Kenshi -20years later- 作:さわやふみ
ナパーロ/ラックル/694番、サッドニール
◆支援者
サスケ
ポートノース
都市連合北方に位置するここはポートサウスと並んで奴隷を使った資源発掘現場の拠点である。
694番ことロクシーはその現場を治めるレディー・カナという貴族が推薦する特憲を偵察しに来ていた。そしてある商人とすれ違った際にサスケとの会話を思い出した。
ーーー
「これまでお前たちが殺った特憲2人はいずれもオオタ派だ」
「ヒガキもですか。となるとオオタ派がノーファクション壊滅に関わっている可能性が高いという事ですか?」
「いや、オオタ派を続けて殺ってもらったのは理由がある」
「なんです?」
「派閥のバランス関係ではオオタ派がトップクラスであり、それをトレーダーズギルドの資金力によりロンゲン派が追っていた。しかしバストを取ったことでオオタ派の独走が顕著になってしまったのだ。そして我々、皇帝派は最早3番手としてオオタ派の勢いに乗っかるだけの存在に成り下がってしまっている」
「なるほど。従う振りして最大派閥のオオタ派を削るわけですか?」
「ああ、そして急激に力をつけているオオタ派に対してロンゲン派が戦を仕掛けたように見せかける」
「!!」
サスケは2人続けてオオタ派を殺ることにより、内争を使って2派閥を戦い合わせようとしていたのだ。
またこのサスケの動きはサッドニールらの目的とさほどズレていないと判断出来る要素にもなっていた。
サスケの狙いは特憲の立て直しと公言していたが、それならば2派閥を争わせるほどの大事にすることは都市連合という国にとってあまりメリットがない。
逆に前皇帝逝去の話が真実であり、実はサスケの真の狙いが前皇帝暗殺の真犯人を突き止めるためであるとすれば、2派閥の戦力を削り戦力を弱体化させることの辻褄が合う。その相手がノーファクション壊滅の真犯人とも共通しているとしたら利害関係は完全に一致するのだ。
「まずお前たちには俺が知る特憲全員の情報を教える」
「全員?皇帝派の特憲についても教えてくれるのですか?」
「ああ。ここからは全派閥の特憲が絡んでくるだろうから知っておく必要がある。この表を頭に叩き込め」
■皇帝派 ※左は推薦者
テングJr → カクノーシン
ナガタ → サスケ
イナバ → ビッググレイ
■オオタ派
オオタ → スケサーン
サンダ → ヒガキ 死亡
ツギ → テクトウ 死亡
シロ → アマネ 死亡
ミズイ → リドリィ
■ロンゲン派
ロンゲン → モリ
オラクル → 不在
バート → ウェナム
ヨシナガ → ゼニガタ 死亡
カナ →フグ
■未所属・不明
? → 隊長(?)
ミフネ → ガルベス
メリン → ?
ワダ → ロッテリア 死亡
「こんなにいたのか……」
「そうだ。見ての通りノーブルサークルのメンバーごとに推薦された特憲が1人づつ在籍している」
「ハテナになっているのは?」
「レディー・メリンは南方の都市連合領主だからな。俺も知らない」
「あなたほどの人でも分からない部分があるのですか」
「本来、各特憲の素性と行動は隊長以外は特憲同士でさえ知らされない。俺は古株だから後から配属された特憲を把握してはいるが、素性を徹底的に隠している奴もいる」
「この隊長がそうですか」
サッドニールはハテナとなっている隊長と記載された箇所を指差した。サスケはそれを見ると少し間をおいて応える。
「現在の特憲隊長に至っては誰の推薦なのかすら不明だ」
「なるほど。……既に死んでいる方が多いですね」
「そうだ。現在、特憲の数は大幅に減っている状態だが、このままこちらの被害を出さずに一気に畳み掛ける。そこでお前たちには次にこの男について調べてもらいたい」
サスケは表の中の男をさしたが、これにラックルが反応した。
「こいつは……」
「ん?お前こいつを知っているのか?気をつけろよ。いま残っている特憲はほとんどが武闘派だ」
ーーー
(あいつの言ってたことは間違いではなかった……)
ロクシーは平然として歩いているものの額からは汗が滴り落ちる。
調査対象の特憲はフグという商人のなりをした者で以前にルイの拠点に税金を徴収しにきた男であった。
ロクシーは旅人のふりをしてフグとすれ違った際に、あわよくば暗殺できないか、試しにフグの隙を狙ってみた。結果、特憲であるフグの尋常でないポテンシャルに気が付かされた。
(……なんて奴だ。ヒガキが小者に思える)
商人の格好をしつつも醸し出す威圧感。恐らく背負っている商人籠には武器が入っている。サスケが充分注意して調査するよう言っていたのを今なら理解できた。
もうすれ違うことも許されない。恐らくフグは出会った全ての人を記憶している。二度目は違和感で気づかれてしまうだろう。そう思わせるほどこの男の目つきは尋常ではなく何かドス黒い気配を漂わせていた。
(試したのが自分で良かった……ナパーロもラックルも気づかれていたかもしれない。そして直感が告げている……!)
こいつがノーファクションやルイ一派壊滅に深く関わっている者だと。
暗殺者としてキンブレルに育てられてきたロクシーは闇の住人に関わることが多かった。そういう者たちは素性を隠すために外見を装っているが、時折見せる商人らしからぬ目つきや仕草、佇まい等、僅かながらに出る本性を、ロクシーは違和感として察することが出来た。
さらに決め手となったのはこれまでの関わり方だ。
(ルイの拠点に徴収しに来たのも帝国に仇なす者になり得るのか探りであり、裏で英雄リーグ連合をぶつけた……)
心の中で考えている事、全てが一致していく。
(まさかポートサウス壊滅も……?ならば……ならばアイツは……キンブレルさんの……)
殺気がみるみると膨れ上がっていくの自ら感じたロクシーはたまらずナパーロの人格にチェンジした。
そしてすぐさまその場を離れる。
「ま、まずいですよね?気づかれました?」
『すぐに代わったので大丈夫だと思うけれど即、撤収してください』
ナパーロはそのままポートノースのはずれで待機していたサッドニールと合流した。
「ポートノースはどうだった?」
「……サスケが言っていた通りヒガキ達とは段違いでした」
「大分憔悴しているようだね」
「たぶん僕らのターゲットです」
「というと?」
「特憲のフグです。奴はルイの拠点に偵察に来てましたし、英雄リーグ連合を使ってルイを潰そうとしました。ポートサウス壊滅にも関わっているかもしれません」
「なぜそう言い切れる?」
「ロクシーの勘です」
「ふむ」
「さらに厄介な奴らもいました」
「誰だね?」
「恐らくサスケが言っていた
フグは商人の隊列を組んで移動するところだったらしく11名の小隊を組んでいた。特憲には立会人という特憲候補生が約100名おり、その中から戦闘に特化した10名を選抜し、十志剣と呼ばれる部隊を組織していると聞いた。恐らくこの商隊がそれだったのだ。商人用の装束でカモフラージュしているが、ただならぬ雰囲気はロクシーの目で見ることで察する事が出来た。
十志剣は必ず徒党を組んでおり1人離れることもないらしい。そして目的と定めた者を全員で確実に葬り去る実行部隊とのことだ。ある意味、個別行動する特憲よりも厄介な存在であった。
「今はフグに手は出せないですね。しかし十志剣はなぜフグと一緒に行動しているのでしょうか……」
「考えられるのは度重なる特憲襲撃の発生によりフグを護衛していることか。しかし、十志剣は特憲の専用部隊であるがフグ専属の隊ではない。使用には特憲隊長の許可が必要だったな」
「とならば十志剣を使った特憲任務を行う途中ということですかね」
ただ、この部隊を使うこと自体、相当特殊のようで滅多にない。サスケが知っている限りでも過去に動員されたのがノーファクション襲撃時であったらしい。
「野盗でも壊滅させにいくのかもしれないな」
「どうします?そもそもポートノース自体も大分ヤバい雰囲気ありましたよ」
「取り敢えず予定の指示通りA地点に行こう」
「え!?行く必要ありますか?尾けられてはないですよ」
「計画は変えないほうがいい。示し合わせた通りに」
2人はサスケからポートノースの調査後は指定の場所に行くよう指示されていた。理由はナパーロの言う通り尾行されていた場合を想定して撃退するためであった。予め然るべき場所に罠を仕掛け戦いやすくしていたのだ。
2人は一定時間その場で待機していたが、いつまで経っても何か起こる様子もなかった。
「やはりさすがに追って来てないですよ。一回すれ違ってからすぐ出てきちゃいましたし」
ナパーロは退屈そうにクロスボウ発射台を握りながら軽くアクビをした。
「あと少しだけ待とう。特憲が立て続けに暗殺されている以上、奴らも敏感になっているだろうしね」
「はぁ。っていうかそもそも僕ら待機なんじゃなかったでしたっけ。これほとんど任務じゃないですか……」
「まぁ戦うより安全じゃないか。それに我々の目的がロンゲン派の貴族であった場合、この調査もおおいに意味がある」
「確かにそうですね。なんならサスケがロンゲン派の特憲を捕えてくれると早いんですけどね」
「サスケが持っている武器を見たかい?」
「ええ。なんかどでかいクナイを腰に下げてましたね」
「彼らレベルになると太刀筋だけで人を特定出来るようになるらしい。今はまだバレたくないのだろう。恐らくサスケはオオタ派とロンゲン派を戦わせ場の混乱を狙っているだろうからね」
「……待ってください。ラックルに替わります」
周辺に気配を感じたのか、ナパーロにかわりラックルの人格が出てくる。
「強い殺気を感じる。誰か来てるぜ。そこにいるだろ?出てこい」
ラックルは茂みに向かって問いかけた。
「これぐらいの殺気には気づけるようだな」
茂みから低い声が聞こえてきた後、忍装束の者が姿を現した。サスケ同じ格好ではあるが彼ではないことは分かる。
「何者かね?」
サッドニールは忍装束の者に問いかけた。
「私はサスケ様の立会人ジュウゾウと言う……。お前たちの調査情報をサスケ様に代わり聞きに来た……」
「……!サスケの配下か?だったらなんでそんなに殺気を放っているんだよ」
ラックルはクロスボウ発射台から手を離さないでいた。
「お前たちの力量を試したまで……」
「はぁ?何でだよ」
「サスケ様はお前たちに気を許して名前まで教えてしまった……。お前たちが敵に捕まった場合、サスケ様が危険に晒されてしまうからだ……」
ここまで聞くとこのジュウゾウという男が敵ではないと察することが出来た。
「例え捕まっても俺は言わねーよ。拷問には慣れているからな。サッドニールもスケルトンだし大丈夫だろ」
「ガキが……。分かっていないな。スケルトンの優先順位は基本的に自分自身だ。拘束され破壊される危険が伴った場合、供述が回避策ならば実践するはずだ」
これにサッドニールは否定しなかった。
「確かにプログラム上、自己保全は最優先事項だ。私が敵に捕まることは避けるべきだろうな」
「だったら名前を明かした上でこんな危険な任務を頼んでんじゃねーよ!」
「それはサスケ様に言うがいい……。あの方は少しお前達みたいな弱い者共を信頼し過ぎる部分がある。私はお前たちを使うことには反対していた。ここで始末することも考えた」
この言葉にラックルは臨戦態勢に入る。
「てめぇ……それ以上近づくと射つぞ!」
「くだらん……。この距離で当たると思っているのか?さっさとフグの情報を教えろ……」
「……!教えたら用無しか?言うわけねーだろ」
「私はサスケ様の考えを尊重している。あの方の同意なしには殺らない……言わない場合は用無しと判断出来るが……」
「ちっ……選択肢がねーじゃん……」
ラックルは諦めたのかフグが十志剣と行動していたことを話した。ジュウゾウは腕を組み考え込んでいる。
「奴らが動いているのか……。となると特憲隊長はロンゲン派を固めたということか……」
「誘導通りオオタ派がロンゲン派に仕掛けてくれそうなのか?」
「何とも言えないが……ご苦労だった。お前たちはこのまましばし姿を消すがいい」
「ちっ!釈然としないが、取り敢えず後は頼んだぜ」
ラックルとサッドニールはジュウゾウとぶつかることなくその場を後にした。