Kenshi -20years later- 作:さわやふみ
ナパーロ/ラックル/694番、サッドニール
◆支援者
サスケ
特憲会議において突如言い渡された隊長の宣言にフグを始めとしてリドリィ達も驚愕している。
「いやいやこれはとんでもないことになりましたな……」
「いいのか?ご法度では?」
「隊長の権限であれば可能です。そしてこの場合我々が止める義務もありませんが」
皆、自然とテーブルから離れ成り行きを見守っているがサスケも不敵な笑みを浮かべながら席を立ち上がった。
「俺を排除だとー?お前に出来るのか?」
どうやら特憲隊長は1人でサスケを殺るつもりのようで、周りにいる立会人に指示する様子もなく静かに刀を抜いた。
「ここで皆さんに私の実力を見せておいたほうが後々纏めやすいのでね。それに私の中ではあなたが特憲暗殺の容疑者から外れていませんでした。直接手をかけないまでも、指示していたのでしょう?」
「はん、馬鹿な。まぁ俺も特憲として得体の知れないお前は見過ごせないでいた。いずれやるのが早まっただけだ」
サスケにとってこれは好機であった。会議には現状ほぼ全ての特別憲兵隊が参加しており、周りには公平な立会人も多い。ここで隊長を討った場合、あまり表に出てこなかった現隊長よりも古株で知名度の高いサスケのほうが一気に特別憲兵隊を掌握出来る可能性があった。
サスケは忍者として上忍と呼ばれる最上級の称号を保持していた。そしてその中でもさらに忍長として抜擢され、まさに都市連合における忍の頂点に君臨していた。そのため長く特憲として任務を真っ当しつつも、皇帝の近衛兵という重要な役割も担っていた。
テング皇帝が暗殺されたあの日。
急な任務が発生し、急遽首都ヘフトを離れることになったが、思えば不自然な任務であった。
明らかに内部からの人為的な操作が入っていると確信した。皇帝暗殺の首謀者はアイゴアではなく内部にいる。
そして同時期に特憲隊長が変わったことを知らされる。そもそも特別憲兵隊の隊長は前隊長も含めて謎に包まれていたが、今の隊長は就任したことすら知らず顔も合わせたことがない出自の分からない者だった。
モリやカクノーシンは武力特化であり前に出て引っ張っていくような性格でもなかったため隊長就任はないと思っていたが、サスケは実力、成績、経歴ともに自他認めるものを有していた。にも関わらず隊長就任の話は来なかったのだ。
裏で都市連合の体制を操作するために暗躍している者がいる。
そして隊長は恐らく事情を知っている。皇帝暗殺に何かしら関わっている可能性すらある。
逆にサスケにとっても現隊長は容疑者であったのだ。
とは言え、隊長の実力は依然として不明のままであり、サスケも慎重になる。正眼で刀を持つ佇まいには隙がなく、威厳すら感じられ一級の手練れであることは見て取れた。
(まずは様子見……)
サスケは懐に手を回し、2本のクナイを左手で同時に掴み、至近距離から隊長に向かって投げつけた。
クナイは正確に隊長の喉元と胸に向かって飛んでいくが、隊長はそれを難なく横にかわす。
(ふーん……やるな。ではこれはどうだ?)
今度は2本ずつを両手に計4本のクナイを同時に投げつける。両肩両脇腹を正確に正方形の形で狙い逃げ場のない攻撃だ。しかし、隊長は瞬時に横向きになりクナイの軌道の間をギリギリに避けきる。
「!?」
サスケにとってこの動きはあり得ないものであった。相手の攻撃が来た際に、最初は誰でも受けるべきか、避けるべきか『見極める』ための行動をする。そこにようする時間は動体視力や反射神経により個人差はあるが、隊長の動きはその見極めを無視して最初から
(一瞬の強張りすらなかった!当てずっぽうの動きでもない……!)
サスケのクナイを近距離でかわせた者はこれまで存在しなかった。一度手合わせしたことのあるカクノーシンでさえ避けれずに手甲で弾いていた。
サスケは続けて手裏剣をいくつか取り出し、隊長に向かって投げつけた。投げ方を替えているのか手裏剣の軌道はそれぞれ異なった軌道で隊長を襲う。
しかし、隊長はこれらの手裏剣も無駄な動きを一切せずにかわしていく。それはまるで手裏剣の軌道が最初から分かっているような所作であった。
(念の為、完全武装してきたが、残る手裏剣は2枚……これならどうだ!)
手裏剣は通常上から投げ下ろすが、サスケは最近新しく編み出した変則投法で投げ込んだのだ。
カキーン
初めて隊長が刀で受けた。しかもこれまでの流麗な動きとは違い、どこかぎこちなさすらあった。
(なんだぁ!?初物に弱いのか?)
サスケは残る1枚の手裏剣を先ほどと同様に変則投法で投げながらメイン武器である大苦無を取り出し、隊長に向かっていく。
慣れない手裏剣を捌く際の隙を狙ったのだ。
しかしここで誤算が生じる。
今度は隊長は体勢を崩すことなく手裏剣を避け、さらに前に向かってきたのだ。
(さっきのぎこちなさは誘い出すためにわざとだったか!?)
最早近接戦は避けられない。相手の強さや剣法等を分析し情報を集めてから確実に殺るスタイルのサスケにとって不本意であったが、そのまま2人はぶつかり合う。
互いの得物が無数の火花を散らして交差する。
そしてこの数合のやり取りでサスケは何かを悟ったのか後ろに下がった。
(こいつの剣捌きは……!)
隊長の扱う刀の太刀筋は全ての武器を使いこなしたと言われる伝説の剣豪アークの剣筋に似ていたのだ。ホーリーネーションと戦い上級審問官2人を同時に相手して破ったと言われる過去の偉人だ。
しかしその人物は半世紀前に存在していた武人である。存命ならば齢80を超える。
(彼ではないとすると弟子か伝承者か……。いずれにしろアークの剣技は他を凌駕する無敗の型。
隊長が無限の太刀を極めていた場合、相当な使い手ということになる。しかし、サスケには隊長が剣技を極めていないという確信があった。あの剣技は一朝一夕でモノに出来る技ではない上に、相当な素早さとアーク特有の体の柔らかさ。即ち女性並の柔軟性がないと体現できない型があったからだ。
基礎の型までであれば恐るに足らず。分かれば対策も出来る。
サスケは忍びであったが、後進育成のために自ら進んで自分の技を若い侍や忍に見せた。その中に隊長もいたかもしれない。これまで倒してきたスパイ等の敵がいたかもしれない。自らの技が相手にバレていようとも負けずに生き抜いてこれたのは有する情報量と類稀ない分析力にあった。不利を有利に短所を長所に変えてその場の戦闘を乗り越えてきた。忍の技が無限の太刀に克服されていようとも、どのように対応されたのか分析し裏を取る。そして忍びの技により一撃で相手を葬り去る。
『即応のサスケ』と呼ばれる所以は戦闘の最中に相手の特徴を捉え対応できる強さにあった。
無限の太刀は壱から伍までが基本の型で陸から拾ノ型は応用と言われている。
恐らく忍びに対して使用する型は……
伍ノ型
相手を封じ込めていくかのように戦闘力を削り冥土に送る。腕斬り、脚斬り。忍びのような機動力を使う相手の長所を封じていく型だ。
サスケは自分が不利になる無限の太刀の型を調査していたのだ。そして陸ノ型以上は物理的に習得が困難な型が多く、隊長は会得していないと踏んでいた。
サスケが持つ大苦無は逆手のため力が入りやすいが射程は限りなく短い。そのリーチの差を狙って恐らく苦無を持つ右手を狙ってくると予想できた。
サスケは誘うように苦無を持つ右手を前に構えた。そして隠し持っていた小苦無を左手に持ちカウンターの体勢に入った。
(……来る!)
隊長が仕掛けた。その斬撃は動きを予知していたかの如く目にも止まらぬ速さでサスケの裏を書いていく。
腰を落とした超低空の横薙ぎで、前に出ていた右足を浅く斬ってきたのだ。これにより踏み込みが弱まり頭部に隙が出来ている隊長に対する攻撃が届かなくなる。武器のリーチも活かされた形だ。
(これは……!伍ではない……!?)
サスケが驚いたのは隊長の驚異的なスピードだけではなかった。
(思惑が完全に読まれている……!!)
隊長は状況を整理する時間を与えてくれなかった。一瞬だけ固まってしまっていたサスケにさらに攻撃を加えたのだ。
その対象部位は継続して右足だった。
低い構えのまま隊長の斬撃は燕返しのように往復して右足を深くえぐっていく。
「……っ!!」
この攻撃によりサスケは重心を保てずバランスを崩してしまう。そして隊長はこうなることも分かっていたかのように3撃目を既に放っていた。
低空から振り上げ、少し前のめりになっていたサスケの頭部を容赦なく斬りつけたのだ。
鮮血が飛び散り、サスケはそのままフラフラと後ろに2、3歩下がった。
血が滴る顔を手で押さえながらサスケは呟いた。
「お前……まさか陸を習得していたとは……」
無限の太刀 陸ノ型
地上に存在するあらゆる要素の因果を理解することを突き詰めた結果、次に何が起きるのか予知として高精度に推測する技。それは人の動きさえも対象範囲となる。所謂、超高次元の読みだ。
隊長はサスケの反応から『無限の太刀を知っている』ことを把握し、サスケが伍の型を逆手に取った動きを取ると察知していた。そのためまさに即応される前に自らの最終奥義で決めにかかったのだ。
「あなたと同様に私は他人の分析能力が著しく秀でていましてね。人生の大半を費やしてなんとか陸ノ型を会得することができました」
「……動きを読むことだけに特化して修練を積んできたのか。だからお前には
「……!」
「その反応……当たりか。初見の技だけで仕留めなければいけないのは難儀だな。凄まじい戦闘センスだ。なぜ今まで実力を隠していた?無限はアークに習ったのか?」
「もうそこまで理解してしまったか。あなたをここで仕留めておけて良かった。やはり放っておけば脅威になっていただろう」
「ふん。勝ったつもりか?甘い野郎だ」
そう言いつつもサスケの右膝は既に地面に付いていた。
「戦意を失わないその精神力には敬意を示します。あなたとは考え方こそ違いましたが、目指す先は通じるものがあったと思います。私は私のやり方で帝国を強くしますので安心して逝ってください」
「ほざくな……貴様のやり方はいずれ破綻する。せいぜい短い余生を楽しむことだな」
「……ふっ、あなたも最後の台詞は彼と同じような内容ですね」
この言葉に何かを悟ったのかサスケの表情は次第に怒りの形相に変わっていく。
「……!やはり貴様がや」
言葉を言い切ることなくサスケの首は地に転がった。隊長が高速の太刀筋ではねたのである。その様子を他の特憲メンバーは無言で見ているだけであった。
こうして古参メンバーが一掃され特別憲兵隊のあり方はいま大きく変わろうとしていた。