Kenshi -20years later-   作:さわやふみ

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◆都市連合
 チャド、ジュード


109.決別

「我々はこのままホーリーネーションの首都を目指す」

 

ざわつく会場の中でチャドの言葉はジュードにとって脳を直接棍棒で叩かれたような衝撃であった。

長い歴史の中で都市連合、ホーリーネーション、シェク王国は3大国として争いながらもバランスを保ってきた。その一角を崩しにいくというのだ。ここ数百年間、起き得なかった事であり、どれだけ大きな話であるかは侍たちの反応を見れば分かった。

 

(師範……なぜ……なぜですか……)

 

今回の侵攻は都市連合にとってもバスト奪還までが想定のゴールであったはず。にも関わらず相手国を滅ぼすまでこの戦争を続けると言うのか。誰の意志か知らないが師範もその方針に従ったのだとすると、結局歴史に名を残し、名声を得ることを重視していたのではないかと思えてきてしまうのだ。

 

この後チャドが喋り続けていたがジュードは半ば放心状態で内容が耳に入ってこなかった。

 

 

 

 

そして宴が終わった後。皮肉にもジュードはチャドに呼び出された。嬉しさ反面にチャドの行動に疑問を感じていたジュードはこの際今回の件をとことん問い詰める気でチャドのいる部屋へ向かった。

 

コンコン

 

「入れ」

「失礼します」

 

もはや部下と上司のようなやり取りであり、かつての親しみは感じられない。侍たちの手前上、このようなやり取りを続けなければならないこともジュードにとっては疎遠を感じストレスとなっていた。

 

「久しぶりだな。軍の生活は慣れたか?」

 

将軍用の豪華な椅子に座ったチャドは少し目が鋭くなっている気がした。

 

「……いえ。慣れることはないでしょうね」

 

「そうか。ではそんなお前に適した任務を頼みたい」

 

合流して早々、久々に会えた余韻に浸ることもなく任務の話を切り出すチャドにジュードは寂しい気持ちになった。

 

「何ですか……?」

 

「西方にワールドエンドという都市があるのは知っているか?そこにはマシニストという2大国に属さない研究組織がいるのだが、お前には彼らがこの戦争に不干渉なのか確認してきてもらいたい」

 

「使者の役割ですか。確かに俺向きなんでしょうね」

 

普段とは違うジュードの言い回しにチャドが気づく。

 

「どうした、嫌か?恐らく敵対的ではないし、シンジロウも少数連れて同行するから安全だ」

 

「安全かどうかはどうでもいいです。それより師範は本当にホーリーネーション本国に侵攻するのですか?」

 

チャドはジュードが言いたい事を理解したようで急に険しい表情になる。

 

「そのつもりだ」

 

「……!何でですか!?あくまでルイ奪還が目的だったのでしょう?バスト奪取は交渉を有利に進めるためだったわけではないのですか?それにこれ以上侵攻するとルイにも危険が及ぶ可能性がありますよね!」

 

堰を切ったようにまくしたてて話すジュードに対してチャドは冷静のままだ。

 

「お前が言いたいことは理解した。その点については既に手は打たれており心配ない」

 

「どういうことです!?意味がわかりません。ルイは無事なんですか!?教えてください!」

 

「これは作戦の遂行上あかせない」

 

「……俺にも教えてくれないんですか?」

 

「ああ、話は以上だ。行け」

 

部下に命令するかのようなチャドに対してジュードは引かなかった。

 

「俺はまだ話し足りません。なんでまだホーリーネーションに攻める必要があるのですか?師範は戦争を避けようと……」

「ジュード!……お前は戦争が嫌いか?」

 

都市連合の護衛兵がいる中でチャドは遮るように聞き返してきた。

 

「当たり前でしょう!そんなこと知っていますよね!?師範はやはり好きなんですか?名声を得られるからですか!?」

 

普段見せない剣幕で矢継ぎ早に問いただすジュードに対してチャドは慌てる素振りは見せなかった。そして自分に対する質問に触れることもなく話を続ける。

 

「……そうだな。お前が戦いを嫌いならばワールドエンドへ行くのは丁度良い任務であった」

 

「違います!!俺のことはいいんです!……俺は!師範に命を拾って貰いました。だから例え自分が弱くても師範のそばについていき盾になりたいんです!」

 

「……」

 

半ば怒鳴るようなジュードの申し出に将軍室はしばらくの沈黙が流れた。そして

 

「勘違いしているようだが……」

 

チャドが神妙な面持ちで切り出した。

 

「昔に私が戦場でお前を拾ったのはただの気まぐれに過ぎない。戦略について考察していた際に、たまたまお前を見かけたが、その時私は自分の総心流拳法を世に残したいとも思っていた。だから誰でも良かったのだ。お前でなくてもな」

 

「え……」

 

心をえぐるチャドのカミングアウトにジュードは気持ちの整理が追い付かず言葉を失った。

そこにチャドは畳みかけるように宣告する。

 

「だからお前が私を守る筋合いはないのだ」

 

しばしの間、ジュードは時間が停止したように動けなくなった。

そしてやっとの思いで絞り出したかのような小さな返事をする。

 

「そう……ですか」

 

-最初のきっかけは単なる哀れみで良かった。同情でも良かった。

 

自分は師弟関係を超えて接してくれたチャドに対して少なからず父親のような愛情を感じていた。チャドにとっても自分は特別な存在になっていると思っていた。

 

しかし

 

それは自分が思い込んだだけの幻想だった。

 

助けたのは自分が練り上げた戦闘技術の伝承のためだった。あくまで戦闘の観点でチャドは動いていただけだったのだ。

 

自分の中でチャドと暮らしていた輝かしくも静かで平和な日々がガラガラと音をたてて崩れていく。

 母親が死んだ時と同じ消失感が心を支配し、戦争孤児だった頃の1人で戦場を彷徨っていた記憶が脳を蝕むように浸食しだす。

 結局自分には家族はいない。一生一人なのだ。

 

「う……」

 

目眩と嗚咽感を我慢してその場に立ちすくむだけで精一杯になっていた。

 

「もう自室に帰って休め」

 

慰めるわけでもなくチャドは煙たそうに遠ざけようとするのでジュードは言われるがままその場を後にすることにした。恐らくこのままここにいたら心が壊れてしまいそうだったからだ。

 

師範は変わってしまった。……いや、元々こうだったのかもしれない。もう何が本当のチャド師範なのか分からなくなってしまった。

 

何も考える気が起きない。師範にとって自分は必要な存在ではなかったのだ。

 

もうただの使者として、言われたままにシンジロウとワールドエンドに向かおう。

 

ジュードはその日失意のまま寝ついた。

 

 

 

 

数日後

 

2人は別の道をゆくことになる。

ジュードはシンジロウとバスト西方にあるワールドエンドという都市へ向かい、チャド達部隊はカナエとタニガゼを伴って南方へ出陣していくことになったのだ。

 これまで育ててくれた恩師かつ親代わりのような存在であったチャドに敬礼を払いつつ、ジュードはまさに今この瞬間が袂を分かつ時なのだと直感した。ここからそれぞれが違う道を歩き始めたのだ。戦争が終わった後にまた2人で静かに暮らしていけたらとも考えたが、先日のこともあるし何よりチャドはその頃には貴族の道を歩んでいるかもしれない。自分がここで手を引かなければならないのだ。

 

心は全く晴れない。

隣で鼻歌を歌って上機嫌のシンジロウすら不快に感じてしまう。そんなシンジロウはうつむきながら歩いているジュードを不思議に思ったのか声をかけてくる。

 

「何か落ち込んでいませんか?ワールドエンドに行けるというのに!」

 

彼の目的であるワールドエンドに行けるとあって、ジュードとは対象的に大分ウキウキのようだ。ワールドエンドにいるマシニストという集団はテックハンターと組んで世界中の技術や情報を集めており、遠い過去に存在していたと言われる古代文明、第一帝国と第二帝国の謎を追っていた。スケルトンという自立型二足歩行ロボットを産み出すほどの科学力を持った国がなぜ消滅したのか。現在まで存在しているスケルトンはどのような役割があったのか。それらを調べるために研究施設まであるらしいのだ。スケルトン工学を専攻するシンジロウにとっては夢の国に訪れるような感覚なのかもしれない。

 

そんな集団が戦争に介入してくるとは到底思えないし、シンジロウだけ行かせれば事足りるはずであった。

 

師範はワールドエンドに敵対性がないか確認後、しばらくシンジロウと一緒に駐留するように命令してきた。科学的な情報収集も必要だからとのことであったが、過去の謎が解き明かされたからと言って人間同士が争いを止めるわけでもない。

 

やはりチャド師範にとって自分(ジュード)は煙たい存在になりつつあるのだ。

 

自分の人生の目的はなくなってしまった。

もう何もかもがどうでもいい。

 

(シンジロウさん……そんなにはしゃいで空しくないですか)

 

無邪気に笑うシンジロウを心の中で軽蔑する。

 

ーいや、虚しいのは自分だ。

 

自らが作り出した虚構を信じ、いざそれが幻影だったと知ったら、目的に向かって走っている他人を批判する。彼が信念や夢を純粋に達成しようとしている事に嫉妬しているだけなのかもしれない。

 

自分が嫌いになる。もはや自分はこの世界で無用な物になったのだ。

この世界にいても苦しいだけだ。

ならばいっそのこと……。

 

 

 

「この山脈を越えると……見えてくるはずですよ……!」

 

シンジロウの声にハッと我に返り、見上げると岩肌の山の合間に集落のような家々が見える。

 

「こんな北方の山奥に町があるなんて……」

 

「大陸の北にもまだ解明されていない未開の地はたくさんありますからね。北西に住む食人のカニバルなんかも歴史研究家にとっては面白いネタなのだと思います。僕はスケルトンに使われるテクノロジーにしか興味ないですけど」

 

生き生きと説明するシンジロウに対してジュードは問う。

 

「なぜスケルトンに興味があるのですか?」

 

「きっかけは親がつけてた義手ですけど、僕は彼らの人工知能の部分に可能性を感じています」

 

「人工……知能?」

 

「AIコアですよ。スケルトンの頭脳にあたる部分です。スケルトン達の過去の記憶を引き出せれば歴史やあらゆる技術を解明出来る可能性を秘めているのですが、現状はブラックボックスになっていて研究が進んでおりません」

 

「そうなんですか」

 

ジュードには理解出来ない説明であったが、深堀りする気力も起きずそのまま聞き流した。

 

ワールドエンドのマシニストはテックハンターと提携しているだけあって、町中には旅人らしき格好をした者が多く、BARも何件か建っており、旅人が長期間滞在するには向いているようであった。ジュードはこの地に留まり、チャドの戦果を待ちわびるだけの状況となっていた。

 

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