Kenshi -20years later-   作:さわやふみ

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◆現在の仲間
ナパーロ/ラックル/694番


126.一人じゃない

どれだけ寝ていたのだろう。

ナパーロはふと目が冷めてあたりを見渡した。

 

「……サッドニールさん?」

 

彼の姿は見えず、砂漠のほうに目をやっても誰かいる気配はない。日影の伸び具合からして2時間は経過している。

 

意識が朦朧とする中で最後に聞いた言葉が頭をよぎる。

 

サッドニールは自分をこのまま放っていくようなスケルトンではない。だとすれば何か不測の事態が発生しここに戻れなかったということだ。

 

(まさか……特憲が待ち伏せしていた!?)

 

物陰から砂漠を見るも相変わらず静かで人はおろか動物すら見えない。それはここに着いた時もそうであった。

 

『静かすぎる。サッドニールが戻っていないとなると本当に敵が伏せているのかもしれない』

 

心の中でロクシーが分析した。ラックルも同意見のようだ。

 

『だろうな。恐らく捕まったんだろう』

 

2人の意見を聞いたナパーロの表情は蒼白になっていく。

 

「た、助けにいけないですか!?」

 

『無理に決まっているだろ。敵がいたとしたら俺らで何とか出来るわけがない。今は退くぞ』

 

「今はって……せめて向かった足取りだけでも確認しにいくべきでは?砂漠に足跡が残っているでしょう」

 

『いや、砂漠には出るな。ここで張っていたということは奴ら山脈から出てくる者を見ている。山沿いにホーリーネーションのほうへ行くんだ』

 

「そんな……」

 

ナパーロは愕然とした。

 

ここまで長い時間がかかったが強敵の特憲2人を倒し、支援者と協力してこれからも何とか戦っていけると思っていた。

 

しかし蓋を開けてみれば、都市連合のサスケ一派は淘汰され、気づけばまた追われる側になっている。やはり特別憲兵隊には手を出してはいけなかったのか。

強大な力に対して自分の無力を実感し、楽観主義だったナパーロも打ちのめされていた。

 

そして一番の負い目になっていたのはサッドニールが捕まったことだ。

 

 

サッドニールが一緒に暮らしていたルイと別々の行動をしたのは、恐らく単身で都市連合を調べるためだったのだろう。ルイの拠点にサッドニールが現れたのも偶然ではなく遠くから見守っていたからなのだと推測できる。

 

あの天真爛漫なルイを育て上げたサッドニールは最早そこらにいる一般的なスケルトンとは一線を画していた。

 

恐らくサッドニールには感情が芽生えている。

 

賢いスケルトンは先の先まで計算して行動するが、基本的に自分にとって有益となる結果を求めて行動する。しかし、サッドニールは他者に対して無償の愛情を持って接していたのだ。

 

拠点では瀕死のラックルを助け、ヒガキを倒した後は気づかって離脱を勧めてきた。デッドランドでは仲間の合流よりも自分の体調を優先して先に進んでくれた。そしていま自分の身を呈して待ち伏せを確認してくれた。

 

もはやナパーロにとってもサッドニールは信頼出来る仲間を越えてかけがえのない存在になっていたのだ。

 

だからどうにか助けたい。そんな思いがその場を去ることを躊躇させていた。

 

頭をたれて黙りこくっているナパーロに対して、今度はロクシーが話しかけてくる。

 

『君が思っていることは分かるよ。私も同じだ。彼を助けたい。しかし、いま出ていったらラックルの言う通り私達も捕まってしまい助けるチャンスを失ってしまうんだ』

 

「でも……出直すにも僕らはもうどこにも身寄りがないじゃないですか……」

 

『ビッググレイが言っていたワールドエンドに浮浪忍者の支援者が来てくれるのに賭けよう。そこでサッドニールさんの仲間を見つけるんだ。諦めない限り何か道があるはずだ』

 

この言葉にナパーロの口元が少しだけ緩んだ。

 

『どうした?』

 

「いや、ロクシーがそんな事言うなんて、なんか変わったなって。おかげで僕も少し冷静になれたよ」

 

『良かった。今は悔しいけど絶対に助け出そう』

 

【挿絵表示】

 

3人の意志は一致し、ナパーロはゆっくりと歩き出す。言われた通り砂漠には出ず、山脈を沿うように北上し、そしてホーリーネーション国境の関所砦である通称『オクランの盾』が見えてくる。上級審問官ヴァルテナが守るホーリーネーションの前線基地だ。

 

ナパーロはグリーンランド人であるため、ホーリーネーションにも受け入れやすいはず。このまま都市連合領内を通って北上するよりも、ホーリーネーション内を通ってワールドエンドに向かったほうが安全であると判断したのだ。

 

オクランの盾は大陸西方へ出る唯一の街道を挟むようにして配置されており、通る通行人を両面から監視している。

 

「通れますかね……」

 

ナパーロは小声で独り言を呟く。ロクシーやラックルだと警戒する気配を察知される可能性もあったため引き続きナパーロのままオクランの盾を通り抜けることにした。

 

『都市連合から賞金をかけられていたとしても、ホーリーネーションは敵対国だから大丈夫でしょう。堂々と通れば行けるはずです』

 

多数の兵士の視線が向けられる中で、ラックルはロクシーの言葉を信じて、旅人らしく平然と歩き出した。

 

歩を進める度に視線が増えていく感じがする。

呼び止められて通る理由を聞かれたら何と答えるか、頭の中でシミュレーションはしていたが、いざ通る時になると、話しかけられたらどうしようと緊張が走る。それが歩行にも現れてしまわないかと余計にぎこちなくなっていく。その時

 

「おい、少年」

 

ナパーロは砦から出てきた1人の兵士に呼び止められてしまった。

 

「は、はい!?」

 

思わず声が上ずり、違和感満載の答え方をしてしまう。

 

「ん?どうした。具合でも悪いのか?少ないがこれを食べなさい」

 

兵士はそう言って少しばかりの食糧を渡してきたのだ。ホーリーネーションの人たちがグリーンランド人の男性には寛容である噂は本当であった。さらにその兵士は道中の注意点を教えてくれた。何でもバスト大戦以降ホーリーネーションも大分戦力が下がってしまい、国内の治安も悪化しているようであった。

 

そのまま何事もなくオクランの盾を通ることに成功したナパーロはホーリーネーション領内を通ってワールドエンドの麓に向かう。道中いたるところにホーリーネーションの農村を見かけたが、特に何か起こることなく歩を進めることが出来た。

 

「ちょっと拍子抜けしますね。スケルトンを排斥しようとさえしなければ、サッドニールさんと一緒にホーリーネーションに逃避できたのに……」

 

ナパーロはワールドエンドがあるとされる山脈を見上げて呟いた。調べた限りで通行ルートは東西の2箇所しかないらしく、一本道だから迷うことはないとされていながらも、頂上が雲に隠れて見えないぐらいに高くそびえ立つ山に圧倒される。

 

本当にこんな山の頂上に街があるのかと疑いたくなるぐらいだ。

 

「食糧も残り少ないし一気に麓まで行っちゃいますか」

 

ナパーロは背負っているリュックを上げ直して第一歩目を踏み出した。

 

 

 

 

◆◆◆

 

場所が変わり、とある都市連合領内の砂漠にて

 

コートを着た男女が二名、颯爽と砂の上を駆け抜けていた。一歩一歩の歩幅間隔も長く、並の速さではないことが分かる。

 

「俺の速さについてこれるようになったな」

 

少し前を行く男が白い歯をキラリと光らせながら女に向かって喋りかけた。女はターバンで顔を覆いその表情は見えにくいが、難しそうな面持ちで言葉を返す。

 

「……でもスピード少し落としてくれてますよね?」

 

「いやいや、バストが遠いから配分は気をつけてるのさ。全力疾走してたら俺もバテちゃうわ」

 

ハハハハと男が一人笑っているが、女の表情は冴えないままだ。

 

「……この話、聞いてくれてありがとうございます」

 

切り出すように喋りかけた女に対して男は陽気な態度を崩すことなく返事をする。

 

「いーって、いーって。可愛い後輩ちゃんのお願いは先輩が叶えてあげるものだぜ」

 

「ありがとうございます……。あの、しかし本当に大丈夫でしょうか?向こうは主力と思われますけれど……」

 

女の言う“向こう”について男も理解したようだが依然として余裕の表情だ。

 

「ん?ああー、ティンフィストのほうか?彼なら余裕で目的を達成出来ると思うぜ」

 

「そうですか……それならば……。あ、それと私たちの相手ですけど予定通りの組み合わせでお願いしたいです」

 

「おっけー。殺すつもりでかかるけどいいよね?」

 

「はい。大丈夫です。私も相手を殺りにいくつもりです……!」

 

語気を強める女に何かしらの意気込みが感じて男は制するように言葉を投げかける。

 

「そか。しかしうーん、君も大分強くはなったけど無茶はすんなよー。何しろ相手が相手だしなー」

 

「わかってます。目的は間違えません」

 

「ならばよし。さーて見えてきたぞー!いっちょぶちかましてやろうぜ!!」

 

2人の視線の先に5、6人の集団が街道を移動しているのが分かった。それぞれ大きな得物を背負っており体格も大きく、行商というよりは武装集団であった。

 

「お前はあのシェク人だな!残りは俺がやる!」

 

「はい……!」

 

男は先頭あたりを歩く重武器フォーリングサンを背負った者に一直線に向かっていく。

対する相手も男女2人の襲撃を察知したのか得物を取り迎撃態勢に入っていた。それに構わず男はひたすら走り続けて叫ぶ。

 

「特憲のリドリィだな!?義によって、その命貰い受ける!」

 

男女の襲撃相手はリドリィとガルベス率いる特別憲兵隊であった。掛け声と共に男はリドリィを取り巻いている剣士たちに対して高速で強烈な蹴りを喰らわしていく。その格闘技を見たリドリィも襲撃者が何者なのかすぐに察知する。

 

「反奴隷主義者か!!2人とは良い度胸だな。片付けるぞ!」

 

広大な砂漠のど真ん中で唐突に特憲と反奴隷主義者による因縁の戦いが始まった。

 

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