Kenshi -20years later-   作:さわやふみ

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◆現在の仲間
ルイ、バーン


134.争いの種

「こいつがカンヘッドだったのか?割と強かったな」

 

ルイは地に伏しているカニバルを見て呟いた。

 

「ブリキ缶かぶってリーダーぶってたから間違いない。まぁその程度の奴なんぞ倒せて当たり前だが」

 

横のいるシェク人のカンは斬馬刀をしまいながら嫌味を言うがそれをルイはジト目で見ながら応える。

 

「口は悪いけどあんた強いな」

 

「俺の実力はその辺にいるちょっと強いのとは一線を画しているからな」

 

「はいはいそーですか。だったら、このまま奴らの指導者『肉の王』って奴も倒しに行くか?2人ならやれそうな気がするけど」

 

「お前は阿呆か。本拠地には大量のカニバルがいるはずだ。たった2人でやれるはずないだろ。少しは考えろ。万が一負けた場合には食われるんだぞ」

 

「むむ……。強い割に慎重なんだね」

 

「お前が能天気なだけだ。それぐらい考えて行動しろ。後から悔いても遅いのだぞ」

 

「……う」

 

「しばらくここで浮浪忍者の後続を待とう。戦うのはいいが、こう連戦させられては疲れる。あいつらにもきちんと働いてもらうぞ」

 

モールが戻り勢いを取り戻した浮浪忍者はホーリーネーションの矛先が向いていないこともあって、主力を使って各地でカニバルを撃退していた。ルイとカンの二人組も浮浪忍者の先駆けとなってカニバルを倒し、元の土地どころかカニバルの領土深くまで侵攻していた。カンはノーファクションにおいてシェク4人衆の筆頭となるほどの実力の持ち主のようで、迫りくるカニバル達をほぼ単体で蹴散らしていた。ルイもそれに劣らぬ戦いを見せてはいたが、カンの鬼神ぶりに圧倒されていた。

 

「このまま浮浪忍者はカニバルを根絶やしにするつもりなのかな?もう随分と彼らの地域に攻め入っているけど」

 

「どうだろうな。少なくとも肉の王とカニバル大呪術師は殺るだろう」

 

カニバルは知能が低い部族のため単純な腕力と呪術まがいの力で支配が行われていた。肉の王と呼ばれている怪力のカニバルと大呪術師と呼ばれる2トップが存在することが確認されていたため、これらを抹殺することでカニバルの瓦解を狙っていた。

 

「こちらが安全になるまでやるってことだよね」

 

「まぁそうだが、どうした?何を気にしている」

 

「……いや、これってもうあいつらから見たら俺らのほうが侵略者だなと思ってさ。あいつらも人を食べるのやめさえすれば争わずに済むんだけど」

 

「阿呆。ドライミートを食べるなと言われて、お前は食べなくなるのか?」

 

「むむ……そうだけど……。なんかあんたガルベスより性格があれだな……」

 

ルイは同じシェク人のガルベスをカンと重ね合わせていた。

 

「まぁカニバルなんて殲滅してしまえばいいだけじゃないか。難しく考える必要はないだろ」

 

「いや、それだとさ……」

 

「おい、お前まるでローグみたいだぞ」

 

カンは少し苛立って遮るように呟いた。

 

「え、私の父親?」

 

「ああ。赤の他人のことまで考える癖がな。早死にするぞ。ああ、あとルミの意味不明なところも混じってて余計にうざい」

 

「はぁ?意味不明って何だよ。そういや私の両親ってどういう人だったんだ?誰もあんまり教えてくれなくてさ」

 

「俺に聞くな。面倒くさい。サッドニールから教えてもらってないのか?」

 

「あー……昔は私のほうが聞くの拒否ってたからなー。つーか、ニールと住んでたことなんで知ってんだ?」

 

「……ああ、誰かから聞いた」

 

「ノーファクション内にニールと連絡とってた人がいたのか?そういやあんたら解散後に何やってたんだ?」

 

カンは腰掛けて装備品をチェックしながらこれまためんどくさそうにユックリと喋りだす。

 

「俺はもともとチャドの遠征隊に所属していたのだが……。奴は引退して引きこもってしまったから、レッド達と気ままな旅をしていた」

 

「ふーん。浮浪忍者を手助けしたのも気ままだったんだ?バーンが何かやってそうなんだけど事情知ってるんじゃないの?俺もここに連れてこられて意味が分かんなくてさ」

 

「知らんな。俺はレッドのやる事について行っているだけで、今興味があるのは都市連合とホリネの戦争だな。どちらも嫌いだから静観しているが、世界情勢を左右するから結果は気にしている。チャドが率いている件にも関心があるしな」

 

急に出てきた名前にルイは飛びつく。

 

「チャド?どういうことだ?あの人が何を率いているって?」

 

「知らんのか。都市連合の将軍になってホリネに攻め込むらしい」

 

面食らった表情でカンが応えるが、ルイのほうは神妙な面持ちだ。

 

「あり得ないでしょ。チャドさんは前に断ってた」

 

「だが将軍になったのは事実だ。心変わりしたのかもな。大隊を従えてみたい気持ちは男に一度は芽生える夢だからな」

 

「一体どうなってんだ……。拠点には戻ったのかな……」

 

知らないところで何かが動いている。ルイは自分がいなくなった後のチャドらしくない動きに違和感を覚えた。そして拠点メンバーの動向が気になり早々にでもここを離れる必要があると感じた。

 

「なぁ、カンはバストの戦いを見に行かないのか?」

 

「リアタイで見たいほどではない。後でレッドから戦果を聞ければいい」

 

「チャドさんがやられちゃったらどうすんだよ?」

 

「あ?知るか。戦死も自らの行動に伴う結果だ。俺が助ける義理はない」

 

カンにとってチャドの生死は眼中になく助けに行く気は微塵もないようだ。

 

「……次にあんたらの仲間がこっち来るのはいつ?」

 

「レッド達のことか?戦争が終わった頃じゃないか?」

 

「ちっ、それじゃあ意味ない。私もモールに言ってバストに行く。もう浮浪忍者は充分復興したしな」

 

「相変わらず学ばないな。現地で戦争に関与するつもりか?大国同士の戦場のど真ん中に単身で行って生き残れるわけなかろう。それにお前場所を知らないだろ?」

 

「ここから東に向かえばいい!」

 

「それでホーリーネーション陣営を横切ってチャドのとこまで行くのか?女の密偵と思われて殺されるのがオチだな」

 

「とにかく!モールさんに相談する!」

 

ルイは一旦、新浮浪忍者村まで戻ることにした。奪還した旧浮浪忍者村は以前にホーリーネーションに位置がバレており、まだ防衛体制が整っていなかったため、モール含む非戦闘員はまだ奪還した浮浪忍村に引っ越ししていなかったのである。

 

 

 

 

 

 そして時間をかけて新浮浪忍者村に着いたルイであったが、返ってきたモールの第一声はルイの予想に反していた。

 

「答えはNOだ」

 

「な、何でですか!?もう浮浪忍者は大分復興しましたよ?」

 

義足での生活が疲れるのだろうか、目隠しをしたモールはベッドの上にいた。助け出された頃よりは幾分体つきは整ってきていたが、どことなく元気がない。会話も億劫のようで振り絞るようにかすれた声で喋りだす。

 

「理由はいくつかある。まずお前はまだ無想剣舞を習得していない」

 

「え?型は全てマスターしたじゃないですか」

 

「ああ。だがまだ型以外でお前に教えていない事がある」

 

「…………?」

 

「それに単身で戦場を横切るなど愚かな行為だ」

 

カンが『だろ』と言わんばかりの顔をしている横でモールは続ける。

 

「お前はまだ猪武者なところが治っていない。まずは信頼出来るしっかりした仲間を増やせ」

 

真っ先にトゥーラの顔が思い浮かんだルイは反論しようとした。

 

「だからその仲間たちを……」

「バーンが戻るのを待て。私もそれまでにお前に全てを教え込む。それまでは浮浪忍者を脱退することは許さん」

 

気迫あるモールの一声にルイはこれ以上何も言えなくなった。そして日も暮れてきたため、その日の夜は久しぶりにバーンが最初に用意してくれた塔で一夜を過ごすことにした。悶々とした気持ちで部屋の中をいったり来たり横断しているとそこにピアが訪れる。

 

「少し話せるか?」

 

「ああ。あんたもこっちに戻ってたのか。こんな夜更けにどうしたの?」

 

「お前と話せる機会があるうちに聞いておきたくてな」

 

「何だよ?」

 

「お前が目指しているものは何だ?」

 

口数の少ないピアから出た突拍子もない質問にルイは一瞬固まってしまった。

 

「ど、どゆこと?」

 

「お前はホーリーネーションと都市連合の戦争を止めようとしているが、それはなぜだ?」

 

「え、いや、争いは無意味だし……。人が死ねば影で悲しむことになる人たちがたくさん出るじゃん」

 

「お前は戦争を体験したことがあるのか?」

 

「うん。前にポートサウスで戦ったことはある。そこで何人か仲間が死んだんだ」

 

「ポートサウスに攻めこんだのか?」

 

「え?ああ……そうだな。でも捕らえられた仲間を救い出すためだ」

 

「批難しているわけではないが、理由はどうあれ攻め込んだのは事実だ。それ以外の選択肢を十分模索した後だったのだろうけどな」

 

そう言われてルイはギクリとした。ポートサウスの際、キンブレルから和解を申し入れられていたことを思い出したからだ。しかしあの時は謝意を見せず手前勝手な理由をつけるキンブレルを到底許す気にはなれなかった。それにルイもトゥーラを助け出すことで頭の中が一杯だった。

 ただ、一つ言える事として、あの戦いはルイにとって無意味ではなかった。戦わなければ奪われ続ける。奪われないために自ら戦いを仕掛けたのだ。

そして先ほど自ら発言した“争いは無意味”という言葉と自分の行動がズレていたことに否応がなく気が付かされる。

 

「そうか……あの時、私は確かに戦いの場に足を踏み入れていった……」

 

「生き物は他者を搾取して存続するよう設計されている。さらに人は他の生物より知恵があることで、食糧だけでなく、富や幸福感、さらには優越感をも欲してしまい、余計な火種を元から抱えている」

 

「なるほど、確かに……。最初は単純に食べ物に困らないようにすればいいと思ってたけど、お互いの言い分が、なんかこう……がんじがらめになっているっていうか……」

 

「そうだ。元が些細なきっかけであっても憎しみ等の感情が連鎖して複雑化している。争い続けるのが人類の宿命であり定めなのだと結論づけた学者もいるほどだ。しかし私はそうは思わない。知恵がある人間だからこそ弱者をいたわり、救うことが出来るのだ」

 

ピアの声にはどことなく力がこもっている気がした。

 

「もしかして……ピアは争いをなくそうとしていたのか?」

 

「私ではない。ローグだ」

 

「え!?」

 

ピアは突然、ルイの父親の名前を出すと、そのまま身の上話を告白し出す。

 

「私は小さい頃、浮浪忍者の戦士だった姉をホーリーネーションに殺された。姉は唯一尊敬し信頼できる人だった」

 

「そ、そうだったのか……」

 

「それまで私も戦士として戦っていたが生きる目標を失ってしまってな。たまたま村に来ていたローグについていくことにしたんだ」

 

「そっか……。あれ?でもなんでグリフィンチームにいたんだ?あそこだとホーリーネーションと外交担当やることに……」

 

「ああ、ローグと相談し敢えて配属した」

 

「え」

 

「私は元々姉に付き添っていただけで憎しみが薄かったから、戦いにも消極的だったんだ。なぜ我々は殺し合うのか。この目でホーリーネーションを見て判断したかった」

 

「そ、それで……?」

 

「審問官やパラディンだけでなく暮らしている市民や農民も見てきた」

 

ルイはピアの独白とも言える言葉に無言で聞き入った。

 

「農民、酒場のマスター、そして歩哨。末端にいる者たち。色々な者たちと会話をした」

 

ピアは一瞬悲しげな表情をして話を続けた。

 

「彼らは普通の人間だった。もちろん女を見下してくる者もいたが食糧を恵んでくれる良い人もいた。とにかく害のない普通の人たちだったんだ」

 

「…………」

 

「私はこういう者たちまで浮浪忍者として殺してきてしまったのかもしれない。必要以上に他者を虐げ命を奪う者は、等しく悪であり殺戮者だ。上級審問官セトやヴァルテナはこの類であることに疑いないが、私はそうはなりたくなかったんだ」

 

「それでノーファクションに……」

 

「ホーリーネーションに残る”女を虐げる教義”やスケルトンへの憎しみはどこから始まったのか。争うきっかけは何だったのか、それを辿るのはもはや不可能に近いが、せめて今も続いている憎しみ合いの呪縛を紐解くことが出来ないか、ローグは全力で挑んだのだ。そして志半ばで倒れた……」

 

「そう……だったのか……」

 

ルイは過去に父親がしていたことを知り、内心嬉しさを感じていた。いま自分がしようとしていることは間違っていないと、父親が背中を押してくれた気がしたからだ。

 

「もしも、お前が……」

 

「え?」

 

ピアは何かを言いかけて口をつぐんだ。

 

「いや……夜遅くまで邪魔したな。何時ぞやは乱暴なことをしてすまなかった……」

 

金色の髪をなびかせて彼女はそのまま闇夜に消えていった。ルイは何を返したらいいか分からずしばらく放心していた。

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