Kenshi -20years later- 作:さわやふみ
(こいつ・・・!なんて腕力だ!)
高らかと打ち上げられた猟犬の半身がまだ宙を舞い地面に落ちてもいない間、誰もが驚愕して動けないでいた。
そしてガルベスは敵が動き出すのを待たなかった。
さらに踏み込みながら返す刀でブラックドッグの剣士を1人一刀両断したのだ。
「は・・・へ・・・?」
半分になった剣士は斬られたことを自覚することなく絶命した。
残る最後の剣士はこれを見て無言で逃走を開始する。
しかしガルベスは懐の短剣を素早く抜き取り空中で刃先をキャッチするとそのまま逃走している剣士の背中に投げつけた。
背中の真ん中に短剣が刺さり剣士はそのまま前のめりに倒れ動かなくなった。
この間およそ10秒の出来事であった。
「ふん、ブラッグドックか。プロの傭兵を名乗っている割には大したことない連中だぜ。」
ガルベスはビュッ!と板剣についた血を飛ばすと何事も無かったように背中に背負った。
「ガ、ガルベスさんありがとうございます。助かりました。」
グンダーは恐る恐るお礼を言った。
そして会話の流れでガルベスが提案する。
「そろそろ野宿場所を探す必要があるな。そこの使えない護衛2人に場所を探してもらいますか。」
ルイとトゥーラのことを言っているのだろう。
ドクン、ドクン・・・
重武器による圧倒的な剣技と散らばったブラッグドックの死体を見て、自分の心臓の音が聞こえてくるぐらい高鳴っているのが分かる。
先ほどの威勢は完全に消え失せた。
この男との会話は一つ間違えればブラッグドックの剣士たちと同じ末路になるのではないか。
そんな不安が身体中を支配し、蛇に睨まれた蛙のように動けなくなる。
戦闘中も何も動けなかった。
もはや実戦不足なのは見抜かれている。
命令されるのが癪にさわるがここは大人しく言うことを聞かざるを得ないのだ。
二人は水場に近くて見通しが効く場所を見つけて報告した。
「よし、では皆の水筒に水を入れてこい。この料理用の鍋にもな。早くしろ!」
「くっ・・。」
場は完全にガルベスが支配していた。
ルイ達はもはや雑用としての扱いだ。グンダーも何も言えないでいる。あんな鬼神のような立ち回りを見せられたら当然かもしれない。それほどガルベスの力は常軌を逸していた。
「トゥーラどうする?取り敢えず行くか?」
「ええ、そうね。悔しいけれど今は従っておくしか道はないわ。」
トゥーラも新米テックハンターながらガルベスと自分達にある簡単には覆せない大きな実力の差を実感していた。
それゆえ、ガルベスの前科から判断していつ敵対者になってもおかしくないこの男と行動を共にし続けるリスクを恐れた。
(行商人グンダーではガルベスの手綱を押さえきれない・・・とはいえ私達が契約を途中で破棄した場合、何らかの瑕疵が発生する可能性がある。そもそもテックハンターの信用度低下に繋がる行動を自ら行いたくない。ここは全行程を穏便に乗り切るしか方法はないのか・・・)
任務継続しか選択肢がないがトゥーラの心の中で何かが引っ掛かっていた。
夕飯は一つの焚き火を皆で囲い、それぞれ持ち寄った食糧を自由に調理して食べた。
他者の襲撃に備えてあまり距離を取ることは出来なかったのだ。
ガルベスは酒を飲みながら上機嫌で過去の自慢話を行商人にしている。
(酒グセは悪くないようね・・。しかしこの男の自慢話っていつも同じじゃない?口を開けばアイゴアの部隊の話だけじゃないの。せめて自分の功績を語りなさいよ・・・!)
トゥーラは不快感を表に出さないよう黙々と食事していた。
(そういえば・・・!ルイは大丈夫なの?この子すぐに表情に出すし、もしかすると口にも出しちゃうわ!)
トゥーラは慌ててルイを確認する。が・・・
ゾク
思わず鳥肌がたった。
ルイは凍るような冷たい目でガルベスを凝視していたのだ。
(これは・・殺意?いえ、それとは違う何か人間ではない別の人格が表に出てきたような・・)
それは今までのルイとは思えない、初めて見せる目であった。
「ルイ・・ルイ!」
トゥーラは思わずルイに声をかける。
「ん!?ああ、なんだ?」
「あなたそんな目でガルベスを見ていたら気づかれるわよ!?」
「そうだな・・・。ちょっとガルベスの話で思い出したことがあり、つい聞き入っちまった。」
そう言ってルイは手元のドライミートに荒々しく短剣を突き刺す。
「な、なによ・・何か気になること言ってたの?」
「ああ。いつかあの男に問い詰められる日が来るといいな・・。」
それ以降ルイは何かを胸の内にしまいこんだように口を閉ざしてしまった。
夜は交代で見張りをとっていたがこれといった問題は起きず、一行は朝方にブリンク行きを再開した。
ルイは夜からずっと気難しい表情であったが、もうすぐ新しい町に着けると知るといつもの明るいルイに戻った。
そしてしばらく歩いた頃
「もうすぐブリンクですね。ちょっと此処等で休憩を取りますか。」
行商人グンダーが背中に背負った荷物をおろし皆に指示する。
他の行商人達も世話しなく荷物の確認など行い始めた。
ガルベスも不服を言わず言う通りに自分のバックを下ろし備品の整理をしていた。
しかしこの光景を不思議に思う人物がいた。
トゥーラである。
(もうほんの少し歩けばブリンクだと言うのにこんな手前で休憩するの?この辺りは猛獣のピークシングも出るしブラッグドックといざこざがあったばかりだから早いとこ町に入ったほうがいいのではないか。私達も早く契約を終わらせてガルベスから離れたいのに・・。)
取り敢えず周辺が安全か遠目で確認したほうがよさそうだ。その結論に至ったトゥーラはルイを呼ぶ。
「ルイ。私達は周辺を見回ってこようか。」
「お、そうだな。行こう。」
そして2人がその場を離れようとしたときであった。
「あ、お嬢ちゃん達どっちか一人わしの荷降ろしを手伝ってくれんかの?」
行商人グンダーが呼び止めてきた。
「えー!爺さんそれは護衛の契約外だろー?仲間に頼めよ・・ったく。」
ルイが渋々荷下ろしを手伝い始める。
「悪いのぉ、最近わし仲間に冷遇されてるかもしれんから・・。お礼に護衛代金上乗せするぞぃ。」
「リーダーだろ~?頑張れよ~・・。」
上乗せと聞いて言葉とは裏腹にルイはテキパキ作業をし始めてしまった。
その様子を見てトゥーラはため息をつきながら一人で見回ることにした。
そして休憩から20分ほどたった頃
ルイはグンダーの手伝いが終わり一人でくつろいでいた。
(トゥーラのやつ、戻りがおっせーな。そんなに何か気になるのか?)
「グンダーのおじさん、トゥーラ見なかった?まだ見回ってんのかな?」
近くにグンダーがいたので聞いてみることにした。
「ああ、さっき一回戻ってきたぞぃ。あんたに『気になるとこがあるからもう少し見てくる』って伝えてほしいと言われてたの忘れておっ
た、すまんすまん。」
「ふーん。なんだろな。」
ルイは何気なく辺りを見渡した。
行商人は寝てはいないが、皆くつろぎながら何か手元の作業に夢中になっている。
しかしガルベスは・・・いなくなっていた。
(やべ、トゥーラに言われてたのに肝心なあいつを見失ってしまった!)
ルイはキョロキョロと周りを見渡すが見つけられない。
心がけていたのに見失ったという失態もあるが、トゥーラが戻っていないことで何か胸騒ぎを感じた。
(あいつ美人だからな・・変なことされてないよな・・。)
ブラックスクラッチの本屋の片隅に置いてあったいかがわしい本で知った男と女にまつわる話。立ち読みしていたらサッドニールに止められたがあとで一人でコッソリ読みきっていた。
男が一方的に行為を強制する場合もあるらしい。
ルイは赤面しながら想定されるあらゆる事態を検討した。
そしてある結論に至る。
(俺の感じている胸騒ぎは・・・まさか!)
「グンダー!!」
突然ルイは行商人グンダーを呼び捨てにし、後ろで羽交い締めにしながら短剣を首もとにあて叫んだ。
「トゥーラをどこにやった!?」
突然のルイの暴挙にグンダーは何事かと苦しそうにしながら驚いている。
「な、何をする!一体どうしたのだ!?」
「とぼけるな!トゥーラはどこだ?言え!」
先程までの対応とはうって変わったルイの気迫にグンダーは気負う。
「さ、さっき見回りにいくと伝言したじゃろう?言うのが遅れたのは申し訳なかった。」
その言葉にルイは決心して叫ぶ。
「トゥーラはお前たちに伝言は頼まない!お前は嘘をついている!」
ルイのこの言葉に行商人達の目付きがかわった。皆、手には短剣を持ち、先程までの表情とは違い鋭い目付きで間を詰めている。
「・・・待て。お前たちは動かなくていい。」
一番変容していたのは行商人グンダーであった。