Kenshi -20years later- 作:さわやふみ
ストームギャップ海岸地区アイソケット
大陸の右側に位置するこの地は、
ブリンクから北東に少し歩いたところにある。そしてここは奴隷商の本拠地となっていた。
ブラックスクラッチほど広くはないが砲台を兼ね備えた防壁が周りを囲み、物々しく武装兵が警備している様はさながら小さな要塞のようだ。
そして中央の高い広場には人一人が入るぐらいの檻が複数円を描くように設置され奴隷と思わしき人達が閉じ込められている。
それを商人の身なりをした者達が品定めするように眺めている。
そんな中をガルベスは平然と横切り、奥にあるドーム上の大きな建物に入っていく。
グンダー達とは一緒ではないようだ。
建物の警備兵はガルベスが通っても特に反応はしない。
「マスターは居られるか?」
「奥の部屋です。」
案内のもとに歩を進めると中にはきらびやかなシルクの衣をまとった男が玉座のような椅子に腰掛けガルベスを出迎えた。
「久しぶりだな。ガルベス。」
「はい。マスターも元気そうで何よりです。」
「グンダーの目付は首尾よく出来ているか?ほら、一杯飲んでいけ。」
男は棚に置いてあるワインを手に取りグラスに注ぐとガルベスに渡そうとする。
「いえ、グンダーですが奴隷を逃がしてしまいまして・・・。」
「逃亡しようと試みる奴隷などたくさんいるだろう。いちいち気にするな。」
奴隷の逃亡処理など日常茶飯事なのだろう。男は気にせず自分のグラスにワインを注ぎ始める。
「あ、いやそれが奴隷にしようとした人間はテックハンターでして・・・。」
その言葉に男は一瞬ピクッとしたが変わらずワインを注ぎ続けながら応える。
「では今、グンダーは必死に逃亡者を追っているということかな?」
「はい。賞金首ハンターを雇って追わせているそうです。」
「ふむ・・・。ガルベス、テックハンター協会に悟られると都合が悪い。お前も行け。・・・それとグンダーはもう歳だ。体への負担が大きいだろう。そろそろ引退させてやれ。意味は分かるな?」
「え・・そ、そうですね。承知しました。」
ガルベスは一瞬硬直しつつもすぐに返事をする。
「お前も呑気にワインを飲んでいる時間はなさそうだな?」
「はっ!直ちに出発致します。」
男が不機嫌になったことをガルベスは察したようで返事を待たずにその場を引き返していった。
一方、ルイとトゥーラはウェイステーションへの長い道のりをただひたすら進んでいた。
「なぁ、まだそのウェイステーションってとこ着かないの?」
「まだまだよ。ブラックスクラッチからブリンクまでの距離の3倍ぐらいはあるんじゃないかしら。」
「そうか・・・じゃあ大体3泊は野宿ってことだな・・・。水と食糧は大事に使うか・・。」
「そういえばあなたはグンダーを捕まえてからずっと動きっぱなしね。少し休みましょうか。」
「ああ、そうさせてくれ・・。なんか・・すげー疲れた。」
2人はその辺の木陰に並んで寝そべった。
「そう言えばトゥーラってさ、なんでテックハンターになろうと思ったんだ?」
ルイによる何気ない質問に対してトゥーラは一瞬だけ躊躇したが意を決したように語りだす。
「私のお父さんがテックハンターだったのよ・・。」
「おおー。後を継くのか。今も父親はテックハンターやってんの?」
「お父さんは大陸の東にある禁忌の島という地域を目指して出ていったきり戻ってこなかったわ・・・。」
「そうだったのか・・。じゃあブラックスクラッチにいたのは父親を探しに行こうとしてたのか?」
「そうね。ただ、私がテックハンターを目指す理由はそれだけじゃないの。元々私はセンスがなくてブラックスクラッチまで旅が出来たのもただ運が良かっただけなんだ。小さい頃は友達によく馬鹿にされたわ。強くもないのにテックハンターになれるのかってね。それで見返してやろうとムキになって自分なりに鍛練をして、未開の地に乗り込もうとしたんだけどさ、町の門でたらすぐにスキマーに殺されかけちゃってね。あはは・・。」
「スキマーって砂漠にいるでっかい虫みたいな奴だろ?どうやって逃げたんだ?」
「テックハンターに偶然助けられたのよ。年刊テックハンターって知ってる?これなんだけど見てみて。」
そう言うとトゥーラは懐から雑誌を取り出しページを開いてみせた。
---今年度テックハンター十傑----------------------
1.トレップ(人間) 31347pt ※ 引退
2.バーン 30975pt ※ 引退
3.ゼッド 27389pt
4.ローグ・アイゼン(人間) 26213pt ※行方不明
5.ノットライボ 25739pt
6.イヨ 18113pt ※引退
7.ギシュバ(人間) 8425pt
8.コンスタンティン 7345pt ※喪失
9.リドリー(人間) 7123pt
10.イヌ 6924pt
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「なんだこれ?」
「テックハンター十傑よ。これまでに人類の発展に寄与する技術を持ち帰った功績を累積ポイント化してランキングした一覧の上位10名が毎年記載されるの。これは去年の奴だけどね。」
「おおー!そんなのがあるのか。」
「累積だから上位のほとんどをスケルトンが占めているけど人間もいるでしょ?私は9番目に入っているリドリーっていう女性のテックハンターに偶然助けられたの。長剣を使って華麗にスキマーを倒す姿は衝撃的だったわ。上位陣のpointには届かないけど人間でしかも女なのにここまで頑張っているテックハンターを見て私は単純に感銘を受けちゃったの。絶対こんなテックハンターになってやろうってね。」
「へぇ~やっぱテックハンターってすごい奴らなんだな。じゃあさ、この一番上の奴がやっぱり最強なの?」
「そうねぇ、トレップさんは引退しちゃったけど人間なのに圧倒的な実績を残した超有名人ね。というかこれ貢献度の順位だから単純な強さでいくとこの4番目にいる人間のローグって人が結構強かったみたいよ。ここ20年ぐらい行方が分かっていないみたいだから既に亡くなっているかもしれないけど・・。」
「そっかー。で、トゥーラもここに入るのを目指してるってわけか。」
「そ、そりゃあ目指してるけど、言うのもおこがましいぐらいこの方々は私から見ると偉大な方たちなのよ。」
「ふーん。ちなみに聞いちゃいけないかもだけどトゥーラは今何pointなの?」
「ゼロよ!でもめげずに頑張るわ!」
「おおー、なんかお前変わったな!」
「あなたのポジティブがうつったのね。」
思えば同世代のこの2人がまともに雑談するのは初めてだった。
一方は育ての親と別れ一方は未遂ではあるが拉致を経験した。アクシデントを乗り越え久しぶりに腹を割って談笑する一時は彼女たちに束の間の安らぎを与えた。
一方で、それを許そうとはしない者達はブリンクにて着々と準備を進めていた。
奴隷商グンダー
行商人と偽り単独行動している弱そうな人間に近づいて奴隷にする仕事を長年続けてきたこの男は自分の失態を握り潰すためにルイとトゥーラに懸賞金をかけたのである。
今もブリンク都市にある建物の薄暗い一室にて世話しなく家来に指示をだしていた。
「よーし、賞金首ハンターは出発したか?懸賞金の申請は出しておいただろうな?今回は一人につき上限の3000catしか出ないだろうから早めに捕らえないと時効が来てしまうぞ!」
「はっ。既に出発しました。行き先も見当がつくとのことでしたので奴なら引っ捕らえて来てくれるでしょう。上乗せはされましたが・・」
「そうか、いつもの何でも屋に頼んだのか!上乗せは痛いがこれで一安心と言ったところか。・・・後はアイソケットへの報告が気がかりだが、ただの奴隷が逃げたことにしようかの。そう言えばガルベスはどうした?奴にも追わせんとな。」
「ガルベス殿は用事がありこの町には現在いないようです。」
「ちっ!こんな時に一体何をしているんだ!」
するとギィー・・という鈍いドアの音と共に大男が部屋に入ってきた。
「おお、ガルベス殿!どこへ行ってたのだ!お主も早く逃亡奴隷の確保に向かってくれ!」
「おう。今から向かう。依頼した賞金首ハンターはいつものなんでも屋か?他には誰か依頼したか?」
「依頼先はいつもの奴だ。賞金が低いのであいつにしか頼めなかったわぃ。」
「いや、それでいい。この件は他の仲間には言ってないよな?」
ガルベスはさりげなく周りを見渡しながらグンダーに近づく。
「そりゃあ言っとらんよ。穏便に済ませようと思っておる。」
「分かった。ではグンダー、悪いがお前はもう奴隷商から除名の上、引退してもらう。」
「え?」
グンダーが振り返るよりも先にガルベスはグンダーの首を両腕使って後ろから絞めあげた。
「ぐ・・・が・・・」
グンダーはガルベスを振りほどこうと必死にもがくが太いガルベスの腕はびくともしない。
周りにいる奴隷商の部下たちは恐怖におののきながら何も出来ずに傍観している。
やがてグンダーの表情は青ざめていきそのうち動かなくなった。
「弔ってやれ。新しいリーダーは追って沙汰があるだろう。」
ガルベスはグンダーの亡骸を放り、静かにその場を去っていった。
あとがき
テックハンター十傑は物語に関わる情報の他に遊びを入れてみました
<2021.5.7>
ご指摘とテックハンターノートから十傑のランキング1位~3位を修正しました。
合わせてその後の会話のやり取りを少し修正しました。