ファイナルファンタジー14 異譚 獅子の子タジムニウス 作:オラニエ公ジャン・バルジャン
ブレトニア兵
『申し上げます‼︎
マリエンブルクより援軍の到着です、シド・ナン・ガーロンド殿、アイアンロック公以下一万二千の兵を伴い参陣‼︎』
タジムニウス達は本陣を出ると、腕を組み誇らしげな表情を浮かべたシドとドワーフ族伝統の鎧を身につけ、斧を担いだアイアンロックの後ろで鬨の声をあげる、ドワーフ、ルガディン族を主力にしたオルカル山地の兵達が整列していた。
タジム
『シド、遂に出来たんだな!』
シド
『ああ、工房に連れられて初めて見た時は正気かと思ったが中々いいメカになったぜ。』
カルカソンヌ公
『ム、アイアンロック卿、貴方はオヴェリウス要塞攻略に向かったのでは無いのですか?』
アイアンロック卿
『そのつもりだったのですが、例の兵器の調整やら何やらで結局手が離せなくなりましてな、軍の方は二人に任せて、予備の兵と共に参上した次第です。
陛下からも必要であればコッチに来て手伝ってくれと前もって言われておりましてな。』
カルカソンヌ公
『そうなのですか陛下?』
タジム
『左様、この兵器は言ってしまえばある種の特攻兵器だ。
下手をすれば乗り手が生きて帰れないかも知れない、それを回避する為に開発者の理想を汲んで、堅実な仕事の出来るメカニックが前線にいた方が良いと思ったのさ。』
シドは兵達の背後にあるコンテナに触って、宙に現れた半透明の魔導端末を操作し始めた。
シド
『それじゃ、早速お披露目だ!』
コンテナが開き、中から鉄の音を響かせながら何かが出てきた。
それは帝国軍魔導アーマーコロッサスより一回り小さい鉄の巨人であった。
見た目はフルプレートを着込んだ騎士そのものだった。
騎士達が使うガンランスを大きくして、このサイズに合う様にしたものを持ち、腰には剣を佩き、その藍色と赤色で塗装した体は夕焼けに輝いていた。
シド
『ブレトニア式量産型有人魔導アーマー、アーマーナイト(以降AKと呼称)だ。
装甲圧8mmから24mmと薄いが、搭乗する胴体部は最新技術を応用した防御機構を採用してあるから装甲の割には頑丈だし、最新式の駆動機械を仕込んである。
脚部にはホイールと緊急ターン用のピックが仕込んである。
正しく受け止めるのではなく速さで躱すと言うのが本機の防御思想だ。
ガレマールの魔導アーマーの火力は桁外れな事が多い、まともな防御が出来る機体を量産機で作るのはハッキリ言って難しい。
ならそれよりも速く、更に火力は同等の機体を作れば対抗は出来るし量産に耐えるコストで収まるという事さ。
操縦機構はフットペダルを使用して移動等を管理する既存の物だが、武器使用を始めとした手足の駆動に関しては操縦端を廃止してこのグローブの様な脳波伝達機械に両手を入れる事で乗り手の思うままに動く仕様だ。
これで乗り手次第で化けるぞコイツは。』
タジムニウスはAKをマジマジと見つめていた。
その目はどこか少年の様であった。
タジム
『スピードと火力の為に装甲を犠牲にする、まぁそれしか手は無いな。
だが言ってしまえば騎兵よりはマシだな。
装甲騎兵、少なくともガレマールみたく出鱈目な数は用意出来なくてもこの鉄の悍馬は間違い無く活躍してくれる。』
タジムニウスは機体のボディを撫でながら続けた。
タジム
『この戦で恐らく半分は撃破されるだろう、だがこの鉄の棺桶がこの国を救うのだ。
今ここにあるのはパッと見、六十機か。
乗り手の騎士達の完熟は済んでるのか。』
シド
『ああ、バッチリだ。
快く志願した騎士六十人、ここに来るまで何度もシュミレートして来たが全員結果は良好だ。』
タジム
『上等だ、この戦が終わったら俺の分も作ってくれよ、俺仕様にチューンしてな。
兎に角、皆休んでくれ明日の戦が肝心だぞ。』
各々がそれぞれの天幕や陣に戻っていく中、カタリナがそっとタジムニウスに耳打ちして来た。
カタリナ
『陛下、選帝諸侯の寝返りに関してですが。』
タジム
『何か報告が有ったのか?』
カタリナ
『ハイ、ソルランド公、ノルドランド公の二名は快諾、元より皇帝陛下に対しての忠誠心の篤い人達でしたから…されど。』
タジム
『デイッターズ・ランド公の調略に失敗したか?』
カタリナ
『実は、デイッターズ・ランド公とその嫡子は式の数日前に死亡しているのですが、間者からの報告によると、これは暗殺で有る可能性が高いと報告が。』
タジム
『暗殺だと?』
タジムニウスは驚いて声を上げたが、カタリナは指を口元に出し、抑える様にと示したので素直に従った。
カタリナ
『間者によると、式の数日前、公爵と嫡男が食事をしていた所二人とも急に苦しみだし、そのまま倒れてしまったとの事、夫人の悲鳴で駆けつけた家人や侍医が手当てに当たったそうですが敢えなく亡くなられ、死因は二人とも生牡蠣を好んで食すらしくそれによる食中毒という事に。
結果デイッターズ・ランド公爵の請求権を持つ、甥のワルドー伯が跡を継いで公爵になったのですが…。』
タジム
『まさかそのワルドー伯なる奴が犯人ではないか言うのか?』
カタリナ
『はい、しかもワルドー伯はボリス・ドートブリンガーととても親しく、事あるごとにデイッターズ・ランド公と揉め事を起こして居たとか。
そしてその牡蠣はミドンランド産で水路を通って、ワルドー伯の領地で陸揚げされるそうです。』
タジムニウスは溜息をついた。
タジム
『私が欲しいのは身内殺しの俗物では無く、その配下にいる軍勢だが、そう有ってはもう調略は出来まい。』
カタリナ
『いえ、まだ諦めるには早いかと存じます。』
カタリナはタジムニウスに一枚の手紙を渡した。
タジムニウス
『これは?』
カタリナ
『死亡したと聞いた私が直ぐに差し向けた間者が入手したデイッターズ・ランド公の遺言状です。』
タジムニウスが驚いた事は言うまでも無い。
しっかりデイッターズ・ランド公の紋章が打たれ、しかもどうやら最近認めた物なのか、インクの匂いがまだ手紙に残っていた。
タジムニウスは一通り中身を読んだ。
内容を掻い摘むと、恐らく自分は再び生きて亡き皇帝陛下に対して奉公する事は出来ないだろう。
愚かな甥は全く大した事ないが、その裏にいる恐ろしい男の謀略の手から逃れる事は自分には出来ない。
他の選帝諸侯に助けを求めれば謀叛がバレてしまうからそれも出来ない。
願わくば我が子息の命だけは長らえて欲しい物だがそれも叶わなかった時は自身の配下に居るレマーと言う若い将校に跡を託す。
と言う物で有った。
タジムニウスは手紙を元の封に戻すと亭主と息子を一片に無くした夫人のために三十エキュ(1エキュ百万ギル)の手形を従僕に持って来させるとそれを署名して中に入れるとカタリナに返した。
タジムニウス
『これを間者を通してレマーに渡してくれ。
レマーの手からなら夫人も受け取ると思う。』
カタリナ
『夫人に遺書をお返しになるのは分かりますが、この手形は一体何でございます?』
タジムニウス
『読んで見て分かったがデイッターズ・ランド公は死を覚悟した上でこの手紙を残した。
ボリス・ドートブリンガーを打ち倒す者つまり、私が戦に勝つために助言をしてくれたんだ。
これだけでも充分亡き皇帝陛下に奉公したと私は考える。
皇帝が払えないなら王が褒美を払う、何もおかしい事はない。
勿論こんなものは夫人にとって意味を無さない物になるだろうし、事と場合によっては侮辱に捉えるかも知れない。
だけど少なくともこの戦争の戦火を逃れる為の軍資金ぐらいにはなると思ってくれればそれでいい。』
カタリナはタジムニウスの人の良いと言うか高潔さの押し売りと言うかお節介と言うかひどい自惚れと言うべきかこの不思議な行いに大して何も言わなかったが、少なくともタジムニウスは死者や遺族を憐れむことのできる人間だと言うことが分かっただけでも良しとしようと納得し、調略はお任せ下さいと言って下がっていった。
タジムニウスは一人になると主計兵にボルドロー産の葡萄酒の瓶を一瓶だけ貰うと自分の天幕でグラスに開けながら物思いに耽っていた。
タジムニウス
(あの例の黒い騎士の事がどうも引っかかるな。
セレーネ様がお目覚めになればお話しして戴く事も出来るがそうも行かん。
カルカソンヌ公にでも調べさせよう。
神職の身で有りながらブレトニア王国に謀略に於いてこの人ありと言われた坊様だ。
今はカタリナおばさまがその仕事をしているから暇がある筈だし、ブレトニア貴族の揉め事なれば裏の事情を何かしらの手段で調べる事も、ひょっとすれば何か事情を知っているかもしれないからな。)
タジムニウスは誰かあるかと言うと、一人の騎士が入ってきた。
タジムニウスはカルカソンヌ公にこれを渡せと命令書を渡し、ちょっとしたモノとはいえ、こんな夜更けに貴公を使いに出すのだから何か褒美をやらねばならぬ、そこで私が一杯だけ開けてしまった物で悪いが葡萄酒を君にやろう、終わったら天幕で従者と呑むもよし君一人で飲むも良し、だが決して捨てるなボルドローの良い酒なんだと言ってボルドロー産の葡萄酒を渡してこの騎士を使いに出した。
騎士もありがたく頂戴致しますと答え、天幕を出ていった。
タジム
『いかん…流石に疲れたな、トウカでも居れば呑んでくれそうなものだが…。』
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二日目の朝がやってきた。
ブレトニア軍の将兵達は肩を落としながら自分の持ち場に歩いていった。
予備兵力が無い手前、疲労が回復しなかったのだ。
鉄の背中が何処までも果てしなく続いていた。
今日も彼らは己の得物で穢れた赤い雨を降らすのだ、自身と敵に注ぐ為に。
肩を喘がし、砲火に焼かれた大地を踏みしめる。
悪戯に踏みしめているわけでは無いがその日は装備が重く感じていた。
だが彼らは悲観的では無かった。
彼らは散りゆく友への未練を捨てていた。
何故なら自分達は幾ら騎士だ貴族と着飾ろうとも、農地のため家族の為、祖国の為と崇高な目的を掲げようともその実、親元や故郷を離れ、戦場にしか己の身を立てる術を知らないDummy boy(最低野郎)だからだ。
今日も互いの鎧が貫かれたり斬られたりして弾けた鉄のドラムの様な音を出すだろう。
だがそれこそ戦場で生きる彼らのララバイ(子守唄)なのだ。
そして何より、自分達が知る上で最も高貴な人間が自分達を超える最低野郎の大将が、この地獄を吹き飛ばそうと必死になっていた。
彼らは整列して命令を待った。
後ろから蹄の音が聞こえてきて、一匹の馬が騎手を乗せて歩いてきた。
だが彼らは不思議に思った、彼らの前に馬を立てた騎士が誰か分からなかったのだ。
リヨネース卿にしてはあまりにも背格好が低いし、何より体つきは男だった。
タナトス卿にしては鎧はブレトニア式のそれであって、彼の東洋系のデザインが採用された鎧では無いし、そもそも全身金色では無いのだ。
バストンヌ卿にしては、少し若い感じ(彼もまだ二十代だが)がするし、銃士隊隊長の彼がこんなに全身を重装の鎧で身につける事はない。
では誰なのだ…?
その騎士はヘルムを脱ぐと素顔を晒した。
将兵は顔を見ると直ぐに跪いた。
タジムニウスであった。
この日の為に新たに作らせた鎧を着込んでいたのだ。
そして将兵達は理解した。
タジムニウス王自ら今宵の戦の最前線に立つと言う事を。
そして先ず騎士達から青ざめ、その次に兵士達が青ざめた。
将兵達の皆んなしてタジムニウスを止めた。
何も彼が最前線で指揮を執るのは初めてでは無いし、彼が先頭に立つ事でブレトニアの将兵達が尋常では力を出す事が出来るのは全員が承知していた、だが今回、繰り返す様だが大戦である。
ブレトニアを統一した戦いとは大違いなのだ。
それこそ乱戦で戦う兵士の数が極端に増えるという事は討死の可能性は何倍にも跳ね上がるのだ…。
タジムニウス
『皆の者、聞いてくれ。』
タジムニウスは穏やかな表情と声で話し掛けた。
タジムニウス
『今日の戦で敵の絡繰りを破ってしまわねば、確実に負けるのは我々なのだ。
そして私はこの絡繰りを破る方法を考えついたが賭けに近い方法なのだ。
だからこそ私がいなければならない、賭けに勝とうが負けようが、私がそこに居なければならないのだ…。』
兵達はタジムニウスから静かな炎が灯っているのを感じた。
彼が冷静さという殻の中に勇気と熱意を込めてある事がこの場にいる全員が理解した。
タジムニウス
『賭け金は正しく君らの命だ。
私は傲慢にも諸君らの生殺与奪を賭け金にした、だが私は無責任ではない。
私の直属軍三万の将兵よ、これより直属軍は三万と一人だ。
その賭け金に我が命も賭ける。
皆、死ぬときは一緒だ、そして生きて帰る時も一緒だ。』
タジムニウスは馬を後ろ足だけで立たせ、馬が嘶くと同時にライオン・ハートを抜刀すると天に高々と掲げて叫んだ。
タジムニウス
『我と共に討死する気のある覚悟のある勇者は居らぬか?』
前線中央三万人が全員得物を同じ様に掲げ叫んだ‼︎
その鬨の声は天地を揺るがした。
左右に陣取るカムイやバストンヌ公アルベルトはレパンが昨日の復讐戦を挑む為に士気を上げているのだと思った。
カムイはレパンに祝福の辞を述べると伝令に伝えると伝令が中央に向かって行った。
そして帰ってくると本当に驚いたと言わんばかりの顔をしていた。
伝令はカムイに前列中央の軍はリヨネース軍では無く、クーロンヌ軍、つまり王陛下の直属軍で、しかも王陛下も本陣ではなく兵達と共に最前列にいらっしゃる(当のリヨネース軍は第二線に交代している。)と伝えた物だからカムイは慌てて中央を見た。
その時は軍旗は上がっていなかったが、確かにクーロンヌ公爵旗は上がり、そして例の獅子と麒麟の本陣旗まで上がっているのだ。
そして伝令は、諸将この事に関しては一切の口出しを禁ずると王命を賜っていると付け加えた。
カムイは深い溜息をついたが、ある意味一種の諦めを示す微笑を浮かべると次の命令があるまで待機せよと自身の軍に伝えるのだった。
日が完全に姿を表した頃、朝靄が少しづつ晴れてくる時間になって角笛が鳴り響いた。
中央前進の角笛である。
まるで中央前列三万の軍が一つの機械のように歩調を乱す事なく歩いてゆく。
それを支援する為に銃兵と弓兵が弾幕を張る。
そして選帝諸侯軍も撃ち返す。
カムイは王は直ぐに得意の魚鱗の陣を布いて一挙に中央を穿つと考えた。
カルカソンヌ公ジャンは敵にこちらが無策で進撃しているように見せかけ、突撃してきたところを鶴翼に開き迎え撃つと考えた。
そして賢人共々本陣に残りある大事な仕事を託されたアルフィノは出発の直前にタジムニウスがやろうとしている事を半信半疑で見守っていた。
そして敵味方の諸将は目を疑う事態が今起きた。
カムイ
『本当にそのままぶつかった…だとっ⁉︎』
なんと中央三万の兵達はそのまま白兵戦を展開し、最前列は一気に血に染まった。
両軍の最前列を構成する重装歩兵の怒号が響き、各軍にも様子を伝える伝令と通信がひっきりなしに入ってきた。
カルカソンヌ公ジャン
『馬鹿な‼︎
あのような戦い方をすればどんなに有能な将でも負ける…悪戯に兵を殺すつもりですか陛下⁉︎』
直ぐに陛下の元に早馬を…と言い掛けたが前線の様子を見たジャンは口をつぐんだ。
敵も味方も殺し殺され倒れる。
だがそれは互角だったのだ。
初日の戦いはブレトニア勢が渾身の力で突撃しても全て跳ね除けられ損害らしい損害を与えられなかったが…。
カムイ
『なんだか分からぬが今は互角。』
その頃敵陣では感嘆の声を挙げるものがいた。
ボリス
『ほう…我が絡繰を破るとはあの馬追の小僧もやるではないか。
だがならばこちらが陣や策を用いるまで、騎兵を二千騎ずつ左右に展開‼︎
敵の中央に肉薄しろ‼︎』
タジム
『騎兵が来るぞ、本陣に信号‼︎
敵、両翼ニ、騎兵二千騎ズツ、来タレリ。
送れ‼︎』
タジムニウスの直ぐ後ろに控えたスチームタンクの砲塔から車長が発光信号を送った。
そして受け取ったアルフィノは下知を飛ばす。
アルフィノ
『同数の騎兵を敵騎兵の阻止に当てる‼︎
敵騎兵団中央に向かって直進させろ‼︎
王陛下に通信を送れ、歩兵三千をここから送るのでそちらでの対処の際に使われたしと。』
アルフィノの役目は自身と同じ様に戦場の空気を読み取り指示や戦いが出来る将だと見抜いたタジムニウスに代わり、本陣で援軍を的確に送り、敵の行動を封殺することだった。
アルフィノに軍師、将としての経験を積ませようと言うタジムニウスの思惑でもあるが、前線で同じ事をしながら本陣にまで下知を飛ばすのは流石にタジムニウスにも無理があったのだ。
そこで本陣と前線の双方で敵の動きを読む将が相手をすれば、タイムラグも殆どなく戦えると睨んだのだ。
こうして立場は逆転した。
選帝諸侯軍はブレトニア軍に対して行った攻撃は前線、本陣で指揮を取る両名の采配で悉く封殺され、むしろ各所で劣勢となりつつあった。
そもそもこの戦術の絡繰はこういうものである。
軍勢を率いる将とは大きく分けて二つの人種が有る。
戦場の空気や敵兵の表情などを読んで、強い勘と本能のまま戦う将と様々な知識や過去の戦いの情報、地理、自然を頼りに戦う知略の将である。
本能を頼りにする将は人間が手を握る時に肩や腕が僅かに動く様に、軍勢が行動を起こす時にできる僅かな動きを読んで戦う事ができ、タジムニウスはまさにそのタイプであるがボリス・ドートブリンガーはその逆で知略の将なのだが、彼の帝国時代の主敵はかのヴァリス・ゾス・ガルヴァス(ガレマール帝国二代皇帝、先日皇太子ゼノス・イェー・ガルヴァスに暗殺される)であり、彼もまた本能型の将であった。
彼は本能型の将が自身の行動を起こす時に生じる僅かな動きを読んでいる事を理解し、それを徹底的に研究し、知略型でありながら本能型の将の様な戦い方ができる様にしたのだ。
だから初日の戦いにブレトニア勢の行動は全て弾き返されたのは一つ一つの行動に出来る動きを読まれたからであった。
なら敵の動きに合わせて戦うのなら、何もしなければどうなるか?
本能も知略も関係無い何も意図していない単調な動き。
これだけは読もうとしてもいわば白紙の紙なので読めるわけが無いのだ。
だからお互い何も出来ず、ましてや実力の拮抗がすれば互角の戦いになる事は容易に想像が出来た。
選帝諸侯軍は初戦の投射戦力と対騎兵用の長槍部隊など特化戦力の損害が回復しておらず、乱戦の損耗は少しずつ戦線の瓦解に繋がっていった。
ここまで粛々と指示を飛ばしていたボリスも流石に声を上げ全軍を下げ、乱戦を解かせるべく指示を飛ばし、帝国から接収した魔導アーマーを殿にして後退を開始した。
だがみすみす後退させるタジムニウスでは無かった。
タジム
『今だ‼︎
両翼急速前進敵両翼に騎兵を先頭に追撃‼︎
中央軍は散開しろ!
アーノルド卿は右翼側に展開しろ!』
騎士
『はっ‼︎』
タジム
『オルベリック卿は左翼だ。
私とペリザース卿は中央に止まり、全軍の基準になるぞ‼︎』
騎士
『はっ‼︎』
騎士
『御意‼︎』
右翼軍先鋒
カムイ軍……
カムイ
『さぁ命令が来たぞ!
騎士団と騎兵は私に続け‼︎』
将兵
『オオオオオオオオオオオ‼︎』
左翼軍先鋒
バストンヌ軍……
バストンヌ公アルベルト
『行くぞ銃士隊‼︎
騎乗射撃で敵を減らすぞ‼︎
軽騎兵隊はサーベル持ってついてこい‼︎‼︎』
将兵
『オオオオオオオオオオオ‼︎』
そこからはブレトニア騎馬軍団の面目躍如であった。
立ち塞がる敵、逃げる敵に容赦なくランスと白刃、そして鉛玉と蹄鉄を食らわせていった。
敵は突撃は止められず、第三陣まで突き抜ける事に成功してしまう始末であった。
そしてついにブレトニア最新兵器が今まさに戦場に降り立とうとしていた。
騎士
『全員、計器類に異常は無いな?
これより俺たちは敵のど真ん中目掛けて突撃する‼︎
喜べお前ら、俺たちは今日このクソッタレな戦場で手柄を立てる、成り上がりや下級騎士の家や、その辺の市民の出のクソッタレな俺達にはお誂え向きの戦場だ‼︎
楽しいパーティーだからって油断すんじゃねぇぞ‼︎
コイツはどんな魔導アーマーをより速い、だがその分装甲は紙も同然だ。
砲弾は勿論機関銃の弾にも当たんじゃねえぞ‼︎
生きて帰ってきた奴には女の味を教えてやる分かったか‼︎』
兵士達
『了解‼︎』
騎士
『行くぞ、俺たちは死なねぇ‼︎』
兵士達
『俺達は死なねえ‼︎』
ブレトニア新型人型魔導アーマー…Armored knight(以後AK)六十機がキュイイイイイインという独特な走行音を出しながら疾走する。
片手には重機関銃とランスを合体させたAK用ガンランス、片手には小型のシールド、指揮官機は剣を佩いて、この戦役では今後全てのブレトニアAKの標準装備しか装備しかしていないが、充分であった。
その頃、流石に第四陣は抜けず、温存していた敵騎兵からの手痛い反撃と到着した歩兵団に絡まれ騎兵軍団は白兵戦の真っ最中であった。
騎兵対騎兵なら兎も角、騎兵対歩兵の白兵戦など、槍を装備した歩兵に騎兵は部が悪く、それは騎士であってもそうであった。
後退しようにも主力の歩兵団の到着までまだ時間が掛かる状況であった。
カムイは馬上で刀を振り回しながら脱出の機会を窺っていた。
カムイ
『ええい、まとわり付きおって…。
雑兵どもめがッ‼︎』
騎士
『崩壊した第三陣にいた敵兵が士気を取り戻して立ち向かってきている様です閣下!』
兵士
『このままではいくら我等といえど!』
その時カムイの元に通信が入った。
通信兵
『前線に展開中の各部隊に通達‼︎
新兵器AKが戦線に到着した。
繰り返す新兵器AKが戦線に到着した、各部隊進撃に備えろ。』
兵士
『進撃しろだって⁉︎
歩兵もいないからこっちは包囲殲滅の危機に有るってのに‼︎』
騎士
『来たぞ‼︎』
鉄の人形が土煙を上げながら疾走する。
敵は砲火を向ける。
しかし鉄の人形はその場で急ターンして避ける。
今日迄の魔導アーマーではあり得ない機動であった。
だが今はもう違う。
人型には人型だとコロッサスを差し向けるがその大剣に持っていかれる前に鉄の人形は避けて槍を突き入れる。
そして機銃を撃ち込むと槍を引き抜き、敵の爆散を見届けて別の目標に襲い掛かる。
騎兵を取り囲む歩兵を蹴散らし更に前に進む。
だが、機関銃掃射や砲撃の雨の中を突き進むのは至難の技であり、AK隊の中から遂に犠牲者もで始める。
ボディを貫くと同時に弾ける鉄のドラムの音と断末魔が聞こえ、最後は爆散するか、火に焼けて苦しみ悶える叫び声が聞こえ始め、敵も新兵器が速さと火力を追求した結果装甲が薄いと言う事に勘づき始め攻撃を集中してきた。
そしてそれを支援すべく歩兵も上がり、暫くすると元の歩兵、騎兵、そして魔導アーマーが入り乱れる乱戦に戻っていった。一進一退の接戦は結局夕暮れ時まで続き、選帝諸侯軍が本陣の後退完了の報せが届くと同時に後退しこの日の戦は幕を閉じた。
戦術的な勝利を手にしたのはブレトニア側ではあったが、戦略的に不利なのは変わらずこのままいけば戦略的な敗北は必須であった。
逆転するには敵将ボリス・ドートブリンガー4世を討ち取るしか無かった。
もしくは引き分けに持ち込むしかないがその為にはブレトニア側に敵と同等の戦力と回復能力が無ければならないがその両方を欠如していた。
タジム
『このままでは遅かれ早かれ敗北するのは我々だ。
大いに出血を強いたが敵はまだよろめく事なく立っている。
恐らく敵はまだ予備兵力を隠し持っている。
そしてバットランドの狂信者共が姿を見せていない、それだけでも敵は未だ力を残しているということになる。』
諸将は頭を悩ました。
無理も無かった。
もうこの時点で死力を尽くし切っていると言っても過言では無かった。
その時、平静とした表情を浮かべたカタリナが無言で陣に入ってきて自身の席に着席した。
諸将はこの女商人にして女将軍に視線を送ったが彼女は目を閉じてただ黙っている。
そんな彼女を見たタジムニウスも何も言わずに林檎を齧り出した。
諸将は悟った。
時が来るのを信じて待つしか無いと。
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選帝諸侯軍 デイッターズ・ランド軍
その頃選帝諸侯軍の中央を担うデイッターズ・ランド軍の本陣は荒れていた。
暫定的に指揮官代行を務めるワルドー伯が息巻いていた。
ワルドー伯
『言ったよね⁉︎
敵は古臭い軍隊のまんまだからこっちが後退なんかする事ないって‼︎』
取り巻きの貴族
『は、はい。
しかし敵は新兵器を始め我が方にも劣らぬ兵器群を展開し、騎士は兎も角農民の寄せ集めでしか無い歩兵が思った以上に奮戦しており…。』
ワルドー伯
『そういう事を聞いてるんじゃ無いんだよ。
なんで僕ちゃん達があんな卑しい奴らに負けてるのかって事さ。
貴族が農民に負けるなんて天地がひっくり返るのと同じ位あり得ない事なんだよ。
それがよりにもよってあの連中、こっちの重装歩兵団を突破して、危うく僕ちゃんのオデコにまで槍を突き出してきた。
僕が誰だか分かってないんだよ!
僕はワルドー伯、ドートブリンガー閣下からデイッターズ・ランド公の称号を貰う誉高き貴族だよ。
それが片田舎の貴族や農民に負けるなんて有っちゃいけないんだよ‼︎』
ワルドー伯は辺りの物に当たり散らし、女召使い達は怯えた声をあげる。
ワルドー伯
『ねぇ、お前僕ちゃんの家来だろ?
今日あの中央で指揮をとった訳の分かんない騎士を討ち取ってこいよ。
それが出来なきゃお前の一族に全員爆薬抱えさせて突っ込ませるから。』
などと言っている声が聞こえる天幕を不快な顔をして見ていた男がいた。
この若いミコッテ族の男こそレマーであった。
レマー
『ハァ、あんなアホ坊の為に戦わねばならんとはな。
世の中末だな。』
兵士
『兵達の中には敵に投降しようと考える者も出てきております。
元々我らは皇帝陛下を害したボリス・ドートブリンガーに従う気のない者が大半です。
それをあんな帝国貴族の名折れのような男を奴が連れてきてしまったが為に…。』
レマー
『それ以上言うな…我々は軍人だ。
命令には従わねばな…。
あんな奴でもな。』
そう言いながらレマーは天幕に戻っていったがその手前で見張りの兵士に呼び止められた。
兵士
『将軍の故郷からの使いの者が来ております。
なんでも御身内に関わるとかで、天幕で待つと。』
レマー
『はて…?
分かった、外してくれ。』
レマーが天幕に入るとそこには黒衣を身につけた男がいた。
使者
『レマー将軍でいらっしゃいますね?』
レマー
『そうだ、卿は何者か。』
使者
『その前にこちらを。』
レマー
『この手紙は…デイッターズ・ランド公の遺書⁉︎
発見されていないと聞いていたが…それにこの金は…30エキュも有るじゃないか⁉︎
これは一体…?』
使者
『我が主人、マリエンブルク公はデイッターズ・ランド公と懇意にしておりました。
それ故に公が亡くなられたと聞くやあまりにも急だったので妙な不信感を抱かれ我らを使わしました。
そして公とご嫡男の葬儀中で誰も居ないはずの館に不審な人物が現れ、公の書斎よりそれを持ち出そうと致しましたので私どもが奪還、回収を…。』
レマー
『何者かがこの遺書を処分しようとしたと言うのか、してその証拠は。
確証がない上、今卿の主人とは敵対する身だ。
それ相応の者を示していただきたいが?』
すると使者は一本の剣を差し出した。
それには柄の先に赤い宝石が入っていた。
使者
『そちらの宝石を灯りに近づけて下さい。
さすれば証拠が現れるでしょう。』
レマーがその様にすると宝石の中にワルドー伯の紋章が現れた。
レマー
『ワルドー伯の紋章…‼︎
では本当に‼︎』
使者
『公が最期にお食べになっていた牡蠣もミドンランドで水揚げされ、ワルドー伯の領地を通って届けられております。
公の館に向かう食料馬車が他の馬車より少し遅れてからワルドー伯の領地から出て行ったと証言も取っております。』
レマー
『おのれ…!
私は卿の主人に感謝しなければならぬな。
何を以って報いたら良い?
まぁ、察しはつくが。』
使者
『我が主人と主人の主人となられた方、その方が30エキュを奥方にと私に託されたのですが、戦場で報いて欲しいと申し上げておりました。』
レマー
『明日か?』
使者
『恐らく、合図は分かると。』
レマー
『承知した。
それで卿は如何にしてここを出るつもりだ?』
使者
『いえ、まだ仕事が残っております。
主人はその時が来たら将軍をお助けせよと私に申しましたので。』
レマー
『助けか、期待しても良いのか。』
使者
『お任せを…それでは。』
使者は首を下げると天幕を出ていった。
レマーは一人になると椅子に沈み込む様に座り込んだ。
大きな決断をせねばならないという事とこの悍ましい顛末を知った事で急な怒りを催した事からの疲労であったが、頭だけは働かせていた。
レマー
(私が行動を起こせばこの軍の八割は付いてくるだろう。
だがそれだけでは形勢はひっくり返らん、私と同じ様に調略している者が居るのか…?
三十を前にして部の悪い賭けをしたという事にならなければ良いが…。)
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その頃…。
共に飲まないかとノルドランド公アウグスト・フォン・ブラードフィッシュに呼ばれたソルランド公及び帝国魔法学院主席魔導師のオットー・フォン・ゲルトの二人が天幕で酒盛りをしていた。
話題は30にもなっていつまで経っても嫁を取らんのかとノルドランド公アウグストに揶揄われているソルランド公オットーが笑いながら魔導学院の仕事が忙しいと笑って誤魔化しているが、二人は別の手段で本題を話していた。
それは机に文字を書いてそれを互いに読み合うという物であった。
幸い天幕の中に彼ら二人しかいない、つまり気をつけるべきは声だけなのだ。
ノルドランド公アウグスト
(デイッターズ・ランド公の調略は上手くいくとは思えんが、何をするつもりなのだろうなマリエンブルク公は。)
ソルランド公オットー
(仮に調略出来たとしても役には立ちますまい。
恐らく調略しようとしているのは遠い血縁でもあり、兵たちからの人望篤きレマー将軍かと。)
ノルドランド公アウグスト
(レマーか、彼は良い若者だ。
彼の様な義心溢れるものが仲間に加わってくれれば陛下もさぞ御喜びになられよう。)
ソルランド公オットー
(されど手放しには喜べませぬ、我らが寝返り、いや表返る為には些か邪魔者が多い、そちらは陛下にどうにかしてもらわねば。)
ノルドランド公アウグスト
(仮に我らが表返ったとしてもドートブリンガーは予備兵力を呼び寄せた。
数の上の劣勢はもう覆らぬぞ。)
ソルランド公オットー
(その為に…彼奴等選帝侯を最低は三名片付けねば…我らが表返る為に二名、出来ればもう一人、いや二人。)
ノルドランド公アウグスト
(少なくとも二人、多くても四人もその日に将を討たねばならぬか。
これは骨が折れるぞ。)
ソルランド公オットー
(敵の援軍が合流してそのまま戦うにしろ、敵を退かせるにしろ、やはりそれだけは倒しませんと。
欲を言えばドートブリンガーを討ち取れれば簡単なのですがね。)
ノルドランド公アウグスト
(奴も元は名の知れた戦士だ、生半可な騎士や兵達では太刀打ち出来ん。
我らとて奴に勝てるかどうか。)
ソルランド公オットー
(それにあの騎士もおります。
聞けば武勇も軍略も将軍級に匹敵するとか。)
ノルドランド公アウグスト
(厳しい戦いになりそうだな。)
尚、この間指文字で会話している間に口ではひたすらソルランド公オットーの縁談話が繰り広げられていた。
翌日、朝靄の中から獅子の軍旗が高らかと掲げられた。
ここに至り、ブレトニア勢は敵中突破に活路を見出したのである。
それに合わせて陣形の再編が行われ、精鋭騎兵軍団を基点に魚鱗隊形に軍を組み直していた。
その間簡易的な塹壕の中にいた散兵達は軽い朝食を摂っていた。
食事の間の会話はとある噂話であった。
兵士
『なぁ、気がついたか?』
兵士
『何が?』
兵士
『第212ライフル散兵隊、つまりアルトワ・レンジャーズを始めとした精鋭散兵部隊が前線から消えてるんだよ。』
兵士
『212の連中なら行軍中はアルトワ公の本陣の護衛していたけどな、他の連中も同じ様に。』
兵士
『本陣警護で居ないだけじゃないか?』
兵士
『いや、だがそれは徒歩騎士団の騎士様達が担当する事だろう?
実際他の部隊の連中でも噂になってるんだ。』
兵士
『じゃあ、あいつらは今どこに…?』
兵士達が噂話に興じている間、中央突破の陣頭指揮を執ろうとするタジムニウスを臣下及び賢人全員で止めようとしていた。
アルフィノ
『正気か⁉︎
貴方が前線で戦ってもし討ち取られる様な事にでもなれば元も子もないのだぞ‼︎』
カルカソンヌ公ジャン
『ルヴェユール殿の言う通りです、陛下どうかおやめ下さい。』
タジムニウス
『いや、私は騎士と兵達と共に行く。
これは決定事項だ。』
レパン
『なぜ御身自ら前線に立たれます⁉︎
陛下はもはや我らブレトニア、いや我が帝国そのものと言っても過言ではありません‼︎
その陛下が討たれれば、もはや帝国再興は叶いませぬ‼︎』
タジムニウス
『リヨネース卿、ならば卿は何故兵達の前で戦う?
アルフィノ、君は何故エオルゼアの為に戦う?』
質問を質問で返された二人は面食らって黙ってしまった。
タジムニウス
『私はブレトニア王国国王だ。
民草は、兵達は、そして騎士達は私を信じて後ろをついてくる、それを知ってて何故彼らの背に隠れる事が出来ようか、何を以ってブレトニア騎士の功徳を示せようか、何を以って我が理想を語れようか、何を以ってエオルゼアの英雄を名乗れようか、何を以って民草を導けようか‼︎』
タジムニウスは更に続けた、今の彼は正しく勇気のみで立っている存在と化していた。
だがその言葉は重く諸将に突き刺さる。
タジムニウス
『諸君に問う、我が父王陛下は25年前の敗北の折、迫り来る敵軍に背を向けたか?
カール・フランツ大帝はかの『ブラックバスの戦い』(北方の諸民族の聯合軍に対してカール・フランツが自ら陣頭指揮を執って戦った昔の大戦)で兵達の背後より指揮を執ったか?
ルーエン・レオンクール王は夷狄に国土を侵された時我先に逃げおおせたか?
ジル・ル・ブレトンは迫り来る混沌に屈したか?
大神シグマーは何を以って我らに道をお示し遊ばされたか?』
諸将と賢人達はもはや何も言えない始末であった。
タジムニウス
『答えは否であろう‼︎
我らの先達はここぞと言うときに自ら戦闘に立ち、困難に立ち向かった。
今の我らはまさに窮地だ、兵や騎士達はもうこれ以上は戦えん。
だが今私が先頭に立ち、敵に対して不屈の姿勢をしめさば必ずや皆は付いてくる、息を吹き返す‼︎
敵の今日迄の余裕は圧倒的な物量差に他ならぬ、だがそれは虚飾の存在でしかない事を今ここで示さねば我らが勝つ事はもう二度とない!
それでもまだ余の答えに不満を持つなら、タナトス卿、リヨネース卿、カルカソンヌ卿‼︎』
指名された三人は姿勢を正す。
タジムニウス
『卿ら三名、それぞれの騎兵、及び近衛騎士団を率いて余と共にあれ!
私は決して退かぬ、ならば卿らが王に忠誠を誓う騎士の総長足るならば余に刃を向ける身の程知らず共を全て退けてみせよ‼︎』
カムイ
『はっ‼︎』
レパン
『はっ‼︎』
ジャン
『はっ‼︎』
タジムニウスの檄に三名は応える。
そのまま王はバストンヌ公とアルトワ公、アルフィノ達、暁の友達に顔を向け同じ様に檄を飛ばす。
タジムニウス
『バストンヌ公、アルトワ公、それと皆。
君達は俺たちが中央で暴れ回っているうちに左翼のナルン公の首を取ってくれ。』
アリゼー
『私たちが敵将の首を…?』
タジムニウス
『言ったろう?
思いっきり働いて貰うって、それにアルベルト隊長やアルトワ公だけでナルンランド公をたおすのは流石に無理だ。
白兵戦となれば君らの方が頼りになる。
君たちは戦士として一級品だ、だからこそお願いする。
君達の信じる物の強さを俺に示してくれ。』
言葉の意味を理解した賢人達は二つ返事で答えた。
バストンヌ公アルベルトとアルトワ公サイラスは佩いた細剣と剣を引き抜き刀剣礼で王に誓いを立てた。
アルベルト&サイラス
『我が命に賭けて、ご友人方に指一本とも触れさせませぬ。
そして敵将を討ち取って参ります。』
タジムニウス
『頼むぞ、アルベルト卿の、いや銃士達のモットーである
『誠実にして強き』その言葉は偽り無しと世に知らしめよ。』
アルベルト
『はっ‼︎』
タジムニウス
『サイラス卿、永らく王国領土防衛を担う一流の騎士としての卿の働き振りをもう一度頼らせてもらうぞ。』
サイラス
『はっ‼︎』
タジムニウスは最後に残ったカタリナ、アイアンロック公、アレクサンデル、そしてシドに振り向いた。
タジムニウス
『貴方達四人にはオストランド公の首をお願いしたい。
若者達の活路を開くのは年長者の使命…と押し付ける様で悪いが。』
カタリナ
『構いません、元よりこの命、25年前のあの日より捨てております。』
アイアンロック
『死に損ないの老ぼれドワーフに死に場所を与えてくれるとは…光栄の至ですじゃ‼︎
若い者にはまだまだ負けませぬぞ‼︎』
アレクサンデル
『亡きボルドロー公に代わり必ずや。』
シド
『乗りかかった船だ、それに俺はこのブレトニアとライクランドの空を飛んでみたい。
それとなタジム』
タジムは何ぞやといった顔でシドを見た。
シド
『俺はまだ若いぞ?』
タジムニウスは微笑するとそれぞれに配置につけと言った瞬間だった。
?
『私を置いてけぼりにするのは感心しませんよタジムニウス。』
一同
『セレーネ様⁉︎⁉︎』
セレーネ
『今しがた目が覚めました。
状況は聞き及んでおります、あなた方が敵に突撃している間後ろを走る兵達の面倒を見る人間が必要でしょう。
私が本陣に残ります。』
ジャン
『しかし殿下、いえ聖女様はまだ病み上がりの身もしお体に触ったら』
と言いかけたところで彼女は杖で地面を強くついた。
すると一気に強力なエーテルが噴き出て魔力の風が彼女を覆った。
皆、身構えられねば吹き飛ばされていたかも知れない程の強力な魔力の風が吹き荒れた。
セレーネ
『微かな声ではありましたがハイデリンは私に初めて語り掛けてくれたのです。
今こそ立ち上がり、戦えと。
私は女神様の代理人である前に、アルトドルフ家の、先帝ジキスムントの娘です!
兵達と、皆さんと共に生死を共にする権利と使命がある筈です‼︎』
ジャン
『なんと…一族代々の素質もあるとしてもここまで力を…女神様は何故今になって…。
いやそれよりも陛下、今すぐ全軍に聖女様の復活の触れを出しましょう‼︎』
タジムニウス
『…その必要は無さそうだな。』
そういった瞬間ブレトニア勢で大きな鬨の声が上がり、口々に聖女様万歳の声が上がり続けた。
セレーネ
『それと皆様これを。』
セレーネがシスター達に持って来させたのは金のゴブレットであった。
それは人数分あり、中身は普通の水の様だが金色のエーテルが水から湧き出ていた。
そう、それこそ即ち聖水であった。
レパン
『聖水⁉︎
セレーネ様は完全に泉の聖女としての力を取り戻されたのですか?』
セレーネは首を振った。
セレーネ
『いいえ、リヨネース卿。
私は歴代の聖女様の様に過去も未来も見る事ができなければ古の魔法すら使えません。
あくまで使える様になったのは加護だけ、それでも何か出来ることはないかと祈りを込めて作りました。』
タジムニウス
『いいえ、これ程良き心付けはございません。』
諸将はゴブレットを掲げその水を飲む。
同時に兵士達もセレーネが加護を掛けて回った水飲み場からこぞって聖水を飲んだ。
アルフィノ
『特に変わったところはない様だけど…。』
アリゼー
『でも不思議ね、なんか勇気が湧いてきたわ!』
グ・ラハ
『戦いの前だと言うのに何処か心が安らぐ。』
ヤ・シュトラ
(これがフェイ・エンチャントレスの魔力…。
ハイデリンの代理人となったミンフィリアとは違うけど…なんて強力な魔力。
何故ハイデリンはここまで彼らに力を与えたのかしら。)
セレーネ
『勇気と知恵の祈りを込めました。
聖水の加護がある限り、皆様が進む道を見失うことは無いでしょう。』
セレーネは太陽を背にして立ち、優しさに満ち溢れた表情から真剣な表情を浮かべ、声音も威厳に満ち溢れた物して王を呼ぶ。
セレーネ
『タジムニウス王、聖杯は今貴方と共にあります。
さぁ、女神と御旗に誓いを。』
タジムニウス
『御意。
皆準備はいいな?』
アリゼー
『誓い?』
ヤ・シュトラ
『ブレトニアは大事な戦の前に必ず女神、つまりハイデリンとその代理人である聖女フェイ・エンチャントレスとブレトニアの旗に必勝の誓いを立てるのが習わしなの。』
タジムニウス
『アリゼー、皆、暁の朋友よ君らが我らの誓いの証人だ。
我らが唱え終わったら全将兵が誓いを唱える。
唱え終わったらそれが戦の合図だ。』
タジムニウスは深呼吸をするとクーロンヌの剣を引き抜き誓いを唱える。
タジムニウス
『御旗、御身も御照覧あれ‼︎』
それに続き諸将も続く。
カムイ
『御旗、御身も御照覧あれ‼︎』
レパン
『御旗、御身も御照覧あれ‼︎』
アルベルト
『御旗、御身も御照覧あれ‼︎』
ジャン
『御旗、御身も御照覧あれ‼︎』
サイラス
『御旗、御身も御照覧あれ‼︎』
アレクサンデル
『御旗、御身も御照覧あれ‼︎』
カタリナ
『御旗、御身も御照覧あれ‼︎』
アイアンロック
『御旗、御身も御照覧あれ‼︎』
全将兵
『『『『御旗、御身も御照覧あれ‼︎‼︎‼︎‼︎』』』』
タジムニウスは小声で呟いた。
(御旗、御身も御照覧あれ、我らが覚悟を!)