どうも、負けヒロインです 作:麦チョコ
黒髪のロリっ子を助けて主人公から逃げ出した俺は、とりあえずそのままロボットに乗って研究所から脱出した。
『七番地区にわたしの母の研究所があります。電話で事情を伝えておいたので、きっとイオさんの力になってくれるはずです!』
黒髪ロリの名前はトウカちゃんで、彼女のアドバイスを受けた俺はとりあえずの行動指針を得ることが出来たのだった。
現在は黒いローブを身に纏って、バイクに乗りながら七番地区を目指している。
「さみぃ~」
結局あれから既に一週間は経過しているものの、着替えを手に入れることは出来ず薄着のままということもあって、めちゃくちゃ寒い。
トウカちゃんから貰った黒いローブを身に纏ってはいるものの、一見するとただの浮浪者だ。
「まぁ、トウカちゃんには感謝しないとな。服も目的も貰っちゃったし」
割と後先考えずにアリトから逃げたため、肝心の逃げ出した後の行動は何一つ予定が無かった。
なのでトウカちゃんからの協力者の紹介は本当に助かった。九死に一生を得るレベルだ。
彼女、なんだか結構偉くてスゴイ研究者の娘だったらしく、話を聞く限り実験体ではなく人質としてあの研究所に囚われていたらしい。
いつもの世界線ではトウカちゃんがもれなく死んでいるので確かめる術がなかったが、彼女が生きていることで彼女の両親が心神喪失せずに研究を続けてくれることが確約されたため、また一歩俺が死ななくても世界を救える可能性が広がったわけだ。やったね。
「なんかスーパーつよつよロボットとか手に入れたら……その後トウカちゃんを迎えに行こう。貴重な俺のパーティーメンバー候補だ」
とりあえず俺は軍から逃亡した厄介な身なので、その状態でトウカちゃんを旅に同行させるわけにはいかず、彼女は付近の保護区画へ送り届けた。
一緒に旅がしたい、だなんてゴネてはいたものの、流石にこのまま連れていくのは厳しい。
しかし俺に目的を与えてくれた恩人でもある為、彼女をこの身一つで守れるだけの力を手にしたら、必ず迎えに来ると約束をして、俺はトウカちゃんと一旦別れたのであった。
俺の目的は大きく分けて二つだ。
ひとつはこの俺自身の生存。
もう一つはこの戦争の終結である。
今までのループでは、どの世界線でも俺を犠牲にした特殊な化学装置で、宇宙人たちを全滅させて戦争を終わらせていた。
恐らく俺が先に死んでしまった場合でも、死体を使ってなんかこう上手く事を運んでいたに違いない。
つまり世界を救うには俺の犠牲が必要なわけだが、どうやらイオ・ラスフィリアを犠牲にするとこの世界はループして、その先には向かってくれないらしいのだ。
もしくは誰かが意図的に時間を逆行させているのか……なんも分からんが、ともかく俺だって別に死にたくはないので、死なずに戦争を終わらせるのがこれからやるべき最大のミッションというわけである。
「てか七番地区って遠いな……ここら辺で休むか」
森の開けた場所を進んでいたのだが、そろそろ陽が落ちてくる時間帯だ。
寝袋と携帯食料程度ならバイクに積んであるものの、焚火などの暖を取るものは自分で用意しなければならない。
「川あんじゃん。ラッキ~」
というわけで水辺の近くに駐車。
適当にそこら辺で枯れ枝をかき集め、バイクの近くに放り投げておいた。ライターもあるし、これで夜も安心です。
俺の今の体は水色髪の小柄な少女だ。
中身の年齢が成人を越していたとしても、肉体の関係上ムリをするとすぐに風邪を引いたり体調を崩してしまう。
だから無茶な行動はなるべく控えて、時折休憩を挟みながら旅を進めているため、県を二つ跨ぐ程度の距離を移動するのにも一週間ぐらい使ってしまっているわけだ。
ままならんね、TSっ娘というものは。
「うし、水浴びだ」
ペットボトルに水を汲んで飲み水を隠した後にやる事と言えばこれくらいだ。
夜になって川の水が冷える前に、さっさとシャワーを浴びなければ。
臭いがキツくなると精神衛生上よろしくないからな。
不可抗力とはいえ体は奇麗な女の子になったわけだし、体臭や髪の毛程度には気を遣おうと決めているのだ。
なんと石鹸も道中手に入れました。RPGの主人公みたいに使えるアイテムはどんどん収集していくぜ。
「よ……ぎゃっ、冷てえっ! くっそ……あったけえシャワーを浴びたい……」
現代人なので川で体洗いは少々こたえるものがある。水ちょっと冷たすぎんか。
こりゃ出たあとすぐに焚火へ当たらないと、普通に水浴びが原因で風邪を引いてしまうな。
まさか森の中にある川で水浴びとかいう、ファンタジーなRPGとかでやりそうな経験を積むことになろうとは思わなんだ。
肉体が変貌して現代科学の恩恵もあまり受けられないなんて、まるで異世界転生した気分だ。普通の生活に戻りたいよう。
「──スフィ、さん?」
んっ、と。
気がつくと、川の向こう岸に人影があった。
そちらへ視線を向けてみれば、そこにいたのは見覚えのある高校生くらいの黒髪の少年。
いかにも主人公然とした体躯と顔面に作りには惚れ惚れするほどだ。やっぱイケメンだね、きみは。
「やあ、アリト・マユズミ君。一週間ぶりかな?」
「そ、そうなんですけど──えっ、え!? ふ、服きてなっ」
おぉ、そういえば今の俺、一糸まとわぬ姿だったな。こりゃ失敬。
無駄に長い後ろ髪を抱えて胸を隠しつつ、俺は川に足を浸からせたまま彼との会話を試みた。
ここで会ったのも何かの縁だ。
RPGの基本は会話。話したらなにか非常食とか恵んでくれるかもしれないし、急いで逃げるのも無理だからここは彼との会話イベントに身を任せることとしようじゃないか。
「ほら、隠してるから大丈夫だよ」
「あのいえっ、お、オレそっち見ないんで!!」
「そう? ありがとね」
あら後ろを向いちゃった。
年頃の男の子なら何かと理由付けて見たがるもんかと思ったが、主人公だけあって紳士だね。えらい。
「マユズミ君って……漢字だと、あの一文字の黛で合ってるのかな」
「えっ。……あ、あぁ、そうですね。小学生の頃までは」
宇宙人たちとの戦争が始まって数年が経過し、世界は一旦一つになろうとしていた。
そのため英語圏みたいに名前と苗字が逆転して、黛在人はローマ字でアリト・マユズミになったのである。
まあ漢字の件に関しては以前のループで知ってたんだけどね。
ちなみに俺の名前のイオは漢字にすると依尾です。苗字は親の再婚で変わったので元からカタカナ。
「ね、マユズミ君はどうしてここに?」
「……スフィさんの──あっ、いえ、ラスフィリアさんの情報が入ったので。……その、心配で」
「あはは。優しいね、マユズミ君は」
これまでの世界線では、俺はヒロインとして認められるのが大切だと思い込んでいたため、記憶を無くしたという設定で、女の子のフリをしていた。
口調から何まで変えてアリトに媚びまくっていたのだが、結果は御覧の通り惨敗。
彼の救出から逃げたこの世界ではもう繕う必要もないので、本来の男の──というよりアリトよりも年上の男性としての口調で喋っているわけだ。とても楽ちん。
「そうだ、一緒に入る?」
「うえぇェッ!?」
仲間もいないようだし、ここは少し油断しても大丈夫だろう。
あくまでも彼のチームに入ることが負けヒロインへの第一歩になってしまうのであって、アリト自身とコミュニケーションを取ること自体は問題ではない。
軍に戻ったら強制的に特殊小隊へ回されるし、俺の一人旅はほぼ確実なのだ。
たまには誰かとお喋りするのもありだろう。