Kenshi -20years later- 作:さわやふみ
ルイ、バーン、ピア
ルイはゆっくりと背負ったデザートサーベルの柄に手を伸ばしていた。バーンは直立不動のまま動く気配はない。
(こいつは自分の要件を力で押し通し、暴力で支配する機械だ。ニールと外見が同じだけど、全く別人と思ったほうがいい……!)
これはまさしくルイにとって一番嫌いなタイプに等しい。まさかバーンがこのような性格とは思ってもいなかった。何としてもこのスケルトンには屈っしたくはないが、無想剣舞を極めてみて分かるこのスケルトンの力量は、骨の髄までヒシヒシと伝わってくる。おおよそスケルトンらしくない滑らかな動きから作り出される独特の構えは背中のフラグメントサークルを抜かずとも絶対的な必勝のオーラを醸し出しているのだ。黒くて丸いレンズと目を合わせているだけで、こちらの全てを把握されているような、体中の至る所から嫌な汗が吹き出してくる感覚に陥るのである。
そもそも無想剣舞は舞いから始まる目眩ましや牽制によって作り出した相手の隙を突く戦い方でもあるため、意思を持つ生き物との戦闘においては効果を発揮するが、表情を表に出さない無機質なスケルトンと対峙するとどのように隙を作り出して突いていけばいいのか、取っ掛かりが見えづらかった。対スケルトンにおいては究極に相性が悪かったのである。
「なんで……お前は私について来るんだ?浮浪忍者を乗っ取るのが目的ならば意味がないだろ」
「別に浮浪忍者が目的というわけではない。手段としてこの組織を使ったほうが効率がいいと考えただけだ」
「じゃあ目的ってのは何なんだよ」
「そうだな。敢えて言うなら人類のためと言うべきか。またはお前のことが好きだからか」
無表情のスケルトンから発せられる突拍子もない言葉にルイは呆気にとられてしまう。
「……あんた何を言ってんだ。だったら戦闘不能にしようなんて思わないだろ。もっとましな嘘をつけねーのかよ」
「ふむ。嘘はついていないが。それで、どうするかね?戦うか、同行させるか。別にお前の邪魔をするつもりもないのだがね」
「既に邪魔してるじゃんか……」
ルイはいつでも戦闘に移行できる態勢を維持しながら考える。
(今こいつに勝てるイメージが沸かない。ならばここは大人しく……)
「邪魔をしないなら……いいよ」
ルイとしても下手に格上と戦い負傷してここから動けなくなるよりも、早くバストへ向かうことを優先する必要があった。ついてくるといっても拘束されるまではいかないと思うし、バーン自体は申し分のない戦闘力である。何を企んでいるのか依然として不明ではあるがワールドエンドへの道のりが安全になるに越したことはなかった。
「懸命だね。では連れて行ってくれるということで。穏便に済んで良かった」
「じゃあ……挨拶だけしてくる」
釈然としない気持ちを抑えつつ、ルイは最後にマニに対して挨拶していくことにした。流石にひっそりと出ていくのも気が引けたからだ。
マニが次期頭領になることは既に知れ渡っているようで、彼女の周りにはたくさんの人だかりが出来ていた。そのため中々話しかけられずにいたがマニのほうから気づいて人をかき分け近寄ってきてくれた。
「ルイ。久しぶりだな」
「こんにちは、マニさん。北側は順調ですか?」
「ああ。お前たちの活躍のおかげでカニバルを大分排除できた。助かったよ」
「それは……良かったです。あの、ピアから聞いているかもしれないんですけど、私はそろそろワールドエンドに向かおうと思って挨拶に来ました」
「やはり行くのか。領土も広がり統治が大変だから、幹部として残って欲しかったのだが、やむを得まい」
「すみません、仲間にも早く無事を知らせたいんです」
「そうだな。何かあればいつでも我々を頼ってきてくれ」
マニはマスク越しにニコリと笑いかけてくれた。
「ありがとう。ではまたいつか」
ルイは手を降った後、そのまま背を向けて歩き出す。
「あ、ルイ!」
「?」
振り向くルイに対してマニは寂しそうな表情を浮かべていた。
「モールの無想剣舞は絶やさないでくれよ。あれはモールが生きていた証だ。いつかまた我々に見せに来てくれ」
「……ああ、そうですね!分かりました!」
三忍のピアが離脱し、今後の運営が大変になるにも関わらず、マニは忍装束の間から笑顔を見せてくれた。環境の悪い湿地帯において軟禁に近い形で滞在していたルイであったが、浮浪忍者の人々は(レヴァを除いて)気さくに接してくれた。何よりモールは無想剣舞を伝授してくれた。多少の名残惜しさを感じつつもルイは浮浪忍者村を後にすることになった。
「挨拶は終わったか?」
村を出た先にはカンが腕組みして待っていた。横には既にピアやバーンもいる。
「ああ、待たせて悪かった。行こう」
「ふん。豪華な面子だな。では出発だ」
歩き出してルイは思い出す。
「ピア。やっぱレヴァは来ないよね?別に来てほしいわけじゃないけどさ」
「出発時間は知っているはずだ。ここに来ていないということはそういうことなのだろう」
「そか……。まぁ私と一緒なんてお互い気まずいしな」
4人は東にあるワールドエンドに向って歩き出したがしばらくすると目の前に旅人の格好をした人が立っているのが見えてくる。レヴァだ。彼女はこちらに気がつくと、近づいてきて間髪入れずに言葉を並べた。
「モールの指令によりお前らノーファクションを監視する。同盟に反する行為があれば私が対処するから覚えておけ」
この言葉にルイの表情は渋くなる。
「あー、なるほど。そういう感じね……。取りあえずついてくるならよろしく……」
「馴れ合おうとするな。私も本当はお前みたいな売女についていきたくはない」
相変わらずの不快な言動にルイも熱くなる。
「あのさー!ついてくるならその口の悪さは少し直せよな。旅は楽しいほうがいいだろ?」
「ならば極力、私に話しかけないことだな」
睨み合う2人の横で今度はカンが呆れるように口を挟んだ。
「もういいか?先を急ぎたいのだが」
こうして先行きが思いやられるルイ一行の5名は
ワールドエンドを目指して浮浪忍者村を密かに旅立った。それは奇しくもチャドがセタ上級審問官率いるホーリーネーション勢に決戦を挑む日と同じであった事は当然ルイ達は知らなかった。
数日後。一行は西側から山脈を登り何事もなくワールドエンドに到着する。そこでルイは旅人同士の不吉な噂話を耳にすることになる。
『バストを取って勢いに乗る都市連合軍を今度はホーリーネーションが返り討ちにした』と。
大分戦況が動いているようだがチャド率いる都市連合軍の先手が瓦解したと言うのだ。胸騒ぎを抑えつつ、そのまま戦況を把握しているであろうレッド達が宿にしているという家に急いで向かう。
「んんー?こりゃあどういうことだ?カン」
赤い髪のレッドはルイを見るなり、一気に不機嫌表情になった。彼女自身がルイを歓迎していないのが分かる。
「いや、チャドに会いに行くって言うんでな」
「ばっか……お前……」
レッドはこちらを見ながら何かを考えているようだったので、ルイはそのまま直球で質問を投げかけた。
「レッド。都市連合軍が負けたってさっき噂で聞いたんだけど事実か?」
「ん……ああ。負けたらしい」
「チャドさんは!?無事か?」
「分からない。行方不明のようだ」
「……!」
勇猛無比なあのチャドが軍隊同士の戦いとは言え負けたことにルイは少なからずショックを受けていた。その横でバーンも問い質す。
「ホーリーネーションはどうなった?炎の守護者は健在か?」
「おう、バーン。あんたも一緒だったか。情報が少ないからあんまホリネ側の損害はわかっていない。ただ、ホリネ側も深追いせずに軍をすぐに引いて和議を結んだぐらいだから結構被害が出ていたのかもしれない」
「ふむ。グリフィンからの詳細情報を待つか」
グリフィンの名前が出て、ルイは耳を疑った。レッドはいかにもつながりがないような言い方であったし、グリフィンのほうも毛皮商の通り道にはノーファクションの面子が誰も現れなかったと言っていたのを思い出したからだ。
「どういうことだ?あんたらやっぱり全員グルなのか?グリフィンとも繋がっているのかよ?」
レッドはこれまでのチャラチャラした雰囲気とは打って変わって神妙な面持ちになりバーンを睨みつける。
「おい、バーン。この娘、どこまで知ってるんだ?」
「いや、まだ何も知らないよ」
「本当か?
2人の意味不明な会話はルイを余計に苛立たせる。
「一体何を企んでんだよ?なぜ私を浮浪忍者村に連れてった!」
対するレッドは腹をくくったのか静かに回答する。
「計画を邪魔されたくなかったんだよ」
「計画?」
「バスト戦争。あいつらの戦争を阻止されちゃ困るからお前を隔離した」
「え……まさかあんたらが戦争を起こさせたのか?」
「大げさだな。後押しをした程度だよ。奴らの戦力を衰退させたくてね」
「このことはチャドさんも知っているのか?」
「いーや、どうだろ。チャドは固い性格だからね。私は誘っていない」
「やっぱりか。チャドさんは殺し合いを進んでするような真似はしない。なんでお前らは戦いを好むんだ?戦わせて何を得る?」
「はは。”戦争は悲惨だー”って言いたいのかな?」
レッドは椅子に座ったまま挑発するようにルイに対して問いかけた。
「当たり前だ。戦争では戦いたくない人たちまで戦線に送られてるんだ。最愛の人が帰らぬ人になったら悲しいだろ?」
ルイは感情の赴くまま思いの丈をぶつけた。しかし、レッドは薄ら笑いを浮かべたままだ。
「ふっ……そんなこと我々は百も承知している」
「何だと?」
レッドは一呼吸置いて続ける。
「その上で判断してんだ。犠牲を伴わない限り、悲惨な世の中が続くとな」
「…………」
「いま都市連合はノーブルサークルという腐った老人貴族どもが支配している。こいつらは自分たちの既得権益を守るために必死で、世の中をよくしようなんて一ミリも考えていない。若い者、立場の弱い者には重労働をさせて搾取しておしまい。脅威になりうる新興勢力は潰される。言っておくがお前の組織も潰されたぞ」
「え?」
「ハウラーメイズ近郊に建てただろ?もう跡形もなくなっている。私たちの情報網で調べた限り、やったのは特憲だ。目をつけられていたんじゃないか?」
「ちょっと待ってくれ……そしたら……皆は?私の仲間はどうなったんだ?」
「少なくともヘッドショットとレイは殺されたことを確認している」
「何だって!?そんな……トゥーラは……?」
「……」
突然の情報に混乱しつつもルイは違和感を覚えたことにハッとして気づき問いかける。
「チャドさんは?だとしたらあの人はなんで都市連合の将軍になってるんだ?」
「そんなの知らないよ。スカウトでもされたんじゃないのか?」
「いや……あの人は直前にもスカウトされて断っていたんだ。お前たちが嘘をついている可能性のほうが高い」
レッドはやれやれといった仕草をしつつも思い出したように提案する。
「ああ、この街にチャドの付き人が来ているようだ。そいつにでも聞いてみるといい」
「付き人……?」
「ジュードと言ったかな。お前の仲間だろ」
「え!あいつがここにいるのか!?」
「チャド部隊から離れてワールドエンドに来たようだ。後でまたここに戻ってこい。今後のことを話そう」
ルイはレッドの言葉など聞かずに飛び出した。
そしてすぐにBARでジュードを見つけた。数人の侍が周りにいたがルイは構わずに話しかける。
「おいジュード!久しぶりだな!」
ジュードは目を丸くして、しばらく声が出せないでいたが、絞り出すように喋りだす。
「……ル……イ、なのか!?なんでここに!?その眼帯は!?」
「色々あってな!チャドさんの事を聞きたいんだけどいいか?」
ジュードの穏やかな性格上、すぐに応えてくれると思いきや、彼は驚きの表情を収めると怒気を交えて返答する。
「それより先に俺が聞きたい。今までどこにいたんだ?」
ルイはたじろいだ。確かに半年も音信不通になっていたのだ。聞き返されて当然だと思えた。しかし、ジュードの語気にはそれ以上の気迫を感じられたのだ。
「あ、ああ。そうだな。私は浮浪忍者村に連れて行かれてたんだ。それでチャドさんが都市連合の将軍になってホーリーネーションと戦っていると聞いて急いでここまで来た」
「急いで?行方不明になってから半年以上は経っているんだけど。師範は君を探すために都市連合の将軍になってホーリーネーションを攻めたんだよ」
衝撃的な事実を知らされてルイは愕然とする。ジュードが嘘をつくとは思えず、だとすると自分のせいでチャドはなりたくもない都市連合の将軍になったことになるのだ。
「そう……だったのか……。すまない……。言い訳になるけど私は軟禁状態で外に出ることも外部と連絡取ることも出来なかったんだ。まさかこんなことになっているなんて……」
「軟禁?捕まってたの?一体誰に?」
「それが、元ノーファクションの奴らなんだ」
「え、なんで!?」
「分かんない……。ただ、何か企んではいそうなのは確かだ」
「そっか……疑ってごめん。師範の部隊は全滅してしまったらしくて……。だから今度は俺が師範を探しに行こうとしてたんだ」
悲壮感漂うジュードの表情にルイは躊躇わずに同調する。
「分かった。協力させてくれ。それと私たちの拠点が特憲に潰されたっていうのは本当か?」
「え!?いや、潰されたわけではないけど……。どちらかと言うとルイがいないから解散に近かった」
「ヘッドショットとレイがやられたらしいんだ」
「そんな……。2人は普通に拠点から出ていったよ」
レッドの言い分とジュードの証言にはくい違いがあった。
「くそ!嘘をつかれたか……?」
「誰かに騙されたの?」
「ジュード、私と一緒に来てくれないか?どうやら元ノーファクションの面々が何かしようとしているみたいで、チャドさんの事も聞けるかもしれないんだ」
「軟禁されてたのなら敵じゃないの……?」
「いやそれが微妙なんだ。信用が出来ないのは確かだが情報はくれそうなんだ」
「……分かった。ついてくよ」
ルイはついに仲間と呼べる者と再び合流し、再度レッドと対面することにしたのであった。