Kenshi -20years later- 作:さわやふみ
ルイ、バーン、ピア、レヴァ、ジュード
「レッドやバーンどこいっちまったんだ……」
緊急会議後にノーファクションの面々はワールドエンドから姿を消していた。ルイたちは昏睡するナパーロを置いていくわけにもいかず、そのまま拠点の守備を任されていたのだ。
横で鍛錬しているジュードに問いかけるも彼からの返事も浮かない。
「分からない。チャドさんの件もどうなってるのか……」
「だよな……」
「それよりルイさ、前も言ったと思うけどちょっとその格好なんとかなんないの……?」
ルイの格好は部屋着と言うにはほど遠い奴隷のようなボロキレであった。月日が経ちルイも18歳となっており、女性らしくある程度胸も整ってきたし、くびれのラインもメリハリのある体型になっていた。そのためボロキレでは隠しきれない女の部分が所々溢れ落ちてしまっていた。戦闘時はサラシを巻かなくてはいけないし、筋力もこれ以上あがらなそうだしで、つくづく女は面倒だと感じていた。せめて家の中ではダラダラした格好でいたいと思っていたが、ジュードにはだらしなく見えて不快に感じたのかもしれない。
「暑いし家の中なんだし……ダメかね?」
「い、いやダメというわけではないけど……フレイムや他の男の人もいるしもっとちゃんとした服買ったら?」
「ジュードがいいなら問題ねーじゃん。ヒラヒラしてて涼しいんだよ」
これに鼻息を荒くしたフレイムが大きい声で同調する。
「ルイさんはこの姿のほうがセクシーでいいと思います!」
「セ……セクシー!?」
言葉の意味はそういう本を見たので知っていた。性的に魅力があるということだ。言われてから気づいたが、正直なところ最近、男からの視線が変だとは思っていた。しかしまさかそういう目で見られるようになっていたとは思わなかった。
「もしかして……ジュードも……?」
「え?」
「いや……何でもない」
女性として見られる事自体は何となく悪い気はしなかった。しかしナパーロが重体で寝込んでいる時にそんなことを思っているのがバレるのは不謹慎だし恥ずかしかったので、咄嗟に話題を変える。
「キャットさんあなたはレッド達の事、何か知ってたりするの?」
これにナパーロの傍らで点滴の点検をしていた初老の男性が長い顎髭をさすりながら難しい声を上げる。
「うーん……私は戦いのことはあんまり分かんないから……うん」
元ノーファクションのメンバーであったこのスコーチランド人の男は医療従事者であったらしく、レッドからの紹介を受けてナパーロの治療を行ってくれていた。何でも過去に長い期間、盗賊に幽閉されていたことがあったようで、その影響か分からないが、言動に少しおかしいところがあった。
「そですか……」
ワールドエンドにはレッド含む待機勢もいなくなっており、代わりにピアとレヴァがワールドエンドに近づく軍勢がいないか偵察に出ていた。
「ふんふんふ〜ん……」
キャットは相変わらず気味が悪い小言をブツブツと言っているが、適格にナパーロを治療しており心強かった。逆にルイは自己鍛錬以外は出来ることがなく、時間を持て余していた。そこに玄関をノックする音が聞こえてくる。
コンコン
「ん?誰だろ。はーい」
ルイは躊躇うことなくドアを開けにいった。その先にはオールバックの髪型をしたグリーンランド人の男が立っていた。その男は小柄で覇気はなく、記憶に残らなそうな特徴のない人相をしていた。
「……どちら様ですか?」
既視感か分からないが、ルイはこの男にどこかで会ったことのある気がしていた。
「吟遊詩人と申します。こちらにバーンさんというスケルトンの方はいらっしゃいますか?」
「吟遊詩人……さん?えっと、あの、それ名前ですか?」
聞いたことはある名前のような気もしたが吟遊詩人とは詩曲を作り、各地を訪れて歌う人々を指す。明らかに職種名でありルイは困惑した。その様子に気づいたのか男は付け加える。
「おっと、これは失礼。ずっとそう呼ばれていたので関係者の方ならば通じるかと思います。どなたか昔のメンバーがいらっしゃれば……」
昔のメンバーと聞いてノーファクションのことではないかと推測した。そうなると今わかるのはキャットぐらいしかいない。
「あ、じゃあちょっと待っててくれます?分かりそうな人呼んできます」
「はい、よろしくお願いします」
丁寧な口ぶりと小柄で威圧感のなさからルイはこの男が危険ではないと判断し奥へキャットを呼びに下がった。
「おお!あなたは!紛れもなく吟遊詩人さんですね!」
キャットの反応からも知人であるようだ。取りあえずホッとしたものの同時に思い出したことがある。それはこの2人がグリフィンチームに出てきた名前であるということだ。考えてみればピアもシュライクもいる。グリフィンの話ではこの中に内通者がいるという話であったが、大半が残って在籍していたのだ。ノーファクション壊滅の際に参加していなかったチームなので生存者は多数なのだろうが……。
(ピアは違うだろう……)
モールの信頼具合と言い、これまでの言動だとピアが内通者であればとっくに浮浪忍者含めて体制が崩壊している。けれど他のメンバーは知らない人ばかりだ。特にいま来た吟遊詩人という男は何者なのか。名前からして歌い手のようだし、武器は太刀1本を腰にさしているが見るからに武闘派ではない。仮に暴れられても対処できるぐらいに警戒しておければ問題ないのかもしれないが、そもそもここには誰が呼んだのかも分からない。
「キャットさんの知り合いですか?」
「ええ!ええ!そうです!同じチームだったのですよ!」
「ふーん……キャットさんが呼んだわけじゃないっすよね?」
ルイは直球で探りを入れることにした。
「はい、私じゃないです。そういえば吟遊詩人さんはどうしてここに?」
キャットの問いかけに対して吟遊詩人は動じることなく説明を始める。
「いやぁ、ノーファクションの元メンバーがここに集結していると噂を聞きつけたのですよ」
(レッドが事前に招集をかけていたのか?)
「吟遊詩人さん、具体的にどんな噂をどこで聞いたのか教えてくれませんか?」
「ふふふ。あなた、ルイさんですよね?」
吟遊詩人はルイを知っていたようで不敵に笑う。
「私のこと知ってるんですか?」
「ええ。カニ好きのルイさん。ボスの子どもだ」
「もしかして!メガクラブの記事で気づいたんですか?」
「はい、名前と写真を一目見て分かりましたよ。大きくなりましたね。私はあなたがハウラーメイズ近郊に拠点を置いて活動していたのも知っています」
「ええー!そうなんだ。1人行動してたのですか?だったらうちに合流すればよかったのに」
「いえ、私はちょっと危険な調べ物をしていましてね。仲間に被害を出したくなかったのです」
これにはサッドニールと重なるものを感じる。
「もしかして都市連合のこと調べてました?」
「ええ。もうご存知かもしれませんが特別憲兵隊という裏の実行部隊を調べ上げてました。奴らがノーファクション壊滅に絡んでいる可能性がありましてね」
「皆考えることは同じだね。サッドニールも同じ感じで単独行動してたんだ」
「なるほど。私は運良く立会人を1人買収できましてね。そこからここの事を知ったのです」
立会人の買収がどうやって実施出来たのかもう少し聞いてみたかったが、話の流れとしては疑わしい箇所はない。むしろ他に何か聞き出せないか興味が出てくる。
「そっか。ねぇ、吟遊詩人さんはニールのことで何か情報持ってたりしないですか?」
「サッドニールさんのことですかね。入手した情報によると特別憲兵隊は男の子とスケルトンを追っていたようで、スケルトンのほうを捕らえて”テングの収監所”という場所に幽閉したようです」
「え!?それは本当なの!?」
「ええ、恐らく……」
もはやスケルトンの個体数的に考えてもサッドニールが特憲に目をつけられて追われた可能性が一番高い。
「それがニールだ……。そこってたしか超でかい監獄ですよね」
「はい。未だ破った者はいないですよ。攻めるにしても人数を集めなければ」
「そうだね。教えてくれてありがとう。もしかして私の拠点メンバーがどうなったかも知ってたりします?」
「ああ、少しだけ……ですが」
吟遊詩人が言葉に詰まっているような気がしてルイは一抹の不安を覚える。そしてそのまま待っていると彼は重い口を開く。
「ルイさんの他のメンバーは恐らく全員、特別憲兵隊にやられたと思います」
棒で頭を殴られたような衝撃がルイを襲う。たとえようのない不安感にかすかに吐き気までする。
「やられたってどういう意味……」
「元々ノーファクションは都市連合に目をつけられていまして、元頭領の娘がリーダーとなってまた楯突くのを恐れたのではないかと……」
「……トゥーラという女性がいたんだけど、どうなったか……」
「ああ、期待の若手テックハンターの……。それは……確かリドリィという特別憲兵隊に殺されたと……」
頭が真っ白になる。トゥーラとのいくつもの思い出がルイの頭の中で再生されていく。ブラックスクラッチにおける最初の出会い。喧嘩をしながら歩いた旅路。一緒にくぐり抜けた死線。助けあい、いくつもの困難を共に乗り越えてきた。毛皮商の通り道に赴く前に最後に交わした会話と顔を今でも鮮明に覚えている。生きていればまたいつか会えると信じていた。積もる話はたくさんあった。お土産も用意していた。再開してまた思い出話や土産話で花を咲かせたかった。一緒に未開の地を探検するのを夢見ていた。
それなのに……トゥーラはもうこの世にはいないというのか?
トゥーラはリドリィを探していたのに、そのリドリィに殺されたって言うのか?
あんまりだ。
「そ……そんな……なんで……」
「リドリィさんはテックハンターの方ですよね。なぜ都市連合に加担し始めたのかは私にも分かりません」
ナパーロがやたれた際に感じた心の内に眠る怒りがさらに呼び起こされていく感覚になる。
「……ミズイに聞く」
「え?」
「あいつが何か関わっているはずだ……。場合によっては私があいつらを倒してトゥーラの仇を取る」
ジュードは驚きの表情でこちらを見ていた。それほどこの時の自分の表情は怒りに満ちたひどい形相だったのかもしれない。
都市連合編の上中にそれぞれ副題をつけました
都市連合編 上
-砂上の帝国-
都市連合編 中
-収監所の死闘-