デュエルはありませんが、読んであげて下さい。
勝ってしまった。まさか、本当に勝てるとは思っていなかった。
案外、俺はデュエルの才能でもあるのかもしれない。
「そ……そんな……」
周りからは、意外だとかなんだとかっていう声が聞こえてくる。その中にブラック・マジシャンがどうのってのも混ざっているが、ホントに何なのだろうか?
それにしても、
「なかなか面白いもんだな、ミツル」
「面白いとかそういう話じゃなくてさ、すごいじゃんユート! なんでそんなにうまくデッキを扱えるのさ!?」
「ま、カードゲームは昔からそこそこ得意だったからじゃねぇか?」
これは事実だ。
Pカードは一応仲間内では一番強かった。
「で、だアダムよ」
もう呼び捨てでいいだろう。
「
「は?」
アダムのヤツ……怒っているのか?
どうしたんだ、急に。
「何故貴様がそのカードを持っているのだ!?」
「いや、なんの事だか……」
「『ブラック・マジシャン』……そのカード、どこで手に入れた!?」
「どこって言われてもな、つーかどうしたんだよ」
「……」
……無言ね。
ブラック・マジシャンを手に入れたのはもう10年近くも前の話だ。
ぶっちゃけ、
「知るかよ」
アダムも答えなかったんだ。俺の答えもこれで十分のはずだ。
「…………フン、まぁ今はいい」
アダムはミツルから渡されたイクイップメントを装着。どうやら、やる気になったようだ。
「絶望の準備はできたか? もやし野郎」
「へへっ、どっちがだよ」
誰がもやし野郎だ誰が。確かにもやしな感じのスリーブ使ってはいるが。
アダム程度、俺の最強デッキでコテンパンに……。
『おいあの初心者の次の相手、あのアダム様だぜ!?』
『マジかよ! 死神とデュエルするとか、正気じゃねぇな、あいつ』
『理性を疑うって、まさにこのことだな』
『あの期待の新星、死神に命まで刈られなきゃきゃいいが』
「……」
おいおい。
ぎゃ、ギャラリーがちょっと騒がしいな。
さ、さて、軽く倒すとするか。今の俺ならきっと勝てるさ!
俺は嫌な予感を感じながらも、アダムと戦う道を選んだ。
☆
「…………お?」
「あ、起きた?」
上から俺の顔を覗き込むミツル。
「お前、でかくなったな」
「なにバカなこと言ってるのさ。横になってるユートくらい覗き込めるよ」
あ、俺寝ているのか。
普通に考えて、ミツルが急に俺より育つわけがない。
「よっと」
とりあえず体を起こす。ここは……ショップのデュエルスペースか。
ダニエルがカードをいじっているのが見える。しかし、他には誰もいないようだ。
「なんでこんなとこで寝てんだ? 俺」
さっぱりわけがわからない。
「憶えてないの?」
「なにを?」
その時、俺の視界に壁掛けの時計が入ってきた。
時刻は、
「午後……8時……だと?」
「うん」
よく見れば、外は暗闇。まるで悪魔や死神でも出てきそうな……死神?
「そ、そうだったぜ」
時は数時間前までさかのぼる……。
☆
ユート
『LP:4000』
アダム
『LP:4000』
「ふん、我に勝てると本気で思っているのか?」
「もちろんだ」
アダムはメントに手をかける様子はない。ならば、先攻はいただこう。
「俺の先攻、ドロー!」
ユート
『LP:4000』
『手札:6』
「よし」
なかなかの手札だ。出だしは上々といったところ。
「俺はモンスターを裏守備でセット、そしてカードを2枚伏せる」
セットモンスターは、戦闘で破壊された場合にデッキから星2以下の魔法使いモンスターを場に呼べる効果を持つ『見習い魔術師』。
伏せカードは共に攻撃妨害系のトラップ。守りは完璧だ。
「ターンエンドだ」
ユート
『LP:4000』
『手札:3』
「ククク……」
「!?」
アダム、なんで笑っているんだ?
「我のターン、ドロー」
アダムがゆっくりとデッキトップのカードを引く。どうしてか、まるで相手の手札がすべて切り札であるかのような不安と絶望感を覚えた。
アダム
『LP:4000』
『手札:6』
「さて、早めのエンディングを迎えるとするか……」
アダムはそう言い、不敵に笑っていた。
☆
そして時は現在へ。
「そこまでしか憶えてねぇ」
「まぁ、プレイ初日にワンターンキルのフィードバックだもんね……」
「あ? ワンタン?」
俺はあのギョーザの煮たやつみたいな食べ物を思い浮かべる。
「違うよ、ワンターンキル。1ターンの内に相手のライフを全部削り取る事だよ」
「え? 俺がそれをされたって?」
「うん」
「そんなバカな……」
あの布陣を突破された上、ワンターンキル? それはさすがにありえなさすぎるだろう。
「なぁ、お前から見て、俺らのデュエル、どうだった?」
アダムの手札が偶然完璧だったのかも。
「予想通りって感じかな」
なるほど、アダムはいつも通りだったわけか。
凄く悔しいが、
「強すぎだろアイツ」
「そうだよ、アダムが負けたところなんて見たことないし……」
本当かよ。そこまで言われると、当然あの疑問が浮かぶ。
「アイツどんなデッキ使ってんだ?」
「それも謎」
「いや、デュエル見てたんだろ?」
「見てたよ。うーん……しいて言えば『闇』なのかな?」
「闇属性デッキ、か?」
「うん。でも使うモンスターは闇が中心なだけで、闇『だけ』じゃないみたいだし、ホント謎なんだよね」
「と、いうと?」
「例えばアダムにはこんな武勇伝があるんだよ。えっとね……」
さかのぼること数年前。
ミツルが遊戯王を始めたばかりの頃の事らしい。
当時このホビーショップはよく素行の悪いチンピラ、まぁつまりDQNデュエリストのたまり場になっていた。
DQN(5人)がたまっていた時、運悪くとある少年(A君とでもしておこう)がカードを買いに来た。
まぁDQNは絡むわけだ。A君は買ったカードを奪われ、その上デッキも奪われたそうだ。
その現場に閃光が如く、1人の少年が現れた。
アダム少年である。アダム少年はDQNにやめるように言うも、当然かなわない。大人のいう事も聞かないDQNが年下であるアダム少年のいう事を聞くわけがない。そこでアダム少年はこう持ちかけた。
『ここまで愚行をはたらける程の力があると言うのなら、我にすらゲームで勝てないことはあるまい? もし勝てないのであれば……フッ、ここで痴態でも晒すか?』
つまり、『我にデュエルで負けたらもう帰れ、二度と店に来るな』ってことだ。しかし相手は小心者のくせに悪知恵働くDQN5人衆。絶対負けないある作戦を思いつく。それは、相手は1人。DQNは5人。その上で勝ち抜き戦にするという卑怯極まりないものだ。アダム少年にはデッキを変えたりする時間を与えず、自分たちはたとえ先にデュエルしたDQNが負けても、アダム少年の使用カードを見ることで後でデュエルするDQNは対策を立てられるという、最低の作戦。しかしアダムはこのルールを承諾。
「なかなかいい作戦じゃね? かっこ悪すぎて俺なら絶対やらんけどさ」
「うん。客観的に見て、アダムに勝ち目はほとんどなかっただろうね。でも……」
アダム少年は勝った。
話によれば、アダムは5人それぞれに対し『別々の戦略』を使ったらしい。当然使用デッキは1つだ。詳しくは解らないが、例えるなら1人目は高い攻撃力で攻める『ビートダウン』で勝利。すると2人目のDQNは破壊体制持ちのモンスターや攻撃妨害系のトラップで対策を立てたとする。しかしアダムは今度は効果ダメージを狙う『バーン』に戦略を変え勝利。すると3人目はその対策を立てる。しかしアダムはまた戦略を変え、対策は無駄に終わる。このありえない戦法だ。
負けたDQNはアダムに罵詈雑言を吐きながらも羞恥のあまり逃亡。無事A君のカードは返却され、アダムは伝説の最強デュエリストに。その名残として、今も一部の人間からは『様』付で呼ばれたり、そのありえない強さを恐れている人間からは『死神』などと呼ばれているそうだ。
めでたし、めでたし。
「つまり1つのデッキで全員分・・・最低でも5つの戦略を使ったと?」
「うん。そうなるね」
「無理だろ? 常識的に考えて」
デッキはふつう1つの戦略を成功させるために組むものだ。
あまり詰め込むと、カード達が互いを邪魔しあい、1つの戦略も成功しないのが目に見えている。
例えれば、せっかく部員同士の統制のとれた仲良し熱血野球チームに、腕が立つからと無理やり冷静沈着で相手を分析するスタイルの選手を入れて試合をしても、結果は大体予想がつくだろう。
そういうものだ。
「でも事実らしいよ?」
「見たことあんのか?」
「ううん。僕の知ってるアダムは1つ目の戦略で勝っちゃうもん」
俺は空気と化している赤髪に目を向ける。
「ダニエル」
ダニエルは待ってましたと言わんばかりに話始めた。
「おう、聞いてたぜ。事実だと思うぞ。俺もよくアイツとデュエルするが、何度か2つ目、3つ目の戦略を使わせたことがあるぜ。ま、相手が本気じゃいつも1つ目で終わるがな」
「マジかよ……って、え?」
本気じゃない時があるのか?
それは意外だ。アイツなら小学生相手でも全力で叩き潰しそうだが。
「ああ、よくアダムの調整したデッキの相手させられるんだよ。ためしデュエルのときだけたまに勝てるんだぜ? まぁアダムも新しい戦略とか考えて、勝ったり負けたりして成長してるってこった。アイツのデュエルに対する姿勢には感服するぜ。ま、俺はどんなに頑張っても本気のアダムには1度として勝ったためしがねぇ。1つ目の戦略で詰みだ」
つまり、その最強のアダムも日に日に最強に磨きをかけてるってことか。恐ろしい話だ。
「ま、そんなアダムデッキにも共通しているものがあるぜ」
「なんだ?」
「使用モンスターは基本『闇属性』だってことだ」
「……ああ」
なるほど、ミツルの言ってた通りに、『闇』。アダムの練習相手のダニエルが言うんだ。間違いないのだろう。
その時、
「あ!!」
ミツルがいきなり大きな声を上げた。
「どうした? トイレならあっちだ」
「トイレじゃないしあっちは女子トイレだよ! 闇と言えば、ブラック・マジシャン! あのカード、なんで持ってるのさ!!」
ああ、ブラック・マジシャンね。みんなして、どんだけ好きなんだよ。
「あれは、あれだ。多分、昔手に入れたやつだ。Pカードの時の」
「間違えて買ったやつに、含まれてたってこと?」
「ああ、それでほぼ間違いない」
「へぇ……なんか運命を感じるね」
「なんで?」
「『ブラック・マジシャン』は伝説の魔法使い。レプリカはあっても本物は幻のレアカードなんだよ?」
「え、そうなのか、なんでわかんの!?」
「レプリカって文字がないし、何よりレプリカはイクイップメントで召喚できないからね。それが証拠」
「価値は!?」
「計り知れないよ。売れば一生遊んで暮らせると思うよ?」
「ええぇ……これがねぇ……」
俺はブラック・マジシャンのカードを眺めてみる。
今でもこいつを手に取ると、変に気になるというか、ゾクゾクした感覚を感じる。
「なんか特別なカードなのか?」
「うん。昔からなぜかレプリカって文字が入ったヤツが出回っててさ、レプリカじゃない本物が存在するかも公表されてない状態なのにだよ? それに、他のレプリカ版があるカードの本物の存在と枚数は、少ないにしてもある程度確認できるよね? 普通。対してブラック・マジシャンは本物の存在が全くの不明だった。存在が公になれば大騒ぎになると思うよ?」
「へぇ……なるほど。って、公にしちまったじゃん!!」
かっこよく召喚したぞ俺!!
「ああ、それならアダムが何とかしたらしいから大丈夫」
何とかってなんだろうか? 何とかなったならありがたいことだが……。
それにしても凄いカードだったんだな、コレ。そんなレアカードだからアダムも気にしていたんだろうか?
売ってしまうか? いや、やめよう。売ってしまったらつまらない。これから面白くするにはどうすればいいんだろうか……答えは簡単に出た。
「よし、決めた。俺はコイツと最強を目指す!」
「と、言うと?」
ミツルが心配そうな表情をする。
大丈夫だ、頭おかしくなったわけじゃないから。
「アダムを倒す!!」
「うおっしきたぁ!!」
ガタッっとダニエルが勢いよくイスから立ち上がった。
「俺はずっと考えてたんだぜ……どうしてやったらアダムの野郎に一泡吹かせてやれるかってな。そして気づいたのよ。1人じゃ絶対勝てねぇ……なら、互いを高め合える同じ目的を持った仲間が必要だってなぁ!!」
ビッっとダニエルは俺を指さした。
「そいつが今、ここに現れた!!!」
「俺?」
「そうだ、俺と組んで、一緒にアダムの野郎をボッコにしてやろうぜ!!」
「……」
何故か一気にくだらなくなった気がする。
だが、
「面白い」
ここに新たなる友情が芽生えた。
「ちょっと、2人してなんかずるいよ!」
「男の友情だ、邪魔すんじゃねぇぜ!」
「ひどいよダニエル!!」
「で、どうやったら強くなれると思うよお前ら」
無視されたミツル。かわいそうなヤツである。
俺は、ここでふと入口にあったポスターを思い出した。
「そういやダニエル。近々でかい大会の予選があるんだろ?」
「……ああ、そういやそうだな。なんだっけ、3人1組のヤツだろ? 8月だかにやる、世界大会の」
「おう。この際だ……」
俺はダニエル、ミツルと交互に目配りする。
「出てみねぇか?」
「……なんで?」
「一応聞くが、アダムのヤツが大会で結果残してるって聞いたことあるか?」
「うーん、知らねぇな」
アイツ人ごみとか嫌いそうだからな。想像通りだ。
「だからよ。俺たちの実力を高めるのにはもってこいじゃねぇか? アダムもいないんだし。それに優勝できればアダムの最強伝説も揺らぐってもんだ」
『最』強なのだから、それが複数存在するのはありえない。それに周りから見たら、地元で負け無しと世界の頂点、どっちが強いと思うかは明白だろう。
「なるほどな……いいかもしんねぇぜ!!」
「だろ?」
最強を目指すには大きな大会は必要不可欠だ。そして大会に出るために必要な3人チーム。それもすでに完成している。
「俺、ダニエル、そしてミツル。俺はこのチームで最強を目指す!!」
最強を倒すなら最強を目指せってことだ。
「おう!」
「う……うん!!」
ミツルのヤツ、感激のあまり泣いてやがる。
よし、アダムを倒すのも悪くないが、とりあえず今は大会で優勝を狙おう。
「そして最終的にアダムを倒し、ミツルに土下座で謝らせるんだああ!!」
「え? なにそれ?」
「あ?」
「謝らせるって」
声に、出てただと……? なんか、凄く恥ずかしいんですけど……。
見えはしないが、きっと今の俺の頭は耳まで真っ赤になっているだろう。
「あ、ああ。アイツ、今日ミツルに暴言吐いてただろ? だからさ……」
「え……ああ! あんなの日常茶飯事だよ。全然気にしてないよ?」
「え? そうなの?」
「うん。だってあれがありのままのアダムだし。むしろアダムが丁寧な言葉とか使ってたら気持ちが悪いよ……」
「そ、そうなのか」
なんか拍子抜けしたな。俺にはアダムが悪の根源みたいに見えてたんだが……。
「でも、ありがとね。心配してくれてさ。さすがユートだよ!」
ミツルはにっと微笑んだ。
「……おうよ、まかせとけ!!」
ったく、俺はその顔が見たかったんだ。
ミツルの笑顔を見ただけで、なんでもできる気がしてきた。今ならアダムを倒せる気さえする。だが、そう思うだけで、今の俺にアダムを倒すことは不可能であることを俺は知っている。だから、俺は強くなる。強くなって、アダムを超える男になるのだ。
~続く~
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