Kenshi -20years later-   作:さわやふみ

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◆現在の仲間
ルイ、バーン、ピア、レヴァ、ジュード


140.陰謀

 数人のエリート侍が屯する玄関をスケサーンは通行証をかざしながらくぐり抜けた。

建物の奥へ進むとまた侍が8人ほど列をなしており、その中心の椅子にロード・オオタが腰掛けてグラスに口をつけている。さらにその下には裸で艶めかしい尻をこちらに向けながら這いつくばっている女がおり、オオタの股ぐらに顔をうずめて何かをしているのが分かる。オオタは性欲が異常に高く人前でもこのように平気で行為を継続させていた。スケサーンはその様子を冷静に見渡した。

 

(相変わらずこの爺は性欲旺盛だな。それに用心深い。専属の特憲である俺でさえここまでしか近づけないとは。兵隊が足りないこのご時世にこの人の周りだけは鉄壁だぜ)

 

「おうスケサーン。首尾はどうであった?」

 

ワインのような色のついた飲み物をグラスで飲みながらオオタは見下ろしながら質問した。

 

「上々ですよ。2つとも落ちました」

 

「2つ……まことか!?」

 

この2つはカクノーシンとモリを意味している。オオタ派閥として皇帝派とロンゲン派の最強特憲を排除したことはまさに上々の出来であった。

 

「はい。共倒れさせることに成功しました」

 

「よくやった。カクノーシンがいるだけで、どれだけ行動が制限されていたことか。これで邪魔な存在は全ていなくなった」

 

「全て……ですか。以前は特別憲兵隊隊長のバードも煙たがっていたようですが?」

 

この問いにオオタはニヤリとする。

 

「奴も裏で私のために動いていた駒だ。ロンゲンに買収されることなく私を選んだ先見性を買ってやったよ」

 

「なるほど、手は打ってあると。それでは、私は今後、将軍として西の賊を討つ任務に携わるということで宜しいですか?」

 

「ん?ああ、その件か。そこは君ぃ、もうすこし時世を見ないといかんだろ。裏の世界にいた者が急に表の要職についたら皆ビックリしてしまう。ある程度他の貴族との調整が必要だ」

 

「左様ですか」

 

「それに君は大事なことを忘れているぞ」

 

「は……?」

 

「ロンゲンだよ。モリがいなくなった今こそ排除すべきだと思わんかね?」

 

「なるほど。しかし、いま私の手勢は使い切ったばかりです。暗殺となれば少し時間を頂ければと思います」

 

「うむ。いいだろう。だが急ぎ給え」

 

「はっ」

 

スケサーンはそのままロード・オオタのハウスを出ると、武者兜の奥で堪えていた声をあげる。

 

「……上級貴族なんて殺れる隙ないっつの」

 

振り返り恨めしげにヘフトの街並みを見ていると急に後ろに現れた気配から声をかけられる。

 

「スケサーン。良い報告が出来たかな?」

 

特憲隊長バードであった。相変わらずこの男は仮面をしており気配も薄く謎が残ったままだ。そして今日はその後ろにもう一人従えていた。特別憲兵隊に補充のような形で配属されたネムラという若者である。2人同時に現れたこともありスケサーンはネムラが隊長寄りの部下なのだと理解する。特憲会議の際に見せた冴えない自己紹介から、特憲を隊長寄りのメンバーで埋めるためだけの要員だと判断したのだ。覇気がなく相変わらずオドオドしており、スケサーンはネムラを気にかける必要なしと判断して会話を続ける。

 

「いやーそうっすね。内容は注文通りいけましたよ」

 

「それは良かったな。ロード・オオタにはまた国内に目を向けて戦後の混沌を鎮めて頂く仕事に従事してもらわねばならない」

 

「いやいや仰っしゃる通りです」

 

現時点のスケサーンの立場としてもロード・オオタと特憲隊長バード双方に従うことで、どちらに転んでも問題ないように立ち回っていた。

 

「ところで、それよりも外部に対処しなければならない事案ができた」

 

「特定脅威組織の件ですか」

 

「ああ、早速ポートノースに攻め込んできたぞ」

 

「何ですって!」

 

「混乱しないよう世間には公表していないがあそこは壊滅だ。レディー・カナも殺害された。生き残った奴隷の証言では恐らくバーンが3、4人を連れて攻めて来たようだ」

 

「たったそんだけで……やはりノーファクションは侮れないですね」

 

「早々に潰さなければならない」

 

「ん!?そういやガルベスが常駐しませんでしたっけ!?アイツはどうなりました?」

 

「行方不明だ。と言うより奴が手引きしたと思われる」

 

「……!裏切ったということですか……」

 

「特別憲兵隊の養成地と見込んでの襲撃だったようで、特憲の情報も奪われた。奴もリドリィのように催眠暗示をかけるべきだったか」

 

「アイツ……俺を利用してたのか!許せねぇ……」

 

「ガルベスは以前ルイ一派に属していて、ルイを評価していた。そしてワールドエンドではルイが現れた。示し合わせた可能性もあるが……」

 

「まさかルイがノーファクション残党と浮浪忍者をまとめ上げてこっちに仕掛けてきたってことですか?」

 

「……いや、あの娘がこの短期間でそこまでやれるとは考えにくい。どちらかと言うと誰か司令塔のような者が元ノーファクション頭領の子供を担ぎ上げた、と見るのが妥当かもしれないな」

 

「なるほど。ルイの知名度も使ったってわけですか。復活したと噂されてるモールですかね?ノーファクション残党を取り込んだとか」

 

「その線もなくはない……。が、モールは都市連合と敵対する気はなかったし、恐らくこの動きはモールが復活する前からだ」

 

「前から?となると他に首謀者がいることになりますが、目ぼしい奴います?」

 

「……バーンの可能性もあるが調査が必要だ。攻め込んできた人数を見ても組織の規模は大きくはないだろうが、連携がとれている。切れ者だ」

 

「俺が行きましょうか?顔バレしてないし」

 

「……いや、私が偵察してくる」

 

「え!?隊長みずから?これから都市連合をまとめ上げる件はどうするのです?」

 

「元ノーファクションと言っても今はただの残党だ。司令塔を殺ればすぐに瓦解するだろう。長く滞在することにはならないさ」

 

「そ、そうですか。外からの陽動はいりますか?軽く攻めます?」

 

「ワールドエンドはマシナギア勢力だが、敢えて敵対することはない。私、1人で大丈夫だ」

 

「さすがに危険じゃないですか?ノーファクションは元々、手練れの集団ですよ」

 

「大丈夫だ。しばらく留守は任せたぞ。急ぎの連絡がある場合はこのネムラを使え」

 

「え、こいつですか。大丈夫ですか?」

 

「問題ない。では私は先を急ぐから、2人で軽く意識合わせでもしていろ」

 

「はっ」

 

スケサーンは去りゆく隊長の後ろ姿を見送った後、ネムラに話しかける。

 

「よぉ、特憲は慣れたかよ?」

 

「え!あ、はい!たぶん……」

 

「そうビクつくなよ。別にとって食おうとしてねーんだから」

 

「あはは……」

 

「お前は今、何の任務についてんだ?」

 

「私ですか?んー……なんというか……」

 

「もしかしてまだ任務らしい任務してないのか?」

 

「いえ、隊長の研究関連のお手伝いをしております。私は以前研究者もしてましたので」

 

「なるほど道理でひょろひょろなわけだ。じゃあ戦闘もあんま経験なしか?実戦は?」

 

「出たことないです」

 

「マジかよ」

 

これにはスケサーンも呆れてしまった。戦闘経験がないまま特別憲兵隊になった者は今まで聞いたことがなかったのだ。通常ならば立会人の頃に兵隊として使われたりするが、もしかするとネムラはロッテリアの弟子から立会人の活動がないまま採用されたのではないかとスケサーンは考えた。

 

(……ん?いや、やはり変だぞ。ロッテリアは短剣二刀流を扱う武闘派だった。研究者にはほど遠い……)

 

スケサーンはピンときたがそこに触れようとはしなかった。恐らくネムラはロッテリアの弟子ではない。大方、大量軍事兵器の研究を扱う上で雇われた科学者だ。隊長は着々と自分の目的のために周りを固め始めたのだ。

 

「あ、私は当分ヘフト周辺におりますので何かあったらご連絡ください。あの家のポストに暗号文を入れておいて頂ければと思います」

 

「おう、分かった。俺も別件があるからもう行くわ」

 

「承知しました。では私はこれで……」

 

ネムラはスケサーンと一緒にいるのが嫌だったのか、早々に用件を伝えるとどこかへ消えてしまった。スケサーンは何も気にせず1人考える。

 

(隊長はワールドエンドに潜入する際は仮面を取るだろう。今後の展開を踏まえると素顔を把握しておくチャンスだが……)

 

スケサーンに配属されていた立会人はモリとの戦いで使い切ってしまっており、本来ならすぐにでも補充したいところであったが、バスト戦争による兵員不足も影響して立会人の多くが全国の都市に配備され治安維持にあたっていた。さらに裏養成学校のポートノースが襲撃されたとなると立会人不足は深刻なものであろう。隊長に部下の配備を催促することも可能ではあったが、スケサーンは敢えてしなかった。それはスケサーン自身の監視要員を送られることを嫌ったからである。また可能性は低かったが、今回の功績でオオタにより軍の将軍に任命してもらう約束があった。仮に将軍になれていれば公に一般兵や侍を手駒として動かせるため、敢えてバードに要員を貰う必要もなくなるのだ。(当然、この件は事前に隊長に話し了承を貰っている)裏の特憲と表の軍隊を掌握して連携できれば、バードとしても大きな影響力を持つことが出来るからである。

 

(将軍になれた場合、ほぼ隊長と対等な関係になり、俺の影響力は無視できない存在になり得たのだが……)

 

将軍就任の約束をしながらロード・オオタがすぐにスケサーンを将軍にしなかった理由は分かる。1つはスケサーンが元々野心的な人物であることを察知し警戒したこと。2つ目は約束しつつも自分の手駒が薄くなるのを嫌ったことだ。軍の将軍になると都市連合という国家の任務にあたることになるため、必然とオオタ自身のオーダーをこなす時間がなくなるのだ。

 

(少しでも期待した俺が馬鹿だったか?考えるとアイツは俺を将軍にする気なんて元からないかもしれないのに)

 

ここに来て積極的に動き始めた隊長の行動はことごとくはまっている。都市連合の主権をあのノーブルサークルから奪取するという革命に近い事が現実味を帯びてきた以上、このまま隊長の方針に従っていたほうが得策なのかもしれない。

 

(やはりポイントは大量軍事兵器(・・・・・・)の指揮権を誰が持つことになるのかだな。……使い物になればの話だが)

 

禁忌の島の軍事工場でいまだ大量に生産が続けられている蜘蛛型戦闘兵器アイアンスパイダー。ミズイがあれを見つけてから10年以上が経過したと聞いている。誰が何のために作っていたかは最早遠い昔に忘れ去られているだろう。相当の腕前を有していた自立思考型の工場長Hat101といったい誰が交渉できたのか。そして暴走した形の生産工場をコントロールして自らの軍隊として活用できるのか。

 

あれを保持した者が最大の権力を手にする。

 

スケサーンは鎧兜の奥で鋭い目つきになると人知れずヘングへ向けて歩き出した。

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