Kenshi -20years later-   作:さわやふみ

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◆都市連合
 チャド、ガルベス、ジュード


102.深謀遠慮

「被害状況を報告してください」

 

ホーリーネーションのバスト地方長官となったカスケードは会議の場で最初に切り出した。

 都市連合という大国の侵攻は少なからずホーリーネーションの面々を動揺させ、バストを守るパラディン諸侯は浮足立っていたのだ。

 そのためカスケードは緊急会議を開き、まずは状況整理から着手していた。そして長官として冷静な態度を見せることでまずは味方側を落ち着かせようとしていた。

 

「はっ!第一防衛線が突破され、現在はルビク審問官が守る第2防衛線が都市連合と対峙しております」

 

「第一を守っていた高位パラディンのテルツァはどうしました?」

 

「パラディンテルツァは戦死されたようです……!」

 

この報告に一同は悲観的な声を上げる。テルツァは老兵ながら歴戦をくぐり抜けた猛者であった。

 

「落ち着きなさい。反応しすぎですよ」

 

カスケードはこう言ったものの内心は穏やかではなかった。チャドのもとに送った密偵には侵攻する意思があればチャドを暗殺するように命令を出していた。その密偵も未だ帰ってきていなかった。

 

(失敗したか……。彼が動いてきたということは、ルイがこちらにいないことが漏れたということ。いったいどこから?)

 

「第一防衛線を横から急襲した部隊がいると伺っています。その情報は何かありますか?」

 

ホーリーネーションの第一防衛線は完璧な防御体制が整っていた。仮に都市連合が攻め込んできても一定期間は持ち堪えられる想定であった。にも関わらず、悠々と突破されてしまったのだ。その要因として裏から攻撃を受けたからとの報告を受けていた。

 

「はい。どうやらこの部隊は浮浪忍者の可能性があります。我々が全くノーマークであった後ろ側の北西から突如として少数で現れ、素早い動きで防衛線を乱して行きました」

 

「浮浪忍者……小数なのに止められなかったのですか」

 

「それが……この部隊の中に1人スケルトンがいたようで、これがまた手がつけられない強さだったようです」

 

「スケルトンですか……」

 

カスケードは苦い顔をして歯ぎしりした。

 

(浮浪忍者と都市連合が連動していた。ルイの情報は伝わり、チャドは敵に回ってしまったわけか……)

 

敵の敵は味方。モールが復帰した浮浪忍者が早くも都市連合と連携してくるのは想定しておくべきだった。

モール奪還と今回の件は繋がっている。恐らくモールの居場所を突き止める見返りにバスト侵攻の支援が契約として成立していたのであろう。

 

裏でグリフィンや浮浪忍者、チャドも利用してバスト侵攻を手掛けた者。

 恐らくノーブルサークルの貴族であろうが、数年前の都市連合にはこのように大々的にホーリーネーションと戦おうとする貴族はいなかった。というよりここまで計画だてた動きを出来る切れ者はいなかった。

 

(近年、加入した貴族か?その中で功績を出している者は……)

 

ロジャー・バート

ロード・ギシュバ

レディー・ミズイ

ロード・オラクル

 

の4名に絞られる。

 

ギシュバはテックハンターとして功績をだしている猛者と聞いているが、ハウラーメイズを攻略した後、現在は引退している。

ミズイは謎に包まれているが科学者出身と聞いており外交戦略には疎いはず。

オラクルはハウラーメイズ遠征の出資者だが食糧問題の解決で民衆に割と支持されており先見性がる。

裏で糸を引いている可能性はなくはないが、どちらかと言うと……。

 

やはり一番の警戒対象はロジャー・バートだろう。

ロジャー・バートはロード・イナバに代わって将軍としてホーリーネーションを撃退し、現在もチャドと連携して攻め込んで来ている張本人だ。そして息子たちを各勢力に関わらせて着実に影響力もつけてきている。野望が大きく戦術に長けているならばこいつが今回の首謀者である可能性は高い。派閥が異なるオオタ派の戦争機運も利用したとなるとかなりの策謀家でもあるのだ。

 

(やはりこいつを早めに殺す。そうすれば間接的にも侵攻を鈍らせることが出来るし、何より近くに来ているから殺りやすい)

 

暗殺の成功率が高いのは最初の一人であり、一度暗殺してしまうと、その後は警戒され失敗する可能性がでてくる。だから暗殺の優先度としても最初にロジャー・バートを殺っておくに越したことはないのだ。

 

カスケードの頭の中で優先事項は決まったが相変わらず会議の場は浮足立っている。今回、一番の問題は攻め寄せている都市連合の質と数が桁違いだからなのだろう。

 

以前の攻め手はイナバによるストート1都市の兵力でしかなかったが、今回は各都市の精鋭が集められ文字通り都市連合なのだ。これも首謀者の貴族(ロジャー・バート?)が段取ったのではないかと疑えるほど足並みが揃っている。

ルビク審問官の第2防衛線はある程度持ちこたえてくれるであろうが、長くは持たないだろう。

 

(バストの戦力だけで撃退したいところではあったが……)

 

「本部に援軍を要請しましょう。近くにいる高位審問官ヴァルテナにも乞いましょう。もはや我々だけでどうにか出来る数ではないので」

 

この言葉で諸侯の面々にやっと安堵の表情が出始めた。

 それほど切迫しているわけでもなかったのにこのような状況になっているのは理由があった。

 

バスト地方は本部から見捨てられる噂がたっていたのだ。都市連合とイザコザを対処しながらの占領は依然として進まず、バストは荒れ果てる一方だった。ここに資源と人を投入するよりも、ハブのように放棄して大国間の緩衝地帯にしたほうが効率的なのではないかという意見が大きくなり始めていたからだ。

 当然、本部から聞いている情報とは異なっており根拠や証拠は乏しかったし、捨て置けない噂であったためカスケードは出どころを追ったのだが見つけることが出来ないでいた。

 

結論としてこれもホーリーネーションを混乱させるための流言だったとカスケードは理解した。あらゆる手を使ってきている裏の貴族に対して対応が後手になっていることにカスケードは苛立ちながらも冷静に分析は続ける。

 

(浮浪忍者の戦力は……)

 

満身創痍のモールが戦線復帰しているとは考えにくいが、強いスケルトンの存在も気味が悪い。

 

浮浪忍者もオクラン教徒であるためスケルトンは忌み嫌うはずであった。

となると考えられるのは影響力を持つ指導者がスケルトンに寛容なタイプに代わったということだ。

 

浮浪忍者は元々絶大なカリスマを持つモールありきの組織であり、副司令官にマニという者がいたがこいつはどちらかと言うとカニバルとの戦いを重視していた。くノ一三忍もモールほどの実力はなくナイフが死んで勢いはないはずだ。

 

(モールに次ぐ有力な指導者が思い浮かばないな……。いずれにしろスケルトンが何者なのか知らないと対策がとれない)

 

カスケードはいったん浮浪忍者については何者なのか探るところから手をつけることにした。

 

だが、ここまでは相手の手に応じた後手の対応。相手が想定していないであろう先手を打って、少しでも都市連合の侵攻を遅らせなければならない。

 

これまで想定の上を行くやり方で出し抜かれてきた感覚があった。誰が都市連合のブレーンになっているのかまだ不明だが、その者の予想がつかないやり方で反撃しなければならない。

 

カスケードは顎に手を置いて考えた。

 

(『敵の敵は味方』をこちらも利用させてもらうか)

 

「反乱農民のボス・シミオンに連絡を取りなさい」

 

都市連合は奴隷制度を活用して食糧体制を維持している。奴隷はほぼ無給であり、雇い主である貴族は奴隷が壊れたら使い捨てている。維持費は最低限の衣食住を提供するだけで成り立ってしまうのだ。そのため、多くの農民が価格競争に敗れ、土地や仕事を失ってきた。極度の飢餓状態に陥り、彼ら農民がたどり着いた先は反乱であった。

バストの近く北方に砦を構え、素人ながらも組織的に都市連合に抵抗していたのだ。そこにカスケードは随分前から目をつけ連絡を取っていた。

 少しでも都市連合の足枷になるようにスパイ養成教育班を送り込み、精鋭化させる動きも行っていた。(ハウラーメイズに反乱農民のスパイとして送り込まれたニムロッドもホーリーネーションの教育を受けていた)

 

カスケードは都市連合軍が深く入り込んで来た場合に反乱農民に後方を脅かせてもらうことのした。

 

都市連合の弱点は広大な領土ゆえの兵站が伸びることだ。安全な食糧体制の維持にも手を焼いているであろう。そこを突くのだ。後ろにいる輸送部隊を襲撃し食糧を燃やしてしまえば都市連合軍は立ち往生すると考えたのである。

 

(あとは第2防衛線でなるべく膠着状態を作ること……。この手はルビクは嫌がりそうではあるが仕方ない)

 

「ルビク審問官と直接話をします。移動の用意を」

 

カスケードは会議を自ら閉めると移動の支度にかかった。

 

 

 

 

 

 

一方、第2防衛線を守るルビク審問官は前方に展開する都市連合の部隊を鋭い眼差しで睨んでいた。都市連合の先鋒であるジト部隊は今にも突撃してきそうな気配を見せている。

 

ジトの名は知っている。侍の中で1、2を争う大太刀の使い手だ。都市連合はこの男を先頭に力押ししてくるのは明白だ。高位パラディンテルツァもこいつに負けたと聞いた。

 

しかし、次の相手は俺だ。

俺にはパラディンの中から選びぬかれた審問官という自負がある。審問官はただ護衛や警備をしているだけでなく、役務上、危険地帯へ赴くことも多々あり、日々何かしら戦闘をしていた。そんな環境が俺を強くしていったのだ。俺は恐らくもうカスケードの実力を超える力を身に着けただろう。ここで名うての侍を討ち取り審問官たる者の威厳を内外に見せつけてやるのだ。

 

ルビク審問官は両手でパラディンクロスを顔の前に掲げると、祈るように目を閉じた。

 




今回のバストはざっくりこんな感じ

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