あやかし漂流記   作:カゲの草

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主人公、異世界に旅立ちます





第3話:そして物語は動き出す

 

 話が決まったという事で、古テントから出ると

 

「では、私は準備しますので先にそこで待っていてください。逃げたらあなたに天罰を下しますから」

 

「わかったから。早く準備してきなさい」

 

 『絶対待っててくださいよ』と言いながら、再びテントの中に入っていくチハヤさん。

 なんかこの短い期間で彼女に対する印象ががらりと変わった気がしてならない。

 最初のイメージはもう既に消し飛んだ。美人には違いないが、今は色々アレそうな人にしか見えなくなってしまった。時々、自分のことを神だーとか言ってるし。

 もっと大人しい人だと思っていたんだけどなーって考えたり、いつの間にか呼び方が『君』から『さん』に変わっていたなとか考えてながら背を向けて歩き始めると。

 

「幽鬼さん、お待たせしました。ってどうしたんですか?」

 

 歩いて数分、振り向くと手提げ袋のようにした風呂敷を片手に持った彼女がそこにいた。思った以上に早く準備ができたらしい。

 

 いやいや

 

「いやいや、あんた早過ぎでしょ。どうせテントを野ざらしにしてんだろ? チハヤさん、悪いことは言わない。いくらボロいからって捨てテントを作るのはやめなさい」

 

 俺が背を向けて歩いてからたった数分足らずしかないはず。なのに準備ができた。

 これは“この人は捨てテントを作ろうとしている”と判断して、俺はこの無責任管理者に責任を持てと軽く訴えることにした。

 するとチハヤさんはそれは心外だと言わんばかりに

 

「失礼ですね! あなたは私が仮住まいとはいえ、支えてくれた物を見捨てるような冷たい神に見えるんですか!」

 

「あんたが神かどうかはしらないけど、いくら何でも早過ぎだから。どう考えても無理だから」

 

 仮に“時を止めてあと片づけしていた”とかならその状況を作り出せるだろうけどそれは考えられない。それはあくまでファンタジー世界での話だ。夢がない言い方でアレだが現実味がなさ過ぎる。

 

「でしたら、私の後ろを見てみなさい。それで納得できるでしょうから」

 

「よーし、分かった。じゃあ見させてもらうぞ」

 

 チハヤさんに退いてもらってテントのあった場所を見るとテントは影も形もなかった。そこにはまるで最初から何もなかったかのような地面があるだけだった。

 

 そんなところ見て思わず

 

「え? 嘘だろ!? あんた一体何をしたんだ!?」

 

 彼女に向かって思った疑問をそのまま投げつけた。人は信じられないことを前にすると冷静でいられなくなるという言葉をどこかで聞いたことがあるが、その時の気分はまさにこんな感じだろう。

 

「何って、私は仮住まいを片ずけた。ただそれだけですが?」

 

「それだけって。ええ」

 

 『こんなことってあるのか』という気持ちでいっぱいになっている。漫画とかの何らかの展開で、目の前で何が起こったか分からなくて困惑するキャラが敵味方問わずいたりするが、そんな人たちもこんな気持ちだったのかなとか考えてしまう。

 ちなみに俺が知っている限り、そういう展開になると大体の困惑していたキャラはそのまま敗北まっしぐらのルートに進んでいくものだ。

 

「そんなことよりも。さあ幽鬼さん、いえ、この世界の私の新たな信徒よ。共に参りましょうか私の新たな住まいへ」

 

「……チハヤさん。あんたの住まいじゃないから。俺の家だから。それと俺はあんたの信徒になった覚えなんてないから」

 

「細かいことは気にしてはダメですよ。それよりも幽鬼さん、さっさと来てくださーい。置いて行っちゃいますよー」

 

「はいはい。つーか、あんたは俺の家の場所分からないだろ。あんまり前に行くんじゃねーって」

 

 さっさと先に歩いて行ってしまう彼女を追いかけるように俺は家に帰っていく。こんな訳の分からない人が相手じゃなければ普通はあらんことを期待しちゃう展開なんだが、なぜかそんな感じがしない。また、なんか厄介事が起こるんじゃねって気がしている。

 まあその時はその時で考えればいいかとか考えながらとりあえず駅まで歩いて行く。

 

 

 あれ? 待ち合わせにしようとした意味なくね?

 

 

 

 そして、まさかその時がこんなに早く来てしまうなんて考えもしなかった。

 

 

 改札口では

 

「あれ? なんか私、通せんぼされているのですが? どうして私は先へ進めないんでしょうか?」

「それは通行券を入れてないからだ。ほらこれを使ってここに通行券を入れる」

 

「……」

 無言で通行券を受け取って指示通りに俺と共に改札口を通過する。幸いな事に俺達以外の人がいなかったので迷惑にならなかったのは運が良かった。

 

「……チハヤさん。俺が前に行くからあんたは俺について来な。また、分からない事があれば俺に聞いてくれれば教えるから」

「……はい、そうします」

 

「……まあ、初めてみるものに戸惑って間違うことは誰にでもある。だから――」

「やめてください。変に優しくされると何だか辛いです」

 

 切符を買わずに改札を突っ切ろうとした事が恥ずかしかったのか先程までの元気が嘘のように消沈したチハヤさんをフォローしたり

 

 

 駅ホームでは

 

「あの、幽鬼さん。大きくて四角い荷車みたいなのが何個も連結して動いているんですけど。あれは何ですか?」

「あれは“電車”と言って、俺たちを乗せて遠くに運んでくれるやつだ。いわゆる、あー、馬車みたいなものだよ」

「なるほど。ようは人力車みたいなものですね」

「……それよりももっと便利なやつだよ」

 

 電車を見て、少し元気を取り戻したのかチハヤさんが興味深そうに尋ねてきたので、電車について俺が知り得ることを色々話すことになったり

 

 人力車か。この人、もしかしたら電車を見るのは初めてなんだろうか

 

 

 電車内では小声で

 

「幽鬼さん、ここ……狭いですね。しんどいです」

「我慢してくれ。ここの人達みんなあんたと同じ気持ちなんだから」

「近くに私が掴まれるつり革とやらはないですし。……すいません、幽鬼さん。あなたに掴まらせて下さい」

「!? ちょっとチハヤさん!? あんまり抱き着かないで」

「ちょっ、我慢してください。私だって仕方なくなんです。……あの幽鬼さん。なんで私から目を逸らすんですか?」

「とりあえずチハヤさん、もう黙ってて。……降りるときは伝えるから」

 

 彼女の近くには掴まれるつり革がないため、どうやら俺に掴まる事を選んだようだ。どんな掴まり方というと、俺の両肩に彼女の手を添えて俺に身を預けているという状態だ。

 仕方ないことなのは重々承知なのだが、あまり密着しないでほしい。

 それと嫌だから彼女の方に向かないのではない。向けないだけだ。……向いたら意識してしまうからだ。嫌でも。まさかこんな所で自身の異性への耐性の無さが響くとは思わなかった。

 ……あ、今、凄く柔らかい感触が……いやいや、駄目だ。意識しては駄目だ。とにかく無心になろう。無心に。

 というか、チハヤさん。お願いだからあんまり動かないで。これ以上意識させないでくれ。頼むから。

 

 そんな俺を困らせるかの様に

 

『急ブレーキをかけます。ご注意下さい』

 

 思わぬトラブルが発生するようだ。

 

 ガコン

 

「!?」

「!」

 

 思わぬ揺れでバランスを崩しかける彼女を支えるかの様に思わず空いた手で支えてしまう。支えてしまった。

 

「あ、ありがとうございます」

「気にするな、それよりもすまんな。いきなり体に触れちゃって……」

「いえ、そんなことは――!?」

 

 最初の時よりも更に密着してしまったせいで俺が隠していたものが彼女にバレてしまったようだ。気付かれてしまった。

 

「あ、あの、その、すみません」

「……すまん」

 

 お互い何処か気まずい空気が流れたような気がした。終わった。なにもかもが終わった。

 

『発進します。ご注意下さい』

 

 無機質なアナウンスが流れて再び電車は動き出したが、俺の中の何かは凍りついたかのように動かなくなってしまった。

 

「……あ、あの、私は……その、大丈夫ですから。分かっていますから」

 

「やめて。もう何も言わないで。なんか辛くなるから」

 

 なんか色々もう何も考えたく無くなり始めていたが、完全に思考放棄も出来ないため、とりあえずお互い最低限のやり取りをしつつ自宅の最寄り駅まで向かう事にしたのだった。何となく気まずい雰囲気があったのだが。

 

 

 こうして予想以上の混雑と思わぬトラブルによって、何かあらゆる意味で終わった気分を迎えて、軽く自棄になりかけた事もあったのだった。

 

 

 

 こんなことがあったのだが、まあなんやかんやでちゃんと自宅の最寄り駅の改札まで彼女を連れていくことができたのだった。

 ただ1つだけ思うことがある。

 『急ブレーキめ、あんな思いをさせやがって許さん』

 という気持ちは芽生えたのだった。

 

 

 

     ◇

 

 

 駅の改札を出てしばらくするとチハヤさんから

「ところで、幽鬼さん。私に何を食べさせてくれるんですか」

 

 と隣を歩きながらそう尋ねられる。俺は視界に入ったある店を見て

「あー、じゃあ、コンビニでなんか適当に買って食べるっていうのはどう?」

 

 と彼女に提案してみる。馴染みがあるか分からないが

 

「こんびに……ですか?」

 やはり馴染みがないらしい。

 

「コンビニって、簡単に言うと大体の物を揃えている雑貨店みたいなもんだよ」

 

「雑貨店ですか。……やっぱり私の知る雑貨店とは全然違いますね。

 ここは……私にとって初めて見るものが多過ぎますね」

 

「……そうか。まあ、ちょっと考えてみてくれ」

 

「そうします」

 

 彼女が俺の提案について考えている間に、俺は目の前のチハヤさんについて考えていた。

 この人がただものではないという事はあの古テントの件で分かっている。

 ただ今までの出来事が総合すると、田舎者という印象にしてはあまりにも知らなすぎる。電車は勿論コンビニさえ初めてみたかの様な反応が多かった。

 ここまで来ると、チハヤさんの実家とは一体どんな場所なんだろうか。そこでどんな生活をしてたんだろうか。実はとんでもない僻地にいたのではと感くぐってしまう。

 ……そもそもこの人はこの世界の人間なのか?

 もし彼女が何処か別の世界からきた人間とするのなら今までの知らなすぎる反応にも納得出来る。

 って、いや流石に考えすぎか。アニメや漫画じゃあるまいし。

 そんなことを考えながら、彼女の返答を待っていると

 

「ふむ、いいでしょう。さあ幽鬼さん。私にそのこんびにとやらに案内してください」

 

「了解した。それじゃ行きますか」

 

「あっ、ちょっと待ってくれませんか?」

 

「? どうした?」

 

「思えば、私がここまで路頭に迷わずに来れたのもあなたのおかげですね」

 

「えっ。……あー、結果的にはそうなるのか」

 

「そうです。ですから――」

 

 言いたい事は分かった。でも

 

「待った。そういうのは腰を落ち着けるところまで来てからにしてくれ。まだ、途中だからな。それに人の目があると俺が落ち着かない」

 

 お礼を受け取るにはまだ早い。その旨と正直な俺の意見を伝えた。彼女は少し驚いた様に目を開いたが、直ぐに穏やかな笑みを浮かべながら

 

「ふふ、そうですね。では、それは後にしましょうか。さて、ふふん、この世界の食べ物が私の口に合うのか。楽しみですね。さ、行きますよー幽鬼さん」

 

「っ……おう、そうだな」

 

 すぐに切り替えてコンビニに入っていったチハヤさん。俺は何故か惚けていた。

 美人の笑顔というものは絵になるなんて言われているが、実際目の当たりにすると本当にそうらしい。

 ……別に俺はただ彼女の要望に答えているだけだ。なんか成り行きでそうなって流れているだけだ。それは間違いない。

 ……死ぬなんて考えたくないただそれだけだ。

 心の中で彼女にそんな悪態をつきながら、後を追うように俺もコンビニに入って行った。

 

 

コンビニでの買い物中、彼女は『こんなカサカサしたものに入ったおにぎりなんて』とか『こんな乾燥した麺なんて美味しいんですか』とか色々隣で喧しく言っていたが、それに対して『それは帰ってからのお楽しみってことでお願いしますよ』で切り抜けていった。

 会計の際はなぜか甘味物が必要分以上に多かったので、駄々をこねられたがその一部は元の場所に丁重に戻して頂いた。その際に『私の信徒のくせに妙にけち臭いですね』などと言われたが、適当に返答をしながら家まで帰って行った。

 

 

     ◇

 

 

 あれから隣でぶつくさうるさかった人を除けば、特に大きな問題がなく自宅に帰って来れてから、かれこれ数時間が経った。コンビニの時に口に合うのかとか色々言っていた人は

 

「うま~い!」

 コンビニのインスタント系にガッツリハマっているようだった。

 

「これあのさっきの乾燥した麺なんですか!? お湯を入れるだけで見違えるほど美味しくなるなんて! さっきの不平不満は無かったことにしましょう」

 

「そいつは何よりだ」

 

 目の前でインスタント麺を美味しそうに頬張っている人はついさっきまで、買ってきた麺を見て『お湯を入れるだけで美味しくなる? まっさかーそんな訳ないじゃないですか。安物ですし』とか言っていたのである。ところがお湯を入れて少し待たして食わせたらこの反応。なんていうか随分ちょろい。

 

「このびにーるに入ったおにぎりはどうやって食べるんですか? もしかして、このまま食べるんですか?」

 

「違うぞ。これはこうやってビニールを剥がしてから食べるんだよ」

 

「ほうほう。このびにーるというのは包みみたいなものだったんですねー」

 

「まあ、そうだな」

 

 こうして色々なやり取りを交わしながら、2人でコンビニ食を堪能したのであった。同時になんか1人で食っていた時とは違う懐かしい感じ……育て親と団らんをしていた時を思い出していた。

 

「それにしても安物と侮っていましたが、私の見当違いでした。ここのご飯も意外と悪くないですね」

 

「そいつはなりよりだ」

 

 ちなみに、今の俺たちの格好は2人揃ってジャージ姿で過ごして貰っている。が、なんていうか、いやチハヤさんが着られるような服が家に無かったから仕方なくだが、スタイルの良い人が着ると。どことは言わんが、目立つ。

 この人初対面の時からスタイル良さそうだなとか思っていたが、ここまでとは。あの電車のトラブルの事もあってかやっぱり見てしまう。

 そんな目で見てたことが割とすぐにバレて怒られると思って覚悟していたが、意外にもチハヤさんは『あのー幽鬼さーん。私が魅力的だから仕方ないかもしれませんが、あんまりそういう露骨な感じで見るのはよくないですよー』とやんわり言われた。

 その時は、怒られなくて良かったという気持ちといやこれは普通に怒られた方が良かったのではという気持ちが複雑に混じった何とも言えない気分になったものであった。

 ちなみにお礼の件は、頭を撫で回されるくらいですませた。他の案もあったのだが、全力で断らせてもらった。理由は簡単、俺が恥ずかしさに耐えられないからだ。

 

 

 

「ふう」

 あれからチハヤさんは俺の部屋の漫画に目をつけて、それらを占拠したあげくそこで引きこもってしまったので、仕方なく今は飯を食べた部屋で絶賛くつろぎ中だ。

 

 ようやく落ち着ける時間を得たからか。俺は今も現在進行形で部屋に引きこもっている人の占い……ではなく予言(?)を思い出していた。

 

「狙われている……ね」

 

 嘘じゃないのか……と思いたい。でも、あのチハヤさんという人が俺を騙している風にはみえない。もし仮に騙すのならもっと現実味のある内容になるはず……例えば悪霊が憑いているからこれを買いなさい的な占いをして多額の金額を吹っ掛けるとか。

 しかし、ある程度行動を共にしてきて何となく分かってきたが、彼女はとても人を騙せそうな感じにはみえなかった。

 もしあれが全部演技だったとしたら、俺は普通に人間不信に陥ると思う。

 

 だからこそ、彼女から聞いた話はいまいち現実味がわかないというのが正直だ。

 でも、今日感じた気配は気のせいだったとは思えない。一瞬だったけど、視線のようなものを感じたし、ついでに寒気みたいなものも感じた。

 これが勘違いならただの恥ずかしい思い出に1つになるだけだけど、今回に限ってはそれでもいいような気もしている。

 

 ただ、もし……もしもこちらを見ている奴の気配が気のせいではないのなら……本当にそんな奴がいるのなら。

 そう思ってチハヤさんから貰った符もとい俺のお守りを見るが

 

「……やっぱどう考えてもイマイチ実感がわかないなあ……だいたいほんとにいるのかよそんな奴。出てくるもんならさっさと出てきやがれってんだよ」

 

 

     ブツッ

 

 

 その言葉が引き金だったのかそれともたまたまタイミングが合ったのか

 突然部屋の電源が落ちた。

 

「!? なんだ停電っ!!?」

 

 言葉を言い切れなかった。目の前に起こっている不可思議なことが気を取られたからだ。真っ暗闇のはずなのにハッキリと見える。見えてしまった。

 視線の先には紫色の煙を突然現れ、その煙は1か所に集まっていき、ナニカが形をなしていく。

 そして――

 

「――――――!!」

 

 ――目の前に異形の怪物が姿を現した!!

 

「な、なんだ……あれ?」

 

 なんか目の前の怪物は咆哮をあげた……ような気がした。叫びらしいものが全く聞こえなかったが。

 見た目は恐ろしく不気味なオバケのような感じで、体色は真っ黒で所々に赤い模様のようなものと瞳のようなものが見当たらない完全に真っ赤な目が目立つ奴。それだけでもヤバそうなのにソイツの手の1本1本が尖った爪のようになっていて、口はもはやソイツの全体の3割を占めているほどの大口で、その辺の動物なら簡単に飲み込めそうなヤツだった。

 目の前の怪物はまるで地獄から這い出てきたこの世のモノとは思えないナニカだった。

 

「あ、あ、なんだあ――」

 

「――――――!!!」

 

 ビビっている俺の前にソイツは瞬時にこちらに近寄り、俺の両腕を掴みかかった。

 反射的に引きはがそうとしたが、できなかった。

 掴まれた両腕がソイツのウデと一体化してしまっていたからだ。

 異常としか言えない状況で俺は思わず

 

「ひっ……離せ、この化け物!!」

 

 思わず、ソイツの胴体にただがむしゃらにキックをしてどかそうと反撃したが

 

「!? すり抜けた!?」

 

 攻撃は当たらなかった……それどころか

 

「!? 足が抜けない!?」

 

 なぜかその化け物に片足も両腕と同じく取り込まれてしまっていた。何とかしようともがくが

 

「動か……ない!?」

 

 ビクともしなかった。こっちはすり抜けられるが、あっちは俺を普通に捕らえる事ができるらしい。

 

「――――――」

 

 ソイツは俺を巻き込みながら、自身を紫の渦に包みこんでいき、地面に沈んでいく。

 

「うあ、おおおお、離せ、離せえぇぇぇ――!!」

 

 ソイツから逃れようと残った足や頭で膝蹴りや頭突きをかますが

 

「!!」

 

 足も頭までもソイツの体にめり込んでしまう。

 

「―――!」

 

「幽鬼さん!!」

 

「っ!~~~!!」

 

 この声はチハヤさん! 助けて、助けてくれ!!

 そう言いたかったが、化け物にめり込んでいて声が出なかった。

 

「――――――!!」

 

「っ! よ……く……ましたねマ……ヒ! 私……が感……て、目覚……! 彼を……には……あ……の……には……ない!!」

 

 チハヤさんが駆けつけて何かしようとしているが、その前にあの化け物は何かをしたらしい。

 いったい……何が起こってるのか……分からない。……意識が……薄れてき……た。

 

 その間、化け物は地面にめり込んでいくように俺ごと体を沈め、薄気味悪い渦に包まれていく。

 

 その渦に呑まれながら、俺は限界が来たのか……そこで意識を手放した。

 

 

……………………

 

…………

 

……

 




ここまででプロローグといったところです。
次の投稿は現状未定ですが、ある程度ため込み次第少しずつ投稿していたいと思います。

また、内容の確認はしているのですが、誤字やこの表現はちょっと違うんじゃないみたいなことがあれば、その時はやんわりと教えて頂けるとありがたいです。
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