Kenshi -20years later- 作:さわやふみ
ルイとトゥーラは行商人グンダーから護衛の依頼を頼まれ同行するが、
道中でルイはグンダーの嘘を見破り人質に取りながら姿が見えないトゥーラを探す。
グンダーからは今までのとぼけた口調は消え去っていた。
「テックハンターが雇い主の行商人にこんなことをしていいと思っているのか?」
「俺はテックハンターじゃないし、そんなこと気にしねぇ!トゥーラに会わせられないならお前を殺す。」
ルイが咄嗟にグンダーを人質にした判断は一か八かの賭けであった。もし自分の推測が間違っていた場合、行商人に敵対行動をとったことになる。
しかしこの判断は結果的に正解だったと言えた。
周りを囲む行商人達が手慣れた様子で短剣を扱う様はどう見ても普通の行商人ではない。
そしてリーダーであるグンダーを人質にしなければルイでは到底敵わなかったかもしれないのだ。
「取り敢えず短剣をおろしてくれないか?」
「ダメだ。このまま案内しろ。」
他の行商人が行く手を阻むが、グンダーが手で制すると黙って道を開けた。
これが本来のグンダー達の関係なのだろう。
ルイはグンダーを羽交い締めにしながら歩を進める。
「今ならまだ間に合うぞ?賞金首となり手配されたいのか?」
化けの皮が剥がれたグンダーに紳士らしさは消えている。
「俺の命はどうでもいい。それよりトゥーラに何かしていたらこれまで生き永らえたお前の命も最後だと思え。」
「・・・!」
ルイは手元の短剣をさらにおしつけグンダーの首からは血がしたたる。
これによりグンダーはルイの度胸と覚悟を悟る。
普通の素人の場合、このような状況に直面すると恐怖が先行しそれが短剣の刃先の震えなどに現れたりするがルイにはそれが見られなかったのだ。
これは伊達に長年生きてきたグンダーならではの洞察力なのだろう。
「わ、わかった。しかしお前・・昨晩もそんな目をしていたな・・一体お前は何なんだ?」
「黙っていろ。他の行商人はここに残れ。グンダーと俺だけで行く。」
「グンダー隊長。」
周りの行商人もルイ達を囲みながらついてくる。
「ま、待て。こやつ本気だ。何もこんな小娘のために命を張ることはない。小屋に行くからお前たちは待機していろ。」
「はっ。」
グンダーはそのままゆっくりと休憩地から数メートル離れた場所にルイを連れていった。
人質を取りながら進むその距離は短いようで果てしなく長い。グンダーは抜け出す機会を伺っているようだがルイは隙を見せることはなかった。
たどり着いた場所にはいりくんだ岩場の間に隠れるように一件の小屋が窮屈そうに建っていた。
(なんだここは?やはりこいつら普通の行商人じゃない・・。何者なんだ?)
「ここだ。」
「そのままお前が開けろ。」
グンダーがドアを開けようとするとドアがバタンと開き、中からはガルベスが出てきた。
「・・グンダーの旦那!?まさか!」
驚いた表情でガルベスはルイを見やる。
「ああ、バレた。もう一匹を出してやれ。」
「し、しかし・・!」
ルイはグンダーとガルベスの会話で共謀を確信した。
「お前ら・・・グルだったのか・・!」
グンダーを羽交い締めしながらガルベスを避けるように回り込んで小屋にはいる。
中には両手両足を縛られ口には猿ぐつわをされたトゥーラが転がっていた。
「んー!んー!んー!」
しきりにトゥーラは何かを訴えている。
「トゥーラ無事か!?グンダーはそのままトゥーラの拘束を解け!ガルベスは下がっていろ!」
グンダーは大人しくトゥーラの拘束を解いた。するとトゥーラは猿ぐつわがとれた瞬間すごい勢いでまくし立てる。
「こいつら奴隷商だ!こうやって人を騙して奴隷にして儲けていたクズ野郎だ!テックハンターにまで手を出すなんて!許さん!」
よっぽど怒っているのだろう。声が震えいつもの礼儀正しさは消えた荒い言葉遣いだった。
「トゥーラ。まずはここを出るぞ。歩けるか?」
「え、ええ。来てくれてありがとう・・ルイ。もうダメかと思ったわ。」
「いや、お前の忠告で気づくことが出来たんだ!一緒に逃げるぞ!」
二人はグンダーの手を縛り上げる。
「お前は俺らが安全と判断する場所まで人質として来てもらう。来い!」
ルイは強引にグンダーを縛り上げた縄を引っ張る。
「旦那、いいのか?」
板剣を構えたガルベスが問うがグンダーはルイ達のいいなりだ。
「ああ・・言う通りにしろ。どの道こいつらは賞金首として捕まる。」
「なんで俺らが賞金首になるんだ。人攫いの悪行を知らせてお前らこそ捕まえてやる!」
ルイが言い返すがその言葉を聞いてもガルベスが醸し出す余裕感は消えない。
「くくく、分かってないな。必ず見つけ出してやるよ。」
「ルイ、こいつと話してても無駄よ。行きましょう。」
トゥーラは自分の武器を装備し直した。
そしてルイ達は縛り上げたグンダーを連れてその場を後にした。
見通しが効く荒野に来て、ガルベスが追ってきていない事を確認すると、ルイはグンダーの拘束を解いた。
「ここまで来ればガルベス達も見つけられないだろう。グンダー、手の縄だけほどいておいてやる。勝手にどこかへ行け!」
グンダーは手首をさすりながら負け惜しみのようにブツブツと口走る。
「お前らなら特別な奴隷として貴族に高く売れたものを、ただの賞金首になるとはな・・・。」
最早、出会った頃の無害そうなお爺さんの姿は皆無であった。
「気持ち悪い爺め。次に会った時は容赦しないからな。」
「安心しろ。次にお前らを訪ねるのは賞金首ハンターだ。せいぜい刑務所でがんばるんだな。」
グンダーを荒野に一人残し、ルイたちはその場をあとにした。
しかし、アクシデントからの疲れもあるのか歩き始めてからの二人の足取りは重い。
「・・・まさか最初っからグンダーとガルベスが組んで演技しているとはな・・。本当に気の抜けない世界だぜ。これからどうする?取り敢えずブリンクに行くか?」
「その前に・・改めてお礼を言わせてちょうだい。あなたは一人で逃げようと思えば逃げれたのよね?危険を侵してまでグンダーをここまで引きずって来てくれて本当に助かったわ。あのままだったら私、一生奴隷として生きていくことになっていたかもしれないのに・・・。」
そう言ってトゥーラはうずくまってしまう。
「お、おい。大丈夫か?仲間なんだから助けるのは当たり前だろ。それより傷はないか?ガルベスの野郎に何かされたか?」
「いいえ、大丈夫よ。後ろから殴られ気絶させられたぐらい・・・うっ・・うっ・・。」
「どうした!殴られたとこが痛むのか!?」
しくしく泣き出すトゥーラを見てルイは驚いて後頭部を確認する。いつものトゥーラの絹のような長い髪は砂埃でグシャグシャになっていた。
「違うの・・とても怖かったの・・。目が覚めたら自由を奪われてて目の前にはガルベスがいるのに何も出来なくて・・。私はもうここで終わるんだと思うと絶望感と恐怖に押し潰されそうだったの・・。」
普段はテックハンターとして気高く振る舞っていたトゥーラもこんな目に遭って冷静でいられるはずがなかったのだ。
これを見てルイは優しく声をかける。
「これでお互い泣き顔を晒しちまったな。二人でこの局面を乗り越えたんだ。これからもよろしく頼むぜ。相棒。」
「!・・・ええ・・・。」
こうして二人は肩を貸しあいながらも前に進み始めた。
気がつくと遠くに町並みがぼやけて見える。
ルイはそこがブリンクだと直感し、歩を進めようとしたがトゥーラが止める。
「ルイ。しばらくブリンクには行けないわ。私達にはまもなく都市連合から賞金がかかるはずよ。」
「え?だからなんで俺たちに賞金がかかるんだよ。そもそもあいつら都市連合の者なのか?」
「いいえ、恐らく奴隷商という奴隷の売買で生計をたてている連中よ。この近くに奴隷商の拠点があるの。都市連合は奴隷制を基本政策として成り立っているから奴隷商自体が容認され奴隷商人の一部には都市連合として懸賞金をかけられる権限を持った者もいるのよ。」
「奴隷政策って・・人が人を死ぬまで家畜のように働かせるやつだろ?都市連合はそんなに悪どいことやってんのか?」
「え、ええ・・まぁそうね。国のお偉いさんも問題視している人はいるみたい。ただ現状、国民も資源不足による飢餓に直面しつつある今、奴隷の労働力が必須でもあるみたいよ。」
「・・・そうか。そうだったのか。」
ルイはこれを聞いて父親がやろうとしていた事を少し理解出来た気がした。
いま人類は世界規模で食糧難に陥っている。それを根本的に解決していかない限り奴隷商のような組織がのさぼり続けてしまうのではないか。
ただ、そうなるとやはり父親の組織を都市連合がなぜ襲ったのか疑問は残る。
世界を見る、という何気ない目的で始めた旅であったが、ルイにとってこの出来事は
今後の人生を左右する転換点となっていく。
「とにかく。今は都市連合の町には近寄らないほうがいいわ。」
「他に行く宛あるか?ブラックスクラッチに戻るとか。グンダーの悪行を他のテックハンターに注意できるし。」
「少し遠いけどテックハンターの中継拠点ウェイステーションに向かいましょう。そこならグンダー達も来ないだろうし安全よ。」
「そ、そうか。取り敢えずトゥーラに行き先を任せる。頼りにしてるぜ。」
ウェイステーション。
ルイには聞いたことのない言葉であったが旅において先輩であるトゥーラの判断に従うことにした。