Kenshi -20years later- 作:さわやふみ
ルイ、バーン、ピア、レヴァ、ジュード
都市連合の首都ヘフト
呼び出しを受けたレディ・ミズイはロード・オオタと面会していた。相変わらずオオタは数人の屈強な剣士で周りを固めており、もはや皇帝よりも物々しい警備体制だ。
「これはこれはレディ・ミズイ。バストの整備で忙しい中、呼び出してしまい申し訳ない」
「いえ、閣下のためでしたらいつでもかけつけますわ。今日はテングJr皇帝はどちらに?」
ミズイはオオタ派に鞍替えをしていたものの、ヘフトに来た際に建前上テングJr皇帝を訪ねていたが、不在であったのだ。
「ああ。陛下はハウラーメイズ地方へ視察に行っておられる」
「あら、そうでしたの。引きこもりの陛下にしては珍しい」
「わははは。まぁたまには外の世界を見てみたいだろうから俺が勧めたのだよ」
テングJrは幼い頃から遊び漬けにされた傀儡皇帝である。それが辺境の地へ自ら赴くことなど異例中の異例とも言えた。本来ならば皇帝が政務に興味を持たないようオオタも止めに入るはずであったが今回はそのような気配がないように見えた。
「まぁ。それは良いことですわね。それで……今日はどうされたのかしら?」
「うむ。ついに機兵計画が動き出す時が来たぞ」
これを聞いてミズイの目は鋭くなる。ついにこの男は皇帝を差し置いて帝国を乗っ取る計画を実行に移し始めたと悟ったのだ。
ハウラーメイズとバストの攻略。
ロンゲン自身の老化によるロンゲン派の縮小。
もはやオオタの影響力は都市連合全体に及び、大量軍事兵器の目処がたったことで乗っ取る算段がついたのだ。皇帝を一時的にハウラーメイズに追いやり、ヘフトに残る数少ない皇帝派の兵士も視察に同行させ掌握しやすい体制を整えたと見える。
「まさか、鉄蜘蛛を制御できる目処がついたのですか?」
オオタはニヤリと笑いながら顎に貯えた髭を手でなぞる。
「若いがネムラという科学者を覚えているか?あれを特憲にいれて研究を続けさせたのだ」
「ああ、一度お会いしたことがあります。スケルトン工学に秀でておられる方でしたね。……成功したのですか?」
「いや、それが最後の承認機構が上手く動かないらしいのだ。何やら暗号がかかっていると特憲隊長のバードから連絡があってな」
ミズイは表情を変えずに手を口元に近づけ考え込む。
「もしかしたら……私のパスコードでいけるかもしれません。初期の段階で暴走すると危険なので制御システムを導入していました」
この言葉に対して急にオオタの様子が変わる。
「……ほう。それは可能性が高そうだな。バードを呼べ!早速試してみよう」
特憲隊長バードは呼ばれてすぐに駆けつけた。相変わらず仮面をつけており表情を見ることは出来ない。そして抑揚のない口調でミズイに喋りかけてきた。
「またお会いしましたね、レディ・ミズイ。では研究室へ参りますのでついてきてください」
オオタの家を出て2人は研究室がある塔へと向かった。
「制御権は分けるのかしら?」
歩きながらミズイはおもむろに問いかけた。
「……大量軍事兵器の操作権の事ですか?軍事最高責任者のロード・オオタが全権を請け負いますから彼が決めることです」
「そう……。本当に解放するつもり?」
「今さら何を言い出すのです。工場には500を超える鉄蜘蛛が眠っている。それを全部起動し兵力に出来れば帝国の力は揺るがないものとなります。ホーリーネーションも征服出来るでしょうし、未開の地も全て踏破出来るかもしれません」
「あれを個人が受け持つには大き過ぎるわ」
「言いたいことは分かりますが安心してください。ロード・オオタは破壊者にはなりませんよ」
「…………」
「ではこちらです」
バードが案内する先には特憲のネムラが待機していた。
「こちらが噂の若き有能科学者さん?」
「はい。これから次世代を担うには剣術だけでなく
知能も必要ですからね」
「では操作端末を見せて頂戴」
ミズイはそう言うとネムラから端末を受け取り続ける。
「……恐らくこれは禁忌にさえ触れているかもしれない人類史の転換点になる行為よ。後戻り出来ないけどいいわね?私のパスコードを入れたら全権がこの操作端末に移譲されるわ」
「元々はあなたの興味で始めたことでしょう。今さら後に引き返すことはありえません」
「そう……。この端末は彼に紐づいているけど……特憲隊長のあなたも端末を保持しておかなくていいのかしら?」
「大丈夫です。ネムラは私の忠実なる配下なので心配には及びません。それにロード・オオタは大変用心深いお方です。いま私が権限を持てばあらぬ疑いをかけられるでしょう」
「……そうなのね。ではやるわ」
ミズイは意を決したようで、端末に暗号らしき文字列を入力する。すると端末からは電子音らしき小さな音が微かに鳴った。
「これで、始まったのですか?」
「ええ、このGPS信号マップを見てみなさい。禁忌の島にある工場から鉄蜘蛛の群れが列をなしてこちらに向かい始めているでしょう」
「おお……!素晴らしい……ついに歴史が動き出す。長い間、停滞していた不毛な時間がこれで終わる」
微かにこぶしを震わせているバードを覗き込むようにミズイは問いかける。
「随分感慨深げだけど……何か目指しているものがあったのかしら?特憲隊長さん」
バードは我に返って返答する。
「当然です。我々、特別憲兵隊はノーブルサークルの私的部隊と勘違いされがちですが、元々創設された目的は盤石な大帝国の礎を築くことにあります。北から南まで大陸を横断して支配する完璧な国家の復活がこれで成され、失われた超人類社会の復活は目前となったのです。胸が躍るような気持ちになるのも無理はないですよ」
「壮大ですわね。お役に立てそうで何よりですわ」
「さて、ご協力頂いた上で大変心苦しいのですが、レディ・ミズイ。あなたには国家反逆罪の嫌疑がかけられております」
唐突に打ち明けられた宣告にさすがのミズイもキョトンとしている。
「……私に?なぜ?」
「大量軍事兵器の研究を始めてからある期間ロード・オオタに報告しておりませんでしたよね。それが軍事技術独占容疑に抵触しました」
「ふーん。そう……」
「随分とあっさり受け止められますね。不服はないのですか?」
「……私は常に研究状況を皇帝陛下にお伝えしておりました。誤解はすぐに解けるでしょう」
「いえ、それがこれはロード・オオタ直々の指令です。軍事関係のことはあの方に一任されておりますので申し開きはロード・オオタにしてください」
大量軍事兵器の制御が軌道に乗ろうとしている今、その力を独占したいロード・オオタにとって仕組みをある程度把握している前任研究者のミズイが邪魔となった。ミズイが権力に目がくらみ、何らかの妨害や操作権限の奪取を企てないとも限らない。よってその前に排除しようと決めた。そう捉えてもおかしくない動きであった。オオタ派になりバストという地方都市への転属を願い出たにも関わらず、大量軍事兵器の研究に携わっていたことでミズイも消される対象となったのだ。ミズイはそれを察したのか無駄に抵抗する素振りも見せなかった。
「……分かった。ただ大量軍事兵器は危険な代物よ。複数人で管理することを勧めるわ」
「ご忠告ありがとうございます。そこは我々、特別憲兵隊も関わりますのでご心配なく」
「……」
「では、衛兵。ここで彼女を引き渡します。後の処置はロード・オオタから承っているでしょうあなた達に任せます」
ミズイは複数人の衛兵に何処かへと連れられて行かれた。その様子をバードは無言で見送った後、隣にいるネムラに声を掛ける。
「さて……これから当分の間ヘフトは大忙しになるが、任せていいな?ネムラ」
「はい。承知しました。鉄蜘蛛の一団を操作できるのはこの認証端末だけですが、私が預かっていて宜しいのですか?」
「ああ、構わない。私はお前を信用している」
「ありがとうございます」
「鉄蜘蛛がここに到着したらまずは細かい操作を覚えろ。小隊に分けた進軍や陣形など戦術面をマスターするのだ」
「承知しました。仰せのままに」
「それが済んだら早速ホーリーネーションに侵攻することになるだろう。ロード・オオタも力を誇示したいだろうしな。オクランの盾辺りを落とせばホリネも圧倒的な兵力の差に膝まづくだろう」
「隊長はどうされるのですか?」
「私はテングの収監所に向かう。そこでノーファクションの亡霊たちを根絶やしにしなければならない」
「奴ら来ますでしょうか?頭領のレッドも殺したのでしょう?」
「彼女が頭領だったのは少し意外だったが
大方ボスの娘であるルイを迎え入れるまでの繋ぎだったのだろう。ただ手際も良かったのでこちらとしても早めに始末出来て良かった。そしてルイは必ず来る。それを助けに元ノーファクションの残党もな。そこを一網打尽にする」
「大仕事になりますね」
「ああ。特別憲兵隊にとっても総力戦になるだろう。フグと十志剣を連れていく。それにアイツもな」
「すごい面子ですね。ノーファクションはそれほどの相手なのですか?」
「特定脅威組織に認定したのはそこと反奴隷主義者ぐらいだろうな。数百年の歴史を持つ反奴隷主義者に対してノーファクションは十数年の浅い期間だけで認定されている。それだけでも奴らの危険度が分かるはずだ」
「でも20年前の掃討戦でローグを打ち取っているのでしょう?」
「……お前たちにはその時のこちらの損害を公表していないが、当時の十志剣は全滅し、先代特憲隊長も戦死している」
「なんと……それほどとは!」
「ここで完璧に不逞因子を取り除き、我が都市連合が世界を掌握する時代を迎えるのだ。お前には期待しているぞ」
「はい!光栄です。全身全霊で頑張ります」
その後、バードは現有する特別憲兵隊の最大戦力を率いてテングの収監所へ進軍を開始した。