Kenshi -20years later- 作:さわやふみ
ルイ、バーン
月日は流れ、浮浪忍者は順調にその勢力を拡大していた。カニバルの肉の王、大呪術師も討ち取り最早その勢いは止まるところはない状況であった。
そんな矢先にバーンが帰還した報せを受ける。ルイはちょうどモールの下で無想剣舞の最終形態を習得したところであり、我先に出迎える形となった。
「バーン!遅いよ!長い間、どこに行ってたんだよ!」
バーンが帰ってこないことには動き出せなかったルイはこの時を首を長くして待っていたのだ。
「バストに行くと言ったはずだが。無想剣舞はマスター出来たのか?」
「ああ。とっくにな!浮浪忍者も復興したし私は出ていくからな」
「“俺”ではない。“私”だ」
「私って言ったよ!!(スケルトンが聞き間違えんなよ!)お前の帰りを待つ約束するんじゃなかったー!早速もう行くわ!じゃあな!」
そう言って身支度を始めようとするルイに対してバーンは突拍子もない事を提案する。
「待て。私もついていく」
「はぁ!?修行つけてくれたのは恩に着るけどさ。俺はあんたと行動を伴にする気はないって。連れてきた理由も教えてくれないし、一緒にいると息が詰まるしな!」
「ワールドエンドへの道を知っているから案内してやろうと言うのだ」
「いや、大丈夫。カンがレッドに合流するためワールドエンドに行くって言うからついていくんだ」
「ほう、彼らが来ているのか」
「ということで、お世話になりました」
「モールには挨拶をしたのかね」
「これからすんだよ。ほんとスケルトンはお節介だな。それじゃ」
長いこと浮浪忍者村に留め置かれて我慢の限界が来ていたルイはバーンを置いて、モールがいる小屋に向かった。言われていた無想剣舞の習得とバーンの帰還は満たした。もはや誰もルイを止める理由はないと思っていた。
しかしその途中、並々ならぬ敵意が自分に向けられていることに気づき立ち止まる。スケルトンは元々殺気のような気配はないのでバーンではないことは分かった。むしろ過去にも自分に向けられた覚えがあるものであった。
(この殺気は……)
レヴァだ。彼女は道端に佇み、ただただルイを見ていたのだ。その瞳からは涙が溢れている。
「な、何だよ……」
「モールが……モールが死んだ」
尋常ならざるレヴァの様子にルイはそれが事実であるとすぐに理解すると同時に心が大いに揺さぶられた。
「……そんな……昨日まで普通に……」
「モールは……長い牢獄生活で体が弱っていた。それなのに無理してお前に無想剣舞を伝授した」
「……!!」
そう言ってレヴァは腰の忍者刀を抜いた。この殺意は本物なのだろう。しかし、ルイとしても誤解から来るすれ違いと分かっている以上、出来れば戦いたくはなかった。
「モールは最後に何か言っていたか?」
「お前が知る必要はない」
レヴァは尚もルイに近寄ってくる。
「待て。やるなら手加減は出来ないぞ」
ルイも応じるように忍者刀を抜く。
「無想剣舞を習ったから強気か?それでも私はお前を殺せる」
「そうか?お前ぐらいの猛者なら気づいてるだろ」
レヴァは強気の姿勢を崩してはいないが、ルイが醸し出すオーラには警戒しているようにも見えた。
「ちっ……売女がっ!寄生虫のように取り入りやがって……!なんでモールはこんな奴に……!」
もうすぐレヴァは間合いに入る。忍者刀による高速戦は少しでも躊躇すると致命傷になりかねない。ルイは始まってしまったら全力でやらざるを得ないと思っていた。そしてレヴァとルイが今にも刃を交える瞬間だった。
間に金髪の女性ピアが降り立つ。無防備にも武器すら持っておらず、咄嗟の事でレヴァとルイは忍者刀を斬りつけてしまうほどのタイミングであった。
「おい!危ねぇだろ!邪魔するな!」
レヴァはいきりたってピアにどくよう手で示した。しかしピアはそれでも離れない。
「モールの……遺言状がある」
「!!」
レヴァの手が止まった。この世を去ったモールの意向を少しでも多く聞きたいであろうレヴァの闘争心を抑えるには充分な言葉であったのだろう。
「ここに帰ってきた時に既に死期を悟っていたようで、私に代筆を頼んでいたんだ」
「……!よ……読んでくれ」
レヴァは字が読めないのかピアに対して懇願した。ピアは震える手でゆっくりと紙を取り出すと静かな声で読み上げていく。
『マニ。レヴァ。ピア。私は残念ながら牢獄生活が祟りもう長くはないように思える。生きている内にお前たちになるべく多くの情報を残すため遺言を書くことにした。』
これからの浮浪忍者を中心になって支えていくメンバー宛の内容であった。
『まず今後の浮浪忍者の事は正式に副司令マニに一任する。当面は復興とカニバルの撃退に尽力する形になるだろう。バスト戦争の間に我々が力をつける猶予が生まれるはずだ。マニならば問題なく浮浪忍者を導いていけると思っている。頼んだぞ。また、ノーファクションがやろうとしていることはできる限りフォローしてやってくれ。彼らは同盟を越えた姉妹のような関係だ。互いに助け合い窮地を乗り切ってほしい。
そしてもし浮浪忍者が領土を広げ周辺の憂いがなくなっている場合、レヴァには別の任務をこなしてもらいたい。』
レヴァは食い入るようにピアの話に耳を傾ける。
『バーンはルイを引き入れて何かしようとしている。私もあの娘には可能性を感じている。だから私はルイに無想剣舞の全てを教え込むことにした。レヴァは納得出来ないかもしれないが、娘のサポートをして欲しい。そうすればいつかレヴァが本当に望んだ世界を見ることができるかもしれない。』
「はぁ!?はぁ!?ふざっけんな!お前……文章改竄しただろ!?」
レヴァは紅潮しピアに詰め寄った。
「私が作れるわけないだろ。続きを読むぞ……」
レヴァは納得のいかない表情をしながら息を荒くしてルイを見ている。
『そしてピア。お前が浮浪忍者として戦い続けることに疑問を持っていることは分かっていた。だから自分が何をするべきか自分が信じる道を進め。浮浪忍者に残りマニを助けながら、逃れてくる姉妹を引き続き受け入れる活動でもいい。外に出て世界を見る旅に出てもいい。ピアの思うままにやれ。』
これにもレヴァは激昂して声を荒らげる。
「お前、裏切るつもりなのか?ピアよぉ!?」
「…………」
ピアはうつむき質問には応えなかった。
「モールの目が見えないのをいいことに文を変えやがっ……て……」
レヴァは語気を強めてピアに詰め寄る姿勢を見せていたが、ピアの顔を見てその勢いを失った。
「最後の……文章を呼んでいいか?」
静かに口を開いたピアの頬には一筋の涙がつたっていたのだ。それが殺気を収めたのかレヴァは押し黙ってしまった。
『終わりになるが、浮浪忍者の皆、改めて私を浮浪忍者村へ連れ戻してくれてありがとう。故郷のように思っていたこの地で最期を迎えられるとは私は幸せ者であった。
思えば私は大国ホーリーネーションとの戦いだけに生涯を費やしてきた。しかし出来ればお前たちにはそうなって欲しくない。これまでの方針と矛盾したことを書いているのは承知している。受けてきた仕打ち、仲間を殺された怒り、家族を辱められた記憶はいつまでも消えない。この世界は残酷で理不尽で無慈悲だが、せめて私の仲間だけは他人を助け、慈しみ、支え合う人間であってほしいのだ。憎悪の連鎖は自分の心までも焼き尽くしてしまう。そうならないよう広い視野と寛容な心、揺るがない器を養っていってほしい。最後まで説教臭くてすまない。私は死後もお前たちを見守り続けているよ。また来世で会おう。 モール』
レヴァは放心して膝から崩れ落ちている。これまで実力もさることながら浮浪忍者の精神的支柱として支え続けてきた巨塔モールが逝ったのだ。その衝撃は計り知れないものなのだろう。ルイにとっても短い期間だったとは言え、無想剣舞を伝授してもらい剣術のなんたるかを教え込んでもらった恩がある。また師としてアウロラの面影も重なっていた。お世話になった近しい者と一生会えなくなる寂しさは共感するところがあった。
「レヴァ。お前は俺の片目を奪った人間だ。正直なところその恨みは消えてねぇ」
「……」
「だが、モールの頼みならお前の同行は断る理由はない。暫く様子を見てそれでも俺たちが戦い合う間柄なのか見極めてみないか?」
一瞬の静寂が辺りを支配する。レヴァはゆっくりとルイのほうに向き直った。
「……お前はいつ発つ予定だ?」
「今日はもう暗いから……明日かな」
「…………」
レヴァは会話を続けることなく、そのまま薄暗い闇夜へ消えていった。
「1日考えたいようだな……」
ピアがボソリと呟いた。
「そりゃそうか……。慕っていた人がいなくなる悲しみは私も経験したことがある。ボロ泣きだったよ。ピアは強いな」
「私も姉が死んだときは同じだった。モールは覚悟が出来ていたし、私も歳を取った分、面の皮が厚くなったのだろうな……」
「そか……」
「それでルイ。不躾だが、私もついて行っていいか?」
「え!?なんであんたも?」
「お前はローグの意志を継いでいる。お前が成し遂げようとしていることをサポートしたいんだ」
「そんなこと言われても私の目的は漠然としてるし、期待に添えないかもしれないんだけど……」
「すまない。少しハードルを上げた言い方をしてしまったな。単純に私がローグの忘れ形見であるお前についていきたいだけだ」
「そ、そう。それなら……実力としては申し分ないけど浮浪忍者のほうは大丈夫なのか?マニが大変じゃないか」
「マニには話がついている。カニバルを倒した今、浮浪忍者の領土は当分安定するだろう。モールの遺言通り浮浪忍者はノーファクション一味を支援することにしたのだ」
「いや、私自身はノーファクションじゃないし、バーンが何をしようとしているか知らないよ?」
「ああ、問題ない」
結局ピアの考えは変わらないようで、このままルイに同行することが決まり、その日はそこで解散となって一夜があけた。モール死去の訃報は前線にいたマニにも伝わったらしく、既に多くの浮浪忍者が村に大挙しており、その死を悼んでいた。
「すごい数だ。浮浪忍者も本当に国と呼べるぐらい大きくなったんじゃないか」
「モールが復活したと思い込んでいる者たちが集まっているからな」
ルイの横でバーンが呟いた。
「復活か……。だとすると今回の訃報でまた減ってしまう可能性があるな」
「それはお前次第だ」
「ん、なんで私?」
「浮浪忍者たちはとっくにモールの面影をお前に見ている」
「え!?まさか無想剣舞のことを言っているのか?
そんなの戦闘だけじゃん!モールは指導者として慕われてたんだぞ」
「お前が先駆けとなってカニバルを蹴散らしたのは聞いた。人は何か希望にすがっていないと生きていけない脆い生き物なのだよ」
「蹴散らしたのはカンだし、俺はここを出ていくって言ってんじゃん」
「私は浮浪忍者を牛耳ったほうが早いと思うがな。若い忍者たちは旧体制のマニよりお前をモールと重ねている。まずは私の力で強引に」
「おい!!まさかお前、私をここに連れてきたのは浮浪忍者の頭をすげ替えるためだったのか?スケルトンの分際で随分と野心的だな!」
突然バーンが見せた卑劣な考えに、ルイは思わず声をあげた。
「マニよりもお前のほうが効率的だと言いたいだけだ。旧ノーファクションメンバーを取り入れることも期待できるしね」
「あんたニールと違って人の心がねぇな。十傑だから少し尊敬しちゃったけど本性を早いうちに聞けておいて良かったぜ」
ルイは自然とバーンから距離を取った。このスケルトンとは相容れることはないと悟ったからだ。その様子を見てバーンは唐突に切り出してくる。
「いずれにしろ出ていくならば私もついていく。拒否するならば、私はお前をここで戦闘不能にする」
「な、何!?」
テックハンター十傑の3位に突然の宣告を受け、さすがのルイもその場で凍りついてしまった。