Kenshi -20years later-   作:さわやふみ

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◆都市連合
 チャド、ガルベス、ジュード


104.情勢変化

ルビク審問官はジトの亡骸を見ながら呟く。

 

「ベルゼブブ……貴様、俺の一騎討ちを邪魔した事を理解しているであろうな?」

 

怒りの形相になり今にも味方に斬りかかんばかりだ。

対するベルゼブブは血塗られた短剣を放り投げると、顔についたジトの血を拭った。

 

「いやいや、やらなきゃあんた負けてたよ。それにこれはカスケード審問官の命令ですよ。文句は彼にどうぞ」

 

「なんだと……?」

 

「この決闘は今回の戦争において深い意味があったのはご存知だったでしょ。あんたのプライドなど勝利のためには全く無意味です。つべこべ言ってないで自分の仕事をしたらどうです?」

 

「……」

 

ルビクはしばし放心していたが、確かにベルゼブブが言っていることは正しかった。ここで敵将ジトを討ち取った意味は大きいのだ。審問官になっただけあってルビクは状況把握も切り替えも早かった。事態を飲み込み始めると、自分を納得させるようにホーリーネーションのパラディン達に指示を出す。

 

「兄弟たちよ!今こそ都市連合の悪の尖兵共を殲滅するチャンスだ!突撃せよ!」

 

都市連合の先駆けとなっていたジトが倒れ、周囲の侍達は完全に浮足立っていた。侍の中でも今回の戦いへの意気込みはそれぞれ異なる。ヘイハチやカナエのようにホーリーネーションを恨んでいる者もいれば汚職にまみれた貴族から遣わされただけの侍もいた。むしろ後者のほうが構成的には多いかもしれない。

そこに勢いをつけたパラディン達が掛け声と共に突撃したのだ。命が惜しい侍から我先に逃げ出し始め、あっという間に都市連合軍の陣形は崩れてしまい、ホーリーネーションに形勢が傾いたのである。

 だが、都市連合の侍たちが退却を始める中で、1人の侍鎧に身を包んだ男がベルゼブブを見ていた。

 

「見たで〜あんたの顔。暗殺者が顔覚えられるの致命的なんちゃう?」

 

都市連合の5将タニガゼだ。彼は一騎討ちが始まるのを遠くから発見し駆けつけていたのであろう。ジトの援護には間に合わなかったが、ホーリーネーションの神出鬼没の暗殺者『ベルゼブブ』の顔を見ることが出来たのだ。

 

「馬鹿か。見ても死ぬだけだぜ」

 

ベルゼブブは近くに落ちている長剣を拾い上げると一気にタニガゼに詰め寄っていく。しかし、タニガゼは懐からクナイのようなものを瞬時に出しベルゼブブに投げつけた。そしてそれをベルゼブブが防いでいる間に逃走する都市連合軍の中に姿をくらました。

 

「ほう……あいつやるね」

 

ベルゼブブは追うことはせず、一人仕事を終えた余韻に浸っていた。そんな中、第二戦はホーリーネーションの勝利で幕を閉じてゆく。都市連合は先攻の要であるジトを失うという手痛い打撃を被ったのである。

 そしてカスケードが見立てた通りこの戦いの後、都市連合側が攻めの布陣の再検討に入ったため一時の膠着状態となっていくのであった。

 

 

◆◆◆

 

 

都市連合陣営

 

 

ジト戦死の報から始めて開かれた緊急会議は第一防衛線を打ち破った時の賑わいとは打って変わって悲壮感がただよっていた。

 

そこに堰を切ったように話しだしたのは目を真っ赤にしたカナエであった。

 

「暗殺者ベルゼブブが来ていることを把握していたなら、ジト先輩を狙いに来ることは予測出来なかったのですか!?」

 

これに反論するようにタニガゼが間に入る。

 

「無理言っちゃあかん。そりゃあ予測はするだろけど貴族でもないのに一々守ってられないでしょ」

 

「タニガゼ。そもそもあんたジト先輩と協力する手はずだったのに何やってたのよ!?」

 

「それこそ無理やねん。自分の部隊の指揮もあったし、駆けつけた頃には速攻で決着がついてしもうたんや」

 

「一緒にいた意味全然ないじゃない!」

 

興奮気味に話すカナエに対してヘイハチも諭すように会話に加わる。

 

「カナエ殿、落ち着かれよ。今回タニガゼ殿は長年正体が掴めていなかったベルゼブブの顔を見たと聞く。相手に手札を切らせたのは不幸中の幸いじゃった」

 

「それだけあの決闘が重要だったからでしょ!現に流れが向こうに行っているじゃない」

 

「キーキーうっさいのぉ。ほんならあんたが先頭に立てばええやん」

 

「ええ、そうね!あなた方には任せてられないわ!」

 

ヒートアップするカナエの言葉に反応したのはチャドであった。

 

「カナエ。君には別の任務がある。後方の輸送部隊を護衛しに行って欲しい」

 

「はい?攻めはどうするのですか?私もそこそこ腕には自信があるのですが」

 

既にカナエの表情は紅潮し爆発寸前だ。そこに火をつけたいのかタニガゼがチャチャを入れる。

 

「あんたは女の侍という珍しい広告塔やから下手に前に出て死んでもらっちゃ困るんちゃいます。将軍の苦悩を理解してあげなぁいかんで」

 

会議室内は一瞬にして冷気に満たされたように殺気立った。カナエはタニガゼを睨み一触触発の気配だ。これを冷静に見ていたチャドは静かに口を開く。

 

「それは違うぞタニガゼ。輸送部隊が襲われる可能性が高まっているのが事実だからだ。食糧をやられたら我々は苦境に陥ってしまう。それは何としても避けなければならないためカナエを遣わすのだ」

 

「でもうちらの後ろの部隊なんて敵さんは狙えないんとちゃいます?」

 

「狙うのは何もホーリーネーションだけではない。野盗や反乱農民などこの機会に動き出す組織もいる」

 

「ああ、なるほど。良かったのぉ、姉さん。厄介払いじゃのぉて」

 

カナエはチャドの言葉を聞くと、もうタニガゼを相手にさえせず無視を決め込んでいた。チャドもタニガゼの態度について特に指摘することなく話を進める。

 

「前線のほうだが……今後は私が直接出ていって、タニガゼとヘイハチにはカバーに回ってもらう。シンジロウはさらに後方からのバックアップだ」

 

「えー、将軍様が前に出ちゃってええん?」

 

「しばらくは突破力を重視する」

 

その場に反対する者はいなかった。この状況を再度覆すにはリスクをおかしてでも起爆剤的なやり方を投入するしかないという見解が一致していたのだ。大方の方針が決まった頃、外を守る衛兵から声が聞こえてくる。

 

「失礼します!外にジト部隊長の奥様が来られていて将軍と話したいと訴えております。如何しますか?」

 

「…………」

 

ジトの死は既に兵士の間に伝わっている。妻であるサキが把握することは容易だった。

 

「私が対応するわ。別室に案内しておいて」

 

カナエは真っ先に声をあげた。恐らくジトの死に関する抗議であることは予想がつく。サキから直接宜しく頼まれた手前、それを受けるにも自分の責任だと思っていたのだ。だが、それを遮る男がいた。

 

「いや……何度も言うが輸送部隊の護衛は現在、最重要任務であり一刻を争う。カナエはすぐにでもここを発て。サキには私が会おう」

 

チャドだ。彼なりのケジメなのか、それとも事情を知った上での優しさなのか。将軍が応対することなどあまり前例がない中で名乗り出たのだ。

 

元々カナエは本心ではサキに会いたくない。恋敵に対して目元を真っ赤にしながら悲しんでいたことを知られるのはあまりにも惨めだと思えたからだ。ここはチャドの配慮に甘え、言われた通り自分の部隊を率いて後方の輸送部隊がいる場所へ移動を開始することにした。

 

 

 

 

 

そして道中、カナエは今回の事について深く考える。

自分がジトの死で深く傷ついているのは誰が見ても明らかだ。

 自分の目的は父の仇であるホーリーネーションを倒すことだった。しかし、いざ身近にいる想いを寄せていた人を失くした時。想像以上の喪失感が頭を支配して他に何も考えられなくなっていたのだ。

 

(はは……私のほうが軍に向いてないのか?これじゃあタニガゼが言っていることのほうが正しく思えてくるな……)

 

自分は今、著しく覚悟が足りていない。戦争をナメていたのは自分だったのかもしれない。怒りの気持ちだけで戦争を推進していた過去の自分を改めて顧みると視野が狭かったのだと自覚させられた。

 

 しばらくすると虚ろな視線の中に輸送部隊がキャンプを貼っている様子が目に入ってきた。

 出迎えてくれたのは、チャドの付き人ジュードであった。

 

「……ああ、久しぶりだね。君が輸送部隊を見ていたのか」

 

明らかにこれまでと違うテンションで喋りかけるカナエに対してジュードは心配そうに応える。

 

「カナエさん。お疲れ様です。その……ジトさんは本当に……残念でした……」

 

「ただ戦友を1人失くしただけよ。戦争ではよくあることでしょ……」

 

年下の前で弱い所は見せたくない。カナエはただ強がるしかなかった。

 

「なぜこちらに来られたのですか?」

 

「あなた達の輸送部隊が襲われる可能性があるみたいでね。私が派遣されたのよ」

 

「え、ここもですか……」

 

「安心しな。来たところでどこかの弱小組織による便乗レベルさ。私が撃退してあげるよ」

 

カナエは輸送部隊を見渡した後、続ける。

 

「兵士はこれだけ?あなたいつもガルベスっていう大柄なシェク人と一緒にいなかったっけ?」

 

「ガルベスさんは他に任務があるようでここを離れました」

 

「ふーん、そう。使えそうだなと思ったけどまいっか。取り敢えず今日は飲もうか」

 

「え!?……ご、護衛が飲んでいいんですか」

 

「飲み潰れなきゃいいのよ」

 

こうしてカナエは無事にジュードがいる輸送部隊に合流した。その夜、ジトの死を忘れたいためなのか、カナエは大量の酒を飲みジュードに絡んだ。

 

「前にさ、あなたに軍は向いていないって言ったじゃん?」

 

「ああ、そういえば言われましたね」

 

「ごめん」

 

「え?何ですか急に!」

 

「いや、向いてなくてもチャド将軍を守りたいからついてきたのに酷い事言ったなって」

 

「いえ、いいんですよ。向いていないのは事実ですから」

 

「あなた本当は人と戦いたくないのでしょう?争い事が嫌いなんじゃない?」

 

「…………」

 

「チャド将軍もある意味同じね。なんか無理矢理戦っている気がする。貴族になる野心があるわけでもなさそうなのに」

 

この言葉にジュードは考えさせられた。元々ルイを助けるためにチャドも軍に入ったのだ。戦争を仕掛けたのにも利用があるはずだ。態度を崩さないカスケードに対して強気の姿勢を示さざるを得なかったのかもしれない。

 

「師範は……」

「静かに!」

 

急にカナエが制するようにジュードの言葉を遮った。そして暗くなった辺りを見渡している。

 

「……来たわね」

 

カナエが視線を送る方向から数人の人影が現れ始める。その者達はボロボロの衣服を着込み桑など粗末な武器を携行していた。

 

「やはり反乱農民か。数はそこそこいるけど私の部隊で追い払えそうね」

 

カナエは背負っていた長巻を抜いて構えた。すると反乱農民の先頭にいる男がカナエに気づき、舐め回すように見て話し出す。

 

「おいおいおい!マジかよー、女がいるぜ。というかいい女じゃん」

 

男の農民らしからぬ巨躯とそのふてぶてしい態度にカナエは違和感を覚える。格好も他の農民と違って皮の鎧を来ており異質だ。

 

「あんた5将の女か?こりゃあついてるぜぇ」

 

「どうでしょうね。そういうアナタは誰なの?」

 

「僕、農民ですぅ。イヒヒヒ。食糧庫に火をつける地味な仕事よりあんたを殺るほうが良さそうだぜ。いや……拉致ったほうが何度も楽しめるな!」

 

これに対して近くを守っていた侍が対応する。

 

「反乱農民どもか!帝国に楯突く愚か者共め!」

 

侍はそのまま男に斬りかかった。

 

しかし、男は懐から短剣を取り出すと、素早い動きで侍の刀を避けて首筋を掻っ捌いたのだ。

 

「!!」

 

ホーリーネーションに訓練を受けていたとしても、農民とは思えない尋常ならざる動きだ。

 

カナエは前に出て構える。

 

「お前……まさか……ベルゼブブか!!」

 

この言葉にジュードをはじめとする都市連合の侍達に緊張が走る。都市連合屈指の剣豪ジトを不意打ちとは言え倒した相手がここに現れたのだ。

『ベルゼブブ』という名前はホーリーネーションで暗殺専門のコードネームとして使われており、首なしの惨殺死体や手足のない精液まみれの女性遺体などが見つかる凄惨な事件があるところに必ず絡んでいた。しかし、捕えるどころか顔すら確認出来なかったため都市連合領内でも悪霊と言われ恐れられていた。その悪霊がいま自分たちの前に現れたのだ。輸送部隊の侍たちも名前を聞いて少し怖気づいていた。その反応を見てベルゼブブは得意げに話し始める。

 

「部将はお前だけか?いや〜迷うねぇ。犯してから殺すか、殺してから犯すか……まぁ両方だな!」

 

一定の秩序や道徳心があるオクラン教徒らしからぬ発言に都市連合の兵士達の表情は引いている。ベルゼブブの残虐性は本物であり、決して誇張ではないことを感じ取っているのだ。ただカナエの中ではジトを殺された怒りがそれ以上に上回っていた。

 

「クズ野郎……!お前は絶対に殺す。相手は烏合の衆だ!追い散らすぞ!」

 

カナエは浮足立っていた味方を鼓舞した。それを見たベルゼブブは恍惚な表情を浮かべ始める。

 

「いいねぇ!いいよぉ!お前が『くっ殺せ!』って言う時の表情を想像しただけで勃ってきたよぉお!」

 

闇夜の中で唐突に戦いが始まった。

 




('ω')
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