Kenshi -20years later-   作:さわやふみ

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◆都市連合
 チャド、ガルベス、ジュード


101.開戦

ジュードは合同訓練に精をだすチャド師範の姿を遠くから見つめていた。

 

 

ー師範が変わったのは首都ヘフトに呼び出されてからだ。

 

それまでは戦争を始める気は全くなかったのに今では5将と一緒に戦闘訓練を行い、打ち合わせを定期的に行うようになっている。

 ホーリーネーションの密偵が再訪した時も、交渉の進展がないまま追い返していた。スナニンジャが持ってきた報告を聞いている際もどこ吹く風のように見えた。まるでルイを救出するという目的を忘れてしまったかのように戦争準備を整えているのだ。

 

ホーリーネーション側も活発化している都市連合の動きに気づいており国境沿いを警備する部隊は殺気立ってきているようでった。この状態で都市連合が国境に兵を進めたら小競り合いどころではなくそのまま戦争に突入してしまうだろう。

 

戦争だけは必ず止めなけれはならない。

戦争は多くの命を奪い、多くの者を不幸にする。

恩恵は一部の権力者にしかもたらされないのだ。

 

それはチャド師範も分かっているはずなのになぜ……。

 

(いざとなったら師範に直談判するしかない)

 

ジュードはチャドと一度話し合ってみようと思っていた。そんな中、ジュードは思いもよらぬ人から話しかけられる。

 

チャド直下に配属された5将の1人カナエだ。男が多い侍の中で容姿端麗なこの女性は輝くような青い髪を後ろに束ね、キリッとつり上がった凛々しい瞳は心の内を見透かすような眼力があった。なお、この女性を追って軍に志願したというファンのような兵士もたくさんいると言う。

 

「あなたチャド将軍の付き人よね?」

 

「……は、はい」

 

カナエは訓練を眺めているジュードの隣に並ぶとおもむろに話しかけてきた。口調も見た目通りでシャキシャキしている。

 

「付き合いは長いの?」

 

「はい?」

 

「チャド将軍とよ。どういう関係なの?」

 

「俺はチャド総心流の門下生なんです」

 

「ああ、将軍の武術ね。流派も作ってたんだ」

 

「ええ。門下生も少しですけど集まり始めてたのですが、閉めちゃいました」

 

「あーそうそう、その辺聞きたかったのよ。なんで都市連合の将軍をやり始めたか聞いてる?」

 

この質問にジュードはドキリとする。まさかルイを探し出すためというのがバレかけていて、自分に探りを入れられているのではないかと思ったからだ。

 

「え……いや、ちょっと俺はついてきただけなので分からないです」

 

知らないふりで逃れようとするジュードに対してカナエはひかない。

 

「えーそうなの。最初はやる気なさそうだったけど最近は訓練を積極的にやり始めるし何を考えているか分かんないのよねぇ」

 

これにはジュードも共感した。

 

「……俺も最近、師範が考えていることが読めないんです」

 

「ふーん、それは残念ね。あ!ジト先輩!今日はもう上がりですか?」

 

ジュードの悩みなど無関心であるかのようで、カナエは訓練を終えて通りかかった5将の1人ジトに声をかけた。部将ジトの名前はジュードも知っていた。都市連合発行のユナイテッドウィークリーに毎回のように登場し、野盗討伐や御前試合等における活躍がこれでもかと記載されているのだ。恐らく現在侍の最強格なのだろう。そんな男が近寄ってくると威圧感が凄まじくジュードは思わずたじろいだ。しかしジト本人は自覚がないのか構わずに喋りだす。

 

「大分部隊同士の連携が出来てきた。今日はもう終わりにしてゆっくりすることにするよ」

 

「そうですか!でしたらぁ、この後BARにでも行きませんかぁ?」

 

急にカナエはこれまでキリッとしていた表情からデレた声を出し始めたのだ。これにジュードは状況を瞬時に理解する。この女性は目の前の男に対して好意がある。確かにジトという男性も長身イケメンの上に腕が立つ。この後も順調に昇進していくエリートなのだろう。ルックスと安定性、経済力がありモてないわけがないのだ。お互い引けを取らない容姿なので第三者から見てもお似合いのカップルだと思えた。

 

しかし次のジトの言葉でその場は凍りついてしまう。

 

「いや、嫁が夕ご飯の支度をしてしまっているだろうから早く帰りたくてね」

 

「!!」

 

思わずジュードはカナエの顔を横目で見てしまった。カナエは口をパクパクさせながら絞り出すように喋りだす。

 

「……え?ジト先輩ってもしかして……」

 

「あれ、連絡していなかったか。去年籍を入れたんだ」

 

ガーーーーン

 

という音がどこかから聞こえたような気がした。

 

「そう……ですか」

 

「ではお疲れさん」

 

ジトは状況理解せずにそのまま立ち去ってしまったが、カナエの後ろ姿は哀愁が漂っていた。それを見てジュードはつい自分が言われた言葉を返してしまう。

 

「ざ、残念でしたね……」

 

「……くわよ……」

 

「え?」

 

「飲みに行くわよ!あなたもね!」

 

「ええ!?何で俺も……」

 

「交流会!してないでしょ!シンジロウも呼ぶわ!」

 

「でしたらチャド師範としてくださいよ」

 

「うるさいわね!行くよ!」

 

カナエは強引に腕を引っ張っていったが、周りの侍達からの白い視線が突き刺さり、ジュードはいたたまれない気持ちになった。

 

 

 

 

 

そして3時間後

 

 

 

「がはははは!お主ら結構飲めるんじゃな!」

 

5将の1人老将ヘイハチの笑い声がBARに響き渡った。横では顔面蒼白のシンジロウが椅子とにらめっこしている。カナエはグラスに入ったお酒を飲み干すと乾いた声でヘイハチに喋りかける。

 

「なんであなたが来てるんですか……」

 

「なんじゃ?交流会じゃろう?シンジロウ君が呼んでくれたのじゃし断われんじゃろう」

 

この言葉にカナエはシンジロウを見やるが彼は相変わらず死んだように椅子を見つめている。

 

「シンジロウ、あなた何杯飲んだのよ……大丈夫?」

 

「……大丈夫と言えば大丈夫です」

 

「……そう。ジュード君は?君は飲んでないのか」

 

カナエは姉貴分のように周りの者たちに気を配っている。

 

「あ、はい。すみません。飲めないので……」

 

「君ってさぁ、なんか軍隊向いてないよね。なんで民間からわざわざ入ってきたの?」

 

「なんでって……それはチャド師範を守るためです」

 

「守るって言ってもチャド将軍は拳聖と讃えられるほど超強いんでしょ。あんま意味ないじゃん」

 

「盾になるぐらいは出来ます!カナエさんだって何でこちらに配属されたんですか?」

 

「んー?私は希望したからよ。ホーリーネーションに恨みがあってさ」

 

「なぜ恨んでいるんですか……?」

 

「15年ぐらい前にロード・イナバがバスト奪還の部隊を送って返り討ちにあったんだけどさ、その時に兵士だった父親が戦死したのよ」

 

カナエはグラスに口をつけながら遠い目で打ち明けた。

 

「そうだったのですか……」

 

「ワシもじゃよ」

 

急にヘイハチが話に割って入ってきた。カナエは怪訝そうな表情するがそれに構わずヘイハチは続ける。

 

「30年前に都市連合がまだバストを持っていた頃じゃ。ワシは地主のアイゼン家に務めていたのじゃが、ワシの遠出中にホーリーネーションの大部隊が襲ってきて、村は焼き払われ、老若男女を問わず全員奴隷として連れ去られたのじゃ」

 

「あー、あいつらが来る前はバストは栄えた都市だったんでしょう?酷いことするわよね」

 

「うむ。領主様も人格者でのぉ。無欲恬淡で都市の発展に尽力なされていた。そして民を逃がそうとして戦死されてしもうた。ご子息も捕らえられリバース鉱山に奴隷として送られてしまったそうじゃ……」

 

肩を揺らして泣き始めるヘイハチに若干引きながらもカナエは優しく声をかける。

 

「では今回の参加はひとしお思いが強いのですね」

 

「うむ……シンジロウ君も遺恨なのかね?」

 

話を振られたシンジロウは虚ろな目をしながらも喋りだす。

 

「僕ですかぁ?僕は元々南側の都市連合から出向で派遣されていただけなんですけど、マシニストがいるワールドエンドに一度行ってみたくて、良い機会だったので立候補しました」

 

「マシニスト……古代の研究をしている学者集団のことじゃな。お主、歴史が好きなのか?」

 

「いえ、スケルトン工学が好きなんです。あそこでは最先端の古代技術も研究されているので勉強したいのです」

 

「なるほどのぉ」

 

カナエもシンジロウとは付き合いが長いようで補足するように付け加える。

 

「シンジロウは若い時から神経結合型義手の開発や血流力発電の研究をしていて科学技術の天才なんですよ」

 

「皆それぞれ思いや目的があるんじゃな」

 

5将の参加する理由を聞いていてジュードは1人やるせない気持ちになっていた。

 

自分がここにいる理由はチャド師範を守ることであるのに偽りはない。しかしカナエに言われた通り、門下生ごとき力をチャド師範にとっての脅威と比較するとたかが知れている。それに戦場に連れて行って貰えない場合、役立つ機会すらおとずれない。

 

(俺は何をすればチャド師範の役に立てるのだろうか……)

 

ジュードは神妙な顔つきで考え込んでいた。

 

 

 

 

 

 

そして数日経ったある日のこと。

この日はロジャー・バートの部隊との合同大規模演習の日であった。

 噂ではこれが済んだ後にバスト地方へ進軍するのではと言われていた。チャド配下の5将も全軍フル装備でストートから西方の演習地へ出撃していった。ジュードもガルベスと共に輸送部隊として数名の兵士と一緒に出立する。なお、チャドは別行動で本体の軍と動くとのことであった。

 

ジュードは特に喋る相手もいなかったのでガルベスと会話しながら歩いていた。

 

「今日の演習地は遠いですね。場所も山脈で足場が悪いですし」

 

「……そうだな。まぁ戦いは平地だけじゃねぇ。山岳戦も想定するのはありだ。ただ……」

 

「どうしました?」

 

「ロジャー・バート軍と合同でやる必要もねぇな」

 

「確かに、ほとんど後詰めの役割だけのようですしね」

 

ガルベスの言う通りであった。演習地の山脈は大部隊では動きにくいし、何よりバスト地方に近かった。ホーリーネーションの守備隊が反応して出撃してきた場合、戦闘になってしまう。むやみに近づくとすぐさま戦争に発展する危険性があった。

 

そこに伝令らしき兵士が前方から走ってくる。

 

「第一陣のジト部隊がホーリーネーションの防衛線を無事に突破した!輸送部隊はそのまま前進するように、とのこと!」

 

ホーリーネーションに攻め込んだ事を想定した訓練かと思わせる伝令であった。しかし予定地より前進するのを訓練内容として捉えて良いのか迷う。ジュードはガルベスの表情を伺ったが、彼は驚いた顔をして呟いた。

 

「マジか。あの防衛線を簡単に破るとは、ジト部隊やるな」

 

「何を言ってるんですか?演習ですよ?」

 

「お、おう。そうだったな。しかし、どうもおかしいぜ」

 

「そうですよね!伝令に予定地の変更まで入っているなんて」

 

「こりゃあたぶん攻め込んだな」

 

「え?」

 

「恐らく演習と思わせて相手を油断させたんだ。実際には伝令通りだと思うぜ。こんな上手くいくとは思わなかったが」

 

「……!!」

 

言われてみれば攻め込むにはここまで各部隊は合理的な動きをしている。ジュードは急激に胸騒ぎを覚え始める。チャドがいる限り起こり得ないと思っていた戦争が今まさに始まった可能性があるのだ。

 

その後、急いで変更された合流地点へ駆けつけたジュード達であったが驚くべき情報を聞かされる。ガルベスが予想した通り、都市連合の先鋒部隊はチャドとロジャー・バートの指揮の下、演習地から北上しホーリーネーションが守るバスト地方へ進軍していたのだ。そして先鋒のジト率いる一隊がホーリーネーションの防衛線を難なく突破し奥深くまで攻め取ったとのことだったのだ。

事実上、開戦していたのである。

 

(チャド師範……なんで……)

 

あれだけ戦争はしないと言っていたにも関わらず、相談もせずに極秘で侵攻計画を実行したチャド師範にジュードは困惑していた。

 




なんかちょっと勢いがないです(*_*;
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