Kenshi -20years later-   作:さわやふみ

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15.予期された訪問者

「なんだよ?武器を使うまでもないってか!」

 

ルイが武器をしまったハイブ人に吠える。

 

「違うよ。君たちを見ていたら本当に動けなくなるまで抵抗しそうだからね。2人も担げないし、一人担いでいってもブリンクにつく頃には時効切れだ。なのでもう戦いはおしまい。私は無駄な仕事はやらない主義なのさ。」

 

2人は唖然としつつも身支度して立ち去ろうとしているハイブ人に問いただす。

 

「お、おい?おしまいってもう捕まえようとしないってことか?」

 

作業を続けながらハイブ人はこたえる。

 

「しつこいね。時間切れで私のミッション失敗ってとこだよ。まぁ夜通しブリンクまで走れば間に合わないことはないけど今回は報酬がそれに見合ってないからね。それと私もプロを自称している手前これまでグンダー達のスッキリしない仕事もこなしてきたが、君の言葉で久しく忘れていた何かを思い出せた気がするんだ。今後は少しだけ仕事を選んでみることにするよ。」

 

外見や習性も相まって悪事や汚れ仕事も平然とこなすイメージがあるハイブ人ではあるが、この男は知能や倫理観が他者より高かったのかもしれない。

実に坦々とした物言いではあったが自らが思う善悪を考えた上で行動することに決めたらしい。

対してルイも口の悪さは変わらず、上から目線で諭す言葉をかける。

 

「お、おう。お前も良い事悪い事を判断する心があるってことだろ。自分の信念に基づいて悔いのないように生きろよ!」

 

「君さぁ。外見上分かりにくいだろうけど、私は結構君より年齢重ねてるんだけど。でもまぁいいか。あ、そうだ。もう私は行くけどこれから引き続き頑張りな。恐らくガルベスは時効が切れても来ると思うから。あいつおっかないよなぁ。」

 

身支度をしているハイブ人から唐突に出た言葉に、2人の脳裏には両断されたブラックドッグの死体が横たわる光景がよぎり、表情がこわばる。

 

あの男が追って来ている。それを聞いただけで生きた心地がしなくなる。まるで足場のない高所に取り残され少しでも足を滑らせれば命がなくなるような状況に近い感覚だ。

 

「ガルベスが!?なんで時効が切れても追ってくんだよ!」

 

「そんなこと私には分からないさ。まぁテックハンター協会に知られる前に証拠隠滅ってとこだろうけど。恐らく2日以内にはここに来るだろうな。取り敢えず善意で教えてあげられるのはここまでだ。せいぜい頑張りな。あ、いい忘れたけど私の名前はシルバーシェイドと言う。仕事の依頼があればいつでも連絡してくれな。お嬢ちゃん達なら一割引で受けてあげるよ。」

 

剣を交えた相手にさえお構い無しに仕事の営業をするハイブ人に普通は面食らうが、状況が状況だけに藁にもすがる思いでルイは切り出した。

 

「じゃ、じゃあ早速依頼させてくれ!ガルベスを撃退してほしいんだ!」

 

こちらも先ほどまで敵だった相手に依頼するというとんでもない発想にトゥーラは驚きで目を丸くしている。

 

しかし現状とりうる選択肢は多くはない。

ガルベスのパワーにシルバーシェイドの技巧をぶつける。このハイブ人ならばもしかしたら何とかしてくれるんじゃないかという淡い期待が持てる腕前を先ほどまで披露していた。今は何としても打開策を見つけなければならない状況なのだ。

 

「おいおい。一応、俺はあいつらの仕事をこれまで受注していた身だぞ。それに相手はガルベスだ。言っておくが私はなんでも屋であって戦闘に特化した仕事は本来向いてないんだ。しかしそうだな・・。物はやりようだ。奴相手に1回の迎撃で10000catでどうだ?」

 

「一万キャット!?高すぎだろ!トゥーラ手持ちいくらある?」

 

「2000弱よ・・。というかこの人を信用できるわけないでしょ?逃げるか最悪寝返るかもしれないじゃない。」

 

「まぁそうだけど・・。どのみち合わせて2500ぐらいか・・。つーかあんたガルベスに勝つ自信ないからふっかけてるだけじゃねーだろうな?」

 

挑発に近い値切り交渉も何でも屋には響かないようで軽く突き放される。

 

「受注不可能なら素直にそう言ってるさ。まぁ金がないんじゃ話にならないな。こっちも命をかけるんだ。お金を貯めて出直してくるんだな。」

 

そう言うとシルバーシェイドと名乗ったハイブ人は颯爽と姿を消してしまうのであった。

 

残された2人は傷の手当てのためにも一度ウェイステーションに戻った。

 

「いてて・・。あいつ本気だしたとたんに滅茶苦茶強くなったな。あのまま続いていたら本当に手足を持っていかれてたぜ。危なかった・・。」

 

「ええ、助かったわね。しかし軽く落ち込んでしまうわ。あれだけ鍛練してきたのに会う人みな強いんだもの。」

 

「お前、ほんとにボウガンの鍛練してきたのか・・・?」

 

トゥーラはルイの質問には触れずに課題を投げ掛ける。

 

「それよりどうやってガルベスを迎え撃つの?恐らく都市連合の領内はどこに逃げても探しだされてしまうわよ。」

 

「ばったりどこかで遭遇は嫌だな。真正面からやっても俺達じゃイチコロだろうし。いま来ると分かっているならシルバーシェイドが言ってた『物はやりよう』って奴を実践してみるか。ちょっと耳かして。」

 

そう言うとルイは小声でこそこそとトゥーラに何かを伝えた。

 

「それは危険よ!」

 

「これぐらいしないと恐らくガルベスを出し抜けないでしょ。たぶん今ならまだ間に合うと思うし。」

 

「でも・・うーん、やるしかないのね。私もボウガンの練習を始めるわ。」

 

善意だけでは誰も助けてくれない非常な世界において自分の身は自分で守らなければいけない。

 

2人はウェイステーションにてガルベスを迎え撃つ決心をしたようだ。

 

与えられた時間は僅かであったがやるしかない。殺し合いにおいて相手が準備万端になるまで待ってくれる世界はどこにもないのだ。

ルイとトゥーラはできる限りの準備をして待ち受けることにした。

 

そしておよそ2日たった頃、因縁の戦いは熱い日差しが降り注ぐ日中に始まった。

 

その時、ルイとトゥーラはBARのテーブル席に腰かけていた。

そこに見覚えのある大男が額の汗を拭いながら入ってくる。

 

ガルベスだ。

 

「いらっしゃーい。」

 

BARの店員は当事者の事情など全く知らずに呑気な声をかける。

 

「ふぃー・・・今日も昼間はくそ暑いなぁ。」

 

ガルベスはとっくに2人の姿を発見しているだろうが、どかっとテーブル席に座ってビールを注文する余裕を見せる。

 

対称的にルイとトゥーラの表情には悲壮感と焦りがでている。

 

出会うタイミングを間違えてしまったのだろうか。

『まさかBARでたまたま休んでいる時に鉢合わせるなんて・・・。』

 

そんな表情だ。

 

しかし2人は腹をくくって動き出した。

 

一方、ガルベスは最初にBARに入ったときに違和感を感じていた。

 

(こいつら・・・俺が来ることを想定していたか?)

 

準備せずに敵を見かけたら飛び上がって構えるのが普通だろう。特に長い髪のほうは恐怖を植え付けた分、確実にそうなるはずだが、BARで居座ったまま想定外である表情をしているだけ、つまり演技をしている、と解釈したのだ。

 

(俺の襲来を知っていたということはシルバーシェイドがしくじったか・・・まさか奴に限ってそんなことは・・。奴はまだここに来ていないだけか?こいつらは単純に俺がここに来ること予測して待ち構えていたとも考えられる・・。いずれにしろ少し探りをいれてみるか。)

 

過酷な世界を生き抜いてきたガルベスは例え相手が若くて新米のテックハンターであったとしても油断せず驕らなかった。

 

BARでいきなり暴れることは出来ないが、シルバーシェイドがBARにやってきた時と同じように、そ知らぬ顔でルイたちに話しかけたのだ。

 

「あんた方は旅の途中かな?若い者2人の道中は危険だ。気を付けろよ。」

 

この世界においてBARは見知らぬ旅人同士の情報の交換の場にもなっている。

 

ガルベスがルイたちに話しかけるのも周りの者達にとっては至って普通のことだった。

 

「え・・ええ。ありがとう。」

 

トゥーラの声は上ずっている。

 

(俺が来ることは想定通りだったわけか。シルバーシェイドは何らかの要因で失敗したのかもしれないな。)

 

この反応でガルベスは見抜いたのだ。恐らくメンタルが強いルイが応えていたらまだガルベスは迷っていたかもしれない。

しかし、一時自らが恐怖を植え付けた対象のトゥーラが平常心で対応ができたのだ。備えなしで話しかけられたら押し黙っていただろう。よってこれは彼女らにとって想定された問答だったのだと。

 

(ならば次はどうする?俺をまく自信があるのか?いつまでもBARの中で暮らすわけにもいかないだろう。考えられるのは・・・持久戦か。)

 

やはりシルバーシェイド同様、この手の駆け引きは見抜いているようだが、ルイたちはそれをそのまま実行にうつす。

 

また交代で睡眠をとる作戦で相手を疲れさせるつもりのようだ。

 

予想通りに動くルイたちを見てガルベスも表情を変えることなく考え込む。

 

(外に出て別の都市に逃げるとしても道中は砂漠しかない。今はまだ日中で暑いから闇夜に紛れて逃げるだろう。まぁ夕方まで4時間は確実に動かないはずだ。俺もちょっくら休憩しておくか。)

 

やはりこの辺りはガルベスがウワテだ。

ターバンを深くかぶり手を組んだまま眠りについてしまった。

 

それをトゥーラは厳しい目付きで見ていた。

 

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