Kenshi -20years later-   作:さわやふみ

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◆都市連合
 チャド、ガルベス、ジュード


99.特憲の頂点

日差しが降り注ぐとある砂漠の荒野

 

都市連合特別憲兵隊の1人スケサーンが歩を進めていた。

 

「暑っちー……こんなところに集合する意味あるんかね……」

 

彼がいる地はストートから少し離れた場所であり周りには建造物など皆無の場所であった。見渡しても生き物の気配すらしないと思っていた矢先、背後から声が聞こえてくる。

 

「約束の時間通りに来たな」

 

【挿絵表示】

 

振り返るといつの間にかダストコートを着た仮面の男が立っていたのだ。

 

「ん?立会人か?俺はお前らと会うためにこんな辺鄙な場所に呼び出されたのかよ」

 

立会人とは数少ない特別憲兵隊を補佐するために組織された構成員である。禁忌の島に同行した立会人も同じ構成員であった。彼らは特憲の候補生でもあり特憲から指示を受けて仕事をこなすため、戦闘スキルもほどほどに備えていた。ただ戦闘行為をメインで行うわけでもなく、あくまで特憲から指示された内容を見届けたり伝令を行うなど目鼻口の役割を担っていた。そのため立会人という名称で呼ばれていたのだ。

そしてこのような組織構成から立会人を格下と認識し見下す特憲は少なからずおり、スケサーンもその1人であった。

 しかし、立会人と呼ばれた仮面の男は動じることもなくスケサーンに静かに話しかけてくる。

 

「立会人を馬鹿にするものではない。彼らの中から特憲になる者もいる……」

 

「ほー、言い返すんかい。お前たちほとんどが特憲になれなかった者だろ。貴族にコネもないのに今さらなれるはずねーじゃん」

 

「……」

 

「つーかお前誰だよ。特憲の俺に対して失礼な事を言ってっと殺すぞ」

 

スケサーンは黙ったままの仮面の男を恫喝した。また気に障ることを言ったら恐らく本当に殺してしまうであろう勢いだ。

 

しかし次の男の言葉で固まってしまう。

 

「俺は特憲の隊長だ。口の聞き方には気をつけることだな」

 

「え……あんたが!?」

 

スケサーンは改めて仮面の男を見返した。

体格は一般人並であり威圧感も感じさせない。所持している武器は太刀一本で装飾もなく業物でもなさそうだ。そして何より特憲の隊長からの指示は手紙であったり立会人からの言伝が殆どであり、隊長が直接他の特憲に会いに来ることはこれまでほとんど無かったのだ。

 

(隊長は代々、特憲の一番優れた者が現隊長から指名されて引き継ぐとされている……しかしこいつからは怖さを感じられねぇ……実力を隠してんのか……または本物ではないか……)

 

「意外だったか?」

 

仮面の男は狼狽するスケサーンの胸中を見透かすように言葉をかけてきた。

 

「え?いや、俺もついに隊長様に面会してもらえたってわけですかい。素顔は見せてくれないんですか?」

 

「仕事柄、素顔は明かせない。お前もそうだろう」

 

「まぁ顔を見せないほうがいいのは同感っすね。で、俺に何の用です?というかあなた本物ですよね?」

 

「本物かどうかは内容で判断しろ」

 

「確かにそっすね」

 

「ここ数日で特憲が2人消息を絶ったことは知っているな?」

 

「……俺が知っているのはホーリーネーションの軍事基地に入っていたアマネの件です。ルイについて聞いていたのですが連絡が取れなくなりました。どうやら潜伏がバレたようですが相手にも手強い奴がいるってことっすね」

 

「ああ。彼女は優秀だったからホーリーネーションに入れていた。そして彼女の失踪と同時にベルゼブブが動いたという情報も入った」

 

「ベルゼブブ!ホーリーネーションに飼われている神出鬼没の暗殺者っすか。まさか奴がアマネを?」

 

「あり得ない話ではない。ベルゼブブはそのまま戦場となるバストに招集された可能性がある」

 

「なるほど。で、バスト方面担当になった俺の出番ってことっすね。出会ったらついでに殺しておきますよ」

 

「ああ。お前に任せたい。奴は我々と同じ影で生きている者だ。気を抜くなよ」

 

「あら〜気にしてくれるんすか。嬉しいこった」

 

スケサーンの言葉を気にすることなく仮面の隊長は続ける。

 

「それともう1人特憲メンバーが死んだ」

 

「こんな短期間に2人もですか。珍しいですね。そっちは誰に殺られたんですか?」

 

「都市連合領内ブリンクで毒殺された。相手は不明だ」

 

「それはまた古風な殺され方で……。もしかしてベルゼブブが殺ったんじゃないですか?」

 

「いや、さすがにアマネがいた場所から遠すぎる。別の何者かによるものだろう。こちらはフグに調べさせる」

 

「ふーん。特憲とやり合おうなんていい度胸してますね、そっちは」

 

「ああ。外部の者ならいつも通り排除するまでだ。が……そいつはどうやって特憲メンバーを知ったのかは気にしている。構成員は限られた者しか知らないからな」

 

「まさか、内部に裏切り者がいると?」

 

「そうだ。念のために聞くが……お前に任せているレディー・ミズイ推薦のリドリィは特憲として命令通りに任務をこなしているか?」

 

「ああ、あいつはレディー・ミズイの洗脳実験で今のところ完全に敵対性が消えましたよ。なんせ命令すりゃあ愛弟子すら殺しましたからね」

 

「……そのようだな」

 

「それに入ったばっかで特憲の構成員をまだ知らない。漏れたとなるとヒガキ辺りじゃないっすか?」

 

「ふむ、分かった。お前も古株ゆえ素性がバレているかもしれない。念のため気をつけるのだな」

 

「随分気にかけてくれるんすね。まさか俺が次の隊長候補です!?」

 

この問いに隊長は間をあけた後、静かに応える。

 

「……隊長になるには戦闘力だけではなく、教養、忠誠心、資質が必要だ。そして求められる基準もそれぞれ高い。お前は全て満たせるかな?」

 

「戦闘は自信ありますよ」

 

「では見てやろう」

 

「え!?もしかして稽古つけてくれるんですか?」

 

「今日この場所にいる理由でもある」

 

仮面の男はそう言って立ち去るわけでもなく意味深に佇んでいる。スケサーンも冗談で言ったつもりだったのに少し気まずくなってくる。

 

(おいおい、マジで今さら稽古か!?つーか、ここで俺が隊長を殺したらどうなるんだ。隊長の証か何か奪えば引き継ぎってことになったりすんのか?)

 

スケサーンは初めて自分の前に隊長が姿を現したこともあり、若干興奮していた。そして隊長の外見上、自分より体格的に劣っており、非力な者が扱う太刀を所持していることに対しても妙な優越感を持っていた。

 

すると遠くのほうから3人組の男がこちらに向かってくるのが分かる。

 

「ん?誰っすかね。行商か……?」

 

3人は見るからに行商らしき格好をしており、背中には交易用の木製バックパックを背負っている。

そしてその中の1人の男が低姿勢でにこやかに喋りかけてきたのだ。

 

「これはこれはお侍さん方、巡回ですかな?いつもありがとうございます」

 

これに隊長が対応する。

 

「この方角はバスト方面だが、どこに品物を届けるつもりだ?」

 

「マシナギアのワールドエンドに向かっております」

 

ワールドエンドという都市はバスト方面の延長線上にあるため方向に間違いはなかった。しかし、仮面の隊長は続ける。

 

「取り調べを行うので武器を置いてついてこい」

 

「ええ〜……ちょっと待ってください。急いでいるんですよ。これで今日のところは勘弁してください」

 

そう言うと行商の男はそっとお金を仮面の隊長に差し出したのだ。この様子をスケサーンは黙ってみていた。仮面の男が本当に特憲の隊長の場合、どのような反応をするのか見てみたかったからだ。

 

「行商の賄賂にしては大金だな……」

 

「我々はロード・ヨシナガの専属行商です。あまり我々の手を煩わせないほうがいい。お侍さんも無職になりたくないでしょう」

 

「ほう……。ヨシナガと繋がっていると言うのか」

 

「分かったならあまり生真面目にならずお互い気楽に過ごしましょうよ」

 

ヒュン……

 

男が言い終えた後、何かが男の首筋を横切った。

そして気がつくと仮面の隊長は太刀を抜刀している。

 

「?」

 

目の前の行商の男は不思議そうに首を斜めにかしげていたが、見る見ると首は曲がっていきそのまま体から離れてゴロリと転がり落ちた。

 

「!!!!」

 

頭のなくなった体からは真っ赤な鮮血が勢いよく吹き出し、膝をついて倒れ込む。

 

スケサーン自身もこの仮面の隊長の動きに目を丸くしたが、同時に確信する。

 

(こいつは紛れもなく特憲の隊長だ……!)

 

ここでいきなり斬り伏せるとは思わなかったのもあるが、驚くべきは抜刀の速さであった。斬られた本人すら気づかない速さと正確性はとてもじゃないが真似が出来るものではなかった。

 

斬った男が仮にロード・ヨシナガの専属行商であったとしても特憲の隊長であれば揉み消しは可能。スケサーンは問答無用で殺された行商を少し気の毒と思った。さすがに自分はこのような即殺はしない。やるにしても脅して金を取るぐらいだっただろう。協力に応じない相手に対して容赦のない仕打ちは実に特憲の隊長らしいとスケサーンは思った。

 

だが、驚くべきことが起こった。

残り2人の行商が既にその場にはいなかったのだ。普通、仲間の首が飛ばされたならばギョっとして固まった後に恐怖か怒りで騒ぎ出す。瞬間的に逃走すること判断したとなれば、攻撃されることを想定していたか慣れていたからだ。また、その反応の早さで行商の3人も一般人ではなかったことを悟る。

 

(隊長は奴らが何者か知っていたのか)

 

隊長に目をやると太刀を袖で拭き、納刀しながら喋りかけてくる。

 

「奴らはチャドに会っていたホリネの密偵だ。二手に別れて逃走したからお前は片方を追え」

 

「……!なるほど。捕えます?」

 

「いや、殺していい。どうせ何も吐かない」

 

隊長は一言だけ残しすぐにその場から消えた。軽装とはいえ凄まじいスピードだ。取り残される形になったスケサーンは一連の流れに面食らいながらも頭をすぐに切り替える。

 

(片方……隊長とは別の方角に向かった足跡を追うかか!)

 

しばらく足跡を追うと遠くに人影が見えてくる。

 

「ちっ!こんな暑い中、鎧を着て走らせやがって」

 

行商の男は逃げすに迎え撃つつもりのようだ。

ナイフを抜きすでに臨戦態勢をとっている。

 

「我々を待ち構えていたのか?」

 

行商は先程とは打って変わった口調でスケサーンに問いただしてきた。

 

「そうなるね。誰よあんたら?行商じゃないんだろ」

 

「お前は知らないのか。仮面の男は何者だ?」

 

「俺が聞いてんだよ。つーか俺には興味なしか?」

 

「ああ、お前はモブ侍だろ?」

 

行商が全てを言い終わるや否や、スケサーンは抜刀して斬りかかった。

しかし行商男は華麗にバク転してそれをかわす。

 

「!」

 

行商男はナイフを逆手に持ち帰るとピョンピョン跳ねながらリズムを取り出す。

 

「驚いた。お前もただの侍ではないようだな。まさか特憲か?」

 

「気づくのが遅かったな。スキマーの餌にしてやるよ」

 

スケサーンは野太刀をしならせて再度、行商男に斬りかかった。

 

しなり野太刀

 

野太刀の刃を限りなく薄くすることで、重さと空気抵抗を極限まで排除して斬撃スピードを高めたスケサーン愛用の刀だ。軽いため片手でも扱うことができる代物だ。

 

そして斬撃は薄い刃をしならせる事で直接ではなく曲状の攻撃も可能となる。チャドですら慣れるまで苦労した攻撃に対して、短い得物のナイフを使って初見で防ぐのは無理な話であった。

 

「ぐっ!」

 

野太刀の切っ先は見事、ナイフを持つ腕を撫で切り行商男はたまらず得物を落とした。

 

「さて、お前ら何者よ。正直に教えればお前だけ生かしてやる」

 

血が垂れ落ちる腕を支えながら行商はフラフラと居直った。

 

「くっ……。お前の実力を見誤った俺の負けだ。しかし仲間は売らん……」

 

そう言いギシと歯ぎしりのような音をたてると、苦悶の表情を浮かべながら倒れ込み息絶えた。覗き込むと口から血が流れている。

 

(奥歯に挟んだ毒で自殺したか)

 

ここまで手の込んだ準備をしているとなると十中八九ホーリーネーションの密偵だったのだろう。

 

「殺ったようだな」

 

気がつくと仮面の隊長がいつの間にか後ろに立っていた。

 

「当然っすよ。雑魚でした。隊長のほうも終わったんです?」

 

「ああ。取り逃がしを防ぎたかったのでお前を呼んだが正解だった」

 

「よく言いますよ。隊長はもうこっちにも来てんじゃないですか」

 

「必要なのは確実性だ。では先程の件頼んだぞ」

 

仮面の隊長はそれだけ言い残すと影のようにどこかへと姿を消していった。

スケサーンは見送った後しばらくその場に佇んでいた。

 

(隊長は恐らく俺がいなくても全員殺れただろう。にも関わらず俺を使ったのは、上級貴族の推薦ルートで特憲に入った俺の力量を把握したかったからだ。あの男が現隊長に就任する際、俺は既に特憲だったから調べることが出来なかったのだろう)

 

そして

 

(やっと……隊長は俺の前に出てきた……!)

 

声を覚えた。

雰囲気も覚えた。

今まで特憲構成員にさえ素性を隠し、接触しようとすらせずベールに包まれていた隊長の手がかりを掴んだのだ。

 

(裏目に出たかもしれねーぜ。隊長さんよ……)

 

スケサーンは鎧兜の内側で不敵な笑みを浮かべていた。




■現時点で判明している特別憲兵隊とその推薦者

隊員    (推薦者)

隊長    (不明)
カクノーシン(不明)
スケサーン (不明)
ヒガキ   (サンダ)
アマネ   (不明)
フグ    (不明)
リドリィ  (ミズイ)
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