Kenshi -20years later-   作:さわやふみ

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◆現在の仲間
ルイ、バーン、ピア、レヴァ、ジュード


144.背信者

ルイがバストを襲撃している頃 

 

レッドたちノーファクション組はポートノース襲撃の後始末をした後、ワールドエンドに帰還していた。そこでルイたちの代わりに新しい人間がいることを知る。

 

「お前は……吟遊詩人か?」

 

「はい、そうです。お久しぶりです」

 

キャットと談笑していた吟遊詩人はレッドに気づくと飄々と挨拶した。しかしレッドは浮かぬ顔をしている。

 

「……生きていたのだな。キャット!ルイはどこだ?」

 

そして吟遊詩人と久しぶりの出会いにも関わらずにルイの所在を確認する。

 

「ルイさん達はバストへ向かったようです」

 

「ちっ、とめろや……。ところで吟遊詩人。今までどこで何をしていた?」

 

「え、私ですか?グリフィンチームが解散して放浪してました。レッドさんが今のノーファクションをまとめているのですか?」

 

吟遊詩人は少し笑みを浮かべた。

 

「ああ。そうだが。何か可笑しいことがあったか?」

 

「あ、いえ、失礼。あなたが今の頭領なのは意外ですね。これまでのノーファクションの手際が素晴らしかったので、当時のあなたからは想像もつかなかったですよ。仲間のためにやる気を出したのですか?」

 

「ははは。褒めているのか貶しているのか分からんな。やる気っていうかクソな都市連合をぶっ潰してやろうと思ってね。で、お前はここに何しに来た?」

 

「もちろん協力しに来ました」

 

「ふーん。その口調が本来の姿か?以前のお馬鹿さんキャラはもう見れないのかね。バード特憲隊長殿(・・・・・・・・)

 

この時、一瞬の静寂が流れた。キャットは何の話か分からずキョトンとしている。

 

「え……いやレッドさん。バードって……」

 

「ああ、コイツがノーファクションを瓦解に導いた裏切り者。特憲の親玉だ」

 

吟遊詩人を取り巻く気配もいつの間にかピンと張り詰めた空気に変わっていた。彼は丁寧な口調を維持しつつも声のトーンは先ほどより低くなっている。

 

「……ふー。一体、どこで知ったのですかね?」

 

「さてね。バードが本名なのか?否定しないのは逃げ切れる自信があるのかね?」

 

この問いに吟遊詩人は不敵に笑う。

 

「バーンさん等は今いないでしょ?なら簡単ですよ。あなた達サポート組も帰ってくるのが大分遅かったですけど、手分けして悪巧みの地方行脚中だったのですか」

 

「どうだろうな。で、ここに来た目的は何だ?」

 

「ただの偵察ですよ。誰がこの一連の出来事を演出していたのか知りたかったので。まさかリーダーがあなただったとは大分驚きでした」

 

「私もまさかあの吟遊詩人がって感じだよ。しょっちゅう鼻に虫が入ってたのも演技だったのか?」

 

「忘れました。それより……どうしますか?今後もまだ戦いを続けるつもりです?だとすると場合によってはあなた方を皆殺しにしなければいけなくなります」

 

バードはサメのように光のない漆黒の目をしながら、坦々と攻撃的な言葉を並べる。しかしレッドはそれにおくすることなく応える。

 

「やはり特憲のほうが本業か。最初からノーファクションにはスパイとして入りこんでいたのか?」

 

「はい、そうです。あなた方はまた特定脅威組織に認定することにしました。本当に懲りない方たちですね」

 

「まぁお前らが先に手ぇ出してきたからな。倍返ししようかなって」

 

「やれやれ……損害が今のところポートノースぐらいなので、全面降伏するならまだ恩赦を与える選択肢もあったのですが」

 

「は!特憲ごときのお前にそんな決定権はないだろ。それに……許す許さないはどちらかと言うとこちらが決めることだ」

 

レッドは言い終えると手を振り上げた。するとゾロゾロと剣士が家の中に入ってくる。皆、軽装ではあるが戦闘用の服を来ており、殺気をまとっている。

 

「なるほど、傭兵を常に待機させていたのですか。もしかして私が来るの予測してました?」

 

「ああ。もしもここに裏切り者が来た場合は討ち取ろうと思ってさ。お前、タイプ的に多勢に囲まれるのが苦手だろ?特憲を恨んでいる者をたくさん連れてきてやったぞ」

 

重武器で四方八方の敵をなぎ倒すパワータイプと比べて太刀を扱うような技術タイプは多数を相手にする戦いは向いていない。武器も斬る度に刃こぼれが入り斬れ味も低下していく。

 

「ふむ。考え方はいい線です。ただそんなに長い戦闘になるかどうか……」

 

「試してみようか」

 

レッドが下がると傭兵団の中から体格の良い1人が前に出る。

 

「特憲には苦い思いさせられててよぉ。まさかこんなヒョロそうなのが特憲だとはな。やるぞお前ら」

 

傭兵団のリーダーらしき者が手を振り下ろすと一斉に剣士たちがバードに襲いかかる。屋内は100m2ほどの広さで高さもあるがさすがに長柄武器は振り回せない。皆、腰に差したサブウェポンを抜いて斬りかかっていく。見た目とは裏腹に相手は特憲隊長という肩書きを持っている。多勢という有利を持ちつつも皆、隙のない陣形で囲い込み一気に終わらせにかかった。傭兵団のリーダーも多少の犠牲を出しつつも決着がつくと考えていたのだろうか。危機感のない澄まし顔であった。

 

対するバードは予想だにしない動きを見せた。小スペースの空間を鳥の如く素早い速さで縦横無尽に駆け回っていく。

 

「……!!」

 

多勢という利点が逆に仇となり皆、バードの素早い動きを捉えられずひしめき合う。その間に1人また1人と倒されていく。バードは必要最低限の斬撃で急所を着実に狙い仕留めていくのだ。

 

「慌てず囲え!」

 

リーダーのかけ声も空しくバードに近い者から次々と倒されていく。狭い場所で有利な太刀であるとは言えバードの圧倒的な剣技を見せられて次第に傭兵団の勢いは衰えていく。やがて十数人いた傭兵は5,6人までと減り、向かっていく者はいなくなった。バードはその様子を見て、刀の血を振り払い一息つく余裕を見せた。

 

「どけ!」

 

そこに傭兵団のリーダーが仲間を掻き分けて前に出た。どうやらバードに単身で挑むようだ。しかし、この場にいる誰もが感じ始めているだろう。この男を倒しきれないと。物量で押し切るか、体力の消耗を待つかしか方法はないと思っていた。しかし体力を削りきる前にこちらが全滅してしまう勢いにもはや傭兵は戦意を失っていた。

 

残り全員で一気にかからないと取り返しがつかなくなる。そんな思惑をよそに。

 

ドサッとリーダーの背中は傾き倒れていった。いつの間にかバードに殺られていたのだ。

 

「ひ……ひぃ……」

 

これで大勢は決まってしまった。リーダーが死んだことでもはや傭兵団の統率は崩壊した。残った傭兵は恐れ慄き我先に外へ逃げ出して行ってしまった。

バードは再度、刀についた血を振り払うと軽くため息をついた。

 

「やれやれ……大分殺してしまいました」

 

レッドも真顔でその惨状を見下ろしていた。

 

「……その腕前もノーファクションの頃から奇人を装ってずっと隠していたのか」

 

「はい。吟遊詩人ならば戦闘も任せられないでしょう?演技は苦労しましたよ」

 

「だろうな。ただのバカだとずっと思ってたよ」

 

「さて、私はそろそろ戻りますが、最後にノーブルサークルへ手土産を持参しようかと思っています」

 

「……ほう」

 

「ここにいる者を全員殺して拠点を壊滅させるか……」

 

この言葉にその場に残っている者たちに戦慄が走る。

 

「または頭領であるあなたの命ですかね。皆殺しは疲れますし気が滅入る」

 

さすがのキャットも先ほどまで敵と知らずに喋っていたことを後悔しているようで、申し訳無さそうに俯いていた。

 

「ならば最初から私がやれば良かったな」

 

レッドは長巻を取り出した。

 

「おや?戦うつもりですか?戦闘員でしたっけ?無駄な足掻きですよ」

 

「舐めるな。ノーファクションは全員武闘派だ」

 

言うなりそのままレッドはバードに斬り掛かっていった。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 ルイの帰還はバードの乱入から大分経った後の事であった。拠点としていた住居は死体に溢れ、見物人がたかっていた。この異常な光景を見たルイたちは群衆を掻き分けて急いで家に入っていった。

 

中ではキャットが遺体を外に出している最中であった。

 

「キャットさん!これはどういう状況だ!?」

 

「ルイさん……。吟遊詩人は……特憲でした……」

 

「は?」

 

キャットの表情とこの惨劇を見れば冗談ではないことは分かる。ここで戦闘が発生し何人も死んでいるのだ。

 

「レッドは……奥に……」

 

かろうじて絞り出したようなキャットの言葉に、ルイは胸騒ぎを覚えつつ奥の部屋へ向かった。そしてうずくまっているフレイムを見て愕然とする。

 

「その………遺体はまさか……」

 

後からその場に寝かされたであろう血で赤く染まった女性の頭部には白い布がかけられていたが、特徴的な赤い髪をのぞかせていた。もはや聞かずとも分かる者の遺体であった。

 

ルイはフレイムに声をかける言葉が見つからず呆然としてしまった。

 

「……僕はその場にいたんです……」

 

「……」

 

「なのに、母がやられた後も恐怖で動けませんでした」

 

フレイムの頬に涙が伝った。母親を失った悲しさと何も出来なかった自分への悔しさが入り混じっているのだろう。

 

「騙し討ちか?吟遊詩人が敵を引き入れたのか?とにかくお前は無事で良かった……」

 

「いえ……皆あいつ1人にやられたんです」

 

「……何だって?」

 

この後の話は同じく生き残ったキャットに聞いた。レッドは吟遊詩人に斬り殺され即死だったという。ノーファクションの現頭領を暗殺しに来たとのことだったから確実に息の根を止められたのだろう。その現場に居合わせてしまったフレイムがいたたまれない。

 

 そして単身で乗り込んできた吟遊詩人こと特別憲兵隊長バード。こいつが裏切り者として過去にノーファクションに入り込み、ホーリーネーションをけしかけた張本人だったのだろう。レッドは吟遊詩人が特憲の隊長であると何らかのルートで把握していて迎え撃ったが、奴の想定を上回る力量に敗北した。化けの皮が剥がれた奴は相当の実力者だったのだ。

 

 ルイたちは敵がいつ舞い戻ってくるかも分からないことも考え、守りを固めてバーンが戻って来るのを待つことにした。

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