Kenshi -20years later-   作:さわやふみ

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◆現在の仲間
ナパーロ/ラックル/694番、サッドニール

◆支援者
サスケ


118.勃発

ストートの郊外およそ3km地点

 

モリはロンジンの指示を守り、待機していた部隊にストートへ入るよう命じていた。

 

特別憲兵隊モリ

 

槍術の達人として毎年開催される御前試合で優勝を重ねるうちにロンゲンに目をかけられ、その財力でスカウトされボディガードとなる。以降、特別憲兵隊にも推薦され長年忠実に仕えてきた猛者だ。

 

モリは基本的に拝金主義ではあるが、時代の先を見通す力にも長けていたため、ロンゲンが台頭することは予測していた。そして今、ロンゲンが高齢によりその勢いを落とそうとしている時期であっても、子であるロンジンの内なる実力を見抜き、尽力していたのだ。

 

「手伝わせてすまなかったな、クジョウ」

 

モリが話しかけた相手はハウラーメイズ遠征の際にギシュバ8人衆の1人として生き残った男クジョウ。

この男は大陸南方の都市連合領主から遣わされた特別憲兵隊であり、ロンゲン派の手先としてアウロラ達を内部調査していた。

 

「いや、特憲最強の旦那の手伝いならいつでもしますよ」

 

「世辞を言うな。私は最強ではない。それにお主が我々を手伝う目的は別にあるだろう」

 

「そうですかね。今じゃ旦那はカクノーシンを抜いていると思いますけど」

 

「…………」

 

クジョウはロンゲン派を手伝う目的については触れなかった。大陸北方の都市連合領へわざわざ出張してロンゲン派を助ける理由は一つ。南方への物資供給をトレーダーズ・ギルドに継続させるためだ。南方の都市連合は北方の領土と分断された地に位置しているが、領土は荒れ果て、また農民による反乱勢力の勢いも強く、資源の確保がままならないでいたのだ。そのため、北方からの輸送に頼らざる得ない一面があり見返りとしての協力関係があった。そんな背景をモリも見抜いていた。

 

「取り敢えずストートでロンジン様の護衛とサポートしてればいいですよね?」

 

「ああ、頼んだ。私はヘングに戻る」

 

2人はそのまま何事もなく別れ、モリは単身でヘング方面へ歩き出した。護衛すら必要とせず、仮に野盗の群れが襲ってきたとしても、単独で壊滅させる力があったし、これまでもそうしてきたのだ。治安が悪化しているとはいえ、モリは今更、自分に護衛をつけることなど微塵も頭にはなかった。

 

しかし、それから数時間後の道中にて

モリは立ち止まり呟く。

 

「愚か者めが……。乗せられたな」

 

言うなり背中の大身槍に手をかける。

砂漠のど真ん中でモリの周りには誰もいない。

強い風が吹きおこり砂嵐となって視界を塞いでいく。

 

サァー………

 

風の音はやがて消え、厳しい日差しだけが降り注いでおり、静寂が辺りを支配する。

視界も徐々に晴れ、次第に広大な砂漠が姿を見せ始める。

モリはその間、微動だにしなかった。

 

サァー……

 

またどこからか風の音が聞こえ始めると、モリは大身槍を手に取り轟音を鳴らしながら振り回し始める。

 

風の音は次第に大きくなりやがてその正体を現した。

無数の矢がモリ目がけて降り注いだのである。

 

ザァーという音と共に一定方向から山なりに落ちてくる矢をモリは大身槍で弾き始める。

 

しかしその数は多く、いくつかはモリの鎧に突き刺さった。

 

「……格上の強敵に対して行うやり方としては常套手段ではあるな」

 

第1波の矢が止むと、モリは放たれたであろう個所に向けて、高速に走り出した。

その先には遠巻きにボーガン部隊が数人展開しているのが分かる。

 

その者たちは次の矢を装填し、何者かの合図で第2波を一斉に放った。しかし今度はモリは避けずに顔だけ覆い突撃する。当然ながら矢はいくつか鎧に弾かれるが、いくつかは突き刺さる。隙間の足にも一本刺さったがモリは速度を落とさなかった。

 

そしてボーガン部隊に接近すると片手で大身槍を振り回した。ある者は頭部が吹き飛ばされある者は上半身から真っ二つとなった。もはやそれは槍術というより力任せのなぎ倒しに近く、ボーガン部隊は一瞬にしてその場から消え失せていた。

 

「これだけで殺れると思ったのか?スケサーン」

 

モリが顔を向ける先にはスケサーンが立っていた。

 

「いやー……あい変わらず規格外ですな」

 

「よもやオオタ派の特憲が相次いで殺された件……ロンゲン派が仕掛けたと、安易に判断したか?」

 

「まさか!さすがにそれだけじゃないっすよ」

 

「では、どう取り繕う気だ?もはや間違いでしたでは済まされないが」

 

モリは大身槍を構え、ジリジリとスケサーンのほうへ歩を進めた。

 

「まぁ上の命令でね。強いて言うならホーリーネーションへの内通疑惑ですよ」

 

「馬鹿な……有り得んことはお前でも分かると思ったが……」

 

「んー。その他もろもろの事情ってことでもう理由は何となく想像つくでしょ」

 

「ふむ。だがお前たちから始めたのだ。容赦はせん」

 

言うなりモリはスケサーンに向かって歩み始める。しかし2、3歩進んだところで急に立ち止まった。

 

「なるほどな……」

 

スケサーンの後方(・・)から放たれる殺気。それにモリは覚えがあったのだ。

モリはたった一度だけ御前試合を準優勝で終わっている。それはカクノーシンが唯一出場した大会であった。

その時に感じた屈辱と、合わせて体感した尋常ではない殺気に今回の殺気が一致していたのだ。忘れるわけがなかった。

 

お前(スケサーン)から余裕が消えないのも奴を呼んでいるからか?」

 

「そうっすね。詰んだの理解してます?」

 

スケサーンの煽りなどモリの眼中にはなかった。精進を重ねた人生においてただ一度だけ味わった敗北による汚名を晴らす機会が訪れたのだ。

 

モリとカクノーシン。

 

長い間、特憲最強の座に君臨していた2人は他の追従を全く受けないほどの圧倒的な力を有していた。それは彼らが出場しない御前試合など開催する意味がない、と言わしめるほどであった。

 

事実上、現在において都市連合最強の2人がいま矛を交える時が来たのだ。

 

「お前も踊らされた人間の1人か?」

 

モリは鎧の音を鳴らしながら歩いてくるカクノーシンに喋りかけた。

 

「…………」

 

カクノーシンは語らなかった。元々、寡黙なタイプではあったが、凄まじいほどの闘気と集中力を維持している最中、彼は一切喋ることはなかったのだ。まるでこの日のために磨いてきたと思わせるカクノーシンの気合を見てモリの口元が少し緩んだが、鎧兜でそれは見えない。

 

「まぁいい。ここで決着をつけるのも悪くはない」

 

「……傷を……負ったのか」

 

無言を貫くと思われたカクノーシンがモリの足に刺さる矢を見て静かに喋りだした。

 

「なんだ?相手のことを気にしている場合か?貴様はもうすぐ死ぬのだぞ」

 

「……確かにお主は以前より強くなった……。しかし、手負いで拙者には勝てまい」

 

「やれば分かる」

 

ビリビリと周辺の空気が重くなるのを側にいるスケサーンが感じていた。最早自分が蚊帳の外にいるのは分かっていたが、この2人であれば嫉妬心すら沸き起こらない。只々、戦いの内容と行方に興味が向いていたのだ。

 

(今回のために俺の手勢である立会人を全部使った。拮抗する2人だが、矢傷によるほんの少しの差が勝敗に影響するだろう)

 

スケサーンの目的は当然ながらモリの敗北でありそれは実力差を考慮するとカクノーシンとの共闘で実現するしかなかった。しかし、2人が健常である場合、どちらに勝利が転ぶか判断が難しいため、なんとしてでもモリに傷を負わせた状態でカクノーシンをぶつけるしかなかったのだ。

 

オオタ推薦のスケサーンにとってモリを倒す真の目的はやはりロンゲン派の排除である。ただし、実際に特憲同士が争うことは貴族の代理戦争を意味するため強く禁止されていた。これを破った貴族や特別憲兵隊は都市連合総出で取り潰しされるのだ。そのためオオタ派2人が死亡した件はロンゲン派がやったという証拠がない中でオオタ派から仕掛けるのは大きなリスクがあった。よってやるならば一気にかたをつけ他派閥も抑えた上て都市連合全体を掌握しきるか、または他派閥や貴族と予め示し合わせておく必要があった。そしてオオタ派は後者の手段を取った。

 オオタ派、ロンゲン派に次ぐ3つ目の派閥は皇帝派である。ハウラーメイズおよびバスト攻略を皮切りに前皇帝の死亡以降急速にその力を失っていた皇帝派と組み、オオタ派2名の死亡をきっかけにしてついにロンゲン派排除に動き出したのだ。カクノーシンは皇帝派の先駆けだ。テングJr皇帝は当初ミズイの監視と護衛でカクノーシンを使っていたが、ミズイが離れた今、皇帝派の勢いを取り戻すため積極的に動き出していた。どちらが先に話を持ち掛けたのか不明だが、いまオオタ派と皇帝派は結託したのだ。

 

 

 

モリとカクノーシンは互いの間合いを作り、武器を構えあっていた。この状況でスケサーンは自分の戦闘態勢を解かなかった。カクノーシンの意向もあり戦いはほぼ1対1だが、敢えてスケサーンがいつでも参戦するというプレッシャーを与えることで少しでもカクノーシンを優位にしようとしていたのだ。また、万が一カクノーシンが破れた場合も即座に介入して隙が出来ているモリを討ち取る必要があった。

 

 

そして

 

先に仕掛けたのはモリであった。大身槍による持ち前の極大射程で究極の突きを放ったのだ。対するカクノーシンは受けずに横に避ける。いくら大太刀であってもメイトウ同士ならば槍の硬さで刃が欠ける可能性があるからだ。ましてや名手モリの突きならば言うまでもない。

 

「私の突きをかわすとはスピードは落ちていないようだな」

 

「…………」

 

大太刀より大身槍のリーチが長いため間合いを詰められないのか、カクノーシンは大太刀を正眼で構えたまま動かない。モリも初撃を放った以降、自分から仕掛けなくなり、2人はまた向かい合ったままとなった。

 

スケサーンはこの状況を冷静に分析する。

 

(互いの力量をまだ測れないでいるのか)

 

モリの初撃は恐らくわざと最速にしていない。最速だと見誤った者は不用意に近づいてしまい次の攻撃で討ち取られるだろう。カクノーシンはそれに気がついているはずだ。だからまだモリの射程範囲ギリギリに立ち攻撃を誘って様子を見ている。また、モリもカクノーシンが初撃を余裕をもって避けたのを見て、槍の軌道を覚えられてしまう恐れもあり無駄な攻撃をやめた。

 

ただし、膠着状態で不利になるのはモリだ。一本だけとは言えボウガンから放たれた矢は深く足に突き刺さった。流血も止まっていないだろう。

 

このまま何事もないとジリ貧でカクノーシンが押し切る可能性があった。

 

(出来ればカクノーシンの旦那もここで討ち取りたいが……)

 

スケサーン個人の思惑かロード・オオタの指示かは不明であるが、スケサーンは可能であれば残った方を討ち取ることにしていた。

 

特憲の実力者2トップをここで排除できた場合、次期隊長への道も切り開けるし、何より別派閥の特憲は少ないに越したことはない。だからカクノーシンが勝利した際に手傷を負っていればスケサーンの手でトドメをさそうとしていたのだ。

 

しかし、そのような思惑を吹き飛ばすほどの戦いをこの後、モリとカクノーシンは展開する。

 

 

モリ流槍術頭蓋割り

 

槍は歩兵戦において突くよりも叩くほうが効果的である。1対1の戦いにおいては尚更だ。そのリーチと遠心力、しなり、重力を最大限に利用し放たれるメイトウ大身槍の叩き込みはいかなる武器であっても防ぐことは容易ではなかった。

 

モリは大身槍を回しながら一気に間合いを詰め、数々の御前試合優勝をもぎ取ってきた奥義を放ったのだ。

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