Kenshi -20years later-   作:さわやふみ

124 / 177
◆現在の仲間
ナパーロ/ラックル/694番、サッドニール

◆支援者
サスケ


119.元凶

(し……信じらんねぇ……こいつら化け物か!?)

 

スケサーンは自分の役割も忘れ、只々モリとカクノーシンの死闘に魅了されていた。もとより入り込む余地などなかった。

 

先ほどまでの睨み合いと打って変わって、メイトウがぶつかり合う乱打戦が繰り広げられ、薄暗くなってきた砂漠を火花が照らし出す。既に戦闘が始まってから5分ほど経過していたが、互いに決めきれない状況が続いている。決して手を抜いているわけでもなく加減しているわけでもない。互いが技を出し尽くし看破しあっていたのだ。

 

(俺はこのレベルに到達できるのか……?)

 

スケサーンの自信を削るほどの最高峰の戦いはしばらく続いていた。

 

しかしその瞬間は突然訪れる。

 

突きを繰り出すために踏み込んだモリが崩れたのだ。矢傷の流血により赤く染まった右足が力なく倒れ、上半身は斬ってくれと言わんばかりに隙だらけとなって傾いていた。

カクノーシンはそれを躊躇なく斬り伏せた。

そしてモリは声を出すこともなく、一二歩前に進むと力なく倒れ込み動かなくなった。

 

「……あ!」

 

スケサーンが我に返った時には既にカクノーシンは大太刀についた血液を飛ばし、納刀しているところであった。

 

「い……いやーさすがっ……!まさか無傷で殺れちゃうとは」

 

カクノーシンはモリの亡骸に向けて合掌しながら静かに呟く。

 

「あやつは既に手傷を負っていた……。それに無傷ではない」

 

「……!どこか痛めたんです?」

 

「あの重たいモリの槍術を全て受け流すことは出来ない。全身が打撲傷だ……」

 

食いつくように問うスケサーンに対してカクノーシンはモリを称えるかの如く激闘を説明した。

 

「……ひー。いやまぁそりゃそうっすよね」

 

「お主に負けるほど弱ってはないがな……」

 

「えっ……いやいや何言ってんすか」

 

しばらくの間が続いた。この2人は派閥の関係上、共闘はした物の味方同士ではないと互いに認識している。カクノーシンがスケサーンの魂胆を見透かしていてもおかしくはなかった。

 

「それで……お主はこれからどうするのだ?」

 

「えー?そりゃあロンゲン派の特憲排除っすかね。命令とは言え、ついに代理戦争始めちゃいましたし。旦那こそどうするんすか?」

 

「ロンゲン派のノーブルサークル員を捕らえることになるかもしれん……」

 

「え!貴族にまで手を出すんすか?」

 

スケサーンの問いかけに対してカクノーシンは静かに口を開く。

 

「……お主は前皇帝の暗殺事件を知っているか?」

 

「あー……噂だけは。やっぱあれ暗殺だったんすか」

 

「そこにロンゲン派が関わっている可能性があるのだ」

 

「マジすか……。だから今回手を貸してくれたんすね」

 

「モリがいることで長年ロンゲン派貴族を調査することはできなかったからな……」

 

「当時何があったか知りませんが、国家を守るとは言えお互い大変っすねー」

 

「…………」

 

特別憲兵隊自体も派閥が異なるモリとカクノーシンが互いに牽制するように存在していたことで均衡(バランス)を保っていた。その絶対的な双璧の1つをいま自ら崩したのだ。今後、都市連合に劇的な変化が訪れていくことは想像に容易すかった。

 

 

 

 

そして2人が一息いれた時。それを待っていたかのようにどこからともなく声が聞こえてくる。

 

「やはり動いたな、スケサーン」

 

振り返った2人の目にうつったのは仮面を被ったダストコートの男であった。スケサーンにはその風貌に覚えがあった。そして殺気がなかったにしろ、気配に気づけなかった事とちょうどこのタイミングで現れた事に意図を感じ必然と警戒する。

 

「た、隊長……!?なんであんたがここに……」

 

「オオタ派の特憲が相次いで殺られた昨今の情勢を考えるとお前がロンゲン派とぶつかる可能性が高くなると考えるのが自然だろう」

 

「いや……つーか、俺たちをつけていたんですか?」

 

「必要であれば身内も尾行する。それよりこの状況……どう説明するつもりでいた?」

 

スケサーンとしては当然誰にも知られずモリを暗殺したかった。それがよりによって特別憲兵隊の隊長に知られてしまったのだ。平静を装いながらもしもの時に用意していた言い訳を答える。

 

「ああ、これは……バスト戦役におけるロンゲン派特憲に嫌疑があって動いてました」

 

「ふむ。思い切ったことをしてくれたな。特憲が身内を手にかける際、隊長に相談する規定を忘れたか?」

 

隊長から発せられる言葉には怒気が含まれておらず逆に不気味さを際立たせている。ただ、スケサーンの側にはカクノーシンがいる。皇帝派とオオタ派が共闘していることも察しているはずだ。隊長といえども下手な事を言って来ないだろう。それにそもそも不可解な点もある。

 

特憲隊長が一部始終を見ていた場合、仲裁もせずに敢えてモリを討たせたということになる。隊長ならば普通、メンバー同士が争っていたら理由はどうあれ止めるはず。それをせずこの状況まで待っていたのだ。スケサーンは探るように答えてみる。

 

「いやぁ、抵抗されたんで殺らざるを得なくなって。後で相談はするつもりでした」

 

対する隊長はその怪しい動きを隠そうとはしなかった。

 

「……まぁいい。ここまでは想定した動き(・・・・・・)をしてくれた」

 

「想定してた?俺らがやり合うのを?何でも見通したような感じっすけど、何で止めなかったんすか?」

 

「ふっ……カクノーシンが側にいて気持ちが大きくなっているようだが……お前たちが自由に動けるのはここまでだ」

 

「は?」

 

隊長はおもむろに手で合図をした。

 

「グルルルル……」

 

同時に後方から獣のような声が聞こえてくる。

それはまるで地獄の底から聞こえてくるような全ての狂気と凶気をはらんだ唸り声であり、カクノーシンにとっては聞き覚えのある声であった。そしてズシリズシリと砂を踏みしめる音とともに徐々に姿を現したその風貌は過去に様々な人間を絶望と恐怖の淵に落とし、そして誰もがその行方を追っていた(くだん)の人物であった。

 

 

 

 

 

 

 

 カクノーシンの若き頃は身寄りのないさすらいの剣士であった。どれだけ腕があってもコネがなければ実力に見合った職を与えられることもなく、自身の寡黙な性格もあって小物として雑用を任されていた。そんな者が毎年開催される御前試合にエントリー出来るわけもなく、日々磨き上げていた剣術を発揮することも出来ないでいた。

 そんな中、都市に現れたスキマーを華麗に討伐するカクノーシンの様子がテング皇帝の目にとまる。そこから彼の人生は一転した。テング皇帝にその力量を買われ前皇帝の住居を警護する衛兵の役割を与えられたのだ。道化のような皇帝であっても恩を感じていたカクノーシンは懸命に皇帝に尽くし、また寡黙なりに皇帝派の貴族の子などにその剣術を教え、多大な貢献をしてきた。剣士として悔いのない人生を送るため日々の自己研鑽も続け、初めて出場させてもらえた御前試合でも見事優勝を手にして皇帝からメイトウ大太刀を与えられた。そして今後もこの皇帝のために身を捧げようと誓っていた。

 

しかしテング皇帝暗殺事件が発生したのだ。

 

人生を拾ってくれたテング皇帝を手にかけた者たちを許すまじきとカクノーシンは心の中で復讐を決意した。そして大きくなったテングJrの指名を受けて特別憲兵隊となり、今日まで暗殺の主謀者を密かに探していた。皇帝を守る者は腕に覚えがあるものが必ず1名以上警護につくが直近ではサスケ、ゼニガタ(タニガゼ)、カクノーシンがその任についていたがその日はカクノーシンが非番の日であった。またサスケは急遽、急ぎの任務で出払っていたのである。そして唯一残ったゼニガタは戦わずに謎の動きを見せた。ゼニガタを推薦したのはロード・ヨシナガでありロンゲン派だ。よって皇帝暗殺を企てたのはロンゲン派ではないかと疑っていた。

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 そんな矢先、生涯をかけて追い求めていたハイブ人が目の前に現れたのである。

 ハイブソルジャー特有の横に伸びた目。屈強な体。そしてハイブ人にしては珍しい赤みがかった肌と義手の片腕。自分が追っていた者に特徴が全て当てはまる。

カクノーシンは全身の血が湧き上がるような感覚に支配されていた。

 

 

「アイゴア……なぜ貴様が特憲隊長と一緒にいる……」

 

言葉が通じないのかアイゴアと呼ばれるハイブ人からは反応はない。かわりに特憲隊長が割って入る。

 

「言葉は無粋でしょう。我々がここに来た理由はあなた(カクノーシン)を排除するためです。存分に戦ってくだ……」

 

隊長の言葉を最後まで聞くことなくカクノーシンは反射的に大太刀を振るっていた。隊長をも間合いに含めた横薙ぎ一閃だ。それに対してアイゴアは義手の右手で背中からメイトウデザートサーベルを抜いてぶつける。刃物同士がぶつかった音とも思えない凄まじい金属音がこだまする中で、微動だにしていない隊長に対してカクノーシンは問いかける。

 

「よもや、お主が皇帝を暗殺した張本人か?」

 

「あー……その件については私が決定したわけではありませんが……関わってはいました」

 

「……言え。誰が主犯だ?」

 

地鳴りが聞こえてきそうなほどカクノーシンの殺気は禍々しく立ち昇っていた。

 

「詳細はノーブルサークル上位貴族と特別憲兵隊長限りの極秘扱いです。答えられません」

 

「何?オオタやロンゲンも知っているのか?」

 

「…………」

 

隊長は答えなかった。

 

「まぁ良い。お主たちはどうせ吐かないであろう。このまま誅殺する」

 

カクノーシンはそのままアイゴアに相対した。特憲隊長は後ろに下がりこの戦いを見守る姿勢を示している。

 

突如として予想だにしない戦闘が始まり、スケサーンはこの状況をどう対応すべきか悩んでいた。

 

(マジかよ!マジかよ!まさかアイゴアなんて洒落になんねーぞ!しかも隊長が皇帝暗殺に関わっていたとは……!これどっちに加勢すりゃあいいんだよ!?)

 

特憲同士の代理戦争を先に始めた事は規律に沿うとかなり非がある。本来なら秘密裏に進めたかったが隊長にバレた今、その責任を問われる可能性があるのだ。場合によると自分を推薦したロード・オオタにも影響があるかもしれない。

 

さらに、皇帝殺しは理由どうこうなく最上級の重罪である。カクノーシンは当然そのまま任務を全うし容疑者を誅殺していこうとするだろう。ならばこのままカクノーシンと共闘を続けてここでアイゴアを撃退し、そのまま隊長を反逆罪で捕らえる。そうなれば一気に特憲も掌握出来るかもしれなかった。

 

 

 

だが、それにはかなりハードルが高かった。

どうやって手懐けたのか分からないが相手はあのアイゴアなのだ。都市連合の大将軍にして数々の反抗勢力の猛者たちを葬ってきた言わずとしれた伝説級の豪傑である。前皇帝を暗殺し姿をくらました後は反奴隷主義者ティンフィストや不死のバグマスターと並び堂々のS級賞金首となっている。腕前を直接見たわけではないが当然、モリやカクノーシンに近しい力量だろう。満身創痍のカクノーシンと組んでも倒しきれるか未知数であった。

 さらに隊長の存在だ。アイゴアを連れている時点で想像よりも不気味な存在となったこの男は以前にホーリーネーション密偵を瞬殺した動きからも相当な手練れであることが分かる。アイゴアに加勢された場合、勝ち目はより薄くなった。

 

「答えは出ているだろう?お前は何もせずそこで見ていろ」

 

スケサーンの心境を読んだが如く隊長が呟いた。

そう。答えは出ている。ここでカクノーシンに助力しても勝算は低く、勝ったとしても隊長を取り逃がす可能性はさらに高かった。

 

理由が分からないが隊長の狙いがカクノーシンだけならば最早大人しく見ているより選択肢はなかったのだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。