Kenshi -20years later- 作:さわやふみ
ルイ、バーン、ピア、レヴァ、ジュード
特憲バードによりレッドが殺されてから数日が経った頃、拠点内はいまだ重苦しい空気が消えないでいたが、そこに意外な人物が訪問してくる。
「僕はシンジロウと言います。ジュード君おりますか?」
侍の袴を着込んだ青年であった。襲撃されたばかりで都市連合の服装をした者の訪問に当然ルイは警戒する。
「……シンジロウ?ジュードの知り合いか?」
「はい。バスト戦でご一緒した者です」
「てことは都市連合兵だよな?」
「あ!いやいや。僕は都市連合の者じゃないです。昔はそうでしたけど」
「辞めたのか?何のようだよ」
「いえ、ここで事件があったのを見ていたらジュード君が入っていくのを見かけたもので元気かな〜って……」
「……ここで待ってろ。絶対に動くなよ」
「は、はい」
料理の支度をしていたジュードはシンジロウの顔を見るなり知り合いであることをルイに告げた。しかし吟遊詩人の件もあって、皆、シンジロウへの警戒は解いていない。
「あんた何で都市連合を抜けたんだ?」
距離を取りながらルイは問いただす。
「ええと、僕は以前から侍になるよりもスケルトン工学を勉強したいと思っていたので、この地で研究に身を捧げることにしたんです」
「そうなのか?ジュード。なんか胡散臭い感じするんだけど」
「本当だと思うよ。シンジロウさんは元々戦いも好きじゃなかったし、頭が良いから部将になったんじゃないかな」
「ジュード君!ありがとう!嬉しいよ!ところでチャド将軍は見つかったのかい?」
「いや……まだだけど、今はバタバタしてて」
「先日、この住居に強盗が入った件かい?」
「ああ、まぁそうです。えーと、強盗ではないんだけど」
「そうですか。僕はここの研究所で働くことにしたので何か出来ることがあったら言ってね!」
キラキラした目で喋るシンジロウは到底悪い人間には見えなかったが、特憲は吟遊詩人として入り込んでくるような組織である。ルイは話半分に気を許さないようにした。
そんな折、バーンらがワールドエンドに帰ってきた。
「一体これはどういうことかな?」
バーンは慌てる様子もなく荒れた拠点に目をやった。
「バーン、どこ行ってたんだよ。特憲の隊長が1人で攻め込んできた。吟遊詩人って名乗ってた奴だ」
「……それで被害状況は?」
「レッドが……やられた」
誰も言い出さず重たい空気であったため、流れでルイが打ち明けた。そしてこの報告にさすがのカンやシュライク等は驚きを隠せないでいるようだ。
「やられたって……死んだのか?」
意外にもカンが身を乗り出して質問してくる。
「ああ。それと雇っていた傭兵団が壊滅したようだ。他の私らメンバーは無事だけど」
「……そうか。吟遊詩人……アイツが……。誰か戦った奴はいるのか?もしくは戦闘を見た奴は?」
見回すカンに対してこれまで口をつぐんでいたキャットが応える。
「わ、私が見てました」
「どうだった?
「無限?剣法でしたっけ……?恐らく使ってもいなかったかと……」
「ちっ……」
「昔の吟遊詩人とはまるで別人の動きです。戦闘の達人でした」
「猫かぶってた裏切り者なんだから当たり前だろうが。そういやお前もグリフィンチームだったよな。違和感とか気づかなかったのか?実はお前も裏切り者か?」
「い、いえ私は違います……!」
キャットは容疑者の1人であるにも関わらず直前まで吟遊詩人と親しくしてしまっていたのが後ろめたいのだろう。それ以降はまた縮こまって喋らなくなってしまった。
「で、これからどうすんだ?立案者のレッドがいなくなっても進められるのか?」
カンはいつもの口調でバーンを見やった。
「問題ない。続行だ」
バーンはレッドの死をまるで気にする様子もなく坦々と応えた。スケルトンなので当然と言えば当然なのかもしれないが、ルイにとっては何か癪に障る反応であったこともあり、話に強引に割って入る。
「レッドが亡くなった直後で言いにくいのだけど、チャドの調査はどうなった?それに吟遊詩人がサッドニールはテングの収監所に幽閉されていると言っていた。だから私たちはもう別行動するがいいな?」
「そうか。では少し整理しよう。まずチャドは死亡で確定だ」
バーンの口から平然と述べられた師匠の訃報にジュードの髪が総毛立っていくのを横でルイはヒシヒシと感じた。
「待って!」
およそジュードらしくない荒らげた口調でバーンの言葉を遮ると怒りの表情で問い詰める。
「いつ分かったん……です?」
「今回の遠征でだ。有力筋の情報だから間違いない」
「……。最期は……どのようだったか分かってるのですか?」
「これは恐らくとしか言えないが特憲に殺られたと思われる」
「また……特憲!!」
その場にいる一同に共通の殺意が湧く。
誰かが殺された時、必ずと言っていいほどに出てくるこの名にルイの目は血走った。バーンはその様子に気づきながらも話を進める。
「……続けるぞ。君は吟遊詩人がサッドニールの居場所を伝えたと言うが、これは誰でも分かる罠だ。本来なら行かないほうがいいだろう」
「だろうな。だがこれは私の問題だ。あんたらに迷惑かけずに自分で解決する」
「具体的にはどうするつもりかね?」
「いま考え中だ」
「テングの収監所については知っているのかね?」
「ああ、都市連合が所有する最大の刑務所だろ?軍事基地レベルのセキュリティなのは知ってる」
「ならば君たちだけではどうしようもないことは分かるはずだ」
「ふん。正面突破なんて考えないさ。忍者らしくやるよ」
バーンのAIコアがキュインと音を立てる。
「潜入か。それも長い歴史の中で成功した事例を聞いたことはないな」
「じゃあ私らが初の攻略者になるかもな」
「ピアやレヴァはともかく君は隠密の数値を計測すると60程度だ。発見されるだろうね」
「うるさいな。確率はゼロじゃないだろ」
「いや、ゼロに限りなく近い」
先ほどからのバーンの全否定にルイは声を荒らげる。
「あんたさっきから何なんだよ。傭兵に正面攻めさせて陽動しつつ、裏で潜入とか方法は色々あるだろ!」
「浅知恵でしかないな。それぐらい相手も対応してくるだろう」
「じゃああんただったらどうするんだ?否定してばっかしてないで案を出してみろよ」
「そうだね。第1案としては……サッドニールを諦める」
「は?」
ルイが怒りに任せて反論しようとした時。
横から口を挟んだのはシュライクであった。
「おい、バーン。サッドニールは
「自らの生命の危機に瀕した場合、我々は自動承認することにしている。生き残った三耆宿に託せるようにな」
「なるほど。ならば平気か」
まるでサッドニールを見捨てても問題ないかのような会話にルイは思わず語気を荒げる。
「何の話してるか分かんないけど平気じゃない……!かつての仲間だろ!」
「慌てるな。または第2案として、相手の想定の上を行く戦力を集めてテングの収監所を叩くことも考えられる」
「は!それこそ浅知恵じゃないか。そんな戦力どこにあるんだ?スケルトンは出来もしないことを妄想するのか?」
「出来るよ。一時的にだけどタイミング次第で大部隊レベルの戦力は作れる」
平然と述べられた内容にルイは言葉に詰まる。
「……あんたら……まだ他にも仲間がいるのか?つーか、あんたらの目的って本当に特憲を倒すことだけなのか?国家転覆とか企んでるんじゃないだろうな」
「もはや大勢は整った。君には我々の本当の目的を教えてもいいだろう。前にも言ったかもしれないが、私の目的は人類の存続と繁栄だ」
「またくだらない嘘ではぐらかしか。そんな平和そうな目的のどこに戦力が必要になるんだ?」
これに乗っかったのはシュライクであった。
「そうだぞ、バーン。あんたはスケルトンらしく崇高で気持ち悪い目的を掲げてるのだろうけど、私らがやろうとしていることはたんなる都市連合への復讐さ」
「復讐って……やはり戦いをふっかけるのか?」
「いいや、戦争やテロ活動などではない。我々がしようとしていることは……ノーブルサークルの解体だ」
「!!」
「彼らが既得権益だけにすがりつき、自分たちが利益を得るだけのために人類の発展を阻害しているのは明白だ。我々はこれを除く計画を長い間たててきた」
さらりと述べられた衝撃の内容にルイ一行は唖然としてしまう。
「ノ……ノーブルサークル!?都市連合の領主たちじゃないか!そんなこと出来るのかよ」
「君も以前に都市連合を相手にする決意を述べていたじゃないか」
「い、いやそれはあくまで手を出してくるならだよ」
「防衛だけでは根本解決にはならないのはこれまでの事例を見てきて気がついているはずだ。まぁこの話は後にしよう。いずれにしろ、我々の目的のためにテングの収監所の襲撃に手を貸しても良い」
「なに……?」
突然のバーンの提案にルイは固まってしまった。テングの収監所は都市連合最強の要塞と言っていいほどの施設であるとともに、今回はあの特憲が罠を張って待ち構えている。相当のリスクがあるのは間違いないのだ。
「特憲が待ち受けている可能性が高いなら、まとめて殲滅する良い機会なのだよ」
「特憲か……あんたらが奴らを狙ってたのは……」
「特憲はノーブルサークルを解体するにあたって先に排除しなければならない組織だ。どうせ必ず戦うことになるだろう」
この申し出はルイにとって思いもしない事であった。猛者であるバーンらの参戦はサッドニール救出の可能性を大分上げる。都市連合にとって監獄破りは重罪だしやるならとことんやれる体制が望ましかった。
「テングの収監所にはゴリ押しで行くのか?」
「そうだ。ただし作戦および構成や時期は私が決める」
「あ、ああ。サッドニールを救い出せるならそれでいいよ。あんたらだけでやろうと思うなよ?私も行くからな」
「無論だ。恐らく総力戦になる。君たちの力も十分利用させてもらうよ」
それぞれの思惑が一致し、ついに因縁の戦いがいま静かに始まろうとしていた。