Kenshi -20years later-   作:さわやふみ

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130.浮浪忍者村

 ルイにとって見覚えのある掘っ立て小屋が視界に入る。木の壁には身長を測るためにつけた引っ掻き傷。カニの甲羅を利用して作った椅子まである。ルイがニールと一緒に暮らしていた思い出の詰まった小さな家だ。

 

だけど側にいる人はニールではない。

 

(……誰?)

 

背が高く髪の長い女性であることは分かる。その人は近づいてくるとルイの目線に合わせるようにしゃがみ込む。しかしその顔は霞がかっていて誰か分からないのだ。

 

「君の未来は私が守るからね。これまでのことは全て忘れて幸せに生きるんだよ」

 

その声はどことなく哀しげでなぜか聞き覚えがあるような気がした。しかし思い出そうとしても何かが遮るような感覚で邪魔をするのだ。

 

「……お姉ちゃん!」

 

必死に絞り出した言葉はまるで慣れ親しんだ人に対して向けたような内容だ。

 

お姉ちゃん?お姉ちゃんって誰だ?

 

 やがてその女性は立ち上がり背を向けると何も言わずに遠い彼方へと歩いていってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

Kenshi -20years later-

都市連合編 中

 

 

 

 

 

 

 

 

 気がつくとルイは見知らぬ部屋のベッドに寝かされていた。身動き出来ない状態で大分長い距離を誰かに担がれていた気がする。

 

 頭部に違和感を覚え触ろうとするが右手に痛みが走ると共にギブスで固定されているのが分かった。自由に動かせる左手で頭を触ると片目を覆うほど頭部が包帯でグルグル巻きになっている。

 ふと横に目をやると自分のデザートサーベルや衣服が棚に綺麗に置いてあった。

 

「痛つつ……」

 

(そうか……俺は浮浪忍者に襲撃されたんだった……でも助かったのか……?ここは……?)

 

 

 

「ん?気づいたか」

 

ボヤケた視界のまま声のするほうを向くと、そこにはサッドニールらしきシルエットのスケルトンが椅子に座ってこちらを見ているのであった。

 

「……ニール!?」

 

しかし返ってくる返答はニールとは異なる音声であった。

 

「ニール?私はバーンだ」

 

「バーン……」

 

どこかで聞いたことがある名前だが頭がボーッとして思い出せない。

 

「治療はしたが片目は戻らない」

 

言われて記憶が蘇ってくる。自分はモール処刑を回避するためにホーリーネーションの軍基地にいたが、浮浪忍者襲撃で片目を潰されたのだ。

 

「なんでホーリーネーションにスケルトンがいるんだ……?」

 

「ああ……ここは浮浪忍者村だ。君に用があってね。連れてきて貰った」

 

「あんた何なんだ?なぜ俺をここに?」

 

「その辺は後で順序立てて教える」

 

「…………」

 

 見た目はサッドニールと同じだが工場長のような坦々とした言い回しで冷たさを感じる。これまであまりスケルトンを見てきたわけではないが、サッドニールが特殊なのであって、スケルトンは皆、こういうものなのだとルイは理解し始めていた。

 

 そんな中、部屋にレヴァとピアが入ってくる。ホーリーネーションを襲撃し、ルイを負傷させ強引に拉致してきた者たちだ。3忍と称され浮浪忍者を引っ張る実力者でもあり、ルイに緊張が走る。

 

「おい!もう起きてんじゃねーか。知らせろよ!」

 

レヴァは相変わらず敵意に満ちた言動で、ルイにかかっている掛け布団をはいだ。

 

「レヴァ、ルイは怪我人だ」

 

ピアがボソリと注意するがレヴァは全く意に介していない。

 

「知るかよ。捕虜みたいなもんだろ。私はもっとひどいことされてたぜ」

 

そう言って強引にルイの手を引っ張り上げる。

 

「ちょっ……痛ててて……」

 

急に動かされたため、傷口だけでなく全身に激痛が走った。

しかしその瞬間

 

バーンがレヴァの腕をガシリと掴み、声を掛ける。

 

「ルイの片目を奪ったのはお前か?」

 

意外な言動であった。レヴァやピアもそう感じているように見える。少し間をあけたあとレヴァは答える。

 

「あ?放せよスケルトン」

 

「質問に答えろ」

 

自分の生死とは無関係の場面で強引に自分の意見を通そうとするスケルトンはかなり珍しい。レヴァもそう感じたのか言い返すように応える。

 

「あー私だが文句あるのか?ホリネ領にいけないお前に代わり連れてきてやったんだぜ」

 

「傷をつけろとは言っていない。人間なのに我々との関係性を理解していないのか?」

 

「知らねーな。分かってるのはお前が命令出来る立場ではないってことだが」

 

「パワーバランスについて言っているのだが……分からないなら教えてやろう。今度、ルイを傷つけた場合は浮浪忍者村を潰す。これで理解したか?」

 

「…………!」

 

スケルトンならではの坦々とした口調であったが、どこか重圧感と説得力のある凄みの効いた言葉であった。そう思えてしまうのはスケルトン自身が根拠もなく脅迫じみた言葉を使わないからでもある。ハッタリでもなく計算から裏づけられた最適な言葉を選択して発しているのだ。

 レヴァの表情が緊張で引き締まる。

 

「……わーかった。だがここでは好き勝手はさせないからな。私たちの指示には従ってもらう」

 

「許容出来る範囲ならばいいだろう」

 

会話の内容からバーンというスケルトンと浮浪忍者たちは提携しているものの本当の仲間ではないように見える。そしてバーンの実力は相当高いのだろう。あの三忍のピアは萎縮し、レヴァは辛うじて威勢を保っている感じだ。

 

「取り敢えずルイの処遇はモールが決める。下手に脱走でもされちゃ浮浪忍者村が特定されちまうからな。まぁ逃げられる場所でもねーけど」

 

レヴァはクイクイと指で合図をしてついてくるよう指示する。

 バーンの同行は不可のようで少し心細さを感じつつもルイは念のため自分の武器を持って建物を出た。外に出ると一面沼のような水面が広がっており、所々大きな建物が崩れかけて沼に沈み込もうとしているような廃墟都市であった。

 

「ここどこだよ……」

 

空は暗雲に覆われ、地はほとんど水面に浸っており沼のようにぐちゃぐちゃになっている。

都市連合の乾いた砂漠地帯とは打って変わって水没した都市のようだ。

 

「逃げようって思うなよぉ?お前がここを単身で抜け出しても生きて他の街へは辿り着けないからな」

 

脳裏に少しだけよぎった思惑を言い当てるようにレヴァは釘をさした。しかし逃げるにしろどっちの方角に行けばいいのかすら分からないほど見慣れない土地であった。

 

「モール。ルイを連れてきました」

 

「入れ」

 

モールの声がドアの奥から聞こえてきた。牢獄にいた頃よりかは少しだけ声に気力が戻っているような感じだ。

 レヴァに促され入室したルイは最初にモールを見て驚愕する。

 

「え……目が……」

 

明るい場所で初めて見るモールの顔は目が潰れていた。眼球に沿って2つの切り傷が綺麗に並んでいたのだ。それは戦闘中に偶然出来た傷というよりは誰かが意図して切ったような跡であった。

 狼狽しているルイの反応に対してレヴァが割り込んでケチをつける。

 

「ああ、お前の仲間は極悪非道な奴らだって知らなかったのか?それともそれは演技か?」

 

「はぁ?演技とかお前ずっと何なんだよ」

 

レヴァの言う“仲間”とはホーリーネーションのことを指しているだろう。彼らがモールの目を潰したというのだ。果たして本当に事実なのかルイには判断出来ないでいた。確かにカスケードはどことなく怪しい雰囲気は出していたが、両目を潰すなどという残忍性を持っているとは確認出来なかったのだ。そんな重たい空気の中、渦中のモールが静かに口を開く。

 

「思い出したよ……お前、ローグの娘だな?」

 

ルイの声のほうへ顔を向けている。

 

「え……は、はい……」

 

「そうか、もう二十歳近くになるのか?大きくなったようだな」

 

「父を知っているのですか……?」

 

「ああ。共に戦った仲間だ」

 

「……!そうだったのですか……。相手はホーリーネーションですか?なぜ父は……ノーファクションは彼らと戦っていたのですか?」

 

「本当に何も知らないのだな。しかし私からお前の父親のことを安易に語るべきではない。ルミはどうした?」

 

「……母ですか。母もすぐに死にました。俺はサッドニールというスケルトンに育てられたんです」

 

「そうか。物心つく前に皆いなくなってしまったのだな……」

 

このやり取りに苛立ちを隠せないでいたのかレヴァが割って入ってくる。

 

「モール、こいつはカスケードと組んでる。変な同情はしないほうがいい」

 

カスケードには何か闇があるのをルイも気づいていたが、彼が取り組んでいた戦争を回避しようとする行動は多くの命が助かることに繋がり、それだけ悲しむ人も減る。ルイはポートサウスの戦いで親しい人たちが死んでいった経験を経て、人間同士が争うことがいかに不毛であるか思い知らされていた。

 

「なぜそんなにホーリーネーションを敵視しているのですか?彼らは戦争を避けようとしていました」

 

「ああ!?都合がいい時は正義ズラすんのか?おい!」

 

ヒートアップしたレヴァは顔が紅潮し今にもルイに飛び掛かりそうになっていたが、モールが静かに口を開く。

 

「レヴァ……黙っていろ」

 

短く抑揚のない言葉であったが重みがあった。両目は潰され最早戦闘能力は失われているモールであったが浮浪忍者達にとっては絶対的な存在なのであろう。レヴァは押し黙ってしまった。

 

「この娘は何も知らないだけなのだろう。それにピアから聞いたが、娘を連れ出す見返りに彼ら(・・)から私の場所を共有してもらったのだろ?大事な客じゃないか」

 

「私は信用しないね。ノーファクションがやられた後に旧浮浪忍者村も位置バレしたんだぜ?生き残った奴らの中にスパイがいるかもしれない」

 

「あり得なくもないが……ここから外部には連絡が取れないし、もともとバーンやピアはシロ確定だ。私もブランク期間を埋めながら判断したいから暫く様子見したい」

 

「……分かったよ」

 

レヴァは大人しくモールの言うことに従うようだ。

ただモールは声が聞こえるほうに顔を向けているが、方向は定まってはいない。やはり目が見えなくなってから久しいのだろう。見えていないことに慣れていない。捕まっていた期間のブランクを埋めるようだが失明しておいて本当に復帰が出来るのか。または何かしら視力を回復出来る手段があるのか。ルイは恐る恐る尋ねてみた。

 

「すみません、モールさん。そ……それは本当にホーリーネーションの人がやったのですか……?」

 

モールはルイの方向に顔を向けた。

 

「私の……目のことを聞いているのならば、その通りだと答えておこう」

 

「そんな……治るのですか……?」

 

「無理だな。足のほうは義足で何とかなるだろうが」

 

尋ねたルイに衝撃が走った。

 

「あ、足も!?」

 

モールには布団がかかっているが、確かに良く見ると両足部分がへこんでおり、存在しないように見える。

 

「奴らは私を恐れていた。視力と移動力を奪ってその恐怖をなくしたかったのだろうさ」

 

「そこまで……」

 

「お前は暫くここを出れない。その間にもう少し各国の特徴や情勢について知っておくといいだろう」

 

「え!?ここを出れないのですか!?俺は戦争を止めなければならないんだ!すぐにでも行かなきゃ」

 

モールの脱走によりもはやカスケードとの約束を守る必要はなくなっていたが、戦争の阻止はルイにとって使命のように考えてしまっていた。

 

当然、激高して反応したのはレヴァだ。

 

「戦争を止めるだとー?都市連合が折角ホリネに攻め込んでくれそうってのに、てめぇ何考えてんだよ」

 

「だって人が沢山死ぬんだろ?それだけ悲しむ人が増えてしまうじゃないか」

 

「ホモが死んで悲しい奴なんていねぇよバカ!むしろ皆喜ぶわ!」

 

「違う、そうじゃない。誰にだって家族や親しい人がいる。お前だって仲間が死んだら悲しいはずだ」

 

「奴らは死んだ仲間の数より他人の命を奪っている!それも残虐にな!死んで当然なんだよ!」

 

「…………!でも……」

 

ルイが言葉に詰まっているとモールが静かに口を開く。

 

「やらなきゃやられるのだよ。ルイ。ホーリーネーションは女性や奴隷を搾取し、自分たちの意思にそぐわないと他者を攻撃する。他人から奪うことで自分の富を蓄えようとする者がいる限り、我々も自衛のために対抗しなければならないんだ。ここにいればいずれ分かる」

 

ルイはモールの主張に対して何も言えなかった。確かに都市連合においても奴隷にされそうになったり、税金を徴収されたり、強盗にあいかけたりと、強い立場の者から奪われる場面は多々あった。弱肉強食の世界においては弱い者は常に奪われるのだ。ホーリーネーションも結局、綺麗事を並べていたが、やっていることは同じだったようだ。

 

 これまで周りの言う事を素直に聞いてきたが、もはや何が正しくて何が間違っているのかさえ分からなくなってくる。世界を知りたくて旅を始めたものの、知れば知るほど不毛な世界に嫌気がさしてくる。

 

 漠然としていたが、テックハンターとして革新的なテクノロジーを見つけて、アウロラが目指していた食糧が行き渡る世界を実現すれば、争いのない平和な世界を簡単に実現できると思っていたが、争いの要因が他にある場合、結局戦争をこの世からなくすことは出来ない。

 ルイは自分が目指していた先が、実は無意味な幻想なのではないかと不安感を抱き始めていた。

 




取り敢えず開始!
話を覚えている方いるのだろうかw
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