Kenshi -20years later- 作:さわやふみ
ナパーロ/ラックル/694番、サッドニール
「定期連絡がないということはジュウゾウ殿に何かあったということになります」
サスケが持っている拠点に隠れていたサッドニールとナパーロはジュウゾウからの連絡が数日遅れていることに対して焦燥感に駆られていた。
「……捕まったんですかね?」
「分かりません。ただ何か良くないことが起きたのは事実です」
「……僕らがポートノースに行ったからかもしれない……。フグは……僕の事も知っていたんだ……」
「相手は気づいていなかったのでしょう?尾行もされていなかった」
「分かりません……しかし奴らは僕らの想定を軽く越えてくるんですよ……どうしましょう!僕のせいだ……」
「落ち着いて。もともとポートノースの調査を指示したのはサスケです。仮にもし彼らがやられてしまったのだとしたら、それを想定して次の行動を取るだけです」
ナパーロにとってサスケ一派が支援者であることは少なからず心の支えとなっていた。名実ともに兼ね備え表向き都市連合の中でも将軍に並ぶほどの権力を持つ者であった。裏でも特憲として皇帝派をまとめ上げていたのだろう。そのような大きな一派から誰からも全く連絡が来なくなったのだ。動揺するのは無理もなかった。
「とにかく連絡役のジュウゾウさんが来ないようならここにいるのは危険かと思います」
「でもどこへ行けば……。どの拠点も安全ではない気が」
「ここから遠いですがヴェンジ地方に緊急事態の時にだけ行くよう指示されていた拠点があります。そこで一定期間待機してみましょう」
この言葉を聞いてナパーロは不安そうな顔をする。
「ヴェンジって……光線が降り注いでいる地域ですよね?」
「そうだね。だから人が寄りつかない。夜になれば光線は止むはずだ。ただ、そこも安全とは言えないから私だけで行く。君は遠目から来訪者をチェックして手鏡で知らせてくれ」
「わ、わかりました」
今いる場所から割と遠いため2人は早速行動にうつした。ヴェンジは大陸の中央やや南東の地域にあり、都市連合からは南にあった。この時、特憲は首都ヘフトを中心にして広がるように追跡範囲を広げていたため、2人はかろうじて追跡の難を逃れる形となっていた。
日中は灼熱の大地に高熱のレーザーがランダムに降り注ぐ死の大地ヴェンジ。昔はスラルという首なしスケルトンが群れをなして徘徊していたが、現在は比較的落ち着いており動物がいないだけの丘だらけの荒野となっていた。ラックル(ナパーロから人格交代)はサッドニールが待機する拠点を遠目の丘から監視していたが、行商こそたまに夜間に側を通過するものの、拠点に近づく者は皆無であり、無駄に時間が過ぎていくように感じられた。
(今日で何日目だ……一ヶ月は経った気がする。食糧も金も底をついてきたし、もうここにいても意味がないのではないだろうか)
行きにウェイステーションで食糧を買い込んでいたが、直感で最早戻るのは危ない気がしていた。定期連絡がなく緊急拠点にも誰も来ない今、サスケ一派に何かあったと見て間違いはなかった。ということは特憲内で大きな動きがあったのだ。そんな時に迂闊に街に立ち寄れないと判断していた。
(サッドニールはスケルトンだから食べなくてもいいし、ジッとしていても苦じゃないんだろうな……)
永遠とも思えるような時の中、ラックルは拠点で微動だにしないサッドニールを羨ましく眺めていた。
夜間であったこともあり暑さは落ち着いてきていたが、そもそも長時間の監視は忍耐力や集中力が要求され、慣れない者にとっては割と過酷な作業であった。ラックルのような子供にとっては尚更である。毎日変わらない光景を見て、もう何も起こらないのではないかと思い茫然としていた。
そのほんのちょっとした気の緩みを突かれたのかもしれない。背後の真後ろから、しわがれた男の声が突如聞こえてきたのだ。
「動くと殺す。お前は誰だ?俺の質問だけ応えろ」
背中にピリピリとした殺気を感じ、すぐ後ろで剣先が自分に向いていることが見ないでも感じ取れた。
ラックルは戦闘面において並の剣士より秀でていた。それなのに接近されるまで殺気を感じ取ることが出来なかったのだ。敵か味方か分からないが後ろにいる男は相当の使い手だと分かる。
(しくじった……。当然周辺も警戒されてるか)
下手な小細工は逆効果と判断したラックルは事実を話し始める。
「ラックルと言う」
「ここで何をしている?」
後ろにいる男はそのまま会話を続けた。
「サスケという男の報せを待っていた。緊急事態にここに来いと言われていた」
「ほう。合言葉は?」
「……!」
この質問にラックルは固まってしまう。合言葉に言及するということはサスケの関係者である可能性が高い。しかし肝心な合言葉を聞かされていないのだ。サッドニールが知っているかもしれないが、声が届く範囲でもないしこちらにも気づいていない。
(マジかー……サッドニールが俺に伝え忘れた?スケルトンなのにあり得るか?しかし、調子をあわせるべきか、素直に打ち明けるか!?どうする……)
「……黙ってないで応えろ」
男は坦々と急かしてくる。
「し、知らない。聞かされていないんだ」
相手がサスケの関係者であれば敵対することはないはず。ラックルは下手に嘘をついて場を乱すよりも正直に話すことを選んだ。
「そうか。ではそのまま前を向きながらあのスケルトンのとこまで歩け」
ラックルは言われた通り、サッドニールがいる拠点まで歩いていく。それまで後ろから剣を突きつけられたままであったが、ラックルは反抗しようとは思わなかった。いや、出来なかったのである。後ろにおり、姿こそ視認出来ず星明かりからの影でしか分からないが、隙がないのだ。立会人というよりサスケぐらい猛者の重圧感に晒されている感覚であった。
「!」
サッドニールが気づく距離に入ると、後ろの男が喋り始める。
「お前、サッドニールだな?」
気づいたサッドニールは慌てることなく応える。
「ええ、そうですがあなたはどなたでしょうか?なぜ私の名を?」
男は剣先でラックルを押し出し、サッドニールのもとへ追いやった。
「俺はサスケのダチだ。お前のことは聞いていた」
男は麦わら帽子を深く被っているが、声からして割と高齢であることが分かった。背中には行商箱を背負っており殺気もなく敵意はないようである。サッドニールもそれに気づいたのか会話を続ける。
「ならば共闘の間柄と思って良いのでしょうか?」
「いや、それは違うな。俺は共闘はしていない」
「……!どういうことでしょうか。緊急事態の際にサスケはあなたと会うように我々をここに寄こしたようですが」
「知らん。ここは俺とサスケのただの定期連絡場だ。サスケから何か伝言があるんじゃないのか?」
この男の存在を知らないサッドニール達は当然サスケの言葉など持ち合わせていない。
「……サスケさんやジュウゾウさんと随分長い間、連絡が取れていないのですが何かご存知ですか?」
この言葉に男はピクリと反応する。
「……中央にいる俺の手下によるとあいつらは反乱罪により処刑された」
「……なんですって!」
サッドニール達の驚いている様子を見て男は軽くため息をつく。
「サスケ一派の生き残りが詳細を伝えにくるかもしれないと思ったが……無駄足だったようだな」
「あなたは一体何者なのですか?」
「俺は特憲の1人だ」
「!!」
特憲という言葉に構えた2人に対して男は肩で笑う。
「ははは。そう構えるなよ。やるならとっくにやっているさ」
「…………」
「それより俺はなんでお前らみたいな奴らをサスケが使っていたのか知りたいのだが」
真意が分からない質問が来て、サッドニールは少し考えた後、応える。
「……利害が一致したからでしょうか」
「サスケが信頼する理由としては弱いな。お前たちの力量は見たところ大分未熟だろ?」
これにラックルが反応する。
「ざけんな。もうこっちは特憲2人やってんだよ」
「ヒガキとテクトウのことか。大方騙し討ちだろうし、あんな雑魚共を殺っても仕方なかろう」
「…………」
「サスケが足下をすくわれたのも、どうせお前らが間接的にでも関わっているんだろ。お前ら、何者なんだ?」
麦わら帽子の男はタバコに火をつけると、煙を吐きながらおもむろに質問してきた。あながち間違っていないであろう指摘をされてラックルも言い返せないでいる。
「……どういう意味だよ」
「サスケとなぜ知り合った?」
これにはサッドニールが坦々と応える。
「都市連合を調査していたらサスケがコンタクトを取ってきた」
「なぜ調査していた?」
「都市連合が私の所属していた組織を壊滅させたからだ。特憲が絡んでいるとも聞いている」
「ほう。何て組織だ?」
「ノーファクション」
「何?お前たちあの組織の生き残りなのか?」
これまで坦々と喋っていた麦わら帽子の男は急に取り乱し、咳き込んだ後、食いつくように質問を続ける。
「他にも生き残りはいるのか?」
「いるとは思いますが皆、消息不明で連絡はとれていないです」
「そうか……。サスケはノーファクションの残存兵力に期待してたのかもしれねーな。あそこは猛者だらけだった」
「…………」
「まぁいい。兎に角、いま特憲は古参を一掃して現隊長の下に生まれ変わった。サスケはもしもの時に俺を頼るようしていたようだが、もう付け入る隙がなくなり共闘どころではなくなったんだ」
「あなたも付け入ろうとはしていたのですか?」
「……サスケとは派閥が一緒だったが俺は特憲を変えるなんて大きな理想は持っていない。任務もスワンプの調査と掌握だしな。さぁもう話は終わりだ。解散、解散」
「解散ったってどこへ行けば……」
「んー?元ノーファクションならいくつも宛があるんじゃないのか?シェクとか浮浪忍者とか。なんならスワンパーズにでもなるか?」
男が言っているスワンプとは大陸の南西部に広がる湿地帯のことを指している。常に雨雲が覆っており、地理や気候からとても環境が良いとは言えず、また危険な生物など自然の脅威により、本来は人が住むには適していない場所であった。ここにごろつき達が流入し、派閥を作り暮らしている。彼らを総称してスワンパーズと呼んだ。大陸の他の勢力と隔した独自の文化圏が存在し、いくつかの派閥によってこの地域の覇権が争われ、常に血なまぐさい抗争が起こっている不毛の地となっていた。
「あなたはスワンプに詳しいのですか?」
「そうだな。そん中で俺はグレイって名乗ってるんだが、グレイフレイヤーって派閥知っているか?かれこれ30年はそこで活動しているかな。お前らの腕前なら末端として使ってやってもいいぞ」
「スワンプってゴロツキの世界ですよね。ずっと抗争続けてる」
「ああ、だが都市連合にいても変わらねぇだろ。そっちより小細工なしの力こそ正義ってとこだ。シンプルでいいだろ」
「……我々は浮浪忍者に知り合いがまだいるかもしれないのでそちらに行きます」
「そうかい。止めはしないさ。何なら俺も浮浪忍者に間接的にツテがあるから一筆書いて伝書鳩を送っておいてやるよ。ずっと北上してバストを通りワールドエンドという都市を目指すといい」
「なぜそこまでしてくれるのですか?」
「お前らが将来使える奴らになってるかもしれねーじゃん。恩を売っておくのも悪くないだろ。まぁ都市連合領内通った時に捕まる可能性のほうが高いけどな」
確かにこの男の言う通りであった。浮浪忍者村を目指すには都市連合領を通る必要があり指名手配となった現在、過酷な行程が予測された。