Kenshi -20years later-   作:さわやふみ

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◆現在の仲間
ナパーロ/ラックル/694番


127.奇襲

「リドリィ様!敵襲です!」

 

「見りゃ分かるわ!行け!」

 

リドリィとガルベスは隊長の命令でナパーロを捕らえるべく、立会人を3名ほど引き連れてバスト地方へ来ていた。命じられた立会人3人は言われるがまま突進してくる襲撃者に斬り掛かっていく。

 

しかし襲撃者の男は斬撃を華麗に避けながら掌底や蹴りを喰らわし、瞬時に立会人の3人を制圧してしまった。リドリィはその様子を見て、ガルベスに声をかける。

 

「こいつら、反奴隷主義者か!!2人とは良い度胸だな。片付けるぞ!」

 

「おう!相手に不足なし!」

 

反奴隷主義者の個々が凄まじいポテンシャルを有していることは特憲であれば当然理解している。1人1人が特憲と同レベルか上回っている可能性すらあるのだ。ガルベスはリドリィと対峙している襲撃者とは別の刀を構えている者と対峙したが、自ら突っ込むことなく相手の出方を待った。

 

(こっちの奴は刀持ちか!ティンフィストに憧れて武術を極めたがる奴らにしては珍しいな。しかもやたら小柄だ。……女か!?)

 

顔面をターバンで隠し正眼で刀を構えている反奴隷主義者はジリジリとガルベスのほうへ間合いを詰めてくる。とっくにガルベスの板剣の間合いには入っているが、ガルベスは武器を振るわなかった。相手にとって避けれる距離かもしれないからだ。

重武器は一度振り切ると立て直しまでに時間がかかる。反奴隷主義者ほどの者ならばその間に決めにくるスピードと力量を持っているのは充分考えられた。これはガルベスが武道家チャドと戦った際の経験による判断であった。

 

ガルベスは板剣を振り上げ斬りかかるフェイントを入れてみる。しかし襲撃者は引っかからず様子を伺ったまま攻撃してくる気配はない。

 

「ぬぅ……」

 

どうしても相手の最速を測っておきたいガルベスは先制出来ずにいた。

 

 

 

ガルベスと小柄な襲撃者の膠着の横で、リドリィは壮絶な戦闘を続けていた。もう一方の襲撃者が武術による猛攻を加えていたのである。フォーリングサンの柄を使って懸命に防御していたが、絶え間ない連撃のせいで重武器を使った反撃を出来ないでいたのだ。

 

後ろに下がっても襲撃者は間合いを詰めてくる。このまま押し切るつもりのようだ。リドリィは横目でガルベス達の位置を確認する。

 

「……ガルベス!スイッチ!」

 

掛け声と共に互いが近寄り、その間際に振り返り様のガルベスがリドリィと相対していた大柄の襲撃者に片手で斬撃を放つ。

 

「っと!あぶねぇ!」

 

2人の連携を想定していなかったのか襲撃者はガルベスの攻撃をすんでのところで避け後ろに下がる。だがこのタイミングで小柄な襲撃者のほうが動く。背中を向けたガルベスに刀で斬りかかったのだ。

 

「まぁそりゃ来るよな!」

 

ガルベスは予測していたのか、空いた片手でサブウェポンの長剣を使って応じる。そしてそのまま板剣を手放し小柄な襲撃者と打ち合いを開始する。

 

ガルベスの攻撃で間を貰ったリドリィも同様にサブウェポンに切り替えて大柄な男に再度対峙した。

 

「お前中々やるな。反奴隷主義者だろ?一番強いのか?」

 

大柄な男は襲撃しながらもリドリィの問いかけに快く応える。

 

「ん?俺かい?俺は2番手かなぁ」

 

「へぇ。やはりティンフィストには勝てないのか」

 

「そりゃあねぇ。彼は最強だから」

 

「その彼は今回来てるのか?」

 

「さてね。そこまでは教えられないな」

 

「そうかい。目的は特憲だよな?向こう(・・・)にも来てるんだろうな」

 

「まぁそうだけどさ。自分の事を心配したほうがいいんじゃないか?特憲にしてはちょっと拍子抜けしてるんだけど」

 

この会話が少し退屈なのか、襲撃者は軽く小さな伸びをした。

 

「ふっ、それはすまなかったな。私は長剣のほうが得意なんだ」

 

「そうか!じゃあもう少し楽しませてくれるんだな!」

 

「逆に私が楽しめなくなるかもな」

 

「いいね!」

 

襲撃者は白い歯をニッとさせると猛然とリドリィに突っ込んでいった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

リドリィ達の戦闘が始まった一方で、特別憲兵隊の本隊。スケサーンとフグは十志剣と数人の立会人を引き連れて、リドリィ達の近くを悠々と移動していた。

 

「思えば特憲としてこんな大所帯で歩くなんて初めてだぜ」

 

「そうなんですか。私は傍らで貿易の仕事もしているので割と荷駄隊と一緒のことが多いです」

 

「連れションみたいでだせぇし、自由がなくてストレスじゃねーか」

 

「スケさんは一匹狼が好きなんですね。集団のほうが安全ですし慣れれば楽しいですよ」

 

「その呼び方やめろ。つーかこの仕事に楽しさを求めんな」

 

「まぁいいじゃないですか。楽しまないと気が滅入ってしまいますよ」

 

「お前みたいな奴が言うかよ……」

 

「…………」

 

2人は急に押し黙った。表情も険しくなっていく。

 

「気づきました?」

 

「ああ。スケルトン独特の駆動音だ。近いな」

 

「ええ。近づいてきてますね」

 

「おい、キアロッシ!止まれ!」

 

「は、はい」

 

スケサーンは先頭を行くキアロッシによびかけ、音が聞こえる方に耳を傾ける。

 

そしてその音の正体はやがて姿を現した。

その者は砂丘の頂上で立ち止まると腕を組んでスケサーン一行をジッと見下ろしていた。

 

「やはりスケルトンか。P4ユニットだな。ダストコートを着ているが……フグ、残党にもう一体スケルトンいたか?」

 

「いえ、いないわよ」

 

「ふーん、違うスケルトンか?腕組みして生意気な感じだが。……ん?腕組みだと……」

 

「…………」

 

腕組みは相手を警戒していたり、威嚇したりする意味合いがあり、人間独特の所作である。そのためほとんどのスケルトンはこれを意味のある動作だと捉えていないが、とあるスケルトンがこのような人間らしい振る舞いを行う事を特憲は把握していた。

 

遠目で佇んでいるスケルトンは威風堂々とスケサーン達の陣容を見ており、まるで一人一人のBPを計測しているかのようであった。

特憲の面々は互いに顔を見合わせる。

ふと何気なく思い出した情報が目の前で合致していく。

 

 都市連合にとっての天敵は、国家だと長年争っている大国ホーリーネーションが該当するが、それに匹敵するレベルで都市連合を脅かす組織が存在していた。

反奴隷主義者である。

 彼らが小規模ながら大国都市連合から脅威とみなされていた要因は一つ、スケルトンにして最強の武術家、ティンフィストが指導者となって組織を率いていたからに他ならない。そのティンフィストはダストコートを着ており、よく腕組みしている様子を目撃されていた。

 

特憲メンバーに思わぬ緊張が走る。

 

「……おいおい。マジか……ここはバストだぜ?こんなところまで出没すんのかよ」

 

「平定後のバストを偵察しに来たのかしらね。どうするの?」

 

「どうするたってやるしかねーだろ。奴がティンフィストならば運が良い。十志剣を使って搦め捕るぞ」

 

スケサーンは背負っているしなり野太刀を抜いた。

 

「やれやれ……これは大捕り物になりそうですよ。ちなみにスケさんは以前にチャドにティンフィストについて聞いたことがあると言ってましたよね?彼はどう評価してました?」

 

「ん?ああ。『自分の全盛期なら何とか張り合えた』ってさ」

 

「……なるほど。チャドの全盛期以上ということですか。モリさんかカクノーシンさんがいれば良かったですね」

 

「弱音を吐くな。お前も早くボウガンを用意しろ」

 

スケサーンの特憲一行が準備している隙にスケルトンが仕掛けてくることはなかった。それどころかシャドーボクシングをして準備が出来るのを待っているかのようである。

 

「あの舐め腐った態度はティンフィストで間違いなさそうだ。円陣を組め。ミスるなよー、でないと全員殺されちまうからなー」

 

反奴隷主義者の指導者ティンフィスト。スケルトンながら奴隷を解放して回る神出鬼没の天敵がいま目の前に君臨したのである。これまで各地の奴隷農場を襲撃し解放してきたこともあり、当然、都市連合からはS級という最上級クラスの指名手配を受けている。S級の定義は都市一つを丸ごと相手にできる存在とされており、その所以は実績だけでなくその単体の力量からも総合的に判断されていた。よって特憲でさえ気負うのも無理はなかった。そんな状況を他所に件のスケルトンは漂々と喋りだす。

 

「ふーん、特憲の面子も随分と新しくなって来てるねぇ。アイゴアはいないのかな?」

 

「黙れ。よくもまぁ俺等の前にノコノコと顔を出せたな。望み通り討ち取ってやるよ」

 

スケサーンは野太刀の剣先をティンフィストに向けた。そしてフグが背負う籠から極大射程ボウガンを作り上げ、矢を放ったのを皮切りにティンフィストが立つ砂丘は何かが爆発したように砂をまき散らす。彼の踏み込みにより砂が巻き上げられたのだ。

 

「ちっ!どこに行きやがった!」

 

砂が舞い視界が悪い状況で、特憲の面々は円を作りながら辺りを見渡した。するとその中で鼻下に髭をはやした十志剣の一人が前に出てくる。

 

【挿絵表示】

 

「スケサーン様、一旦我々にお任せを」

 

「ああん!?誰だお前?」

 

「十志剣の長テネンバウムと申します。我々はこれまで対ティンフィストを想定した戦闘シミュレーションを行ってきました。特別憲兵隊の方々は下がって見ていてください」

 

「ほーう!言うじゃないか。じゃあやってみろ」

 

「では……」

 

テネンバウムが手で合図を送ると数名の十志剣が前に出る。十志剣はそれぞれ異なる武器種を所持しており種類が重複している者はいない。それは敵と相性の良い組み合わせを常にぶつけられるようにしていたからだ。出てきた者たちも大身槍、長剣、ショートクリーバーと多様な組み合わせであった。

 

「ほれ、来たぞ来たぞーー!」

 

スケサーンの煽りに応えるようにテネンバウムは声を上げる。

 

「槍、六番!」

 

この掛け声で大身槍を所持した大柄の十志剣が前に出て、突進してくるティンフィストに対して連続突きを繰り出した。

 

「おお!?」

 

スケサーン達が驚きの声を上げるのも無理がなかった。それはまるでモリの槍を彷彿させるキレと速さであったのだ。直進してきたティンフィストも紙一重でかわすか鉄の腕で軌道を逸らして凌いでいる。そしてそのまま横にそれて特憲の陣形の中に殴り込もうとする。しかし長剣を持った十志剣が大身槍をフォローするように回り込み、ティンフィストを妨害する。その間に大身槍が体制を整え再度突きを繰り出していくのだ。3対1の構図がはまり、ティンフィストの突撃を見事凌いだのだ。

 

「すごいじゃないですか!私も加勢します」

 

フグはボウガンを構えるが、テネンバウムは意外にもそれを手で制する。

 

「フグ様、不測の事態もあり得ますのでここは十志剣にお任せを」

 

フグは特憲の中でもアーチャーとして密かに名を馳せている。その申し出を敢えて辞退したのだ。

 

「あら、そう?じゃあもう少し見ていようかしら」

 

フグは引き続き円陣の中で待機を続けるようだが、スケサーンはもどかしさを感じていた。

 

「なんで他の十志剣で囲わないんだ?3人ぐらいしか戦闘に加わってねぇじゃないか!」

 

「シミュレーションした結果、それだと弱い箇所を一点突破されて崩されます。ここは方円陣を組み守りに徹することで、我々が受け身であることを相手に印象付けます」

 

「こんだけいて受け身かよ。情けねぇなぁ」

 

「相手もそう思ってくれると願ったりです」

 

ティンフィストは大身槍の連続突きを真正面から受けながら突破口を探している。横にズレてもやはり長剣持ちやショートクリーバー持ちの十志剣が隙を埋めるようにカバーに入り、その間に大身槍持ちが立て直すのを繰り返す形になっていた。

 

相手の懐に入れないでいるティンフィストもこの膠着をどこか楽しんでいるようで喋りながら戦闘を続ける。

 

「俺向けの対策はしていたようだね。けどこのスピードにいつまでついてこれるかな?」

 

ここまでは大身槍持ちの攻勢とティンフィストの威嚇を兼ねた防御により均衡が保たれていた。しかしスケルトンに対して人間である大身槍持ちの十志剣は攻撃を続けっぱなしにより疲労が溜まっていた。歴戦の猛者ティンフィストはそこを見逃すことはなかった。一瞬の隙をついてキレが落ちた大身槍の突きを見切り、かわしながら懐に入り込んだのだ。そして強烈な裏拳を大身槍持ちの脇腹に入れた。

 

「ぐふ……!」

 

そのまま大身槍持ちは横にふっ飛ばされ、サイドにいたショートクリーバー持ちを巻き込む。ティンフィストはそにまま横にいる長剣持ちに詰め寄り、千手観音のような手数で攻勢をかけた。長剣持ちは捌ききることが出来ず体中に穴をあけた後、崩れ落ちた。ほんの一瞬の出来事で十志剣の内、3人を戦闘不能にされたのである。

 

破られた。

 

スケサーン達は咄嗟にそう思った。早く次の手を打たないとこのまま全員突き崩される、と。

しかしこの展開を十志剣の長テネンバウムは待っていた。

 

「斬馬、10番」

 

またもや掛け声で後ろに控えていた斬馬刀を持った十志剣が一人猛烈なスピードで深入りしているティンフィストに向かっていき、素早く斬りつけたのだ。

 

「おお!?なんだアイツの動きは!」

 

「十志剣一の使い手です。彼の力量はモリ様やカクノーシン様に匹敵します」

 

「……何だと!?それじゃあ俺たちより強いってことか?あり得ねぇ!」

 

スケサーンは一笑したが、その笑みは次第にひきつるように固まっていく。

斬馬刀持ちがティンフィストを圧倒し始めたのである。

 

「彼は20歳台前半ですが戦闘における天才です。ある程度削れたティンフィストであれば勝てるでしょう」

 

先程の大身槍の猛攻によりティンフィストのほうも少しづつであるが腕や足の金属部分が摩耗し削れており、自慢の素早い動きに影響を出し始めていた。僅か数ミリの誤差は最高峰の戦いにおいて致命的な要因となり得るのを十志剣の長テネンバウムは計算していたのだ。

 

「先に斬馬刀を出さずに大身槍達を削りの捨て要員として使ったわけか」

 

「いえ、捨てではありません。今回は彼らが削り要員になっただけです。相手によって変わるまでのこと」

 

「しかしスケルトンなら重武器がセオリーだろ。なぜ斬馬刀なんだ?」

 

「ティンフィストはセオリーに当てはまりません。むしろ重武器だと一撃も当たらないでしょう。奴の場合、ある程度速さと威力のバランスが良い斬馬刀で決めるのが適しています」

 

「……なるほどな」

 

スケサーン達が話している間にも斬馬刀持ちはティンフィストに詰め寄り高速の斬撃を放ち続ける。ティンフィストも避けきれずに腕でいなす形となり少しづつ金属部分が削れていっているのが分かった。その間に他の十志剣がついにティンフィストを囲みだす。ティンフィストは斬馬刀に取りつかれており囲いを突破することに集中できていない。

 

「これ……倒せちゃうかもですね」

 

フグがボソリと呟いた。

さすがは猛者との戦闘に特化したチームであった。犠牲を出しつつも、ティンフィストを追い詰め始めているのだ。

 

そしてついに囲っていた十志剣のフェイントに目がいった隙をついて、斬馬刀がティンフィストの片腕を切断したのだ。

 

「おお!」

 

特憲チームからは歓声が上がる。

 

都市連合にとって宿敵とも言えるティンフィスト。およそ数百年間仇をなしてきた伝説の武闘家が今、討ち取られようとしていた。

 

「あー長年使ってきた馴染みのある腕が……」

 

ティンフィストは宙をクルクル舞って飛んでいく自分の腕をもの悲しげに見ていた。そしてそのまま言葉を続ける。

 

「いやーやはりさすがに準備万端なチームに対して単独で撃破は難しかったか。反省反省。こうなれば奥の手を出すしかあるまい」

 

S級賞金首から発せられる奥の手という言葉に十志剣の連中は一瞬警戒して構える。攻勢に出ていた斬馬刀持ちも同様であった。ティンフィストはその瞬間を見逃さなかった。

 

ドンっと砂の大地を蹴り上げ、囲いが手薄な部分を高速で駆け抜けたのだ。

 

「…………!」

 

みるみるうちにティンフィストは小さくなっていく。

 

「おい!!何やってんだ!追えよ!」

 

スケサーンの命令に対して十志剣たちは動かなかった。

 

「追っても無駄ですね。奴のスピードに追いつける者は長剣持ちだけでした」

 

「クソが!あと少しで宿敵を殺れたんだぞ!?斬馬刀!お前、何ひよってんだよ!」

 

「…………」

 

「まぁこんなもんでしょう。あの伝説のような敵をここで討ち取れていたら先代がとっくにやっています」

 

テネンバウムの横やりを無視してスケサーンは続ける。

 

「……ちっ。まぁいい。名前は何ていうんだ?」

 

「……?」

 

「斬馬刀、お前だよ。覚えておいてやる」

 

斬馬刀を背負った十志剣は一瞬面食らったような表情をしたが、低い声で応える。

 

【挿絵表示】

 

「……テンドウと申します」

 

その様子を見ていたフグはボウガンを分解し、商人籠に戻しながら笑っている。

 

「さすがスケさん。有望な者はちゃんとツバつけておくのね」

 

「……ふん。傷を負った者を手当しろ。立て直したら先を急ぐぞ。大分時間を食っちまったが急がないと国境についてしまう」

 

大物を取り逃がした失意の中、スケサーン達は再度移動を開始した。

 




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