Kenshi -20years later-   作:さわやふみ

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131.修行

 居室を出るとバーンが待っており、それに気づいたレヴァが声をかける。

 

「当分ここにいるんだ。ノーファクションのあんたが案内してやれや」

 

「分かった。ルイ、ついてこい」

 

バーンもそのつもりだったようで、すんなりとレヴァの提案を受け入れ歩き出した。ルイは慌ててついていきながら喋りかける。

 

「ねぇ、なんで俺をここに連れてきたんだ?」

 

「“俺”ではない。”私”だ」

 

「ん?何?」

 

「君はそろそろ一人称を“私”にすべきだ。大人の女性になるのだし」

 

「え!?」

 

ルイは絶句した。外見もさることながらサッドニールと同じようなことを言うスケルトンがここにもいたのだ。

 

「そ、そんなことどうでもいいだろ!俺がここに連れてこられた理由を言えよ!」

 

「…………」

 

バーンは応えることなく歩み続ける。スケルトンは自分の不利益にならない限り、情報を隠すようなことをあまりしないが、到底、連れてきた理由が不利益になるとは思えない。まさかと思ったルイは試しに口調を変えて聞いてみる。

 

「わ、()を連れてきた理由は!?」

 

「今は教えられない」

 

「……!”私”って言わせただけかよ!!」

 

突っ込んで見たもののそれ以降バーンからの反応はない。タイミング的に2度目で答えたのか、“私”と言わせたかっただけなのかあやふやではあるが、もしも後者である場合、サッドニール以上に人間らしくメンドクサイ。

 

「君のしばらくの居住地はこの塔だ」

 

考え事をしている間に声をかけられ見上げると、倒れかけた3階建てぐらいの塔が目の前を覆っていた。しかしよく見ると斜めに倒れかかっており水没したドアが辛うじて顔を出している有り様だ。

 

「なにここ……」

 

「3階を使うといい。人間の食糧は2階に溜め込んである。トイレは」

「いやいやいや!なんで俺がこんな辛気臭いとこに住まないといけないんだって!一体ここはどこなんだ?」

 

「大陸北部にあるフラットランド地方だ」

 

新浮浪忍者村があることからもホーリーネーション領から北上した地域なのだろう。大陸の南東から旅を始め、意図せず北西まで横断してしまったわけだ。

 この地方は暗雲に覆われており太古の都市を流用しているのか降り注ぐ雨で朽ちた建物が点在して身を隠すには適していそうであった。

 

(南下すればホーリーネーションに戻れるってことだな)

 

ルイは安易だがここを脱出して国まで戻ろうと考えていた。牢屋にいれるわけでもなく見張りをつけるわけでもないならば1人になった際に見計らって逃げれると考えていた。

それを察知してかバーンが説明を続ける。

 

「言っておくが1人で外を出歩かないほうがいいぞ」

 

「な、なんでだよ……?」

 

「ここは破損して攻撃的なアイアンスパイダーやスケルトンがうろついている。恐らく古代都市の衛兵だったのだろう」

 

「……!」

 

アイアンスパイダーは禁忌の島で知っていた。走って逃げればまくことが出来る気もするが、相手がスケルトンの場合、体力的にいつか追いつかれてしまう可能性や遭難してしまうことが考えられた。

 

「安心しろ。私が一階にいてしばらく君を守る」

 

このスケルトンの力量的にはいかなる敵が来ようとも大抵は撃退可能なのだろう。しかし、解せないのはなぜルイを守るのかだ。

 

「なんで俺を……あんた一体俺の何なんだ?」

 

三耆宿(さんきしゅく)だ」

 

「……は?」

 

全く意味の分からないワードが出てきてルイはさらに困惑するが、バーンは意に介さず話を続ける。

 

「聞いていなかったのか。まぁいい。これも君が今知る必要はない」

 

「ざけんなー!さっきから肝心な所を全く教えてくれないじゃんか!」

 

「…………」

 

「な、なんだよ?」

 

急にジッと押し黙ってこちらを見るバーンにルイは狼狽した。

 

「いや、君は片目を失ったのになぜ気丈に振る舞えるのだ?失意の気持ちが見えない」

 

指摘されたルイの頭の中には真っ先にハウラーメイズの英雄アウロラの姿が思い浮かぶ。隻眼ながら華麗に舞う彼女の勇姿はいついかなる時でも心を奮い立たせるのだ。

 

「……同じ目線になれたからかもな」

 

声に出すことで自分の中でも腑に落ちていく。彼女のようになりたい。もちろん外見ではなく彼女のような何かを成し遂げられる人物にではあるが、敬愛する者に見てくれであっても近づけるのは悪い気がしなかった。

 およそ理解出来ていないであろうバーンを尻目にルイは雲間に透けて僅かに見える陽の位置を確認する。お腹のすき具合から時間帯を推測し、南の方角を割り出そうとしたのだ。

 

「ふむ。逃げるつもりか。行かせないよ」

 

「……!ふーん、あんたは見張りも兼ねているわけか」

 

「いや護衛のつもりだが、君は弱すぎるな。私はいつまでも一緒にいられるわけでもない。傷が癒えたら少し鍛えてやろう」

 

「ええ……あんたが?」

 

ルイは一刻も早くチャドと合流したかったが、回復しないまま知らない土地を歩くのもリスクが高すぎた。また出没する敵が聞いた通りである場合、単独では命を落とす可能性もあるため、今は大人しく従うことに決めた。言動から、このバーンというスケルトンは相当強い。スケルトンにも関わらず人間のような繊細で流麗な動きをし、かつ無駄がないのだ。強者から教わることはルイにとっても望む所であった。

 こうしてバーンとの奇妙な共同生活が始まった。サッドニールと長年暮らしていたルイにとってスケルトンとの生活は全く苦ではなかった。むしろ不味かったが人間の食糧を勝手に持ってきてくれるので猟に出る必要もないため、安静にして傷を癒やすことに集中できた。

 そんな日々が続く中、ルイは聞けることは聞いておこうとバーンに浮浪忍者とホーリーネーションについて尋ねた。差し支えない情報でればバーンは聞かれたことをペラペラと喋ってくれた。そしてホーリーネーションの闇と浮浪忍者結成の経緯を聞いてルイは驚愕することになる。バーンから聞いた事はほぼモールやレヴァが言っていた通りだったのだ。

 リバース鉱山という悪名高い場所でオクランの巨像という全く意味のない物を建造するために、これまで数多くの女性や奴隷をこき使い、食事は少なく質素で、栄養失調で死ぬまで働かされているのだ。脱走者にはより厳しい罰も与えられるようであった。カスケードから受けた待遇とはかけ離れた凄惨な内容だったのである。

 

「なんでここでは女性がそんな扱いを受けているんだ?」

 

「彼らの教義によると女は邪悪な落とし子とある。男を誘惑する悪が女の体に巣くっているらしい。またスケルトンは最悪の存在として領内にいたら問答無用で攻撃される。そのため私が君を助けに行けなかった」

 

「ふーん。じゃああんたはここで浮浪忍者と共闘してるってわけ?」

 

「ああ。ノーファクション時代からの同盟関係を保っている」

 

「へー……って、ノーファクション!?あ、あんたノーファクションの元メンバーなの?」

 

「それも聞いてなかったのか」

 

「あんたの事なんて誰に聞くんだよ!」

 

「サッドニールの事を言っていたのだが、確かに彼は聞かれたことしか答えないか」

 

「ニールと仲良いの?もしかして今も連絡取り合ってたりする?まさか、デッドランドにいる強い知り合いってあんたの事じゃないよな!?」

 

サッドニールの名前が出た途端、ルイは猛烈にバーンに問い質した。まさかこのような場所にノーファクションの生き残りが隠れているとは思いもよらなかった。同時になぜルイを連れてきたのか疑問が強くなる。

 

「サッドニールがいま何をしているのかは仲間(・・)から稀に共有される。デッドランドにいる知人とは恐らくアグヌの事だろう」

 

“アグヌ”という人物も知らないし“仲間”とは誰を指すのか不明だが元ノーファクションの連絡網がまだあるということなのだろうか。それならばウィンワン、ヘッドショット、チャドらと連絡をとっていてもおかしくないと思えたが、そんな話はこれまで上がったことはなかった。毛皮商の通り道に出来たグリフィンのノーファクションとも立場的にまた異なる関係性にも見える。

 

「仲間って誰?」

 

「今は答えられない」

 

やはり教えてくれない。ノーファクションに関係していそうな事を秘密にしているのか分からないため、ルイは試しに別の質問してみる。

 

「ノーファクションに入る前は何をしていたの?」

 

「テックハンターをしていた。AIが不調になり引退したが」

 

「ええ!?あんたまさか……」

 

テックハンターと聞いてルイは思い出した。以前にトゥーラから見せてもらった十傑の中にバーンの名があったことを。活動期間が長いスケルトンが上位を占めているとしても、その中で群を抜いた成績で上位に君臨していた気がする。

 テックハンターの実力者と分かると多くの遺跡や廃墟を周っているだろう。自然とルイが見る目も変わる。

 

「俺に……いや、私に他の地域のことやこの世界の事を教えてくれ!」

 

「ほう、急に従順になったな。いいだろう。無知は得てして周りの者を不幸にする。知もここで蓄えておいて損はない」

 

バーンはサッドニールとは違い、聞いていない事もどんどん話してきた。特に世界情勢を含めた近代の歴史についてはなぜか細かく話し、3大大国として都市連合やホーリーネーション、シェク王国の情勢を丁寧に説明されたが、ルイはその時、頭がパンクしていたぐらいであった。

 テックハンターとなって世界を駆け回る夢を持っていたルイにとって少し残念だったのは世界の遺跡は7割ほど行き尽くされているとの事であった。未開の地で失われた科学技術を発見し、奴隷制に頼らない食糧供給体制を確立したいとささやかに希望を抱いていたが、未だにそのような技術が出回っていないところを見ると、存在しないのかもしれなかった。また、スケルトンの記憶域の保存年月は約500年分のようで、それより昔の事はバーンも覚えておらず、過去にこの世界で何が起きたのかは謎に包まれたままであるようであった。

 

 そしてルイの傷が治ってくると剣術の稽古も開始した。スケルトンにも関わらず、技術だけでなく人間の心理をもとにした駆け引きについても習得しているようで、みっちりと教え込まれる日々が続いた。

 そんなある日、浮浪忍者のピアが突然訪問してくる。

 

「傷は……治ったのか」

 

相変わらず無表情で口数も少ないため何を考えているのか分からない。レヴァと比べて敵意はあまり感じられないが、それでもルイをさらいに来た1人でもあったため、自然と警戒を強める。

 

「何の用だ?」

 

「モールがお前を呼んでいる。来い」

 

要件が分からないが断る理由もなくルイは大人しく従うことにした。モールの居室前にはレヴァが立っており、やはりルイを敵視しているようで鋭い目つきで睨んでいる。

 

「妙な真似はするなよ」

 

まるでルイを刺客として疑っているようだ。

だったらここに連れて来なければいいのに、と思いつつルイは部屋に入った。

 

「ああ、来たか。バーンから剣術を教わっているそうだな」

 

「……はい」

 

ルイは多くを語らなかった。バーンから聞いた浮浪忍者の歴史は同情する部分が多かったが、今更馴れ合いたくもなかったし、レヴァの前でそれを話したところで、感情的に煽られるだけだと思ったからだ。

 

そんな矢先。モールはとんでもない提案をする。

 

「私も剣術を教えてやる」

 

「……え!?」

 

始めてレヴァと声が合うほど一緒に驚いて声を上げてしまった。モールの剣術。即ち無想剣舞を教えてくれると言うのだ。その場にいる全員が驚愕するのも無理はなかった。

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