「ところでさ、2人とも」
「ん?」
夏の暑さがピークに達し始めた今日この頃。
ミツルが唐突に、デュエル(人が集まらないようにテーブルで)していた俺たちに声をかけた。
「なんだ?」
ダニエルも自分のターンを中断し、ミツルの方を向いた。
「この間言ってた世界大会の予選のエントリー、始まってるみたいだよ」
ミツルはデッキをシャッフルしながらそんなことを言った。
「あ、そういえばそうだな」
もうそんなに経っていたのか。気が付けば8月に入っていたんだな。
「で、どうする?」
「どうするも何も、エントリーするだろ」
「だな」
デュエルは中止。
ダニエルの承認も得て、俺はショップのカウンターに向かう。エントリーはカウンターでやれるらしい。カウンターで登録用紙をもらい、書き込む。
えーと、一勇ユート、火焔ダイキ、十花ミツルっと……チームリーダー? 俺だろ。俺は順調に全ての項目を埋めていった。そして提出する。
すると、カウンターで細かい予定やルールの書かれた冊子を渡された。とりあえず2人に見せる。
「ルール? まぁ大体解ればいいだろ?」
「いや、ちゃんと読もうよダニエル……」
と、いうことで3人でしっかり大会の予定とルールを確認することにした。
『予定』
1日目……予選。
デュエリスト人口が一定以上いる各国で予選を行い、優勝チームが決勝へ進出する。
※決勝開催地である日本のみ、2チーム決勝進出チームが選ばれる。
2日目……決勝。
日本で開催された予選より1週間後、決勝を行う。決勝はトーナメント戦で行われ、優勝者には真のデュエリストの称号、トロフィー、及び特別なカードが贈呈される。
「特別なカードってやっぱデュエルモンスターズだよな?」
まさかテレホンカードとかではないだろう。
「そうだぜ? いつだったかの大会はプラチナ製のカードだったらしいぞ」
「マジかよ……」
それは素直に欲しいな……。売ったらいくらになるのやら。
「ちなみにダニエル。前の大会の優勝者はどこのチームなんだ?」
「ああ、日本代表だ。チーム名は……なんだったかな、確か……?」
「チーム『
ミツルがダニエルへ助け船を出した。
仮面……というと、全員素顔を明かしていない。そういう事だろうか?
「そうそう。鬼のように強いらしいよな。1度デュエルしてみたいもんだぜ」
「そうだよね。ずっと優勝し続けてるらしいし」
ずっと優勝し続けてる……まさに世界最強だな。
チーム『零』か。0、無、一瞬で相手を倒すってところだろうか?
アダムあたりが付けそうなチーム名だ。
世界最強、近々俺たちが手に入れる予定の称号だ。確実に、どこかで戦う事になりそうな予感がする。
「……っと、次はルールか」
『ルール』
予選(日本)……一定のフィールドの中でサバイバル戦を行う。
10のブロックに分けられる。
※必ずデュエル・イクイップメントを使用する。(レンタル可能)各ブロックで優勝者を決め、その後、各ブロックの優勝チームを2つのトーナメント表に抽選で割り振り、決勝を行う。そして決定した2つの優勝チームを予選優勝者とする。
サバイバル戦……制限時間は8時間。
1番多くのチームに勝利したチームが優勝となる。
※同率首位が存在する場合、そのブロックで決勝戦を行い優勝を決める。
※デュエルを仕掛けられたチームは断れない。
※1度敗北したチームはその時点で敗退。
※すでに他チームに勝利しているチームに勝利した場合、勝利チームは相手の勝利数も勝利数に付け加える。(例:2勝しているチームAが5勝しているチームBに勝利=チームAの8勝とする。)
※他チームのデュエルの妨害、傷害行為等を起こした場合、強制敗退及び今後の大会参加禁止等の処分を与える。
※大会開始前にブロックの残りチーム数等を表示するタブレットをチームに貸し出しする。このタブレットは一定範囲に同じものを所持した者がいる場合、相手の位置が表示され、通信でデュエルを申し込むことができる。
決勝……トーナメント戦。
各国の予選通過者をトーナメント表に抽選で割り振り、トーナメント戦を行う。
※必ずデュエル・イクイップメントを使用する。(レンタル可能)
予選・決勝共通ルール……対戦は3対3で行う。
互いに1人1回デュエルを行え、先に2回勝利したチームの勝利となる。ただし、チームリーダーはチームリーダーとしかデュエルできない。
※片方のチームがチームリーダーのデュエルを希望した場合、必ずチームリーダーで迎え撃たなければならない。拒否はできない。
※詳しい対戦の内容、及び相手の使用カード、戦略等を他チームに漏らす行為は禁止する。
※使用禁止カード、コピーカード、オリジナルカードの使用は禁止する。使用制限のあるカードを使用する場合いは、制限枚数厳守の上使用する。
「なるほどな」
面白いルールだ。
特にこのサバイバル戦とやらは面白そうだ。
「なぁ」
「あ?」
ダニエルが『チームリーダー』と書かれた部分を指さし、言った。
「さてはコレ、お前だろ?」
……フッ……気づいてしまったか。
「そうだが? よく解ったな。さてはお前天才か?」
「いやー、ってそうじゃねぇよ! なんで勝手に決めてんだよテメェ!!」
「悪いのか?」
「俺たちに許可とれよ、同意求めろよ!!」
「全俺が同意した」
「……それじゃ意味ねーんだぜ……?」
理由ならある。どうせリーダーなんかはなかなか決まらないに決まっている。俺はただ、無益な争いを事前に止めただけだ。むしろ感謝してほしいぐらいだ。
「つーかもう決まったことだ。文句ならエントリーを俺に任せた自分に言え」
「くっ……」
悔しそうに黙るダニエル。
にしても、『チームリーダーはチームリーダーとしかデュエルできない』ねぇ……。つまり、チームリーダーのみ相手を選べない。相手は既に決まっているということ。
チームリーダーと言うのだから、どこのチームもチームの代表、チームを統べるに相応しい者。つまりそのチームの最強が選ばれているはずだ。
俺がそれに相応しいかだが……。
「お前リーダーなんて大丈夫なのか? 一番デュエリスト歴短いくせによ」
ダニエルが心配そうにそう言った。
まったくこいつは……。
「大丈夫だ。そもそも俺が言い出したことなんだから、俺が一番重要な役回りをするさ。それにデュエルにキャリアは関係ないだろ? 現にお前と渡り合えるぐらいにはなってんだ。安心しろ」
「……まぁ、大丈夫か。つーか悩んだってしょーがねーぜ」
そうそう。その通りだ。
「よし。じゃあダニエル。その辺の奴ら連れてこい。ひたすらデュエルするぞ! あ、ミツルは予選までにはデッキ完璧にさせとけよ!」
「うし、まかせろ!」
「うん。わかったよ」
2人は各々の行動を開始する。
どうよ? 俺、意外にリーダーとかやれそうだと思わないか?
☆
「さて……っと」
帰宅。
今日もショップの閉店ギリギリまでデュエルしてしまった。
ミツルは前に遅くなった時、親に叱られたからと早めに帰ったが、俺とダニエルだけで熱くなっちまったな。俺も帰宅時間には気を付けねぇと。
「ただいまー」
ピシッ……。
「う……」
な、なんだこの空気は……。
ヤバい、ヤバいぞ、逃げろ、ここは危険だ。そう俺のセンサーが叫んでいる。俺は一度玄関を出て、表札を確かめた。間違いなく我が家だ。
再度突入。
ピシッ……。
「くっ……」
なになになになになに!?
なんでこんな伏魔殿みたいな空気になっているんだ!? 怖いんですけど!!
「帰ったか……」
リビングから聞きなれない声がする。
声色のダンディーな感じは、なんとなく憧れを感じさせるものだった。でもどこかで……ってこの声は!?
俺はこの緊急事態を脱するべく、玄関という出口を駆け抜けるため、振り返った。
「お帰り」
そこには鬼の様なオーラを纏った体格のいい中年の男性が1人。
ってなんでいんのおおおお!?
さっきリビングから声を聞いたばかりのはずだ。仕方ない、こうなってしまったら我が部屋での籠城を決め込むしか……。
俺は瞬時にクラウチングスタートの体制をとった。最短時間、及び最短ルートでマイルームへの退避を成功させられれば、
「そんなに焦って、どうした? 息子よ」
さっき後ろにいたでしょあんたああああああああああ!?
そう、この魔人こそ俺の親父。俺はなすすべもなく、リビングへと連行されるのであった。
☆
「……さて、」
親父は煙草に火をつけ、咥えた。
「……なんで……しょうか?」
「最近、帰りが遅いらしいじゃないか」
「……そう、みたいだな。はは」
乾いた笑い声が喉から漏れ出す。
最近の親父はいつも帰りが遅いから、まさかばれるとは思わなかった。お袋は俺の帰宅時間とかには無関心だから、告げ口の心配はなかったし。
つーか親父の言う門限は午後4時だぜ? 早すぎるだろ、もうちょっと時間くれよ! 俺は心の中でそう叫んだ。
「お、親父。今日はお早いお帰りですね……?」
「まぁな、たまにはな」
ヤバい。
全く和やかな空気にはならないし、状況を脱する方法が思いつかない。
「息子よ、そういうお前は遅いお帰りのようだが?」
「……はハハ、まぁ青春してますからね」
「不純な青春だな」
「……はハは」
俺の青春をバカにするなクソ親父。
どうすればいい、俺。そうだ、ミツルに知恵をかしてはもらえないだろうか。アイツなら俺の親父の恐ろしさを熟知した上で、いい案を授けてくれるはずだ。
俺は親父の死角であるテーブルの下にケータイを忍ばせ、叩いた。
『魔人みたいな親父がマジ切れしてんだけど、どうすればいい?』
一応ダニエルにも協力を仰ごう。どんな脳味噌でも多い方がいい。
よし、送信…………来た!
俺は受信メールを確認する。
ミツル
『諦めるしかないんじゃない?』
ダニエル
『倒せ』
諦めたら俺はここで死ぬだろう。
そして倒せるわけがない。
俺
『無理』
送信…………受信。
ミツル
『じゃあそうだね……なんで怒られてるか知らないけど、自分が正しい理由でも言ってみたら?』
ダニエル
『ファイ!! ファイファイ!! ファイトアアアああああああアアアアああああアア!!』
なるほど。つまり、言い訳してみろということか。どうしたダニエル。狂ったか?
よし、この際だ。あることないこと混ぜまくって最強の言い訳してやろう。俺は脳をフルスピードで回転させ、理想的な言い訳を構築した。嘘の上で相手の情をつくという最低最悪の言い訳だが、手段を選んでいる暇はない。
「親父、実はな」
「どうした?」
「俺、今度とある大会に出場するんだ」
「……ほぅ」
親父は興味を示したようだ。ここまでは本当のことだ。
「俺には今、好きなヤツがいて、そいつはその競技が大好きなんだ。だから俺、その大会でいい成績残したら告ろうって決めたんだよ!」
「なんと……」
親父の口からタバコが落ちる。それを親父は慌てて拾った。
「俺は今、必死でトレーニングに励んでる。応援してくれる仲間もいる。大会は近い。だからトレーニングのせいで帰りが遅くなることも多いんだ」
「……」
親父は動揺を隠せていない。俺が今だけいい息子過ぎてるせいか涙を浮かべている。
「……でも、そんな理由、親父からしてみればやっぱり不純だよな……」
親父は勢いよく立ち上がり、叫んだ。
「そんなことはない!!」
……勝った……。
「息子よ、お前がそんなに成長していたとは……父さんうれしいぞ」
親父は俺の両肩に力強いごつごつとした両手を置いた。
「そ、そうか?」
なんというか、泣けてくる。
俺のほれぼれするほど最低な言い訳(嘘)に。
「帰宅時間には目をつむろう。愛しの彼女、いつか父さんに紹介してくれることを楽しみにしているぞ!」
「ありがとう、親父……」
こうして、俺のデュエル時間は確保されたのだった。
☆
次の日。
「おーす」
礼の如く俺はショップへ来ていた。
ミツルとダニエルの2人が俺を出迎える。
「ユート、大丈夫だった?」
ミツルが俺の身を案じている。
「ああ、平気だ。今度からはちゃんと遅くなるって連絡入れておけばいいってよ」
「へぇ、あの親父さんがねぇ……珍しい」
それはそうだろう。嘘をついてきたわけだし。
「ユート……どんな戦いだった?」
どうやらダニエルは俺が親父と戦ったと思ってるらしい。
「ああ、数発貰っちまったが、俺の必殺『内臓砕き』が決まって再起不能にしてきたぜ」
「ま、マジかよ……なかなかエグそうな技名だぜ」
ダニエルは『コイツやっちまったな』という顔をしている。お前が倒せって言ったくせにな。
「ま、ウソだが。話し合いで解決した」
「……だ、だよな! 知り合いが犯罪者になったかと思ったぜ。しかもそれに俺がかかわってるって解ったら俺も追われる身になっちまうからな」
コイツ、冷静だかそうでないかよくわからん思考をしてやがるな。つまりアホだ。
さて、色々あったが大会は近い。しっかり戦えるようにしておかなければならない。
「よし、大会は近いぜ。デュエルあるのみだ!!」
俺は自慢のデッキに手をかけた。
その時だった。
「フッ……滑稽だな。人間」
「!?」
俺の言葉にそんなこと言い放ったヤツは……というか、そんな言葉を使うのは1人しかいない。俺は声のした方向、ショップの出入り口の方を見た。久しぶりに現れたか。
そこには、アダムが立っていた。
~続く~
もうすぐ大会が始まります。
アダムの登場は徐々に少なくなりますが、彼もメインキャラの1人であることを忘れないで下さい。