また扉が動く音が聞こえた。
「悪いね。こんな連中で…」
後ろから女性の声が聞こえた。
振り向くと店員と思われた女が自分の横に座ってきた。
「みんな突然仕事を失ったの。だれも予想していなかった。前はみんな今より少しはマシだったのよ。」
女は話を続けた。
「なんでこうなったか。いろんな噂があるの。ハイム家が金鉱が見つかったのを隠してるだとか。御都合主義のハイム家が都合良く引き上げるんだとか…でも実際はなんだか良く分からない。」
ロランは店の中で無口だった女が饒舌に話すのを聞いて驚いたのもあるが、自分が今最も知りたいこと。ハイム家が撤収せんとしているという話がこの女の口から発せられたのに驚いた。
「…ってことは…ハイム家が引き上げるって話、やっぱり嘘なんですか?」
「分からない。数ある噂の一つってだけ。本当かもしれないし、違うかもしれない。」
間違いであると確証を持てたわけではないが、ロランは体が軽くなるのを感じた。
「ホワイトドールって知ってる?」
女は話題を替えた。
「いえ…」
「この辺りには土着の宗教みたいのがあって、ハイム家が来るよりもっと昔。ホワイトドールって言うのはあだ名なんだけど、その宗教の神様なの。今じゃ誰も信じていないけど。ハイム家の鉱山はホワイトドールが住んでる聖なる山だって信じられてたから、当初は反対運動があったそうよ。」
女は軽く笑った。
「今じゃありふれた童話の一つにすぎないけど、ホワイトドールが世界を救済するって話があるの。でも、その予言の内容があまりにも今の状況に似ていて、ホワイトドールを見つけたんでハイム家が鉱山を閉鎖したんだなんて信じる人もいるくらいなの…」
女はまた自嘲気味に笑った。
「私も信じてなんかいない…でも…神話で、そのホワイトドールと共に世界を救済する救世主の見た目が…あなたにそっくりよ。」
突飛な話に、ロランはつい笑ってしまいそうだった。女はそんなロランの様子を確認したあと、また話し始めた。
「緑の目の浅黒い肌の銀髪の青年…笑っちゃうわよね。あなたはすられた財布を取り返しに来た世間知らずのただの若者にしか見えないわ。」
「そうですよ。自分はただの世間知らずです。ハイム家の撤収が噂に過ぎないことを知れて僕は安心です。財布も戻ってきましたし、帰ります。」
ロランはとりあえず自分に直接関わる問題がすべて解決されたのを思い出し、立ち上がった。そして女に別れの挨拶を告げた。
彼がこの店に来るのはこれが最初で最後だった。