Kenshi -20years later-   作:さわやふみ

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◆現在の仲間
ナパーロ/ラックル/694番


128.今際の際

リドリィ達と反奴隷主義者の戦いは続いていた。

 

長剣を持つリドリィは武道家の反奴隷主義者と互角に渡り合い、同様にガルベスも刀持ちの反奴隷主義者と剣を重ねていた。

 

「お前の剣術……どこかで見たことがあるんだよなぁ」

 

ガルベスは長剣をヒュンヒュンと音を鳴らして振るいながら訝しげに相手を見据えた。しかし当の刀持ちはそれを無視するかのように剣技を繰り出していく。ガルベスはサブウェポンである長剣の扱いには慣れていないこともあり押され気味だ。そしてついには刀による一撃がガルベスの足を撫でるように入る。数滴の血がたれて地面に吸い込まれていくが、それでもガルベスは動じなかった。

 

「ちょこまかと動きやがって。だがそんなペースじゃ日が暮れちまうぞ」

 

逆に相手を煽ったのだ。

 

「…………」

 

相変わらず刀持ちの反奴隷主義者は応えることもなく、ジッとガルベスのほうを見据えたままであった。すると、リドリィと対峙していた大柄の反奴隷主義者が急に声を上げる。

 

「潮時だ!そろそろお暇させてもらうぜ!」

 

そう言って刀持ちの反奴隷主義者に合図を送ると、2人はもと来た道を猛スピードで引き返し始めたのだ。

 

「あ!おい、待て!」

 

ガルベスが追いかけるが、とても追いつけるような速さではない。反奴隷主義者2人はあっという間に見えなくなってしまった。リドリィは既に諦めているのか追う姿勢を見せなかった。

 

「追いかけても無駄だ。それより痛んだ立会人たちを救護するぞ」

 

「ちっ、何なんだよ、あいつら何がしたかったんだ……」

 

「……初めて手合わせしたが中々強いな。お前の方はどうだった?」

 

「んー刀野郎か?……どうかなー。殺意が足りないっていうかまだ場慣れしてないって感じだったぜ」

 

「そうか……」

 

「まぁティンフィストじゃなくて良かったぜ。アイツが来てたらたぶんやられてたと思うぞ」

 

「ふ、珍しく弱気だな。兎に角、急いで体制を立て直そう。ルイの残党がワールドエンドへ到達してしまうと手が出しにくくなるからな」

 

リドリィ達は応急手当をした後、近くの村へ立ち寄ることにした。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

その頃、(くだん)の残党、ナパーロはワールドエンドがある山頂の麓まで辿り着いていた。

食糧と水は底をつきブーツは擦り切れている。

 

しかし、ついにここまで辿り着いたのだ。ここを上がれば都市連合領から離れ、マシニストが治めるワールドエンドだ。

 

サッドニールが命を賭して、ここまでナパーロ()を辿り着かせてくれた。

 

助けてくれる確証はないが、ビッグ・グレイの話ではここまで浮浪忍者を寄こすよう手配してくれている。その中に元ノーファクションもいるかもしれないのだ。事情を説明し協力を仰ぎ彼を助ける。

 

「待っててくださいね、サッドニールさん」

 

ナパーロは胸に秘める決意を口に出して山脈を登り始めた。

しかし、同時にどこからともなく声が聞こえてくる。

 

「あーマジで来たよ。間に合ったぁ」

 

「え?」

 

見渡すと岩場の隙間から軽装の男が出てくる。どうやら隠れていたようであった。

 

「俺を覚えているか?ガキ」

 

「えっと……どちら様でしょうか?」

 

最初は盗賊かと思ったが相手は1人であり何か様子がおかしい。

 

「てんめぇ、俺は覚えているってのにお前は忘れてんのかよ」

 

男は背中からサーベルを抜きながら歩み寄ってくる。

 

「ちょ……ちょっと待ってください!人違っ……」

 

ナパーロも言いかけた言葉を遮られるように人格がラックルに代わり短剣を抜く。

 

「俺が覚えているぜ。こいつはハウラーメイズ遠征時にいたキアロッシっていうテックハンターだ」

 

雰囲気が変わったナパーロ(ラックル)に少し驚きつつもキアロッシは尚も接近してくる。

 

「今はお前ら犯罪者を処刑する特別憲兵隊の立会人だ。スケルトンのほうは捕えたからお前はなぶり殺す。覚悟しろや」

 

そう言うとキアロッシはポケットから小さな笛を取り出し力任せに吹く。

かん高い音が辺り一面に響き渡った。初めて聞く音であったがラックルは直感でこの音が仲間を呼ぶ合図だと理解する。

 

(やはりサッドニールは捕らえられていた……!しかしなぜ特憲は俺らがここに来るのを予測出来た……!?早くコイツを殺してズラからないと!)

 

ラックルは短剣を両手に持ち、猛然とキアロッシに向かっていく。対するキアロッシも迎え撃つ構えだ。

 

ラックルの短剣二刀流は慣れていない相手の意表を突く暗殺剣に近い。そのため序盤のラッシュで決めきりたいところであり、それを凌がれた場合は決め手のない膠着状態となり体力的にジリ貧になりやすかった。

 

ラックルの猛攻により、キアロッシは防戦一方となる。反撃に出ようにも気を抜けば首すじを切られそうになるのだ。

 

「お前……如きに!!」

 

しかし流石にテックハンターとしてある程度の修羅場を潜ってきたキアロッシである。必死の形相で食らいつかれ、ラックルはついに序盤で決めきることが出来なかった。

 

そこに先ほどの呼び笛により、来て欲しくない人間が到着してしまう。

 

「おー、やってるやってる。どうやら間に合ったようだな。キアロッシを先に行かせておいて良かったぜ。つーか……お前まさか押されてんじゃねーだろうなぁ?」

 

キアロッシに対して投げかけられたその言葉から都市連合側の援軍と見て間違いなかった。その男は全身武者鎧を着込んでおりキアロッシに対しても威圧的な態度だ。

 

「い、いや……二刀流に少し慣れていなかっただけでこれから殺ろうとしてたとこです!」

 

「ほんとかぁ?傷負ってんじゃねーか。代わってやろうか?その代わりお前クビにするけど」

 

「いえ!やれますので少しお待ちください!」

 

2人の会話を聞いて、ラックルはこの状況が相当危険な状態であることを察する。

 

(キアロッシがビクついているあの鎧武者……特憲か!?かなりの使い手だ。早々に逃げないとヤバい……!)

 

ラックルはキアロッシの目が離れている間、ワールドエンドへの道を走り出そうとした。

 

しかし、目の前の地中に短剣が突き刺さる。

 

「……!」

 

「なに逃げようとしてんだよ。お前は空気読んでここで殺られとけばいいんよ」

 

短剣はどうやら鎧武者が投げたらしくいつでも殺せると言わんばかりの余裕だ。ただ、キアロッシに限っては顔は紅潮し怒りの表情に満ちている。

 

「てめーはぁ!俺に恥かかせてばかりいやがってぇえ!」

 

サーベルを振るい、猛然とラックルに襲いかかってきたのだ。しかし戦闘において頭に血が上った状態は状況が見えていないに等しい。キアロッシによる力任せの斬撃はタイミングも軌道も読みやすかった。ラックルは片方の短剣で受け流しながら、もう片方の短剣で仕留めにかかる。

 

だがその刹那、ラックルの背中に激痛が走った。

 

後ろをチラリと見ると先ほどの鎧武者が真後ろにいるのだ。

 

「な……!?」

 

ザク……

 

さらにキアロッシの攻撃によりラックルの片腕が無情にも宙を舞う。

 

「う……あぁぁ……!!」

 

体の部位を欠損するという生まれて始めての激痛にラックルは悶絶して転げ回った。奴隷の時に経験した拷問とは比べ物にならない痛みであった。

 

「ああ?何やってんだよ決めきれよ〜!マジで!!」

 

横で鎧武者の男がキアロッシの腕前に言及しているが、ラックルの耳には全く入ってこなかった。

 

「うぅぅ……ああ……!」

 

何も考えられない。でも人格を代わることは出来ない。拷問は自分が代わりに受けてきた。だからこの痛みはナパーロやロクシーには耐えられないはずだ。ラックルは声を出し必死の形相で堪えていた。

 

だがキアロッシは非情の言葉を告げる。

 

「わざとですよ!こいつにすぐ死なれると俺の気が収まらないんです!少しだけ痛めつけた後でもいいっすか?」

 

「アホか!今もお前が殺されかけてたのを助けてやってんだぞ?まぁこいつには少し振り回されてムカついてるからちょっとだけなら許すけどよ」

 

「ありがとうございます!っし!オラ立てよ!」

 

悶絶して蹲っているラックルをキアロッシが強引に立たせようとしている最中、さらに続々と人が集まってくる。

 

「なになに?スケサーン、いまどういう状況?」

 

トレーダー用の木製バックパックを背負い商人のなりをした男だ。

 

「ああ、フグか。ギリだったぜ。いま新人の立会人が陰湿なイジメしてるとこだ」

 

「あら、そうなの。やはりあの子浮浪忍者村に逃げ込もうとしてたのかしらね」

 

「ああ、でもなんで分かったんだ?もともとあのガキは浮浪忍者だったのか?」

 

「いえね。ハーモトーという商人がいるじゃない?あの女は浮浪忍者と繋がりがあるのだけど、あれの動きが活発的だと伝書鳩で報告があったのよ」

 

「はぁ?それだけで俺らはワールドエンドの麓までこさせられたってのかよ。それも十志剣をまだ連れて来てるんだぜ。あんなガキ1人に人を投入しすぎじゃねぇか?」

 

「ええ。私もそう思ったわよ。でも隊長の命令なの」

 

「何?バード隊長が……?」

 

「モールも復活したって噂だし、浮浪忍者の勢いがすごいらしくて、その要因を念のためそのまま西に行って調査してこいって言うの」

 

「ふーん……。そりゃ難儀だな」

 

「何言ってるの。あなたも行くのよ」

 

「は!?何でだよ!俺はお前とペアじゃねーんだぞ」

 

スケサーンはロード・オオタの元へすぐには戻れないように隊長が仕組んでいる事を察し、反論はしなかった。そうこうしている内にキアロッシはラックルの腹に何度も蹴りを入れていた。

 

「おら!ゴミがっ!!どうしたよ?反撃しないのか!?」

 

「ぐっ……げぇほ!」

 

隙だらけのお腹に蹴りを貰ったラックルは腕の痛みからの吐き気と腹痛により吐瀉してしまう。

 

「ああ!?きったねぇな!お前ら底辺がよぉ、何も出来ないくせにいっちょ前に盾突いてんじゃねぇっての!」

 

キアロッシはさらにラックルの顔面を蹴り上げた。

 

バキッという音と共に前歯が折れるのが分かった。薄れていく意識の下、ラックルは死に場所がここだと理解した。

 

もはやこの場を逃げ出す気力や体力はない。

本当は拠点で死んでいたはずだったのだ。

自分に良くしてくれた人たちに何も恩返しが出来ずに死ぬのは悔しいけれど、これが現実であり、今までが身分不相応だった。

 

ーールイ。そしてキンブレル。

元々奴隷として一生を終えるはずだった自分に少しの間だけでも夢を見させてくれてありがとう。俺ももうすぐそちらに行くよーー

 

「おいおいおい!もう寝るのかよぉ!命乞いとかしてみろよぉ、ああ?」

 

汚らしいキアロッシの声が少しづつ遠のいていく中で、ラックルの目には黒い影が高速で山脈から駆け下りてくる様子がうつっていた。

 




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