Kenshi -20years later- 作:さわやふみ
ルイ、バーン、ピア、レヴァ
ルイとジュードは再びレッドに対面した。レッドの周りには先程より4、5人ほど人が増えており、不用意に家に入り込んでしまったルイに緊張が走る。なぜなら誰もが異様なオーラを携えており、何らかの達人であることが伺えたからだ。
(まずった……無想剣舞がやりやすい屋外で立ち会うべきだったか?)
複数人の視線を感じつつ、ルイはレッドが座るテーブルへ緊張がバレないようにズカズカと突き進んだ。
「おう。戻ったか。私の言ったことは間違ってなかっただろ?」
レッドは不敵に笑った。
「いや、まだ私たちの拠点のことが分からない。ヘッドショット達がやられた証拠はあるのか?なぜ彼女らの動向を知っている?」
「それは、彼女らが私の諜報員だったからだ」
もうどんなことを言われても驚かないと思っていたルイは再び絶句した。そして何とかして声を絞り出す。
「……え、いや……ヘッドショットはウィンワンに呼ばれて助けに来てくれたんだぞ」
「うん、そう装った」
俄には信じられない話だった。あのめんどくさがりだけど人情味溢れるヘッドショットが諜報員だと言うのだ。
「……なんで!」
「そのほうが自然と溶け込めるだろ」
「違う!なんで私の組織に差し向けた!」
「言ったろ?邪魔だったからだ。下手に荒らされないように監視していたんだ」
「……っ!!」
ヘッドショットは口が悪いが、ポートサウス戦においてルイを励ましながら支えてくれた。レイも無口ながら一生懸命に戦ってくれていた。決してルイたちを監視しているようには見えなかったこともありルイは言葉に詰まってしまった。
一方で、ジュードは冷静だった。
「待て。それなら俺たちの組織に入る必要はないだろ。それに俺とチャドさんはウィンワンから手紙が来て初めてルイの危機を知った。お前らはどうやってウィンワンの手紙の内容を知った?」
「ふふ。手紙の内容を知る方法なんていくらでもあるわ」
「組織に入った理由はなんだ?ルイが邪魔だったならば助けずにポートサウスをけしかければいいだけじゃないか」
「まぁ邪魔であると同時に……必要だったから。とでも言おうかしら」
「!?」
レッドの言い分は2人には理解出来ない内容だった。
「正直、ここはメンバー間でも意見が分かれていてね。お前の必要性もあくまで
「一体何に私が必要なんだよ……?」
「うーん。説明するには不確定要素が多いし、何より目的の成否に関わってくるからね。ここで漏らすことは出来ないかな」
「結局、話の根管は秘密ってわけか。話にならないな。どうせチャドさんの所在も分かってねーようだし私らはもう行くわ」
ルイはジュードの肩を掴んで外に出ようとした。するとレッドは意外な提案を持ちかける。
「まぁ待ちな。お前ら我々に加わらないか?チャドの情報も当然調査して教えてやる」
「だから!あんたらの目的によるんだよ!人殺しなんて御免だぜ」
「人殺しを頼むつもりはないな。強いて言うなら何もしてほしくないの。私たちがこれからしようとしていることに、お前が想定外の動きで絡んでくると計算しづらいのよ。それに私はお前を必要とする状況に持っていきたくないわけ。お前も元の仲間と合流したいのでしょ?邪魔せず私たちの指示通りに動いてくれれば叶えてあげるわ」
「…………大分胡散臭いのは拭えないな。何もしないでいいってありえねーだろ」
「ははは!当然ちゃんと働いては貰うわよ?ただで食べさせてもらえるとでも思ってた?それに私は優しいからいいけど、ゴネてると条件が悪くなっていくかもよ」
レッドはそう言ってバーンのほうを見た。
「レッドよ。“提案”のように言うからブレるのだ。この娘は“強制”で縛らないと何をするか分からないぞ」
バーンはまた力で支配しようとでも言うのだろうか。しれっと脅し文句をたれている。
「ほら〜怖い人たちがいっぱいいるから私が譲歩してあげてるうちに早めに決めちゃったほうがいいんじゃない?」
これでは典型的な飴と鞭戦法である。厳しい言葉を使って優しい提案を受け入れさせるやり方だ。
ルイはジュードの顔を見やるが、ジュードは意味の分からない状況を理解しようとするのがやっとのようで決断を委ねている雰囲気だ。
「……分かった。じゃあしばらく様子見も兼ねて参加する。合わなかったら抜けるからな」
「おー、良かった!じゃあ後のことはバーンに任せるわ」
「あ、おい!」
レッドは話が終わると剣士たちを連れてそそくさと退出していってしまった。そしてその代わりにバーンの体が立ちふさがる。
「察しているかもしれないがレッドは現在ノーファクションの頭領だ」
この話は意外であった。レッドはその場のノリで動いているような性格であり、リーダーを自ら引き受けるようなタイプに見えなかったからだ。どちらかと言うとバーンのほうが狡猾さと冷酷さで性に合っているように見える。
「彼女は忙しい身だから代わりに私がお前の面倒を引き続き見る」
「げ!結局あんたかよ……」
「今後は当面チームとして活動を行ってもらう。ルイ、ピア、レヴァ、それにジュード君、私。と言ったところか」
「新参組ってわけか。で、何すりゃいいんだ?」
「まずは言葉遣いから気をつける。今のは『何をすればいいのですか?』だ」
「…………!!」
冗談とも本気とも取れるバーンの物言いにルイは再び絶句した。
「取りあえず我々の当面の任務はバスト領主に就任した都市連合のレディー・ミズイの戦力調査だ」
「何!あいつがバストにいるのか」
「兵力規模と陣容やバストでの取り組み内容を調べてほしい」
「おっけ。あいつとはちょっとした因縁もあるし。やってやる」
「気をつけるべきは彼女推薦の特憲リドリィだ。まぁ幸い今はバストにいないようだから安心しろ」
「……ん!?いまリドリィさんが特憲って言ったか?」
急に出てきた知っている名前が特別憲兵隊というまるで似つかわしくない組織に属していると聞き、ルイは耳を疑った。ジュードも思い出したように便乗する。
「あ!そうだ。ルイ、俺もバストで特憲になっているリドリィさんに会った。彼女はもしかするとミズイに操られているかもしれない」
「ええ?操られるって……そんなことってあるの?どうやってだよ」
「最初は俺も疑ったよ。でもトゥーラが探しているって伝えたのにあの人は無関心だったんだ」
「……それは確かに変だな。そういやミズイも洗脳兵がどうとか最初に言ってたし」
「うん。俺もあの言葉が関連してるんじゃないかと思ってる」
2人が話し込む横でバーンは我関せずに続ける。
「ミズイは他にもロード・オオタの私兵をつれている。こちらには充分注意しろ」
「よーっし。分かった。リドリィさんの事を調べたいし早速行こう」
動き出そうとするルイを遮ったのはまたしてもバーンだった。
「いや、君は都市連合で顔が知られているだろう」
「ん!?……あんた行かせたいのか行かせないのかどっちだよ」
ルイがバーンに軽く突っ込んでいる横で意外な人物が名乗りを上げる。
「私が行こう……」
ピアだ。基本は無口なこの女忍者はかすれたような小さな声で意図を説明しだした。
「……私たちがまだノーファクションを信用しきれていないのと同様に、我々も信用されていないようだから。特にグリフィンチームだった私は。そうでしょ?バーン……」
指摘されたバーンは隠す様子もなく応える。
「うむ。元グリフィンチームに限ったことではないが我々はノーファクションを瓦解に導いた裏切り者の存在を警戒している」
この言葉に横にいたレヴァが反応する。
「やはり裏切者がいたのか。私たち浮浪忍者村の場所も売られたんじゃないか?ピアじゃない事は明白だが」
バーンはレヴァの言葉に反応せず話を進めていく。
「ではピアに行ってもらおうか。彼女ならば適任だ」
「私も行く。2人ぐらいがちょうどいいだろ?こんなとこで待っているのも御免だし」
レヴァも名乗りを上げたことで必然とルイとジュードが残ることになった。
「残ったメンバーはどうすんだ?」
「色々と事務作業を覚えてもらう」
「マジか!まぁしゃーないか……」
ルイはそう言いつつも好都合だと思った。
それはノーファクションの実態を掴めるチャンスだと思ったからだ。ルイも心の中ではノーファクションを名乗る今のメンバーを全く信用していなかったのだ。
思想がハッキリせず適当な応答のレッドという頭領を皮切りに高圧的で冷徹なスケルトンのバーン。もはやチャドのように義理と人情を持つ硬派なイメージとはほど遠い印象をルイは受けていた。
(意思に反して人を拉致した挙げ句、戦争を肯定し誘発を示唆すらしていた。こいつらがテロを企んでいるとしたら滅茶苦茶危険な存在じゃないか。化けの皮を剥いでやる)
先ほどレッドが頭領をやっていると聞いたがそれ以外の情報が全く分からない。本当にグリフィンとも繋がりがあるのか。繋がっていた場合、ルイが毛皮商の通り道に来たときから、浮浪忍者に連れ去る計画が遂行されていた可能性すら考えられる。また全国的に支部のようなものがあるとして一体どれほどの構成員をようしているのか。最強クラスとも思えるバーンですら自分たちを監視する役割につく程度なのだ。他にも猛者がゴロゴロと在籍している可能性もあった。ルイはこの得体のしれない組織が何をしようとしているのか突き止めることにした。
「そういや食事はどうしてんだ?料理人はいるのか?」
「スケルトンの私は置いておいて、普段レッドたちは適当に済ませているようだ……お前も料理が出来るのか?」
「ああ。得意ってわけではないけどやれるよ」
料理を作ることで構成員の人数をある程度把握が出来ると考えたルイであったが、それを何とジュードが異議を唱える。
「待ってルイ。君じゃだめだ。危険すぎる。俺がやろう」
「え、料理の話だけど?何で真顔なん?」
ジュードはこの質問に答えることはなかった。
それからしばらく2人はワールドエンドに滞在し、資材の管理や料理人を任された。現在のノーファクションの拠点はここワールドエンドのようで空家の一件を買い上げている。ここにメンバー用の食糧や備蓄品を渡された資金で整えるのだ。いわばおつかいである。普通だったら嫌がる仕事であったが、これでメンバーの規模などを推測できる可能性があったため、ルイは黙々と仕事をこなしていた。
「ジュード、これで1週間分だと考えると私らも合わせてこの街にいる人数は15人ぐらいかな?」
「そうだね。ただの備蓄だけだとすると構成する人数はもっと少ないかも」
「たしかに……。しかしいったいこの金はどこから調達してんのかねぇ」
割と潤沢な資金を所持しているのか託されるお金の量はお釣りが来るぐらいであったが、こんな大金を稼げるような仕事はこの街にはない。よって少なくともワールドエンド内で稼いだお金ではなさそうなのだ。
「こんどレッドを尾行してみるか」
「え、大丈夫かな……」
「私は得意なんだ。任せろ。その間ジュードは買い出し1人でやっていてくれ」
「分かった。それとちょっと気になってたんだけど……ルイって一人称“私”だったっけ?」
「ああ、いや。ちょっとバーンってスケルトンいたろ?アイツがうるさくて定着しちまったんだ」
「なるほど」
「”俺”のほうが合ってるか?」
「いや、”私”のほうが大人っぽくなった感じするよ」
「そ、そうか?(そっちのほうがいいってことか?)じゃ、じゃあ取りあえず行ってくるわ」
そう言ってルイは少し恥ずかしい気持ちを隠しながら、週末に開催されているノーファクション内の定例会の後にレッドをつけてみることにした。レッドの足取りは特に早いということもなく(むしろ遅い)、難なく追うことが出来た。レッドは時おり広場で立ち止まり周りを見渡すと、走り回っている子供に声をかけて何かをしているようであった。
(……何やってんだ?)
ルイはしばらく訝しそうにレッドの様子を遠くから観察していた。どう見てもリーダーとして多忙の日々を送っているようには見えず、どちらかと言うと暇を潰しているようであった。それでも実は隠れた裏ミッションを行っているのではないかと注意深くルイは観察を続けていた。すると急に後ろから声が聞こえてくる。
「覗き見とは悪趣味だな」
驚いて振り返ると、いつの間にかサングラスをかけたスコーチランド人が佇んでいる。体型的に女性だが、ルイはこの人が特徴的なため最初の浮浪忍者村の時にもいたことを覚えていた。
「ノ、ノーファクションの人ですよね?」
ルイの問いかけには応えずにサングラスの女は大きな声を張り上げる。
「おーい、レッド!こいつに尾行されてたぞ」
呼びかけに気づいたレッドは子どもたちに手を振るとこちらに向かってきた。
「おう。シュライク、サンキュ。ってかあんた何してんの?暇なの?」
ルイはレッドからぶっきらぼうに質問されるが、疑っているとも言えずルイは言葉に詰まる。
「え、いや……まぁ……」
「ああ、そうだ。だったら明日からお前のチームに1人配属するから。鍛えておいてくれよ」
「え!?」
突然のレッドの申し出にルイは困惑したが、この場を乗り切るためには受け入れざるを得なかった。