あやかし漂流記   作:カゲの草

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第2話:慣れない事すると大体グダグダになる

「いやー、楽しかった。あの会場の一体感はライブイベントならではの特権だな」

 あの後、なんやかんやでイベント会場に到着した俺は、グッズ購入はそこそこにライブ(こっちがメイン)に全力を尽くしていた。

 具体的には、ライブの始まりと盛り上がりの時にあの色のついている棒を狂ったかのように振りまくったとか。アンコールをしている誰かに便乗したりとか。

 会場にいる全ての人達がひとつの事に一丸となって全力で楽しめるところがあるのが、こういったイベントの良いところである。これは今日のライブに限った事ではないが。

 そして、今はそのライブイベントが無事に終わり、俺は1人余韻に浸りながらベンチに座って疲労回復をしているところである。

 ちなみに友達と行けばもっと楽しめるだろうと思う奴もいるかもしれないが、こういったイベントとかに行けるほどの友人なんていない俺にとっては凄くハードルの高い話なのだ。

 ……なんか考えてて悲しくなってきたな。誰に話してるわけでもないのに。

 

「! そういえば」

 俺は思い出したように手荷物をあさって、ある物を引っ張り出す。

 

「あの子の占い、どうしよっか」

 

 貰った地図を見ながら、考え出す。

 正直、このまま帰ってもいいんだけど、そうすると俺はいったいいつそこへ行くのかが分からなくなると思う。これっきり忘れそうな気もするし。

 それに何となくだが、今日中に占って貰った方が良いような気がする。

 思い立ったが吉日という言葉もあるし、それにあの子とお近づきになれるチャンスだと思うからな……よし行くか。

 そうと決めてベンチから立ち上がり、地図の場所へ向かおうとすると

 

「!?」

 

 何か寒気のようなモノを感じて思わず、後ろを振り向いてしまう。が、目の前には花壇とその花壇を囲うような柵があるだけでそこに誰かがいるわけではなかった。

 

「? なんだ今の気のせいか?」

 

 なにかに見られたような? 気のせいかな?

 

「……なんか気味悪いな、早く行くか」

 

 占ってもらうついでに期待は薄いが、お祓いとかもしてもらえる場所もあの子に聞いてみようかな。

 そう考えながら、地図を頼りに既に日が沈んで、夜の明かりになり始めた町並みに向けてそそくさと逃げるように歩いて行ったのだった。

 ……ほんの僅かに感じた薄気味悪いなにかに怯えながら。

 

 

「――――」

 そんな彼の後ろよりも更に奥の柵の陰からナニカが今朝のようにずっと見つめていた。

 

 

      ◇

 

 

「ここがその占いの場所……なのか?」

 

 地図を頼りに向かった先は、なぜか森林公園の端っこで、明らかに急ごしらえで作った感のある張りぼてのテントみたいな物がそこにあった。具体的に言えば、キャンプ場とかで用意する簡易式のテントよりも更にボロくした感じのイメージである。

 

「あの子、見た目によらず苦労してんのかな」

 

 あの子、一人称が“わたくし”だったし、大人しそうな雰囲気からてっきり裕福な育ち方でもしていたのかなと思っていたが、どうやらそうじゃないようだ。

 ……あの子とお近づきになるなら、そこらへんの部分はなるべく触れないようにした方が良いかもしれないな。

 いや、よくよく考えてみるとあの格好で街並みを歩いていたし、大人しそう感じとは裏腹に意外と(たくま)しい子なのかもしれない。むしろある程度までなら笑って許してくれるかもしれない。

 そんなある意味失礼な事を考えながら、ボロテントの前にいると

 

「! 来ましたね。待っていました」

 

 占いの館(仮)からあの子(苦労してそう)が出てきた。

 

「……あの何か失礼な事を考えませんでしたか?」

 

 こちらを見るなり、目の前の子はなにかを怪しむ様な視線を向けてきた。顔に出ていたのかな? とりあえず適当にはぐらかそう。そう思って

 

「いや、別にあんたはなんか苦労してそうだなとか、とりあえずあんたはもう実家に帰った方が良いんじゃないのとかそんなことは思ってないよ」

 

「思いっきり言ってるじゃないですか!」

 

 なんか普通にぶちゃけてしまった。はぐらかす気があるのかと言いたくなるくらいの。はぐらかそうとか考えていたが、下手にはぐらかすよりもある程度正直言っても大丈夫じゃないのか。と高をくくっていたがアテが外れたようだ。

 

「……まあ、いいです。それよりも占いますからこっちに来てください」

 

 軽く溜め息を吐いたあと俺に背を向け、再び張りぼてテントに入っていく占い師(仮)。どうやら問題なかったようだ。やっておいてアレだが、割と懐の深い子のようだ。そういえば

 

「そういえばあんたのことは何て呼んだらいいんだ?」

 

「え、ああ、そうですね。そういえばお互いまだ自己紹介をしていませんでしたね」

 

 いったん入るのをやめて、あらためて互いに向き合って

 

「私はチハヤ。一応占い師をやっています。あなたは?」

 

「俺は賀島幽鬼(がしまゆうき)。その辺にいるサブカルチャー好きだよ」

 

 互いの自己紹介をする。この子、チハヤっていうのか。

 

「賀島くん、いえ幽鬼くんですね。どうぞこちらに」

 

「お、おう」

 

 なんかいきなり名前呼びにされたな……ほぼ初対面なのに。そう思いながら彼女のあとを追うように占いのテントに入り込む。

 

 

「…………」

 

「何を呆けているんですか? 早くこっちに座ってください」

 

「あ、はい。すみません」

 

 テントの中は意外とシンプルな作りだった。俺とチハヤさんの間には台に乗っている割と大きな水晶玉がずしっと置いてある。

 更に彼女の後ろには俺が拾った札や巻物のような物、派手な装飾が施されているデカい鏡のような物がまとまって置いてある。

 そして俺とチハヤさんの座っている場所に座布団があるといった感じだ。……外のボロさと違って中は意外と綺麗だった。

 

「ではあらためて、幽鬼くん。あなたの今占いたいことは何かありますか?」

 

 占いたいことか。あらためて聞かれると俺は何を占ってほしいのかをぜんぜん考えていなかったが……ここは無難に。

 

「それじゃあ、今後の俺の全体の運勢を占ってくれ」

 

「……今後の運勢ですね。わかりました」

 

 チハヤさんが両手をかざすと水晶玉から(まばゆ)い光が放たれる。

 

「「…………」」

 

 彼女が集中している傍らで俺は『え、水晶玉の占いってこんなにピカピカ光るものだっけ?』とか『なんかこの展開はまるでアニメの世界に入ったみたいだな』とか結構しょうもない事を考えていると

 

「……みえました」

 

 水晶玉の眩い光が収まって、彼女はこちらを見据えるように見つめていた。どうやら結果が出たらしい。

 

「どうでしたか? 俺の運勢はどうなりますか?」

 

 結果が出たのならその内容を聞くまでよ。そう思って聞いてみると

 

「結論から言えば……幽鬼くん。このままだと、あなたは今日、死にますね」

 

 なんか現実味のない事をあっけらかんと言われた。

 

「はい?」

 

 何を言われたか分からず、ポカンとしていた。

 聞き間違いかもしれない。一応、確認してみよう。

 

「あの、すみません。チハヤさん」

「はい」

 

「俺、今日死ぬんですか」

「このままだとそうなりますね」

 

「死ぬって、社会的なアレとかではなく?」

「いいえ、肉体的な死です」

 

「へー、そうなんですか」

「はい」

 

 聞き間違いではないようだ。どうやら占ってもらって何故か死の宣告を受けているのは事実のようだ。あれ? 運勢を占いに来たのになんで予言みたいなことを言われているんだ? 占いってこんなんだっけ? とか思うけどここは冷静に。

 

「ふざけてるんですか?」

 

「ふざけてませんよ」

 

 思わず冷静を欠いた口調になってしまった。が、それでも特にもの落ちせずあくまでも真顔でそう告げるチハヤさん。これは

 

「帰ります。チハヤさん、俺はあんたのでたらめに付き合ってられな――」

「あなたは」

 

 ただのでたらめ事だ。そう結論を出して、帰る前になにか捨て台詞を言おうとしたら、その言葉を遮るように彼女は言葉を重ねた。そして――

 

「あなたは……狙われてるんです。あなたには見えないナニカに。……あなたは何となくでもソレに……気づいてるはずじゃないんですか?」

 

 ――少女のモノとは思えないほど鋭く、強い意志のこもった目で俺を見据えていた。

 

「!!」

 

 この瞬間からなんか一気に空気が重くなったような感じがする。呼吸をすることさえどこか億劫に感じさせる。物凄い圧を肌で感じている。なんだこの人。

 

「もしこのまま帰るのなら……幽鬼くん、あなたはそのナニカによってこれから死ぬことになりますが。それでも……いいんですか?」

 

 今までのチハヤという少女に感じていたどこか不慣れな田舎者の雰囲気は微塵(みじん)も感じさせない。何かとんでもない存在が目の前にいるかのような。

 そんな雰囲気を(まと)った者がこちらを見据えていた。

 ……そんなただならぬ空気の中で思わず

 

「チハヤさん……あんたは何者ですか?」

 

 意味があるとは思えない的外れなことを喋っていた。

 

「……さて、私はただの占い師ですよ。それよりもどうしますか幽鬼くん、このまま帰りますか? それとも――」

 

 問いに対して含みのある笑みで返すチハヤさん。

 俺は彼女が喋りきる前に座布団に座りなおす。

 

「……聞くんですね?」

 

 確認するかのように聞かれた言葉に

 

「お願いします」

 

 チハヤさんの目を見据えるように言葉を返す。

 正直分かることは多くないし、信用ならない気持ちもある。未だにでたらめを言っているようにも見える。

 しかし、今この場でこの人の話を聞かないのは何か非常に不味いような気がする。

 直感だが、そう思い始めている自分がいる。

 なぜそう感じているのかは分からないが。

 

 そんな俺の様子を見た彼女は安心したかのような笑みを浮かべて

 

「よろしい。では幽鬼くん。改めて伝えますが、私はさっきあなたは死ぬと言いましたが、それはあくまでもこのまま行けばの話です」

 

 さっきまでの重い空気を払拭し、さっきの運勢(?)の詳細を話してくれた。

 

「……何か死ななくなる方法とかがあるんですか?」

 

 そんな方法が本当にあるのか。にわかに信じがたいという視線を向けながら、彼女を見ていると

 

「ええ、ありますよ。幽鬼くん、私に手を差し出して下さい」

 

 何でもない事のようにあっさりと答えてきた。とりあえず言われた通りに彼女の前に手を差し出すと

 

「…………」

 彼女に両手を重ねられる。奇麗な手だなと一瞬思ったが、すぐに我に返って

 

「あ、あの。何を!?」

 

 慌てて手を引っ込めようとしたら、重ねられた手からあの水晶玉の光に似た輝きが放ち始めて、思わず目を細めてしまう。

 チハヤさんに触れられていた手が物凄く暖かくなったと思ったら、その暖かいものが身体全身に流れ込んでいるような感覚を覚え始めていた。これはいったい。

 

「え? チハヤさん、今のは?」

 

「私からのおまじないですよ。それとこれも」

 

 そう言って、彼女は1枚の札をこちらに渡してくる。

 昼頃に俺が拾った札と同じように見えるが?

 

「これは()といって、幽鬼くんを守るお守りのようなものですよ。これを肩に放さず持っていて下さいね。これがここぞという時にあなたのピンチから救う……えーと、らっきーあいてむというやつです」

 

 この紙が? と思うがこのただものじゃない雰囲気を出した人の物だ。少なくともただの紙切れではないものなのだろう。

 

「幽鬼くん。これ等だけでは、まだあなたの死の運命からは完全に逃れることはできません。それでも、何としても生きたいと願うのなら、あなたは可能な限りあなた自身を鍛えていく事をおすすめしますよ」

 

「は、はあ」

 

『死の運命』ってなんだ?

『何としても生きたい』ってどういう状況なんだ?

 そんな疑問が湧いてくるが、話が進まないから今は大人しく話を聞く。

 

「そして、最後に幽鬼くん。……あなたがこれから先、何が起ころうとも、何に直面しようともあなたにとって大事だと思うもの。価値があると思うもの。

 そして、それらを護るためにはどうすればいいのかを考え、そこから前に進んで行くことを心掛けてください。……そんな風に生きていってください。

 そうすれば、そうしていけば、あなた自身の運命を変えることだって決して不可能ではないですから」

 

 彼女はそう言って、俺をまっすぐ見つめていた。まるで何かを期待しているかのように。

 

「…………」

 

 正直、この人が何に期待してるのかはよく分からないし、会って間もない野郎にこの人は一体何を言ってるのだろうとか思っている。

 

 でも……なぜか

 

“この人の期待している何かに応えたい”とそう思ってしまっているのは

 一体、何故なんだろうか。

 

「……すみませんね、幽鬼くん。会って間もないのに。いきなり変な事を言って、困りますよね」

 

『あはは』とどこか気まずそうな雰囲気を出し始めたチハヤさん。どうやらこの人自身でもおかしなこと言ってる自覚はあるらしい。だが

 

「……いや、気にしないでください。なんだか新鮮な気分を感じていますから」

 

 確かに色々気になることはあるし、いまいち現実味が湧かない気持ちもある。

 もしかしてこいつが白昼夢(はくちゅうむ)ってやつなんじゃねーかなとか思いもしている。

 が、見方を変えれば、ある意味これは俺の密かに憧れていた状況に見えるような気もする。

 だからおかしなことだが、意外と悪い気はしていない。

 

「そうですか。では、私からはこれで以上になりますが、幽鬼くんからは何か?」

 

「……では1ついいでしょうか?」

「はい、なんでしょう?」

 

「結局、俺の運勢ってどうなるんですか?」

「え」

 

 なんかその場の空気にヒビが入る音が聞こえた……ような気がした。

 

「いや、その……俺はこれからなんかヤバい目に遭うってことは分かったのですけど、俺の全体運。例えば恋愛運とかを聞かせてくれれば……と思っているんですが」

 

「……幽鬼くん。あなたは随分、のんきなことを聞いてくるんですね」

 

 なぜか俺から視線を逸らすチハヤさん。なんかさっきまでの空気が完全にぶち壊してしまった気がするが、そこはもう気にしないことにする。

 

「いやだって、もともと俺は全体の運勢が聞きたかったのであって、自分の予言を聞きに来たわけではないので」

 

「あ、あれ? そう、でしたか?」

 

「はい」

「……」

 

 俺の本当に知りたい事を伝えたら、心なしかなんか焦り始めたようにしどろもどろの様子をみせた後に、頭を抱えたまま台に突っ伏してそのまま動かなくなったチハヤさん。

 この人からはなにかとんでもない雰囲気を感じはしたけど、少なくとも俺は占いに来たのであって何だかよく分からない予言を聞きに来たのではない。

 まあアニメやゲームみたいな展開になっていたからは思いはしたけど。

 

 そんなことを考えながら彼女の様子を見ていると

 

 ガシッ

 

「!?」

 

 突然、彼女の両腕が俺の両肩を鷲掴みにしてきた。意外にも彼女の力が強くて肩が地味に痛い。俺の肩を鷲掴みにしている彼女は相変わらず顔を俯かせたままだ。

 そして、俺に向けて呟くようにゆっくりと

 

「……今日の幽鬼さんの全体運は大凶。本日は何をやってもうまくいきません。かっこよく決めようとしても、盛大にすべることでしょう。余計な事を喋って命の危険に晒されることにもなるでしょう。

 あなたは今後、太陽の恩恵(おんけい)を受けることはないでしょう。そして、これから先は、日陰者としての人生を謳歌(おうか)することになるでしょう。死ぬまで永遠に」

 

 ゆっくりと顔を上げて、彼女はとても満面な笑顔で本日の俺の運勢を告げてきた。

 

「ええぇ!?」

 

 やっと全体運の詳細が明らかになってきたが、予想以上に酷い運勢のようだ。というか死ぬまでは流石に重すぎる。

 大体『太陽の恩恵を受けることはない』ってなんだ? 俺の頭にだけ雨が降る的なやつか。

 っていうかこの人ホントに占い師なのか。薄々思っていたが、実はこの人ただ適当に言ってるだけじゃねとは思う。当てずっぽうみたいに。

 

 いや

 

「ラ、ラッキーアイテムは?」

 

 まだだ、まだ慌てる時間じゃない。運勢が酷くても最悪アイテムがあれば何とか切り抜けられるはず

 

「らっきーあいてむは、赤い布です。これで真っ赤な顔や血を隠しましょう」

 

「なんのフォローにもならねぇ!?」

 

 とても切り抜けられそうにないラッキーアイテムだった。まあ、あってもどうにかなるとは思えない内容だったが。

 

「……さあ、幽鬼さん。用は済みましたよね。ならさっさと家に帰ってください。さもないともっと大変な事になりますよ」

「いや、チハヤさん、帰りたいのはやまやまなんですがまずは俺の肩を開放してくれれば……って痛い痛い」

 

 笑顔を浮かべながら、こちらの両肩をつかんで力を込めるチハヤさん。激痛まではいかないが、振りほどくことは出来そうにないほど力具合だ。 

 正直、その見た目からは考えられないくらい力が強くて『え!? この人意外と力強いんだけど!?』とか薄っすら思ってしまう。しかも、この人は帰れとか言ってるけど行動が噛み合っていない。

 

「あ、あのチハヤさ……チハヤ様」

「はい?」

 

 にこにこした笑顔(?)でこちらを見てくるチハヤさんに恐怖を感じて思わず“様”をつけてしまった。常に向き合う形になっているせいもあるが、これにあの時の圧力並みの雰囲気も出てるから凄く怖い。

 ここは素直に聞いてみることにしよう。

 

「あの……怒ってるのでしょうか?」

 

「いいえ、別に怒っていませんよ。私はたとえ慣れない事でもしっかりやり遂げて、最後はビシッとかっこよく決めようと思って色々準備してただけですし? それっぽい練習もしてきましたが? その苦労を色々台無しにしてくれちゃった子をどうしてくれようかなんて。私は……ちっとも考えてませんよ」

 

「す、すいませんでした!」

 

 その場で思わず謝罪をしてしまった。

 嘘だ。考えていないなんて嘘だ。だってついさっき気づいたけど、この人。にこにこしてるから笑顔のように見えているけど、目がぜんぜん笑ってないよ。明らかに俺がなんかそれっぽい空気をぶち壊したことを根に持ってるよ。絶対。

 というか、それっぽい空気ってなんだ?

 たった一言でおジャンになる準備って一体?

 いや今はそんなことよりも

 

「いや、ちょ、ちょっと待ってください。俺、チハヤ様にお祓いできる場所を教えてほしいんですけど」

 せめてこれだけは聞かなければ。そう思って聞いたところ

 

「……幽鬼くんには必要ないですよ。もう手遅れですから」

「ええ!?」

 

 必要ないって。

 聞く耳を持たないでいるのか。それとも俺には本当に意味がないのか。

 このままでは不味い。さっきの謝罪じゃダメなら、ここは土下座でもして彼女の機嫌をなんとか回復させなければとか考えていると

 

「……そんなに許してほしいですか?」

 

 俺の両肩を開放して、真正面でこちらを見据えている彼女のほうから思わぬ救いの手が差し伸べられる。俺は思わず

 

「許してください。俺にできることはなんでもしますから」

 

 水晶玉の台にぶつけないように一歩離れてから土下座をして、彼女に許しを乞う事にした。

 

「なんでも……ですか。その言葉に嘘はありませんね」

 

「はい。あなた様に嘘をつくはずがございません」

 

 土下座状態のまま正直な言葉を伝えた。そのせいで、今のチハヤ様の表情は分からない。だが、これは機嫌が直るチャンスだという事だけは直感で分かった。

 

「……いいでしょう。幽鬼さん、顔を上げなさい」

 

 どうやら許されたようだ。そう考えて、顔を上げると彼女もなぜか俺と同じように正座していた。ちなみに台は彼女の邪魔にならない位置にあった。いつの間にか。

 ま、それはさておき

 

「? ええと、チハヤさん? なんであなたも正座しているのでしょうか?」

 思わず、感じた疑問をそのまま彼女に投げかけたが、その疑問に答える事は無く。

 

「幽鬼さん、こう見えても私、神ですから。とても慈悲深い神ですから。今回のあなたの不敬は水に流してあげます。ですから、私に何か食べさせてもらえると助かります」

 

 食べさせて欲しいと頭を下げたチハヤさん。さっきの俺と同じように。

なにか痛い発言も聞こえた気がしたが、そこをツッコんだらせっかくのチャンスが無くなりそうなので言わないでおく。

 とりあえず返事は

 

「あの、チハヤさん。安物でよければ何でも食わせてあげますから、顔を上げてください」

 

「! ありがとうございます、幽鬼さん! あ、あとついでに私が安眠できる場所も提供してくれると嬉しいのですが……」

 

 ガバッと起き上がって物凄く嬉しそうな感じの笑顔を俺に向けてきた。と思ったら、なんかばつが悪そうにしているが、さらに要求してきた。

 そんな様子を見て、何だかチハヤさん俺に対して遠慮が薄れて来ているような気がした。最初にみた大人しそう感じがなくなってきた気がする。しかし、今は彼女の機嫌を回復させることが大事だ。また、あの威圧を受けるのはなんとしても避けたい。

 

 なので俺は

 

「……いいですよ。俺の家でよければですが」

 

 彼女を食わせるだけでなく、家に招待することにした。

 一応“なんでも”とか言った手前もあるし。それにもういくつ頼みを聞こうがもう大して変わらないだろう。そんな気もしていた。

 そんな回答を聞いた彼女は

 

「!! あなたは神様ですか! やはり私の目に狂いはなかった。ではお言葉に甘えて、厄介になりますね幽鬼さん」

 

 『私的にはとてもポイントが高いですよ。流石、私の信徒ですね』とか『いやー、言ってみるもんですね』などとか言いながら、こちらの手を握りぶんぶんと振ってくる。

 なんかいくら何でも大げさな事を言っている気がするし、覚えのない単語が聞こえるが、予想以上に喜んでいる彼女の様子を見て思わず『まあ何とかなったからいいか』なんて思ってしまう。

 

 

 こうしてなんやかんやで話が決まったという事で、俺たちは古テントから出て、公園の入り口付近で待ち合わせをすることになったのだった。

 

 

 

 

 

「ところで、チハヤさん。結局、あんたは本当に占い師なのか?」

 

「え? そんな訳ないじゃないですかー。いやぶっちゃけ、あの時は何となくそれっぽいことを言っただけというかー。正直、幽鬼さんがここに来るならもう何でもよかったっていうか」

 

「え」

 

「あと幽鬼さんにはお祓いはいりませんよ。私がいますから。それと私に敬語は不要です。幽鬼さんの話しやすい言葉でいいですよ。特別に許可します」

 

「……そうですか」

 

 なんでおジャンになったのかが分かった気がする。

 あれ、もしかしたらチハヤさんは最初からこれを狙っていたのか?

 ……いや、まさかね。

 どっちにしても今後から“なんでも”という言葉は極力使わないようにしようと密かに思ったのだった。

 




“なんでも”って言葉は便利ですね。無事に帰れたらス……いやいや私の友達にも教えてあげないと……
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