Kenshi -20years later-   作:さわやふみ

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◆現在の仲間
ナパーロ/ラックル/694番、サッドニール

◆支援者
サスケ


117.揺れるロンゲン派

領主ロジャー・バートが治める都市ストート

 

 

 

バスト地方と隣接するこの地方は長年ホーリーネーションとしのぎを削っていたが、バスト大戦以降はその脅威もなくなり、また立地上、大陸西への動線であったことから往来が増えて活発化していた。

 

ロジャー・バートは太い葉巻に火を付けるとストートの町並みを見下ろしながら、フーっと長く煙を吐いた。

 

「戦いが減り体が鈍ってきたが、平和も中々良いものだな?ウェナムよ」

 

側にはロジャー・バートを守るように長包丁を背にしたウェナムが立っている。ハウラーメイズ遠征においてバート家としてメガクラブ討伐に参加した猛者である。(現在はロジャー・バートの推薦により特別憲兵隊となっていた)

 

「はい。景気が良くなり市民も喜んでいます」

 

「あのまま戦争を続けていたらバストは取り返されていたかもしれん。我ながら良い判断であったわ」

 

自画自賛するロジャーの横には同じようにニンマリしている息子のキアロッシ・バートがいた。

 

「ロンゲンにもロード・オオタにも恩を売れましたね。父上」

 

「ふふふ……キアロッシよ。少しは処世術を理解出来てきたか?」

 

「はい。バート家の嫡子として父上の側で学ぶべきことは多いです」

 

「お前にはこれまでテックハンターとして外の世界を体験させてきたが、これからは政治や外交など統治について知ってもらうぞ」

 

「はっ。父上の名に恥じぬよう精進致します」

 

「うむ。ここからが大変な時代だ。ロンゲン殿は高齢となり、かつての勢いがない。オオタ派が益々大きくなっていくだろう」

 

「なるほどです」

 

「資金も潤ったことだし、予定通りここらでロード・オオタに近づいておいたほうが安全だろうな」

 

ロジャー・バートは目を細めながら呟いた。キアロッシとウェナムは特に反論することもなく無言を貫いていた。そこに衛兵が報告に入ってくる。

 

「申し上げます。ヘングよりロンジン殿がお見えです」

 

「ロンジン……。ああ、ロンゲン殿のご子息か。彼1人で来ているのか?」

 

「はい。護衛を数名伴っておりますが」

 

「ふむう。なにはともあれ会わないわけにはいかんな。ここに通しなさい。従者は1人までだ」

 

「は!」

 

衛兵が出ていった後、ロジャーは深く息を吐いてウェナムを見やる。

 

「何の用だと思う?ロンゲンの息子は昔に一度だけキアロッシと遊ばせたことがあった気がするが」

 

「今後の意識合わせでしょうか。オオタ派が勢いをつけている現状、ロンゲン派の結束力を高めたいのかもしれません」

 

「ふふ、ロンゲンめ。後先短くなってきて焦りが出てきたか?」

 

そこにガチャリとドアが開き、貴族らしく綺羅びやかな服を着た男が従者の侍を連れて部屋に入ってきた。恐らく先頭に立っている男がロンゲンの子ロンジンであろう。

 

【挿絵表示】

 

父親に似て短髪でほっそりとしたスマートな体型をしており、商人らしく武闘派ではなさそうだ。

 

「これはこれは、ロンジン殿、大きくなられましたな。遠路はるばる如何された?」

 

ロジャー・バートは笑顔を作りつつも、大きな濁声で威圧するかのごとく声をかけた。これには先手を取るという政治家ならではの計算があった。

 

しかし、ロンジンはその若い風貌をよそに物怖じすることなく応える。

 

「ロジャー・バート殿。お久しぶりです。今日は残念な仕事を携えてきました」

 

気勢を張っているわけでもないロンジンの奇っ怪な物言いにロジャー・バートは少なからず警戒した。

 

「ほう。それは……どうされた?」

 

「いえ、あなたをストート領主から降ろさなければならなくなりまして」

 

この言葉は当然ながらロジャー・バート勢を困惑させると共に敵意を向けさせるには充分であった。

 

「……小僧が、何を言っておる?血迷ったのか?」

 

武闘派であるロジャー・バートはその威圧感ある体格を震わせながらロンジンを威嚇するが、ロンジンは全く意に介していない。

 

「いえ、チャド部隊の意図的な壊滅がどうやら外部に漏れているようでして、あなたに責任を取ってもらわねばならぬのです」

 

「たわけたことを。あれはロンゲンがホーリーネーションのセタと共謀して進めた計画だろうが。罰せられるならばお前の父親ロンゲンであろう!」

 

「父上はそのような計画などしていませんよ。それよりあなたがチャドの戦場に間に合わなかった理由は何ですか?」

 

ノーブルサークルの中には序列がある。特に派閥の筆頭となっているオオタやロンゲンは別格であった。そのような大物を相手にする場合、証拠など余程の情報がない限り言い負かすことは難しい。そのためロジャーは戦場に間に合わなかった事実を突きつけられると言い逃れるのは厳しかった。

 

「……なるほど、俺に濡れ衣を着せて決着をはかりたいわけか。老いぼれが思い切ったことをしたようだな」

 

「というわけでロジャー・バート殿には出頭願いたい。ストートはその間、我々が管理する」

 

ロジャー・バートはしばしの間、無言であったが、辺りを見渡した後、静かに笑い出す。

 

「くくく……はははは!商人上がりのお坊ちゃんは勘定ができても形勢を判断するのが苦手なのかね?」

 

「…………」

 

「ウェナム!こいつらを血祭りにあげろ」

 

「は……しかし……」

 

「構わん。失踪はよくあることだ」

 

ロンジンの周りにはバート家の衛兵が囲っていた。対するロンジンには従者の侍1人であった。

 

「まぁ素直に従うはずないですよね。では、モリさん。お願いします」

 

名前を聞いて部屋にいる者すべてが凍りついた。ロンジンの従者はひときわ異彩を放っており、ロジャー側は最初から警戒はしていたのだ。

 

【挿絵表示】

 

その者は全身褐色の古代武者鎧で身を包み、背には光を放つ長くて太い大身槍を抱えていた。見る限りメイトウであることが分かった。大身槍は穂先が通常の槍も長く独特な形状をしていた。そのような槍を使いこなせる者は多くない。

 遠い昔、ロンゲンは大金を使って世界に名だたる槍使いを雇い入れたことは有名であった。この者は名をモリと言い、特憲として一二を争う実力で長くロンゲンのボディガードとして名を馳せていた。

 

「若。ここにいる全員殺りますか?」

 

モリは大身槍をズシリと床板に突き立てた。人数差を物ともせずに鏖殺宣言をするモリにロジャー・バート勢は驚愕する。その様子を見ながらロンジンは静かにモリに指示をする。

 

「取り敢えず、逃げる奴と抵抗する奴は殺して構わない」

 

「御意」

 

部屋には出入り口が一つしかない。都市連合の建物の窓は砂漠の砂の侵入を防ぐために少なくて形状も小さかった。よって部屋から出るにもモリの側を通ることになる。

 

この状況にウェナムは戦慄していた。

 

「ロジャー様……我々がかかっている間にお逃げください……」

 

数では衛兵含めて上回っているものの、モリの槍術はずば抜けている。狭い室内であっても勝機を見いだせなかったのだ。

 

「なんだと?たかだか1人じゃないか。囲って殺せ」

 

「いえ、この男……特憲の中でも群を抜いて別格……」

 

ウェナムが喋っている途中

 

一閃とも思える稲妻如きモリの一撃が、轟音と共に放たれていた。

 

大身槍による牙突

 

驚異的な握力により片手で槍の端を掴み、大地を揺るがすほどの踏み込みで目標めがけて一点の狂いもなく正確にロジャー・バートの脳天を貫いていたのだ。

 

もはやその場にいる全員が驚愕し立ち尽くしていた。

 

遠い間合いと人数差。そしてモリをよく知らないロジャー・バートが甘く見ていたこともあった。

しかし、モリはそこを把握して最初に剣の達人であるロジャーをその超極大射程により葬ったのだ。圧倒的な槍術と頭領が削られたことにより、ロジャー陣営は一瞬にして戦意を喪失していた。

 

「他に抵抗する者はいるか?」

 

「う……うおおおお!」

 

ウェナムは背負っていた愛刀肉包丁に手をかけた。しかし、その武器は背中を離れることはなかった。かわりにウェナムは無惨にも大身槍で体に無数の穴を開けられてその場に倒れ込んだ。

1人で真正面から槍を構えるモリに向かうのは無謀にも等しい状況だったのだ。

 

ウェナムの力量はロジャー陣営の誰からも認められていた。この男がバート家躍進に大きく貢献していたことは言うまでもなかった。そのウェナムが一瞬にして見る影もない穴だらけの死体となってしまったことで、ロジャー・バートの部下達は我先にと逃げ始める。しかし、モリの驚異的な槍の間合いにより、逃げた者から背中を貫かれていく。

 

辛うじてすり抜けた者も、いつの間にか出口を固めているロンジンの部下たちに討ち取られていった。

 

「あ……あ……」

 

残る者は尻もちをついて動けなくなったキアロッシ・バートのみとなっていた。

 モリはキアロッシに顔を向ける。その威圧感あふれる重圧にキアロッシの股には水たまりが出来ていた。

 

ロンジンはその様子を怪訝そうに見ながら近づいていく。

 

「さて……。あとはキアロッシ君だけだけど、小さい頃、一度だけ遊んだことがあったよね」

 

恐怖でまともに喋れないでいるキアロッシに対してロンジンは続ける。

 

「君はハウラーメイズ遠征に帯同してたのだっけ?」

 

「あ……うあ……」

 

「どうなの?バート家はもう終わりなんだ。早く答えないと死ぬことになるのだけど……」

 

ハッと我に返るようにキアロッシは涙目を拭うと、反射的に応える。

 

「い……行った!」

 

「お。メガクラブを倒したルイの取り巻きに少年がいたの知ってる?」

 

「……いた!覚えている!生意気な目つきをしていた!」

 

「いいね。顔も覚えているようだ。じゃあ後はモリさん、お願いね」

 

ロンジンがキアロッシと会話するのを煙たがるようにすぐさまモリを見やると、モリは鎧を鳴らしながらキアロッシに詰め寄る。

 

「我々は当時少年だったその者を追っている。特別憲兵隊の立会人として再出発するか、ここで人生を終わらせるか決めろ」

 

「や、やる!やらせて頂きます!」

 

「そうか。場合によっては特別憲兵隊になれるチャンスもある。精進しろ」

 

「は、はい……」

 

やり取りが終わるとロンジンが前に出る。

 

「あー良かった。これで旧友を殺さないで済んだよ。やはり仲間同士極力争いは避けたいよね」

 

「それでは私はヘングに戻ります。隠しておいた手勢もストートに入れておきます」

 

「ああ。いったんここの政治体制を整理したら自分の部下を残して僕もヘングに戻るよ」

 

「はっ。都市を出ると治安は悪化しております。くれぐれもお気をつけを」

 

「オーケイ。モリさんも急いでね」

 

モリはロンジンに一礼するとすぐさまその場を後にした。

 




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