体は鉛のように重く感じられ、地面が液体になってしまったかのように、下へ下へと落ちていった。手足が行き場を失いふわふわと浮いている。胸の鼓動が強くなっていくのも感じる。次第に光は消え失せ、暗闇が視界を支配した。しばらくすると落下の感覚が無くなり、恐ろしくはあるがどこか落ち着く空間へと辿り着いた。そもそも空間かどうかもわからない暗黒。ロランは静かに目を閉じた。体がの疲労が癒やされていくのを感じる。
どのくらい経ったのだろうか、自分を包み込んでいる暗闇は依然として深く美しい。孤独は不思議と感じない。こここそが自分の居場所だとさえ思えてくる。
不意に体が軽くなったのを感じた。視界の先から一点の光が差し込んだ。深海から海面へと浮かび上がるように、自分の体がその光に向かって行った。ロランは、自分が生きているということを思い出した。光はますます強くなり、自分の体を包み込んだ。小さく人の声が聞こえてきた。女の声。二人の女性の声が聞こえる。
「もう3日も寝たままよ。この人。もう起きないんじゃないかしら。」
少女のような声が聞こえた。
「お医者様が言っていたのだから間違いはないわ。ソシエは看病を続けなさい。」
もう少し大人びた感じの声も聞こえる。
「お姉様は良いわね。他人事だもの。」
「…あなたはそうやってすぐ…」
二人は姉妹のようだ。
ロランは自分がベッドに寝ていたことが分かった。暖かく心地よい。暫くベッドの中で自分の体があることを確かめた。そして起きようと驚くほどに重い瞼を開けた。
「あら。」
すぐに横にいた少女と目が合った。自分より歳は少し下だろうか。茶髪のショートカットで目が大きい。活発そうな子だ。
「お姉様!起きたわ!」
姉と思われる人は窓の外を眺めていたようだ。
「あら。」
「丁度良かったわね。お姉様。」
「ええ…ロラン=セアックさん?」
姉妹の姉だと思われる人はカールした長い金髪が凛々しい雰囲気の人だった。しかしどこか懐かしさも感じる。
「…はい、そうです…」
体はまだ起きていないのだろうか。小さな声しか出せなかった。
「キエル=ハイムです。それでこっちは…妹のソシエです。」
「…はじめまして…」
ハイムと言う名前に驚いていると、妹のソシエという人が自分の顔を覗いてきた。
「あなた結構若い声をしているのね。もっと低い声だとおもってたわ。」
「…やめなさいソシエ。」
すかさず姉のキエルが注意すると、ソシエは不満そうに姉を睨んだ。
この短時間で姉妹二人の関係性が分かった気がする。
「起きてすぐに申し訳ないのですが、少ししたら通路を左に行って突き当りの部屋に来ていただけませんか?」
姉のキエル=ハイムの目は美しく澄んだ深い青色をしていた。
「…わかりました…」
ロランが返事をすると、キエルは接待向きな作り笑顔をしたあと、妹を連れて部屋を出て行った。
キエルという人は自分と同い年ぐらいだろうか。それにしては大人っぽくてしっかりしている。部屋には彼女の香水の匂いが微かに残っていた。嫌な感じはの無い、品の良い香りだ。