∀ガンダム 月の繭(推敲前版)   作:あかはか

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 自分の小屋に戻り、夕食を取って暫く経った。日もほとんど落ちたようだ。風のせいで建付けの悪い小窓が小刻みに震え金属音を立てている。空気と空気の擦れる音が、時折聞こえていた羊たちの声を打ち消しはじめた。まだ雨は降っていないが、じきに降るだろう。

 嵐の雨はいつも突然である。この華奢な家で嵐をこすのは、それなりの恐怖を伴う。街に行けば屈強な建物で溢れているが、こんな田舎のはずれでは話は別だ。このあたりの殆どの家屋は木造で、大男3人もいれば、10分もかからずに取り壊せてしまいそうな見た目をしている。

 しかし意外にも、こういった家々は丈夫だ。草原に点在する家は、住宅街の家のようにお互いを風雨から守り合うことができないので、かなり頑丈に作らなければいけないのだ。もちろんロランは一度も倒壊した家など見たことはない。こうも建物の体裁が貧弱なのは、最低限の木材しか使用しないからだろう。とはいえ、やはり嵐は恐ろしい。

 ロランは電気を消した。天井からぽつぽつと音がする。雨が振り始めたようだ。吹き付ける風のせいで家の至るところから軋む音がする。なかなかぐっすりとは眠れないが、ベッドに入り彼は目をつむった。もうほとんど羊の声は聞こえない。

 

 

 

 

 

 

 雫の音でロランは目を覚ました。朝焼けが眩しい。昨日の風雨が凄まじかったせいか、羊の出す音や木の揺れる音など、日常の音も耳につく。雫の音は雨漏りではなかったし、窓も割れていない。家は無事に嵐を越したようだ。ロランは安堵の息をついた。ただ畜舎はどうだろうか。ロランは眠くて半分ほどしか開いていない目をこすりながら、ベッドの縁に座るようにして起き上がった。もう日は完全に昇っていた。暫くしてから立ち上がり、外に出た。

 雨で濡れた草や木の葉が、日にあたり輝いている。虹色にも見えるその輝きは、ロランにとって、嵐がもたらす唯一の幸せだった。

 靴下が濡れてきたが、大して気にはならない。畜舎の方も遠くから見る限り大丈夫そうだ。念の為損傷を点検することにしたが、屋根も飛ばされていないし、壊れた箇所もない。羊たちも元気そうである。今年も無事に嵐を乗り越えた。ロランはやっと肩の力を抜くことができた。

 ひとしきりの雑務を終え、牧場を囲む柵に腰を下ろした。ロランはズボンに挟んである茶色みがかった古びたタオルで、額の汗を拭いた。時計を見ると、もうすでに午前10時をまわっている。

 仕事が一段落したら、お茶を入れた水筒を片手にラジオを聴く。これがここ最近のロランの日課だ。

 お茶が驚くほど苦かったのは玉に瑕だったが、空も晴れ渡っていて清々しい日だったので、街に行くことにした。こういう日でないと乗り気にはなれない。実物を見ておきたいものや通販だと送料が高いもののために、月に一回程度買い出しに行くのだが、ロランは人工的で都会風のヴィシニティの中央部が好かない。コンクリートと鉄で区切られた街。人さえもコンクリートと鉄でできていそうな街であった。

 ヴィシニティはかつてハイム家が経営する鉱山街だったのだが、次第にハイム家は事業を拡大していき、今やヴィシニティはハイム家の雇われ労働者たちによる都市となったのである。パン屋もあるし、工場だってある。セアック夫妻も例に漏れずハイム家に雇われて畜産業を営んでいたので、後を継いだロランも当然雇われ牧場主である。そうでもなければ、ロランのような庶民が地球に住むことはできない。ロランたちヴィシニティ市民は特例で、一般に地球の居住権を持つのは富裕層だけというのが現状であった。

 

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