Kenshi -20years later-   作:さわやふみ

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◆都市連合
 チャド、ガルベス、ジュード


97.ホーリーネーション動静

「カスケード審問官!まさかあなたが戻って来てくれるとは思いもしませんでしたよ!」

 

司祭の格好をした初老の男が無愛想な顔つきをしているカスケードに挨拶をした。

 

「お久しぶりです。ニュー司祭。バスト地方の布教は順調ですか?」

 

「はい、最初に多くの信者を移り住ませて頂いたおかげでスムーズに広められております」

 

「そうですか。それは良かったです」

 

数年前にホーリーネーションが都市連合からバスト地方を奪った時。カスケードは既に審問官として抜擢されていた。その後の安定した統治を求められたカスケードが取った手はまさに常套手段であった。宗教による信仰心を利用した民衆のコントロールである。洗脳に近いやり方は敵国領地を短期間で併合するには最も適したやり方だった。神父だけでなく熱心な信者をこの地に住まわせることでバスト地方のホーリーネーション化は順調に進んだ。この功績もあってカスケードは異例の出世を遂げ内地の上級審問官セタ直下に配属されたのだが、今回、再度バスト地方の長官として転属したのだ。

 周りの者は浮浪忍者モールを脱獄させてしまった失態によりバスト地方に戻されたものと見ていたが実際は違った。

 

カスケードはモール脱獄の要因をずっと考えており、その結果、自らの意思でここに来ていたのだ。

 

 

 

フラーケにグリフィンを監視させていた情報によるとグリフィンは都市連合のノーブルサークルの誰かと繋がっていた。そのためノーファクションの頭領ローグの娘であったルイと拳聖チャドが都市連合から毛皮商の通り道に来ることを事前に知る事ができた。だからこそカスケードはそれを利用してオオタ暗殺を計画したのだ。達人であるチャドを使えば暗殺は高確率で成功する。だがその矢先、人質に利用しようとしていたルイが浮浪忍者に攫われたのだ。

 

(これは偶然ではない。浮浪忍者が3忍の全戦力を投入したのはルイがいる場所にモールがいると確信していたからだ)

 

ということはモールから無想剣舞をルイに修得させようとすることまで読んでいたことになる。

 

(浮浪忍者がそこまで私の考えを読めるとは到底思えないし、そもそも西では無名のルイが無想剣舞を扱うことまで知っているのはおかしい……)

 

それにチャドが都市連合の将軍に就任したことも気になる。密偵からの情報によるとチャドの回答は『ロード・オオタに近づき暗殺成功率を上げるため』であった。しかし、これはチャドを引き込んでバスト侵攻の将軍に仕立て上げるために都市連合と浮浪忍者が裏で連携した綿密な計画だったとしたら……。

 

 自分(カスケード)の動きさえも計算に入れた一連の流れが計算されていたとしたら、実に鮮やかな手際だったと認めざるを得ない。そしてそれほどの策略家がノーブルサークル構成員にいるのならば大きな脅威でもある。

 

(誰か分からぬが将来、私が上級審問官として世界統一を進める際、立ちはだかる壁となるだろう。炙りだし排除しておかないといけない)

 

チャドには出来る限りノーブルサークル構成員を殺してもらおうと考えていたが、ルイを取られてしまった以上、バレる前に早いところオオタを殺ってもらう必要がある。その後、真実(ルイが浮浪忍者に攫われた事)を喋りチャドの矛先を浮浪忍者の方に向けてしまえばいいのだ。そのままチャドと都市連合がぶつかっても良い。都市連合もオオタがいなくなれば政争が活発化し、バスト侵攻どころではなくなるだろう。その間に逆にホーリーネーションがストートを取り帝国崩壊の楔を入れるのだ。

 

 カスケードの強みは目的のためにあらゆる手を利用する事であったが、もう1つ大きな強みがあった。それは修正力である。プライドを優先せず過失を認め、課題を分析して認識した上で次に何をすべきか考え実践する。教義に固執することもなく、女といえども使えると分かれば重宝する。自分がやるべき状況ならば、例え位が高くなっても自ら苦労することを厭わず出張って指揮をとる。

 信仰による過度な偏見で凝り固まった考え方をする教徒の中では異質なタイプであり、それがエリート集団である審問官の中でもさらに首席をひた走ってきた所以でもあった。

 

そして彼を突き動かすもう1つの理由

 

(フラーケ……あなたの無念は私が晴らしますよ)

 

浮浪忍者の襲撃で命を落とした高位パラディン・フラーケを寵愛していたのだ。両親が死刑となり路頭を彷徨っていたフラーケを拾い、自ら育て上げたと言っても過言ではない。それを失った怒りは他人には推し量れないものとなっていた。

 

 

 

「どれくらいここに滞在されるのですか?」

 

ハッと我にかえると目の前にはにこやかな表情をしたニュー司祭がまだ立っている。

 

(……僻地へ追いやったニュー司祭に迎えられるとはな。もう覚えてはいないだろうがこの男はフラーケの両親を告発し処刑に追いやった。人を蹴落として這い上がろうとする意気込みは嫌いではない。が……)

 

ー無能は嫌いだ。

 

司祭として秀でた能力を持っているわけでもなく、他人の足を引っ張ることで自分の地位を維持しようとする者は組織にとって扱い続けるメリットはない。それにニュー司祭のバストでの評判も良くはない。

 

カスケードは一呼吸置くと静かに喋りだす。

 

「あなたの処刑をフラーケの鎮魂歌としましょう」

 

「……は?」

 

フラーケの名前すら知らないニュー司祭は当然意味を理解できていない反応だ。しかし次の言葉で顔つきが一気に変わる。

 

「ニュー司祭。あなたはここでの収入を誤魔化し私腹を肥やしていますね」

 

「……な?何を……馬鹿な……!根拠のない言いがかりだ!」

 

「ここに着任する前にバストの状況は調べ上げています。ホーリーネーションに併合してから随分時が経つのにここの兄弟たちはいまだ貧困から抜け出せていない。当然おかしいと思いますよ」

 

「……敵国との国境で軍備を重視しているからです!兄弟たちも理解してくれておりますよ!」

 

「歩哨。ニュー司祭を捕らえなさい」

 

カスケードはニュー司祭の言い分を聞くことなく近くの兵士に命令した。

 

「ふ、ふざけるな!あなたが……お前がここに私を追いやったからじゃないか!こんな何もない辺鄙な土地で生活できるわけがないじゃないかぁあ!」

 

「極度の貧困にも耐えて生活している兄弟は他にいます。あなたも一時的に少しだけ生活水準を落とせば可能でした。あなただけ努力せすに贅沢を続けるなど言語道断。言い訳の余地はもうなさそうですね」

 

「う…あ……」

 

「横領罪によりニュー司祭を火炙りの刑に処す」

 

「待って!やめてくれ!私が悪かった!改心する!チャンスをくださいぃいい!」

 

「連れていけ」

 

その日の夕暮れ時にニュー司祭の処刑は執行された。

茜色の日差しが燃え崩れていく司祭の亡き跡を照らし、人肉が焼ける匂いが辺りに立ち込める中、カスケードはそれを無表情で眺めていた。

 

 そこにカスケードと同じ審問官の恰好をした男が近寄ってくる。

 

【挿絵表示】

 

「ここでなにやってんだ」

 

相手がカスケードと知っても尚強い口調で問い質すその男の姿は非常にでかく、チェストプレートから野ざらしに伸びる腕は隆々とした筋肉を纏っている。そして背負っている重武器パラディンクロスは随分使い込まれているようだ。

 

「ああ……ルビク審問官ですか。私は審問官の仕事をしているだけですが何か」

 

ルビクと呼ばれた審問官はカスケードに臆することなくズイズイと近寄ってくる。

 

「俺の許可を取らずに勝手に動いてんじゃねぇ」

 

「私の行動にあなたの許可は必要ありません」

 

坦々と返すカスケードに男は益々語気が強まる。

 

「あ?この地域の裁定担当は俺だ。調子に乗っていると俺がお前を裁くぞ」

 

だがカスケードも変わらない口調で言い返す。

 

「長官を副官が裁くことは出来ませんよ。ホーリーロードフェニックスに直訴するのならば止めませんが」

 

「……なんだと?お前……まさかここの長官に任命されたのか?」

 

「ええ。最近都市連合の動きが活発化しているのでここに配属されるよう手配しました」

 

するとルビク審問官は先程までの敵意をおさめ、唖然としながら応える。

 

「そ、そうか。そういうことならば……」

 

「物分りも良く有能なあなたがここにいてホッとしましたよ。これから副官として宜しくお願いします」

 

「……ああ。だが勘違いするなよ。俺はその気はないからな」

 

「どういうことです?」

 

2人の間にしばしの沈黙が流れた。

 

「い、いや、何でもない。それにしてもヴァルテナ審問官直属のお前があっさりセタについた時はガッカリしていたが、どういう風の吹き回しだ?」

 

「元々、私はどちらがどうとか考えておりませんよ。ホーリーネーションのために与えられた使命を全うするだけです」

 

「ふーん。だがニュー司祭をやったのは頂けなかったな。あいつは確かに収入を横領していたが最低限の役目は果たしていた。それに実際この地域はどうしても軍備を常に保つ必要があるし、土地が痩せているため兄弟達に充分な食糧を確保できていない」

 

「では頼んで送ってもらうよう手配しましょう」

 

「ふん、内地にコネがあると役に立つな」

 

「それと……ベルゼブブの派遣も依頼します」

 

この言葉にルビク審問官はピクリと反応する。

 

「なんだと?あんなホーリーネーションの汚点を使うのか?俺は反対だぜ」

 

「あくまで保険です。バストを守るホーリーネーション軍は少ない。時には裏の手を使わなければいけない事もあります」

 

2人の間にしばしの沈黙が流れた。

 

「やはり来るのか?都市連合は……」

 

「ええ。ハウラーメイズ地方への進出により食糧供給体制を確保した都市連合が攻勢に出ようとしていることは揺るぎないです。後はタイミングだけとなりました」

 

「そうか。いざとなったら俺を使え。お前が内地で寛いでいる間に戦闘面で俺はお前を越えた。くそ侍たちは俺が殲滅してやる」

 

「頼もしい限りです。期待してますよ」

 

こうしてホーリーネーション側もまた自分たちが掲げる信念の元、都市連合に対抗するように動き出したのであった。

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