Kenshi -20years later-   作:さわやふみ

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132.無想剣舞

「おい、モール!どういうことだよ!?こいつはホーリーネーションの手先なんだぜ!?」

 

レヴァが顔面蒼白になって問いかけるが、モールは構わずに続ける。

 

「条件がある。無想剣舞を修得した後、カニバルを撃退し、元の領地を取り戻すことに協力しろ」

 

現在の浮浪忍者はホーリーネーションに追われた後、人が住めないような場所に隠れて生活せざるを得ず、食料の確保に苦労しているようであった。反面、元の浮浪忍者村は僻地ではあるが森林の中にあり今よりは大分マシであったのだ。しかし、その地域に戻ろうにも問題があった。ホーリーネーションが遠征してくることはほぼなくなっていたが、北方にいるカニバルという食人部族が南下してきていたのである。文字通り人を捕まえて食べる慣習がある彼らは対話すらままならない蛮族であった。知性は低いので統制は取れておらず装備も鉄くずに近いため戦闘能力は高くはなかったがカニバルの恐ろしさはその数にあった。国家が持つ非戦闘員という概念がないため全員が武器を持ち、旅行者などの外部の人を見かけたら多勢で襲いかかってくるのだ。過去は手練れの浮浪忍者副司令官であるマニという者が流入を防いでいたが、浮浪忍者村壊滅後は撤退し合流していた。

 モールも現在の浮浪忍者の状況を聞いたらしく浮浪忍者復活が急務と考えたのだろう。

 

ただ、いくつか疑問がある。

 

「な……なんで私に教えてくれることにしたのですか?」

 

モールからはさほど敵意は感じられないが、敢えてルイに教える義理もなく、ピアやレヴァに教え込んでもいいはずだ。それに目が見えない中でどうやって教えるつもりなのかも分からなかった。

 

「ローグに約束させられたのを思い出したのさ。お前が女の子だったら無想剣舞を教えるってね」

 

「え……父が……?」

 

意外な人物の名前が出てきてルイは心を打たれた。

無想剣舞は女性等の非力な者に向いている。父親ローグは自分の事を産まれる前から気にかけてくれていたのだ。

 しかし、このやり取りをレヴァは歯の音が聞こえてくるほど食いしばって見ていた。浮浪忍者の当主モールから教えを乞う事は崇拝する者たちにとっては大変名誉なことであり、浮浪忍者村移転のドタバタもあり3忍ですらまだ経験していない。彼女らを差し置いてルイが直々に教えてもらうことは嫉妬と僻みの対象としては充分であった。

 

「バーンとの修行は一旦切り上げろ。すぐに私が見てやる」

 

「え、いやぁ……やっぱ自分はまだ早いんじゃ……それにモールさん目が見えないのでは……?」

 

レヴァの刺すような視線を感じ、ルイは丁重に断る理由を探していた。

 

「見えなくても音や気配で分かるし、無想剣舞は書物がないから口頭で知識も教えたい。明日からここに通え。わかったな」

 

半ば強引にモールが約束をしてしまい、ルイは断るタイミングを逸してしまった。

 その後、バーンも快諾したことで思わぬ形でモールとの修行が開始された。モールは新しくつけた義足の感触を確かめつつルイを見ることにしたようで、最初はルイがこれまでの成果を披露する形となり、モールの前で剣舞を舞ってみる。

 

(見えないのに本当に分かるのかな?)

 

モールの言葉を半信半疑で聞いていたルイは取り敢えず適当に動いてみた。

 

「おい……。貴様、本当にアウロラに教わったのか?」

 

「え……!?いや、はい……」

 

「風を切る音が全然なってないぞ。それで序式(・・)なのか?」

 

「じょしき?」

 

「ん!?アウロラからどこまで教えてもらったんだ?」

 

「えっと……基礎だけかもしれません。アウロラさん忙しかったから、後は真似てやってみろと……」

 

「はぁ……アイツはセンスゴリ押しの感覚派だったからなぁ……。まぁいい。今回はきちんと順序立ててやっていくぞ」

 

「は、はい!」

 

モールは理論派であった。さすが無想剣舞を創り上げた張本人だけあって体系立てた型を用意しており、モールはそれを舞のリズムになぞって序・破・急の段階にして整理していた。

 

 序式は舞の始まりの型を意味し、自分の呼吸を整えつつ相手の動きを探るためにゆっくりと動く。

破式はその静けさを破り、攻撃を仕掛けるか相手に合わせてカウンターを狙う。急式は自らのテンションを最大限まで上げて、体力を意識しながら速度を上げた自分本意な攻撃を繰り出し、戦闘を締めくくる。

 最初から気負って無駄に動いても疲れるだけだし、相手はおろか自分のリズムも掴めない。演舞を踊るように徐々にギアを上げてフィナーレに持って行く。それが無想剣舞の真髄であった。

 考えてみればアウロラもそのように動いていた。自分は感覚だけで急激に動き、相手の動きを何となく把握した後は半ば強引にケリをつけていた気がする。

 それをやるだけでも相当なセンスが必要だとはモールから褒められたものの、やはり教わった通り型にはめて実践すると自分や相手の呼吸がより鮮明に掴めてくるのだ。

 基本を教わった後はルイはひたすらモールの前で舞い続けた。モールも目が見えないながらも剣が風を斬る音やルイの足取りの音が軽やかになっているか耳を澄まして聞いていた。

 

 

 

 

 

そうして約一ヶ月が過ぎていった頃。

 

「君もここに来て大分強くなったようだな。その眼帯もサマになってきている」

 

バーンはルイをマジマジと見て呟いた。

 

「へへ。憧れてた人と同じ眼帯なんだ。忍者刀もサブウェポンとして結構しっくり来るぜ。あれ、どっか行くのか?」

 

ルイが振り返ると、バーンはフラグメントサークルを背負っていた。

 

「ああ。しばらく私はここを出る」

 

「どこに行くんだよ?」

 

「バストへ向かう。君はここで浮浪忍者の再興を手伝っていなさい。モールと約束したのだろう?」

 

「いや、そうだけどさ……。私もいったん外へ出たいんだけど。チャドさんやトゥーラに連絡しないと皆探しているかもしれないんだよ」

 

「チャドにはお前が無事であることを私から伝えておこう」

 

バーンはチャドと繋がりがあることをサラリと述べた。

 

「え!連絡つくのか?じゃあ手紙を書くよ」

 

「いや、だめだ。お前がここにいることをまだ外部には出せない」

 

「……はぁ。またそれか。私はもう1人でここから出ていけるレベルになった。モールに借りを返したらすぐに出ていくからな」

 

「分かった。だが必ず私に一言知らせてからにしろ。いいな?」

 

「いいよ。いつ頃戻るの?」

 

「半年はかかるかもしれない」

 

「長いな!まぁ……いいか。こっちもそれぐらいかかりそうだし」

 

「うむ。では、行ってくる。くれぐれも無茶をしないようにな」

 

「それ、ちょっとニールに似てるぜ。あんたも気をつけろよ」

 

バーンは振り返ることもなく去っていった。朝靄がまだ晴れず視界が悪い塔の屋上でルイは思いっきり背伸びをした。

 

「んー……さて、私も無想剣舞の練習すっか……な?」

 

何気なく見下ろした視線の先に人影が見える。

 

「あれは……。おーい、そのまま登ってきていいすよー」

 

声に気づいた人影は上を見上げると、そのまま塔の中に入っていった。ルイもあわせて階段を降りていく。

 

「何のよう?ピア」

 

「ルイ……任務だ。お前をモールから推薦された」

 

「お、ついにか。内容は?」

 

「副司令のマニから説明される。恐らく故郷奪還だ……」

 

「そか。最初っから重要な任務だな」

 

ピアもルイのことをジッと見ている。

 

「お前は大分強くなったと聞いている。後は実戦を積めば正式に無想剣舞の免許皆伝らしいな……」

 

「え?そうなの?」

 

これを聞いてピアはバツが悪そうに顔を伏せてしまった。

 

「はは!私には言わないでいたんだな。分かった」

 

「すまん」

 

「そういえば1つ聞いていいか?」

 

「……なんだ?」

 

「グリフィン、覚えてる?同じチームだったらしいんだけど。司祭になったことやっぱ恨んでるの?」

 

グリフィンの話に出てきた元チームメイトのピア。グリフィンとはホーリーネーションと浮浪忍者と組織の違いで袂を別れた形になり、ピアがグリフィンを襲撃するほど話を聞いてくれないと言っていた。そのことが真実なのか聞いてみたかったのだ。

 

「グリフィン……。ああ……、一度だけ襲撃依頼があったが。別に……恨んでなどいない。彼には彼のやり方があるのだろう」

 

グリフィンの言いっぷりとは別にピアは冷静であった。もしかすると組織が異なることによる行き違いがあったのかもしれないとルイは思った。

 

 

 

 そのままピアに連れられルイは別の拠点に移動した。そこにはレヴァともう一人、ひときわオーラを放つ忍者のような格好をした女性がいる。レヴァはルイに気づくと舌打ちをした。

 

「何でこいつを連れて行かなきゃいけないんだよ。ピア」

 

「モールの言いつけだ。それにナイフ不在の穴も埋めたい」

 

「モールも何でこんな奴に……裏切ったらどうすんだ。まぁその時は私が殺すけど」

 

ルイは旅を始めてから2年が経過し、修行の甲斐もあって大分成長していたが、いまだに勝ち気の性格は変わっておらず、レヴァの嫌味にはムカついていた。

 

「さっきから言いたいこと言ってるけどちゃんとモールには借りを返すぜ。それにあんたにはもうやられないからな」

 

初めて言い返されたレヴァの顔は見る見ると引きつっていく。

 

「あ?もう一回半殺しにしてやろうか?」

 

「お前の憎しみは深いんだろうけどさ、いつもそうやって威圧して関係ない者まで敵にしててもしょうがないだろ。一体何にそんなに怯えてんだ」

 

レヴァの顔は瞬時に紅潮し、そのまま忍者刀をルイに向かって振りかざした。そして金属のぶつかる音と共にルイの忍者刀と交錯する。

 

「……あんた目を狙ったな?両目を失明させるつもりだったのか?」

 

ルイは動じることなく落ち着いて受けていた。

 

「だったら何だ?両足も斬ってやるか?」

 

「はっ……。お前も充分、悪に染まってんだよ。そんなに憎しみ続けてると戻れなくなるんじゃないか?」

 

「……てめぇ!」

 

レヴァがさらに踏み込んで臨戦態勢になろうとした時であった。横にいたマニが忍者刀でレヴァとルイの忍者刀を弾き上げた。

 

「それまでだ」

 

「副司令……!」

 

浮浪忍者副司令マニ

 

彼女は元カニバルハンターだったようで浮浪忍者の副司令となってからも長年北から来襲するカニバルと戦い続けてきた猛者だ。面構えも激戦を戦い抜いてきた様相である。

 

「お前たちの腕前は大体分かった。いま浮浪忍者の大半はバーンと共に遠征に行っており、ここに残っている者はほとんどいないが、何とかなりそうだな」

 

「え!?バーンと?何で?」

 

ついルイが反応してしまい、マニが言葉を止める。

 

「バーンにはバスト地方の戦争を支援に行って貰った」

 

「戦争?もしかして都市連合とホーリーネーションが戦うのか?」

 

「それ以外に何がある。続けるぞ。我々は都市連合がバストを攻めている間に元浮浪忍者村を奪還する」

 

結局、戦争が始まることに無常感を持ちつつもルイは興味本位に質問する。

 

「奪還って誰から?」

 

「カニバルだ。我々4人でカニバルに占拠された元浮浪忍者村を攻撃する」

 

ルイにとって修行の成果を披露するときが唐突に訪れたのであった。

 

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