だ難航している種族は居るし、東方なんてその比じゃない。

 

反ブレトニア、反アルトドルフ帝国思考が元々強い国が多い東方連合内は内紛状態に近い、盟主ヒエンが上手くまとめているが、テロフォロイよりブレトニアを先に潰そうとする意見が徐々に強くなってきてるのが現状だ。』

 

皆が少し重たい表情を浮かべたのを感じ取ったリオルは話題を変えた。

 

リオル

『まぁ、最後にもう一ついい話があるぜ。

 

取り敢えずエオルゼア同盟軍は一個旅団クラスの義勇軍を派遣することになった。

 

ウェルリトで集結して、その後、リムサ・ロミンサ自慢の高速船を使ってるから、あと数日で到着する予定だ。

 

義勇軍つっても暁の血盟出身の冒険者も多く参加しているから相当な手練れの連中だ。

 

ナナモ様達は早く我らの英雄共々戻ってこいって意味も込めて派遣するそうだ。』

 

アルフィノ

『そうか…タジムも喜ぶだろう。

 

実の所、兵はいくらあっても足りない筈だ。

 

旧大国が二つに割れた大戦が始まるのだから。』

 

まるで時が来たかの様に辺りは騒がしくなった。

 

ラザハンから来た商船ジョアンナ号を第三桟橋につけろだの、東方行きの船に石炭を補充しろだの、港湾組合の者達の喧騒の声が大きくなっていった。

 

リオルはエオルゼア内での仕事がある為戻ると暇を告げると人混みの中に消えていった。

 

すると賢人達を一人の騎士が探しに来た。

 

騎士

『ああ、此処でしたか賢人の方々。

 

直ぐに王城にお戻り下さい、先程陛下に書状が届き、共に見聞したいとの仰せです。』

 

アルフィノ

『わかりました、直ぐに戻ると陛下にはお伝えください。』

 

騎士

『どうかよしなに。』

 

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クーロンヌ城会議室

 

城に戻ったアルフィノ達を迎えたのは彼らが城を出るまでああだこうだと議論していた騎士や貴族、地方の有力者達が全員黙りこんでいる様であった。

 

タジムは机で黙って手を組んで座っていたが賢人達が来ると一通の手紙を手渡した。

 

タジム

『来たか、取り敢えずそこに座ってくれ。

 

これを見て欲しい。』

 

アリゼーが手紙を受け取るとその内容を読んだ。

 

『我がアルトドルフ帝国一の忠臣であるブレトニア国王タジムニウス・レオンクール陛下へマリエンブルク公爵カタリナ・フォン・マリエンブルクよりお伝えしたい議があり文を認めさせて頂きました。

 

陛下は三日後に帝都アルトドルフにて行われる婚儀をご存知で有りましょうか?

 

婚儀は選帝諸侯連合盟主ボリス・ドートブリンガー四世とライクランド公女、つまり前皇帝陛下であるジギスムント陛下のご息女であらせられる、セレーネ・フォン・アルトドルフ殿下との婚姻です。

 

そうです、ボリス・ドートブリンガーは遂に帝冠を手に入れる為に娘程の歳が離れている皇女殿下との婚姻を迫ったのです。

 

皇女殿下が親の仇であるボリス・ドートブリンガーとの婚姻など受ける訳も無いので、ボリス・ドートブリンガーは勾留していたライクランド公(ジギスムント帝の前の皇帝の弟)の身柄との引き換えで強要してきたのです。

 

皇女殿下は致し方なしとお受けになりましたが、これは人としても臣下としても劣る行為です。

 

されど私にはこれを公然と非難することも、食い止める力も有りません。

 

ですが、貴方ならそれが出来る。

 

我が帝国の半分を実力で奪還し父君の位と意志を継承した貴方なら皇女殿下をお救いする事が出来るはずです。

 

とは言っても陛下がその為に軍を起こそうと思ってもおいそれとは行かぬ事も私どもも存じておりますそこで、私も微力ながらお手伝いいたしますのでどうか、我が領地マリエンブルクまでお越し頂き、姫殿下をお救いしては戴けないでしょうか?

 

信用出来ないのは重々承知しております。

 

ですがこれを聞けば貴方方は私のところに来るしかなくなるでしょう。

 

なぜそんな大言を吐けるのかと思うでしょう、その理由は皇女殿下にあるからです。

 

セレーネ殿下は…ハイデリンの使徒、つまり泉の聖女当代のフェイ・エンチャントレスだからです。

 

この事が何を意味するのか聡明な陛下にはお分かりいただける事かと存じます。

 

そしてそれはボリス・ドートブリンガーも存じている事、ドートブリンガーは婚儀の後、自身の皇帝即位を宣言した後、セレーネ様をオストランド公爵領に出現したかの謎の塔に連れて行き、そこでその力を悪用しようという魂胆がある様なのです。

 

これを見て、どう行動するかは陛下の自由ですが…明日までそちらのランギーユに、ラザハンの商船でジョアンナという名前の船がおりますのでそれをお探し下さい。

 

その船が貴方と私を引き合わせるでしょう。

 

敬意を込めて…

 

カタリナ・フォン・マリエンブルク。』

 

アリゼーは手紙をワナワナとした手で置くと大声を上げた。

 

アリゼー

『先代皇帝の娘が光の巫女ってどういう事よ‼︎

 

ブレトニアの光の巫女、つまりフェイ・エンチャントレスはブレトニア人しかなれないんじゃ無かったの?』

 

カルカソンヌ公

『それについては私からご説明しようお若い暁の賢者殿。』

 

カルカソンヌ公が立ち上がり説明した内容はこうだ。

 

元々アルトドルフ帝室はブレトニア王室とライクランド帝室の子供らが婚姻してできた家で有り、多少の血の薄まりはあれど、定期的にブレトニア貴族の嫁入りと婿入りを繰り返している為、ブレトニア人の血は入っている為、充分に有り得るという。

 

そしてブレトニア王室もライクランド帝室もかたやジル・ル・ブレトン王、方やもう一方は大神シグマー、古代の光の戦士の末裔で有り武勇も魔法の素質も充分に受け継がれている事からむしろ可能性は高かったとも言った。

 

カルカソンヌ公

『元々歴代の淑女様は必ず後継をお探しになり、次代の淑女を見つけると祝福され、その後継者を守るべく我らを遣わすのですが…先代は後継者探しを我ら抜きで行ってしまったので、今日まで分からずじまいだったのですが…。』

 

ヤ・シュトラ

『今こうして当代の泉の淑女が現れたと思ったら予想外の展開で慌てていると言ったところかしら?』

 

カルカソンヌ公

『左様、して陛下、如何なさいます?

 

泉の淑女に選ばれた者はその力を悪用、ないしはされぬ様に一切の政治的権力を持たず、ないしは破棄すると掟にあります。

 

これによってアルトドルフ帝国復興は露となって消えてしまい、陛下がライクランド帝国領に関心を向ける必要は無くなりましたが…。』

 

タジムは、聞かれるや否や声を大にして返した。

 

タジム

『権力云々は兎も角、うら若い女性が無理くり婚姻させられその純潔を奪われようとしているのだ、それを見捨てて何が騎士か‼︎

 

そしてそれ以前に我ら騎士が守護し奉るべき泉の淑女様を敵の手に委ねるなど言語道断‼︎

 

ボルテノー伯(シリュウの爵位)、直ぐにランギーユに通信を送り、ジョアンナ号を捜索するようランギーユ伯に伝えよ。』

 

シリュウ

『は。』

 

タジム

『不安は有るが、双頭の獅子作戦をいつでも実行出来るよう、マリエンブルク攻撃に参加する部隊は全てクーロンヌに集めよ。

 

パラヴォン公とオリオン公はそれぞれの軍勢を以てオヴェリウス要塞攻囲のため出発せよ。』

 

パラヴォン公・オリオン公

『承知‼︎』

 

タジム

『タナトス卿、カルカソンヌ公、暁の賢人の方々は私と共にランギーユへ。』

 

呼ばれた者達は頷きタジムの後を追い、他の者達はそれぞれの役目の為に奔走した。

 

制空権を得た今、飛空艇も運用できる為、タジム達はランギーユまで連絡飛空艇で向かった。

 

ランギーユ・ランディングではランギーユ伯と港湾組合長が待っていた。

 

ランギーユ伯はジョアンナ号は停泊しているのは事実で有ると伝えると組合長に道案内を頼んだ。

 

組合長の案内で帆船ジョアンナ号にたどり着いた一行は警戒しつつも甲板に上がった。

 

甲板にいる全員は皆ラザハン人の様だが、船長らしき男がタジムの前に立った。

 

船長

『何の様ですかい若旦那?』

 

タジム

『マリエンブルクのカタリナがこの船に来いと言っていたのでな邪魔させてもらうぞ。』

 

タジムがそう言うと、船長は船員達にラザハン語で何か怒鳴りつけると、全員達は直立不動の敬礼をし、船長も脱帽の上船楼へ通すと一行を案内した。

 

船楼にはライクランド式のフルプレートアーマーを着込んだ高位の軍人であろう騎士が居た。

 

カムイはその騎士を見て驚愕する。

 

カムイ

『ボーアン・フォン・フーセネガー…‼︎』

 

アルフィノ

『彼が…マリエンブルク公爵領軍の将、マリエンブルク女公爵の夫。』

 

ヤ・シュトラ

『レディ・カタリナにとっては腹心中の腹心ね、そんな彼を使いに出すと言う事は彼女の言っていることも少しは真実味が増すわね。』

 

ボーアンは敬礼すると手を差し伸べ、挨拶をしてきた。

 

フーセネガー

『お初にお目にかかります国王陛下。

 

ボーアン・フーセネガー将軍であります陛下。』

 

タジムは敬礼を同じ様にすると、握手を握り返しながら挨拶を返した。

 

タジム

『ブレトニアにようこそ将軍、私がブレトニア王、タジムニウス・レオンクールです。

 

将軍自ら使者としてお越しとは痛み入る。』

 

フーセネガー

『我が妻に代わり、陛下をお迎えにあがりました。

 

どうか先代皇帝陛下の忘れ形見で有らせられるセレーネ様をお救い下さい。

 

それが出来るのはフィリップ王の後継者である貴方しか成し得ぬ事。』

 

タジム

『やれるだけの事は尽くそう。』

 

タジムは短く答えるだけに留めた。

 

勿論警戒も有ったが、彼自身には何とも言えぬ違和感が有ったのだ。

 

タジム

(少なくとも我らは敵同士の筈だが…どうも彼らから敵意を感じない。

 

ひょっとして…)

 

そう考えた瞬間一瞬の目眩がタジムを襲った。

 

それは他者からは気づきにくいまさに一瞬の事であった。

 

タジム

(成る程…そうなのだな…。)

 

目眩から立ち直ったタジムは一人得心を得たが、それはマリエンブルク公カタリナ本人の口から明かされるまでは自身は黙っておこうと心に決めた。

 

数時間でジョアンナ号はマリエンブルクに入港し、一行はラザハンからの観光客に扮して首都マリエンブルクの中心に建てられた城に向かった。

 

大広間に通された一行は玉座に座るカタリナと扉の中間に立たされた瞬間左右一列に並んだ衛兵に組み伏せられた。

 

カムイ

『…やはり罠だったか、ここで始末するつもりか?』

 

ヤ・シュトラ

『どうかしらね、それであれば逃げ場のない船の中でやる方が確実だと思うけど。』

 

その中でタジムは一人だけ両腕を掴まれ、跪かされた。

 

タジムの前に歩み寄ってくるカタリナの見た目は歳は四十五そこらであろうが、見た目はそれより十引いた位であった。

 

意志の強さと女性らしい顔をした女性であった。

 

カタリナはタジムの顔を両手で持つと眼をマジマジと見た。

 

タジムの両の目が翡翠色の眼である事を確認したかと思うと、彼女は手を払い、衛兵達は一行を放し元の一列に並ぶと最敬礼し、今度は逆にカタリナ自身がタジムの前に跪いた。

 

カタリナ

『陛下…ご無礼をどうかお許し下さい。

 

私はカタリナ・フォン・マリエンブルクと申します…。』

 

タジム

『レディ・カタリナ、此度の件はボリス・ドートブリンガーに恩を売る為か?

 

それとも25年前より変わらず先帝陛下への忠誠心故か?』

 

賢人達は互いの顔を見やり首を傾げ、カムイやカルカソンヌ公も得心が行かぬと言った表情を浮かべたが、カタリナはフッと笑うと、答えた。

 

カタリナ

『後者に御座います陛下。

 

陛下が光の加護を受けておられると言うのは本当の様ですね。

 

25年前のあの日を見たのですね?』

 

カムイ

『一体どういう…?

 

先日、我らも殿下の過去視をみたがその様な描写は無かった筈だ。』

 

タジムは、あの時裏切ったルーンファング十二公爵は8人、つまり残り四人は加担せず亡き皇帝のために戦っていた。

 

残った四人は父王フィリップにより、殉死を禁じられ、反攻の時が来たるその日まで敵方に降り、再起の時を待つ様に言われていた事を過去視で見たと皆に伝えた。

 

タジム

『卿らが知らないのは無理はない。

 

先帝陛下の崩御でゴタゴタしている間に父は秘密通信を他の四人に送ったんだ。

 

情報が漏れれば4人の身に危険が迫るかも知れないからな。

 

だから秘密にしたんだ。』

 

カムイ

『ですが、今も先帝陛下への忠誠心があるという証拠にはなりませぬ‼︎

 

もしその忠誠心があるのなら』

 

とカムイが言い掛けたがタジムは手を出して止めさせた。

 

するとカタリナは玉座に戻ると肘掛けの下に隠された仕掛けを押すと、肘掛けの一部が開き、そこから銀色の十字型の首飾りを取り出した。

 

カタリナ

『聖銀十字勲章、大神シグマーの加護を受けしアルトドルフ皇帝のみが我ら十二の公爵に賜らせる事の出来る聖なる勲章、不貞にもボリス・ドートブリンガーとその一党はこの勲章を炉に放り込むという蛮行に及んだが、我ら四人はこれを捨てるなどみずからの命を棄てる事と同義!』

 

そしてそう言ったかと思ったら今度は自身の首飾りを引きちぎった。

 

それは金色の狼の頭を模した首飾りであった。

 

カタリナ

『そしてあの男は一党と仕方なく与した我らにこの不届きにも皇帝以外が使用を禁じられている金の細工をあろう事か帝国の象徴である鷲獅子では無く狼を模した物で作り、それを我らにつけろと手渡した。

 

えぇ…つけましたとも我が身、我が民…そして我が子の為に。

 

この恥辱も全て今日この日の為に‼︎』

 

カタリナは金の狼の首飾りを夫であるボーアンに向かって投げると夫は剣を抜刀しその首飾りを真っ二つに切り裂いてしまった。

 

ボーアンはそれを拾い、口笛で従僕を呼ぶと、首飾りとしてはもう使い物にならないが腐っても金は金だから換金して、ジョアンナ号の貸し出し代と報酬とは別に船員達への手数料として彼らが帰る前に渡してやれと言いつけてそれを渡した。

 

タジム

『分かった、これ以上はそのドレスすらも引き裂きかねないからもう結構だ。

 

して他の三名も貴女と同じ志かな?』

 

カタリナ

『はい、然しながら、残り3人の領地、ソルランド、ディッターズ・ランド、ノルドランドはそれぞれ選帝諸侯連合の支配地に挟まれており、今直ぐの帰順は求められません。

 

あの御三方を味方につける方法はまたの機会に致しましょう。』

 

タジムは頷くと後ろにいる義父と大司教に振り返ると、二名もこれ以上は言う事無しと頷いたのでタジムはカタリナに本題を切り出した。

 

タジム

『して、どの様にしてセレーネ様をお救い致すので残り三日…いやもう二日で。』

 

カタリナは微笑むと一行をとある一室に連れて行った。

 

するとそこには従僕とメイドが所狭しと整列していた。

 

召使い達

『お客様ようこそおいで下さいました‼︎』

 

アルフィノ

『凄い数の執事やメイド達だ。

 

ブレトニアの王城にもこんなに居なかったのに、失礼ですがレディ・カタリナ、貴女は公爵の爵位の他に何か帝室より拝命されているのでしょうか?』

 

カタリナ

『賢人殿、私は、いえ、マリエンブルク家は代々帝国よりライクランド帝国家内の職を任じられております。

 

元商人として帝国の財と、皇帝陛下を始めとした皇室の方々の身の回りのお世話をするのが本来の私の役目、故に我が家は公爵家の中でも唯一執事、メイドの養成資格を持っているのです。

 

帝国広しいえど私ほど執事、メイドを従えている所は有りませんわ。』

 

カルカソンヌ公

『読めてきましたよマリエンブルク公。

 

陛下を始めとした皆様に式の当日マリエンブルクからの派遣された執事、メイドの増員に紛れこませ潜入させるつもりなのですね?』

 

アルフィノ・アリゼー

『ええっ⁉︎』

 

カタリナ

『ふふふ、彼奴は帝室の礼法、そもそも我が帝国の歴史作法そのものも気に入らない様ですが、民草にこの婚儀が正当なものであり、自身こそ新たな皇帝であると示す為には、旧来の伝統的な方法、つまり慣習に則って式を執り行わなければならない、慣習に則ると婚儀の際の一切の雑務を取り仕切る事を我がマリエンブルク家に一任されます、当然その人選も。』

 

カルカソンヌ公

『帝国家令に対しこの事で口を出せば選帝諸侯は兎も角その配下の所領を持つ貴族や有力者からの反感を買う。

 

それは奴の望むところではないと。』

 

カタリナ

『どこまで行っても彼奴は簒奪者でしかない、だからこそ外聞を良くしなければならない、自身に因果が回らないように。』

 

何か含みを帯びた一言を発したカタリナは何人かの執事とメイドを呼び寄せると賢人達とタジムに従者としてのある程度の知識と技能を授けるように指示を出した。

 

その間、カムイとカルカソンヌ公は若い者達に混じって従者をやるには流石に老けているし、顔も知れていることからカタリナが別で用意した潜入経路の説明を受けていた。

 

カルカソンヌ公

『そうですか、まだ帝都の地下通路は健在ですか。』

 

カタリナ

『皇宮内礼拝堂へつながる地下通路、私も眉唾と思っておりましたが噂は本当だったようです、お二方は潜入する陛下達が脱出出来るようにその地下通路より這い出て暴れ回って頂きたい。

 

それに合わせて私と夫、そして同時に潜り込ませた特殊部隊が蜂起し、脱出を援護します。』

 

カムイ

『皇宮内で大立ち回りか…血が騒ぐな。』

 

カタリナ

『逃亡に関しては我ら大人が礼拝堂上に設けてある装飾用ワイヤーにグラップルを使って窓から逃走、この際に幻覚魔法で姫殿下を作り、カムイ卿に担いでいただきたい。』

 

カムイ

『む?

 

では本物の姫殿下は?』

 

カタリナ

『殿下達と逃走していただきます。

 

ご安心下さい、その為に皇居内に我が方の手勢や協力者を用意しました。』

 

すると扉の音がしたので三人が振り返るとタジムニウスが立っていた。

 

タジム

『その辺はカタリナを信じよう。

 

もし裏切るのなら私ではなく、自身の手元に姫殿下がおわした方が都合が良い。』

 

カタリナ

『はい、それでも御用心下さい。

 

味方は増やして参りましたが他の選帝諸侯やドートブリンガーの手先も皇居内には大勢おりますし、何より…。』

 

カルカソンヌ公

『何を隠しているのです、カタリナ?』

 

カタリナは少し間を開け、心配そうな表情を浮かべて、続きを話した。

 

カタリナ

『実はボリス・ドートブリンガーには四年前より養子がおるのですが…その養子になった男はめっぽう武勇、兵学に通じた男でして、歳もまだ二十代後半なのですが、既にミドンランド軍将軍を拝命している者が居るのです。

 

その者も皇居内に、名は…通称しか知らないのですが黒仮面卿と呼ばれている男です。

 

おそらく陛下達が逃走するに当たって彼が一番の鬼門かと。』

 

タジム

『腕の良い戦士と見える…まぁそれは置いておいて、私を呼んだそうだなカタリナ?』

 

カタリナ

『ええ、実は折り入って相談が、皆様どうか近くに…』

 

こうして国王と公爵達が陰謀話をしている間に賢人達は使用人の仕事と作法を覚えていった。

 

アリゼー

『使用人の仕事は屋敷で見たことあるけどやっぱり落ち着かないわ、この格好。』

 

アルフィノ

『ここ最近は自分の身の回りの事は自分でする様にしてきて、他にも色んな事を学んで来たけど、これはこれで得るものがあるね。

 

執事長達の苦労が分かった気がするよ。』

 

メイド長

『御三方、飲み込みが早くて助かりますわ。

 

いっそここのお城で働きませんこと?』

 

朗らかなメイド長に賞賛されていると、話し合いが終わったのかタジムニウス達が戻ってきた。

 

カタリナ

『いけませんよ、メイド長。

 

そちらの方々は本来で有れば、帝国のお客様です。

 

お客様にその様な事はさせられませんよ。』

 

メイド長

『これは…口が過ぎましたわ。

 

失礼しました、お客様、公爵様。』

 

カタリナ

『メイド長、貴方が認めるので有れば、賢人の方々は、もう十分ですね。』

 

メイド長

『皆様、筋が良くてとても安心しましたわ。

 

こちらの双子さんは、若いから少し心配でしたが、飲み込みも早く、上流階級のお生まれという事もあって、上達が早かったのですよ。

 

そちらのミコッテ族の女性の方も大人の落ち着きもあり、初めてとは思えませんでした。』

 

カタリナ

『準備は万端。

 

陛下、後は時が来るのを待つばかりですわ。』

 

タジムニウス

『大博打だが、悪くないな。』

 

タジムニウス一世一代の大博打(尚、後に何度も彼は大博打と銘打って行動する事になるので一世一代でもなんでも無くなる。)が今始まろうとしていた。

 

______________________

帝都アルトドルフ皇宮…

 

帝都アルトドルフ皇宮の大広間には多数の文官武官が整列していた。

 

彼らは皆、皇帝を裏切る事を良しとした者、巻き込まれた者、致し方無く恭順した者、様々な人となりを持つ連中である。

 

彼らは今か今かとある人物を待っていた。

 

使用人

『皆々様、お待たせ致しました。

 

我が選帝諸侯連合盟主、ボリス・ドートブリンガー四世閣下御入来で有ります‼︎』

 

居並ぶ武官文官全員が敬礼した。

 

その先にいるのは歳は60を過ぎた頃だろうか、それでも尚強健な体つきをした老戦士であった。

 

帝国伝統の鎧をつけ、山賊のような髭を生やし、左の目には眼帯をつけていた。

 

この男こそ、ミドンランド公爵にして、皇帝を裏切り、自身の覇権を確立したボリス・ドートブリンガー四世その人で有った。

 

ボリス

『皆、楽にせよ。』

 

文官、武官は元の姿勢に戻った。

 

髭を撫でながらいかにも大貴族と言わんばかりの装束に身を包んだナルンランド公爵がボリスに尋ねた。

 

ナルンランド公

『して、盟主殿。

 

此度の参集は明後日のご婚儀についてですかな?』

 

ボリス

『左様、ナルンランド公殿。

 

だが、婚儀とは名ばかり、皆の者、あの女は魔女だ‼︎

 

得体の知れぬ力を振りかざし、今まで多くの王や皇帝に甘言を与え、堕落させてきた泉の聖女なる魔女の生まれ変わりだ。

 

そしてよりにもよってあの女は我ら帝国を弱体化し、我ら選帝侯を蔑ろにしたカール・フランツの血の者だ‼︎』

 

諸侯たちはそうだそうだと頷き一時のどよめきが大広間を包んだ。

 

ボリス

『我らは皆が同等の立場にあった筈だ!

 

我らはそれぞれの意思によって皇帝を選ぶはずだった、だがあのカール・フランツが皇帝になり、その器量を危惧した我が先祖が軍を起こし、敗れた時、奴は事もあろうか選帝侯制を事実上廃し、我らは名だけの選帝侯になった。

 

そして南方の裏切り者、傲慢な劣等民族であるブレトニア人との間に自らの息子と奴らの娘で子を生まれさせ統一王朝なるものまで作り上げた‼︎

 

これは我らに対する裏切りである、彼奴等によって諸君らの先祖は誑かされた、そしてその裏で糸を引くは泉の聖女だ‼︎』

 

貴族

『そうだー‼︎』

 

貴族

『裏切り者のアルトドルフ家の血筋を絶やせ‼︎』

 

ボリス

『だが、皇帝と癒着してきたシグマー教団とそれに従う蒙昧な民衆は皇帝たる者はアルトドルフ家の血の者だけだと妄信し、我らに常に反抗してきた。

 

力で抑えるは容易いが、我ら帝国の真の力を取り戻す為には癪だが彼奴等の力を借りねばならぬ、よって今回の婚儀を行う。

 

あの女がただの女であったなら身包みを剥ぎ、帝都の広場に放っておったわ。

 

子供を産む為に育てられた身体よ、さぞ滾るであろうな。』

 

ボリスの言葉に貴族達は大笑いであった。

 

良い見せ物だとか、好き者になったら金で買ってやろうかとか馬や豚と交わらせてやろうなど言いたい放題であった。

 

ボリス

『まぁそれよりもワシは式の直後、女をガレマール人が建てたかの塔に幽閉し、その身が塵と化すまで幽閉する事に決めた、遂に終わるのだ!

 

虚弱なアルトドルフ家の統治が‼︎‼︎

 

卑しきシグマーの血が‼︎

 

この偉大な国を治めるに相応しいのは我ら高貴な血族のみ、何処の馬の骨か知らぬ鍛冶屋などでは無い‼︎

 

現に皇帝の証たるガール・マラッツは我が手に収まっている‼︎』

 

そういうとボリスは佩いていた金色の戦鎚を引き抜くと高々と掲げた。

 

貴族達の興奮は最高潮に達していた。

 

ボリス

『老いた鷲獅子ではなく、諸君と諸君らの推挙と明断によって選ばれた私によって輝く黄金の狼がこの帝国の玉座に君臨するのだ‼︎』

 

貴族

『ボリス・ドートブリンガー陛下万歳ー‼︎』

 

貴族

『銀と黄金の狼に加護あれー‼︎』

 

ボリス

『だが、これは始まりに過ぎん。

 

手始めにあの忌々しい馬飼(ブレトニア人の蔑称)共の国を滅ぼし、次に東方の猿共(東方にすむ人々の蔑称)、そして西方の劣等種ども(エオルゼア及びその他西方諸国に住む人々の蔑称)を征伐し真のヒューラン覇権統一国家を作るのだ‼︎‼︎』

 

貴族達の雄叫びが皇宮を震えさせている中、その塔の一角に作られた牢屋でただ一人、主の名を唱え、祈る娘がいた…。

 

『主よ…大神シグマーよ、我らを赦し給え…我らに闇を退ける勇気を与え給え…そして今一度、戦鎚を手に再び我らの前に現れ、光の軍勢を率い給え…我らに愛と勇気を示し給え…。』

 

その娘は歳は28程、長い金髪に良く整った顔つき、片目が翡翠、もう片目はサファイア色に輝き、白き装束を身に纏っていた。

 

女神と見間違うこの娘こそ、当代の泉の聖女にしてアルトドルフ帝国最後の皇帝ジギスムントの一人娘セレーネ・フォン・アルトドルフであった。

 

『そんな祈りなど全く意味のない事だ。』

 

くぐもった、恐怖を覚える声が彼女の祈りを止めた。

 

その男は全身を黒に統一した鎧とマントを身につけ、黒い仮面いやマスクだろうかとにかく頭を完全に覆うヘルメットを身につけた騎士であった。

 

セレーネ

『貴方になど指図される覚えはありません黒仮面卿!』

 

黒仮面卿

『貴様の運命は決まっている、いくら祈ろうとな。

 

貴様は帝位を奪われ、その力を使いこなせぬままあの得体の知れぬ塔に閉じ込められ、永遠に糧とされるのだ。』

 

セレーネ

『あの穢らわしい男に純潔を奪われる位ならそれで結構‼︎

 

それに永遠とは限らない、あのお方が戻られたのは知っています。

 

ブレトニア王の力を舐めないことね、彼らは常に信念と正義を為してきた。

 

今回もそうなるわ‼︎』

 

そう言い終わった瞬間黒仮面卿は格子を掴み、叫んだ。

 

黒仮面卿

『ならば俺より領地と父と兄を奪ったのも正義の為か‼︎‼︎

 

ブレトニアの貴族が正義など持って居るわけなど無い‼︎‼︎

 

自己中心的で排他的、嗜虐的で疑心暗鬼に満ちた醜い生き物だ‼︎‼

 

身内ですら手に掛ける‼︎︎』

 

セレーネ

『貴方の怒りは誰にも届かない。

 

その怒りをぶつける前に貴方はかの王にランスを突き立てられるのでしょうね。』

 

黒仮面卿

『誓ってそうはならん。

 

そのブレトニア王になった冒険者とやらの首を斬り落としてここに持って来てやる。』

 

二人は罵り合ったが、この男女の手は強く絡み合っていた…。

 

そして式の翌日を迎えた。

 

帝都に住まう人々の表情は皆取り繕った笑顔であった。

 

もはや希望は絶たれたと自棄を起こし酒を呷る男、自身の信仰が認められない事を悟った故に聖書に火を掛ける女。

 

悲惨な状態であるのに帝都は慌しい。

 

皇宮ではカタリナが方々に指図していた。

 

カタリナ

『礼拝堂の蝋燭は全て交換です。

 

ディナーと紅茶、ワインの用意は後、皇宮内の埃をひとつ残らず拭き取るのですよ。』

 

アリゼー

『こんなに大きな城の掃除なんて生きてきてかつてない激務だわ。』

 

アリゼーは息を切らしながらモップで廊下を拭きながら漏らした。

 

ヤ・シュトラ

『あまり声は出さない方がいいわね。

 

ここには誰が味方か分からない人達が大勢居るのだから。』

 

アリゼー

『そう言えばタジムは何処に行ったのかしら、アルフィノ達の話だと逸れちゃったって言ってたけど。』

 

そんな慌しい皇宮を他所に、そこから遥か下では薄暗い地下道を歩く男達がいた。

 

カルカソンヌ公

『最後にここに来たのはもう随分前ですが、いつも思いますよ。

 

なんて酷い匂い‼︎』

 

カムイ

『帝都奪還の暁にはここは整備致しましょう。

 

ゲホッ‼︎エホッ‼︎全く大人は辛いですな猊下‼︎』

 

そしてやがて日は落ち、夕暮れ時になった。

 

礼装に身を包み、同じように怪しげな衣装に身を包んだ騎士達を従えたボリスが地下の一室に入るとそこには美しい純白のウェディングドレスに身を包んだセレーネが立っていた。

 

然しその目には光無く、口も閉し、正に人形の様な有様であった。

 

ボリス

『もし、貴様に土壇場で暴れられでもしたら此方もただでは済まぬからな。

 

安心しろ、今貴様は表情ひとつ作れぬが内心は憎悪で煮えたぎっておろうがもう少しでそれすらも感じぬ永遠の虚無をくれてやる。

 

貴様の希望はとうに潰えて居る、来いセレーネ。』

 

セレーネはボリスと並んで歩き、その後ろを騎士達が剣を上に構えながら従う。

 

それに合わせてパイプオルガンでの演奏が始まった。

 

長い地下道を歩き、遂に礼拝堂に着くと、騎士達は剣の刃を下に向けて十字を作る。

 

礼拝堂のシグマー像の前に二人が着くと、そこに居た司教が儀式を始めた。

 

司教

『古より続きしシグマーの血ライクランド・アルトドルフ家の証とドートブリンガー家の証をここへ…。』

 

すると騎士たちと同じ格好をした男がクッションに両家の紋章、金色の鷲獅子と銀色の狼が象られた指輪を乗せて司教の前に立つ。

 

司教は頷くと続けた。

 

司教

『戦時下の特例に従い双方の合意と指輪を交わす事で婚姻の儀とする。

 

新郎の合意は済んでおる、セレーネ・フォン・アルトドルフよ、この婚姻に異議はないか?

 

無くば沈黙を以って答えよ。』

 

セレーネは口を閉ざしたままであった。

 

司教は頷くと十字を切った。

 

司教

『大神シグマーの祝福があらん事を。』

 

と言い終わった瞬間であった。

 

『異議あり!』

 

その声にこの場にいた全員がどよめいた。

 

辺りを見回すが誰が言ったのか見当もつかない。

 

?

『この婚礼は穢れに満ちて居るぞ。』

 

その瞬間シグマー像は切れて落ちて来た。

 

司教はセレーネを庇いながらその場から避け、近くにいた人々も悲鳴を上げながらその場から逃げた。

 

露になった地下道の入り口から埃と異臭が噴き出し、蝋燭はほとんどが消え、一気に礼拝堂は薄暗くなり、そこから三人の男が出てきた。

 

一人は古い聖杯教の戦士の格好をしたカルカソンヌ公、一人は血濡れになった金の鎧をつけたカムイ、そしてもう一人は更に血まみれになった鎧を身につけ、頭は包帯で巻かれた一人の騎士であった。

 

だがその声の主はタジムニウスであった。

 

これには変装していた仲間達も驚愕であった。

 

タジムらしき男は続ける。

 

タジムニウス?

『父を始めとした25年前の死者達を代表して参上した。

 

花嫁を頂こう。』

 

ボリス

『奴と同じ声…貴様がフィリップ9世の小倅か⁉︎』

 

騎士達がボリスとセレーネ達の前に立ち塞がる。

 

タジムニウス?

『そうだ、ボリス・ドートブリンガー4世。

 

ブレトニア王国の王として、貴様に剣を突き立てる事が出来ねば先祖に合わせる顔など有りはせぬ。』

 

司教はこの不気味な騎士に怯えた。

 

司教

『おお、公爵様彼奴等は生者では有りませぬぞ、これはもはや祟りですぞ。

 

ここは式は取りやめ、彼らの御霊を慰める事に致しましょう。』

 

ボリス

『下がっておれクソ坊主よい余興だ‼︎』

 

タジムニウス?

『貴様の罪は幾ら正当化しても消えぬぞ。

 

我々は覚えている。

 

貴様の罪を、我らは決して忘れぬ。

 

…殿下、セレーネ殿下。

 

成る程、口を利けなくしたか。

 

薬を飲ませてまで、姫殿下を貴様の野望の贄とするつもりか?』

 

ボリス

『貴様の減らず口もここまでよ、我らのもてなしを受けるが良い、やれい‼︎』

 

騎士達は一斉に襲い掛かる、カルカソンヌ公とカムイはサッと横に躱すも、タジムニウスは騎士達に数本の剣を突き刺されそのまま高く掲げられ晒された。

 

仲間達は突然の事に絶句し、その衝撃はセレーネの沈黙を破った。

 

セレーネ

『イヤアアアアアアアアアアアアアア‼︎‼︎‼︎‼︎』

 

セレーネは両手で顔を覆い泣き出した。

 

司教も見てはなりませぬと衣で遮り、ボリスの高笑いが礼拝堂に響く。

 

ボリス

『亡霊の息子は死んだ、そこの死に損ないの猿の子孫と坊主も殺せ。』

 

騎士達はカムイ達を囲み、カムイとカルカソンヌも刀と杖と戦鎚を構え、背中合わせになった。

 

泣くセレーネに司教は耳元で囁いた。

 

然しその声は老人の声では無かった。

 

司教?

『セレーネ。

 

泣いてはいけませんよセレーネ。』

 

その声にセレーネはハッとする。

 

そしてタジムニウスの死体からはまだ声がするのだ。

 

タジムニウス?

『今そっちに行くよ。』

 

その瞬間死体は爆発し、血と臓物が出るかと思ったらなんと首以外は風船で中から様々な国の通貨として使われる紙幣と紙吹雪が舞い、ボリスの足元に落ちた首はなんと機械だった。

 

そしてタジムニウスの高笑いが響いていた。

 

タジムニウス

『気に入ったかな公爵殿?

 

俺からのプレゼント、最高のショーとこの茶番劇じみた結婚式に似合いの香典もくれてやるからありがたくもらっとけ。』

 

ボリスは偽タジムニウスの首を踏み潰すと吠えた。

 

ボリス

『奴はまだ何処かに居る‼︎

 

見つけ出し次第始末しろ‼︎

 

それとこの中に入る為に手引きした奴も居るはずだ、其奴も探し出せ‼︎‼︎』

 

騎士

『はっ‼︎』

 

と言い終わったくらいだろうか両家の紋章を象られた指輪を持っていた騎士がアッと叫んだ。

 

皆が振り返ると指輪は無くなっており、なんと司教がニヤけながら指輪を掴んでいた。

 

司教(?)

『因みにこれはショーの観賞代で貰っていくので悪しからず。』

 

ボリス

『貴様、その声は!』

 

司教は己の髭を掴み毟り取った。

 

するとどうしたことだ。

 

老人の顔が歪み、霞のように消えてしまい、現れたのは若い男の顔、その両目には翡翠が輝いていた。

 

そう、タジムニウスの変装だったのだ。

 

仲間達にも明かさず彼と彼の臣下達が秘密裏に用意した偽装だったのだ。

 

タジムニウス

『こんばんわ公爵。

 

姫殿下をお返しして頂きたく参上した。』

 

セレーネはタジムニウスに抱きついた。

 

セレーネ

『タジムニウス‼︎

 

嗚呼…会いたかった。

 

あの時の赤ちゃんがこんなに立派に。』

 

タジムニウス

『遅れて申し訳ありません殿下、もう安心ですぞ。』

 

ボリス

『貴様を招いた覚えは無いぞ、馬追いの小僧が。』

 

タジムニウス

『まぁ、そう仰らずに。

 

パーティーとは大人数でやったほうがいいと言うじゃ無いか?』

 

そういうとタジムニウスは司教の礼装を広げるとなんと中には既に火がついたロケット花火が括り付けられていて更にそれが一斉に飛び出したものだから礼拝堂はパニックになった。

 

それに合わせて蝋燭の中に仕込んであったフラッシュ・グレネードまで起爆し、警護の騎士や衛兵達も無力化されてしまった。

 

そこに熟練の騎士でもあるカムイとカルカソンヌ公が襲い掛かる。

 

カムイ

『武式剣術一刀流鉄櫛‼︎』

 

カムイは刀を引き抜くと、大きく横に斬り払い騎士達を斬り伏せる。

 

カルカソンヌ

『lite of Shock‼︎(光の衝撃)』

 

カルカソンヌ公は杖に光魔法を溜めるとそのまま騎士に叩きつける。

 

更に変装していた賢人達も姿を現すと暴れ出し、オマケにいつ解放していたのか、皇宮に囚われていた政治犯達も武器を持って礼拝堂に雪崩れ込んできた。

 

この事態に貴族達もある人物の関与を疑わずには居られなかった。

 

ここ迄の数日間で全てをお膳立て出来るのはただ一人しか居ないからだ。

 

貴族

『マリエンブルク公‼︎

 

これはどう言う事ですか‼︎』

 

貴族

『聞くまでもない裏切りであろう!』

 

貴族が剣を引き抜くとマリエンブルクに斬り掛かるが、剣に彼女が着ていたドレスが引っ掛っているだけだった。

 

そして次の瞬間にはこの二人の貴族はガンブレードに斬りつけられて倒されてしまった。

 

ドレスを脱いだ彼女は赤のコートに白のズボンに黒の長靴というライクランド帝国伝統の軍服に身を包んでいた。

 

そして彼女はトライコーン帽を被り答える。

 

カタリナ

『私ははなから戦をする為に来ている。

 

勝つ為ならなんでも致しますわ。』

 

カタリナは殺気を感じ取りガンブレードで受け身を取る。

 

ボリスはカタリナに斬りかかり、剣と銃剣がぶつかり合う。

 

ボリス

『マリエンブルクの詐欺師‼︎

 

やはり貴様が裏切り者だったかこのアバズレの女狐めが‼︎』

 

カタリナ

『その言葉は褒め言葉として受け取ろう‼︎

 

皇帝陛下より禄を賜りながら仇で返し、我らの正当な主君の後継者であらせられたセレーネ姫殿下に対し不敬を働いた貴様から裏切り者とは痛み入る‼︎』

 

カタリナは押し返し、ボリスが離れた所にすかさず銃弾を二発放つも二発ともボリスに切り払われてしまう。

 

カタリナはスモークグレネードを投げ、視界を遮るとタジムニウスを呼んだ。

 

カタリナ

『陛下‼︎

 

撤収です‼︎』

 

タジムニウス

『相分かった‼︎

 

セレーネ様を頼む‼︎』

 

スモークが晴れるとカタリナがセレーネを抱き寄せ、カムイとカルカソンヌ公と共にワイヤーにフックを引っ掛けて逃げる姿があった。

 

ボリス

『追え‼︎

 

決して逃すな、奴らは城門近くの塔まで逃げるつもりだ‼︎』

 

騎士

『閣下。

 

タジムニウス・レオンクールを名乗る男とその仲間と見られるもの者達数名の姿も有りません。』

 

ボリスは礼拝堂を見回すが確かにその姿は無く、衛兵と騎士達が囚人達と斬り結ぶ様子しか無かった。

 

すると別の騎士が報告してきた。

 

騎士

『閣下。

 

小型飛行艇発着場の方に向かう彼奴等を発見いたしました。

 

セレーネ殿下も一緒だと。』

 

ナルン公

『何だと⁉︎

 

ではどちらかが偽物⁉︎』

 

ボリス

『どちらも捕らえれば分かる事‼︎

 

黒仮面卿はどうした‼︎』

 

______________________

アルトドルフ皇宮内

 

タジムニウスは笑いながらセレーネを抱えながら走っていた。

 

仲間達は複雑な表情であった。

 

タジムニウス

『やってやったぞ‼︎

 

見たかあのボリスの面‼︎』

 

アリゼー

『あの人あんなのいつ用意したのよ。』

 

アルフィノ

『こっそり用意してた見たいだけど…まぁ、成功したから良いんじゃないかな。』

 

ヤ・シュトラ

『あまりおしゃべりをしている暇は無くてよ。

 

追手が来たわ。』

 

するとグ・ラハが立ち止まり魔力の塊で弓を作り上げた。

 

グ・ラハ

『ここはオレが‼︎』

 

放った三本の矢は命中し追手達は倒れる。

 

すると今度は前から騎士達が抜刀して走ってくる。

 

タジムニウス

『セレーネ様申し訳ありませんが、ここからご自分で走っていただきますが宜しいですか?』

 

タジムニウスは彼女を下ろしながら言うとセレーネはウェディングドレスの下の裾を破り捨て、走り易くした。

 

セレーネ

『此処から逃げられるなら何でも致しますわ。』

 

タジムニウスは笑うと大剣ライオンハートからクーロンヌの剣を引き抜く。

 

タジムニウス

『良い覚悟です。』

 

タジムニウスは瞬く間に二人の騎士を斬り伏せ、懐から取り出した拳銃でもう一人を撃ち殺すと先をすすむ。

 

アルフィノ

『此処だ‼︎

 

此処に飛行艇が泊まってる。』

 

タジムニウス

『アルフィノ‼︎

 

小型武装船を奪うんだ。

 

追手が来たら追い払える様に‼︎』

 

 

アリゼー

『操縦はだれが?』

 

グ・ラハ

『クリスタルタワーに居た時にアラグの文明は粗方触った。

 

飛行艇の操縦は任せてくれ。』

 

皆が飛行艇に乗り込むがタジムニウスだけは乗り込まず来た道を見つめていた。

 

ヤ・シュトラ

『乗りなさいタジム。

 

もう行くわよ‼︎』

 

だが見つめる先に黒い騎士が居た。

 

その騎士は少し離れているヤ・シュトラ達も感じ取れるほど凄まじい闘気を発していた。

 

戦わねばならない。

 

そう何かが囁いているのを感じた。

 

そして件の真っ黒い装束と鎧を身につけた騎士が近づいてきた。

 

禍々しさが辺りを包むのを感じた…。

 

全員がだ。

 

セレーネはその禍々しさの正体を知っていた。

 

セレーネ

『彼だわ…。

 

タジムニウス、彼と戦っては駄目‼︎』

 

タジムニウス

『申し訳ありませんが殿下。

 

それは無理です。

 

このまま彼奴から逃れられる自信がとても有りませぬ。

 

それに向こうはやる気満々の様だ。』

 

黒仮面卿は大剣を引き抜くとタジムニウスもクーロンヌの剣を収め、今度は大剣ライオンハートを構える。

 

騎士の決闘を邪魔をしてはならない。

 

セレーネは止めても無駄だと察した。

 

彼女は助言をするにとどめる事にした。

 

セレーネ

『気をつけなさい、彼は復讐心に囚われてしまっています。

 

その荒々しさはとても危険です。』

 

するとセレーネはタジムニウスに自分の方に向く様に手招きすると、ライオンハートを差し出させた。

 

タジムニウスが従うと彼女はライオンハートに口付けをして、祝福した。

 

セレーネ

『王よ、絶対帰ってきて下さい。

 

私はもうこの国の皇女では無く、ましてや継承権を失い、聖女として覚醒してもまだその力も使いこなせない駄目な女だけど、貴方の無事を祈る事ぐらいは出来ます。』

 

タジムニウス

『貴女のその想いだけでも万金の価値がございましょう。

 

必ずや帰還いたします。

 

さぁ行って!

 

皆、殿下を頼むぞ‼︎』

 

アルフィノ

『貴方も気をつけてくれタジム!』

 

飛行艇がグ・ラハの操縦で飛んでいくが黒仮面卿はタジムニウスをじっと見て動かなかった。

 

タジムニウスはその様子を挑発する。

 

タジムニウス

『飛行艇にちょっかいを掛けるつもりなら止めるつもりだったが…俺から目を離さない辺り、あっちよりも俺の方が大事か。』

 

黒仮面卿は無言で立ち尽くしたままだ。

 

タジムは大剣を片手で持ち、突きつける。

 

タジム

『名乗れ、騎士としての名誉と誇りが少しでも有るのなら‼︎』

 

黒仮面卿

『名は捨てた。

 

貴様らブレトニア貴族に復讐するためにな!

 

騎士の誇りなど俺には必要ない‼︎』

 

両者は大剣を正眼に構えると、両者の得意な構えに構え直す、タジムニウスは下段、黒仮面卿は上段である。

 

両者の大剣が鉄の音を立ててぶつかるが双方そのまま構え直すだけに留めた。

 

だが次の瞬間両者の大剣は激しくぶつかり合った。

 

一歩も引かぬ2人の剣技は正に熟練の技であった。

 

横なぎ、縦斬り、袈裟斬り、様々な技を繰り返し数十合ぶつかっても双方は勝負はつかなかった。

 

タジム

『貴様の剣の腕は認めよう。

 

良い腕だ、だが剣が迷ってるぞ。』

 

タジムニウスは黒仮面卿と鍔迫り合いをしながらそう言い更に続けた。

 

タジム

『殺意の問題じゃない。

 

貴様の今の剣術を会得する前に手解きを受けた剣術の癖が染み付いて動きを阻害しているのだ。

 

言うなれば今貴様は『我とは何ぞや?』と自らの存在を認識出来なくなっている。

 

そのままで居ればやがてその矛盾を突かれて命を落とす。』

 

黒仮面卿

『貴様を殺すには十分だ‼︎』

 

タジム

『うおっ⁉︎』

 

黒仮面卿は凄まじい力でタジムニウスを押し返す。

 

流石のタジムニウスも体勢を崩すが、敵の剣を交わしながら後退して立て直す。

 

だが2人の決闘はここで終わる。

 

ボリスが兵士達を連れて現れ、更に飛空艇発着場からも兵士が現れ完全に囲まれてしまったのだ。

 

ボリス

『ここまでだなブレトニアの若造。』

 

タジム

『貴様がここにいると言う事は、大方他の連中には逃げられたか。』

 

ボリス

『貴様の首さえあれば問題無い。』

 

だが次の瞬間タジムニウスはエメラルド色の光に包まれ、光の中に消えてしまった。

 

ボリス

『なっ⁉︎』

 

貴族

『奴はどこだ⁉︎

 

何処に消えたのだ‼︎』

 

ただ1人、消えた仇に騒ぐ養父と貴族達を尻目に黒仮面卿はただ1人その場を去った。

 

たった今起こった現象に一人得心しながら。

 

黒仮面卿

(そうか、力に目覚めたか…。

 

やはり君が私の復讐を阻むか…。)

 

終  第七話へ続く

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