Kenshi -20years later-   作:さわやふみ

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◆都市連合
 チャド、ガルベス、ジュード


103.姑息

ホーリーネーションの第1防衛線を破ったチャドは5将と内部打合せをしていた。次の第2防衛線をどのように打ち破るのかの打合せである。ただ、初戦を勝利で飾れたことで皆の表情は緩くなっていた。

 

「がははは!まさかこんなに簡単に突破出来るとはのぉ。奴らも大したことないわい」

 

最初に老将ヘイハチが満足気に切り出し、5将がそれに続く。

 

「ジト先輩さすがです!」

「いや……正直なところホーリーネーション軍は俺が崩す前に最初から乱れていた」

「浮浪忍者がホーリーネーションを後ろから叩いたと言いますやん。もしかして将軍が何か密約していたんとちゃいます?」

「確かにそうでないと説明出来ないタイミングでしたね。直前まで僕も総合演習だと聞いていましたし」

 

5将の視線全てがチャド将軍に集まった。目を細め腕組していたチャドは静かに口を開く。

 

「……その通りだ。今回の侵攻は浮浪忍者と連携している」

 

おお!と感嘆の声が上がった。

 

「さすが将軍!やる気ないと見せかけて周到な準備をしていたんですね」

 

チャドはカナエの言葉に特に反応することなく、地図を拡げ始める。

 

「ホーリーネーション第2防衛線だが……、明日ジトとタニガゼの部隊を先鋒にして突破する。……いいな?」

 

「はっ」「はいな」

 

「次の相手はパラディンではなく審問官だ。恐らくジトと同レベルの実力を有しているだろう。なるべく2人であたれ」

 

「えー、ジトさんは侍最強ですわ。わてがいなくても大丈夫やろ」

 

「入り乱れると想定通りにもいかない。だから細かい所はお前たちに任せる」

 

打ち合わせは短い時間で終了した。カナエはシンジロウと一緒に会議室を出ると軽く伸びをする。

 

「んー、また私たちサポート組ね」

 

「仕方ないですよ。部隊の強さでいったらやはりジトさんとタニガゼさんです」

 

「えー……ジト先輩とこは先輩の力ありきだし、タニガゼはなんか急造部隊って感じしない?結束力を感じられないのよねぇ」

 

「そういうカナエさんのとこはどうなんですか」

 

「私の部隊は父の隊から編入してくれた人がたくさんいるし固い信頼関係で結ばれてるのよ」

 

「なるほど。まぁでもジトさん部隊はやっぱ強いですからどうしても一番手にはしちゃいますね」

 

「先輩は周りから期待されると無理しちゃうタイプなの。だから誰かが抑えてあげなきゃいけないのよ」

 

性格に似合わずカナエの言葉には深みがあるようにシンジロウは感じた。その分、気まずい空気を感じとり、何か別の話題を探すようにさりげ無く辺りを見渡した。すると

 

「あ……、あの人……」

 

視線の先には渦中のジトがいた。隣には見知らぬ女性がいる。小柄で可愛らしい容姿だ。しかし何やら女性は浮かぬ表情をしているように見える。

 

「お……奥さんですかね……?」

 

シンジロウは恐る恐るカナエの顔を覗き込んだ。いかに男女関係に疎いシンジロウと言えどもこのタイミングはあまりよろしくないものだと理解していたのだ。

 

「……同行しているということは軍関係かしらね。一度くらいご挨拶しておかないとね」

 

「え!?行くんですか?ちょっと様子がおかしいですし止めておきましょうよ」

 

「何言ってんの。そんなのいちいち気にしてられないわよ」

 

カナエはそう言ってグングンとジト達のほうへ近寄っていってしまう。半分恋敵の相手がどんな人物なのか知りたい感情も含まれているのだろう。シンジロウは仕方なくついていくことにした。

 

ジトの隣にいる女性は悲しそうにジトに訴えていた。

 

「なぜあなたばかりがいつも先に戦わなければいけないのよ?次は違う人に代わってもらえないの?」

 

「無理を言うな。俺が適任なのだよ」

 

「5人集められたのでしょう?それにチャド将軍だって強いと有名じゃない!」

 

「将軍を先頭には出来ないだろう」

 

聞こえてくる内容にさすがに気まずく思ったのかカエデは近づきながらも話しかけるのに躊躇していた。それに女性のほうが先に気づき無言で会釈する。

ジトも苦笑いしながら話しかける。

 

「おお、カナエとシンジロウか。家内のサキだ。よろしくな」

 

カナエは作ったような笑顔で応える。

 

「はじめまして、5将のカナエです。こっちは同じくシンジロウと言います」

 

「は、初めまして。あなた方が5将……なのですか?」

 

「ええ。ジトさんに次ぐ5将を務めさせて頂いております」

 

「でしたら……!次の戦いの先鋒を代わって頂けないでしょうか!?」

 

「!!」

 

サキが突然、カナエの手を取り懇願したのだ。ジトはサキを引き離しながら制する。

 

「やめなさい!何を言いだすんだ!」

 

「だって変じゃない!強いからってなぜあなたばかり危険な目に合わなければいけないの?」

 

「俺ばかりではない!侍は皆、国を守るために命をかけているんだ。士気を下げるようなことをここで言うのは止めなさい!」

 

ジトの覇気にサキは気負ってしまいそれ以上騒ぐことはなかった。

 

「ご、ごめんなさい。でもあなた絶対帰ってきてね」

 

「当然だろう。また美味しい夕食を作っておいてくれ」

 

サキはカナエ達の方も見やる。

 

「カナエさんもシンジロウさんもジトのこと宜しくお願い致します……!」

 

「……はい」

 

カナエは生半可な返事をすることしか出来なかった。

言わずもがなカナエは密かに先輩であるジトに恋していた。ジトは異性からもてはやされ、同性からも羨望の眼差しで見られるほどの人物である。侍を象徴する実力と精神を兼ね備えたジトを武家の子であるカナエが好きにならないわけがなかった。

 だからこそ自分は出来る限り想いを寄せた人を守りたいとは思っている。最早叶わぬ恋だと分かっていても好きな気持ちに変わりはないのだ。しかし、それを恋敵の人から頼まれる筋合いはない。それに戦争において絶対に命を保障することなど出来るはずがなかったのだ。

 

こうしてそれぞれが複雑な思いを胸にしまい、一夜が明けていった。

 

 

 

 

 

次の日の早朝

 

多くの侍が一列に並び号令を待っていた。

そして先頭にいる大柄の男は件の侍ジトである。

 

彼は自慢の大太刀を抜刀し掲げると後ろに並ぶ侍たちに向けて大声で叫んだ。

 

「かかれぇええ!!」

 

この声を皮切りに都市連合の侍数百人が一斉に走り出した。

 

対するはルビク審問官が守るホーリーネーション第2防衛線だ。防衛線と言っても馬防柵が丘の上に並べられている程度であり、砦の壁よりも防衛力は低かった。それにホーリーネーション軍はその信仰の特性上、文明の利器を拒む傾向がありボーガンなどの飛び道具を扱わなかったのだ。

 そのため戦いがほぼ軍と軍のぶつかり合いの近接戦になるのは必定だった。

 

またこの世界は人類が緩やかに衰退していることもあり、部隊と言ってもたかだか100人程度の集団である。陣形の概念はあれど高度な戦術は余り意味をなさなくなっていた。兵の数以外で勝敗に大きな影響を及ぼすのは個々の力量。特に群を抜いた圧倒的な実力を有する部将が1人いるだけで戦況を一気にひっくり返せるのだ。だからこそ都市連合軍の先鋒にジトが選ばれているのであった。

 

当然、そのような影響力を持つ部将の損失も大きな意味を持つ。それゆえホーリーネーションの審問官ルビクは駆け上がってくる大柄な男をずっと目で追っていた。その男がジトであると確信したルビクは他の侍には目もくれず、パラディンクロスを手に一気に詰め寄っていく。

 

「貴公は都市連合の侍ジトで間違いないか!?」

 

律儀にもルビク審問官はジトを前にして問いかけた。対するジトも名乗り合いのような古風なやり方は嫌いではなかった。

 

「いかにも俺がジトだ!そういうそなたは何者か!」

 

「ホーリーネーション審問官ルビク!参る!」

 

唐突に始まった大男同士の前時代的な一騎討ちに周りの者は敵味方全て遠慮するように後ろに下がる。というより巻き込まれない為、のほうが理由としては正しいかもしれない。

 

都市連合の侍 大太刀のジト。

ホーリーネーションの審問官 パラディンクロスのルビク

 

重武器同士の戦いは竜巻のように周りをなぎ倒すことが想定されたのだ。

しかし、その想定とは裏腹に2人の男は対峙したまま動かなくなった。

 

共通して強者だけが直感で感じとることが出来る気配。いま自分の目の前にいる男の間合いに不用意に入れば死が待っている。直接対峙することで互いの力量を肌で感じ取っていたのだ。

 

両者見合いながら得物を構えているだけの時間が続き、周りの戦闘は次第に激化していく。2人の任務は目の前の男を屠ることだけではない。早めに決着をつけて戦争に勝利するための指揮をとらなければならないのだ。

 

ジトは大太刀の間合いが優っていることを利用して一気にケリをつけることにした。大上段に構えて素早い初撃で相手を切り捨てるのだ。

対するルビクも一瞬で意図を理解する。パラディンクロスを下段の脇構えで対していたが、このまま組み合うと上段からの速さで負ける。ただし上段から振り下ろされる高速の初撃を乗り切れば、逆に切り返しの早さでルビクの勝率が上がるのだ。

 そしてジリジリとジトが間合いを詰めたことで両者思考の時間切れとなる。ルビクが大太刀の間合いに入ったのだ。

 

音もなく振り下ろされる大太刀にルビクが取った作戦は前例のないやり方であった。

体を捻りパラディンクロスを振り上げたが、大太刀に当てにいくというよりかは自ら下がり、背中で背負うように大太刀を受けにいったのだ。下がった分、高速の大太刀の受け流しに成功した形だ。

体制を崩しながらも大太刀の初撃の受け流しだけに全神経を注いだのだ。例え自分が転びかけたとしても受けきれさえすれば自分は回転しながらでも次の攻撃が出来る。

 

しかし……強烈な違和感を持つ。

大太刀の斬撃が思ったよりも軽かったのだ。

 

 

 

 

 

そしてその答えは当然ジトが持っていた。

 

ジト・サカエザワ

 

幼い頃から謎の師カクノーシンに目をつけられ英才教育を受ける。その甲斐あって、魅せる仕合だけでなく、泥臭く勝利を掴み取る戦闘スキルも身に着けていた。正式に侍として配属されてからも鍛錬を止めることなく進化を続け、公式に都市連合最強の称号を得る。その後はロード・オオタに首都ヘフトの守備隊長に指名され、嫁を娶りこの時代の平民にしては珍しいほど順風満帆な生活を送って現在に至る。

 

今回も確実に勝利することだけを考えているジトは初撃をルビクが何かしらの方法で受けに来ると踏んでいた。

 

ゆえに大太刀の初撃は()に使う。

 

振り下ろす瞬間。ジトは利き腕ではない左手を離し右手のみで斬撃していたのだ。そして左手はノールックで腰に帯びた脇差に伸びる。

 

逆手二刀流だ。一連の流れはやろうと思ってもすぐに出来ることではない。これまでジトが血反吐がでるほど行ってきた訓練の賜物であろう。

 

(殺った……!)

 

都市連合の侍誰しもがそう思っただろう。

ジトはそのままルビクの首元に脇差を持っていく。

 

その刹那。

 

鈍い痛みがジトの脇腹を襲った。

気づくと人相が悪い見知らぬ兵士が槍のような棒をジトに突き刺している。その様子を見ていたルビク審問官の声が戦場に響き渡った。

 

「ベルゼブブ……!?貴様!!」

 

ベルゼブブと呼ばれた人相の悪い兵士はさらに短剣を取り出すとジトの首筋を音もなく引き裂いた。

 

首元を抑えながら倒れゆくジトの横でベルゼブブは薄気味悪い笑顔を浮かべていた。

 




kenshi2まだかな~・・・
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