Kenshi -20years later- 作:さわやふみ
ルイ、バーン、ピア、レヴァ、ジュード
ヘングにおける政変の最中、ルイ一派はテングの収監所への襲撃作戦を練っていたが、意外な再会に驚いていた。
「何でお前がここにいんだよ。ガルベス」
「よぉ、久しぶりだな。生きてたのか」
悪態をつくような喋り方は変わってなかったが、ガルベスは以前に持っていた猛々しい闘志は減り、変わりに腹をくくったような妙な落ち着きを感じられる。
「特憲に入ったって聞いたぞ。お前もスパイか?まさか私の仲間に手をかけたのはお前じゃないだろうな」
ルイの追求に対して回答したのはバーンであった。
「いや、彼はこちら側だよ」
「なんで言いきれるの?あんたも吟遊詩人が特憲だとずっと見抜けなかったじゃん」
「奴は初期の頃から私より先にノーファクションに入り込んでいたし人格すら完璧に装っていた。それにひきかえガルベスは特憲と決別するほどの貢献を既にしてくれている」
「ポートノースの件か。そこが特別憲兵隊養成学校の拠点だと垂れ込んだのはお前らしいな。どういう風の吹き回しだ?」
ルイは収監所に行くにあたって、バーン達がポートノースを襲撃していたことを共有されていた。ガルベスのほうを向き直ると、当の本人も頭をかきながら理由を探しているようだ。
「俺も自分でどうかしちまったと思ってるぜ。まさか都市連合にたてついてしまうなんてよ」
「私の仲間の事は何か知っているのか?解散後に特憲に襲撃されたって聞いた」
「ああ……全員排除したと言っていた」
「誰が?特憲隊長か?」
「そうだ。奴は偽ってはないと思う」
「そいつが元ノーファクションの吟遊詩人であってバードという名前を名乗っている特憲の隊長ってことで間違いないよな?」
バーンは否定せず相槌を打っている。
「機密文書にも奴の記載があった。我々スケルトンのセンサーも掻い潜り道化を演じきっていたのだ」
「あいつはサッドニールがテングの収監所にいると言っていた。待ち構えているなら容赦しねぇ。皆の仇を必ずとってやる」
対してガルベスが意外な反応を見せる。
「捕らえたスケルトンが収監所に送られたのはたぶん事実だ。だがバードは上忍のサスケをも屠った。相当の実力者だぞ。出来ればやりたくねぇ」
これにバーンも同調する。
「私もそれに同意だ。君らは戦うべきではない。まぁ奴自身は収監所にいないとは思うが」
「え!バーンは特憲がいたらついでに殲滅するって言ってたじゃん」
「ああ、その通りだ。今回、立ちはだかる特憲はついでに殲滅する方針で間違いない。ただ吟遊詩人……いやバードは聞いている情報に比べて実力が正確に計測出来ておらず未知数だ。仮に遭遇したら無理に戦わず私が駆けつけるまで時間を稼いでほしい」
「あんたなら倒せるのか?」
ルイの問いかけにバーンのCPUが音をたてて計算を開始する。
「基本的にはやれるだろう。しかし先ほども述べたが実力が未知数であることにかわりはない。それに私が戦うことになる相手は恐らく彼ではない」
皆の表情が明らかに曇っていく。特憲と真っ向からぶつかる覚悟を持つにあたって事前に知っておくべき情報として全員に共有された内容がさらにあったのだ。
それは……
「アイゴアのことだな。何でソイツが来るって分かるんだよ。そもそも都市連合に指名手配されてる奴だし、生きているかも分からないんじゃないのか?」
「……最近特憲内の2トップが死に、奴らの中でもパワーバランスが変化した。それを成せる実力者は都市連合の中ではアイゴアしかいない。そして奴を飼い慣らしているのは恐らく特憲……またはノーブルサークルだ」
もはやバーンが何を言っているのかルイはよく分からなくなっていた。
「うーん……、アイゴアは指名手配なんだよね?なのに飼っている者がいるということ?もしかして奴らも一枚岩じゃないってこと?」
「そのとおりだ。元々ノーブルサークルは派閥争いをしており、特憲がその代理戦争を始めていた。しかしバードがアイゴアというカードを切って争いを治めたのだろう」
「それで今回も使ってくる可能性があるわけか」
「バードはノーファクションを目の敵にしている。指名手配犯だから表立っては使わないだろうが、ここぞという場面で投入する可能性は高い。そして奴が登場した場合、特憲も本気ということになる。恐らく戦争のような戦闘規模となり、こちらにも被害が出ることだろう。アイゴアと遭遇した者は決して戦おうとせずに私を呼べ。私が討ち取る」
平然と言いのけた“戦争”というバーンの言葉に皆の表情は緊張でこわばる。サッドニール救出と言いつつ、都市連合が保有する要塞に近い最大級の収監所を攻撃し、待ち構えている特憲を討ち取ることが目的なのだ。成功は元より死傷者が出ないことのほうがおかしかった。
ただ、その中でもバーンのアイゴアに対する自信は皆を勇気づける。特にガルベスからは感心の言葉すら出てくる。
「あんた……すげぇな。アイゴアも殺れるってのか?」
「ああ。ただし条件として戦場は広い屋外がいい。出来れば荒野がいいな。まぁそうなると思うが」
ルイの頭の中では収監所内での戦いのみをイメージしていたが、バーンの想定はめっきり屋外戦であった。
「あんたの得物が長柄武器だからだな。ってことはあんたは収監所へ突入せず外で戦うのか?」
「そうだ。私は収監所の周辺を確保し、敵の増援部隊の相手をする役回りとなるだろう。奴らのメインの罠は収監所内ではなく恐らく警報を聞いた後の増援による包囲だ」
「それで突入組と周辺確保組に分けるのか。私は収監所への突入組がいい」
「ああ、そのつもりだ。収監所へはカン、ルイ、ワイアットの3チームで突入する」
「ワイアット!?ってもしかして砂忍者の!?」
ギシュバ8人衆を抜けた後、砂忍者の頭領を引き継いだ男だ。ノーファクションと繋がりがあるだけでなく襲撃にも参加してくれることに驚きを隠せなかった。
「ああ。砂忍者が来てくれるのは1階までの契約だ。2階3階に行くにつれ脱出出来る可能性は下がるからな。その代わり1階は死守してくれるだろう」
収監所は過去の技術を利用した3階建ての巨大砦だ。当然、最上階に行くほど出口から遠ざかる形となる。
「そうか。アイツも絡んでるとは……。そうなると私らは上の階層か?」
「うむ。君が2階、カンは3階を捜索及び敵の殲滅を行う。サッドニールを見つけ次第、この2チームは合流し牢屋を解錠する。解錠はカンチームのボーという解錠のスペシャリストが担当する」
「解錠のプロもいるのか。完璧だな」
「気をつけなければならないのは収監所にいる所長だ。”管理人”と呼ばれておりそこそこ腕が立つ者が常駐している。複数人で速やかに討ち取れ。また収監所内に特憲が待ち受けていた場合も同様だ」
「おーけい。収監所内にアイゴアがいたらどうすんだ?」
「可能性としては低いが、中にアイゴアがいる場合はカンが担当し時間を稼ぐ。その場合サッドニールを救出次第、すぐに脱出しろ」
「もしかしてカンもあのアイゴアとタイマン張れるのか?参考までにあんたらのBPってやつの見立てを教えてよ」
「カンが91。私は97。そして20年前のアイゴアが95だ。総評値だし私の見立てだから参考として扱うように」
一般的にBP90台は到達すら困難な達人の領域と認識されている。にも関わらずアイゴアと並ぶほどの者が今ここに2人もいるのだ。全盛期ノーファクションの戦力がいくばくか、もはや想像を超えていた。
「……マジか。誇張……じゃないよな。アイゴアより上なのか」
ルイたちが感嘆の声を上げている横でシュライクも誇らしげにしている。
「本当だよ。バーンはたぶんノーファクションで最強だ」
「私には鍛錬する時間が無限にあった。カンもアイゴアに匹敵する力量まで成長した。皆、元々はそれほど強くなかったが多くの経験が我々を叩き上げ猛者に仕上げたのだ。まぁそういうところが特憲に警戒されるポイントにもなったのかもしれないが」
アイゴアが出てくることにテングの収監所襲撃の難しさと恐ろしさを実感していた中で、バーンがそれを上回る実力の持ち主だと聞いて皆の目にも希望の光が宿り始める。ガルベスも先ほどまでの投げやりの状態から進んで戦う様子を見せる。
「ようし。俺もやるなら屋外がいいぜ」
「うむ。君には敵増援部隊を迎撃するチームに入ってもらいたい。およそ皆の組み分けは以下だ。頭に入れてくれ」
そう言ってバーンは単独で考えたであろうチーム分けを披露するが、その内容はルイの想像を超えた構成であった。
■収監所突入班3チーム
・チームA
カン、アグヌ、ボー、スタップズモムソー、キャット
・チームB
ルイ、ピア、レヴァ、ジュード、フレイム
・チームC
ワイアット以下砂忍者
■周辺確保班
・チームD(東方)
バーン、シュライク、グリーン、ガルベス、他傭兵等
・チームE(西方)
グリフィン以下ホーリーネーション勢
・チームF(北方)
反乱農民援軍
・チームG(南方)
反奴隷主義者援軍
■留守番
ナパーロ
「これ……周辺確保班はどういうことだ?グリフィン!?他にも色んな組織がいるぞ!?」
ルイは思いもよらぬ名前の面々に驚きを隠せないでいる。
「これが我々のネットワークと資金をフルにいかした瞬間最大戦力だ。他にもテックハンターや傭兵がお忍びで参戦してくれる。今回は周辺における戦闘が広範囲で激戦となる想定だからな」
「すげぇ……あ!このカンチームにいるアグヌってもしかして……」
「そうだ。私と同じスケルトンで一番の力持ちだ。膂力だけでいったら誰よりも強い。サッドニールが探していたのもアグヌだろうな。ボーも潜入と暗殺のプロフェッショナルだ。正直相手が待ち構えていないならばカンチームのメンバーだけで襲撃が成功していたかもしれない面子だ」
「なんちゅーメンバーだ。これなら……あの収監所も本当にやれるかもしれない!」
「ああ。ここまで構築出来たのは私の力だけではないが、こちらは都市連合に仇なす者の連合だ。敵もこれほどの規模の襲撃は予想出来ていないだろう。また襲撃も都市連合の兵力が首都ヘフトに集中している時期を狙う予定だ」
「おお!そんな日があるのか?」
「ある。願わくばこの日で全て決着をつけたい」
「すごいな……。だがそれはそうと……グリフィンは結局仲間だったのかよ!ということはさぁ!」
「そうだ。彼と連携して君をここまで連れてきた」
「やっぱりか!これ、発信器だろ!」
ルイは毛皮商の通り道で母親ルミの形見としてグリフィンから手渡されたペンダントを見せた。
「察しがいいな。浮浪忍者にはそこを目指して行って貰ったのだよ。彼らの一番の目的はモール救出だったから手を組んだ」
「今さらどうこう言うつもりはないけど随分回りくどいやり方したな。普通に私を呼んだり出来なかったのかよ」
「自覚がないかもしれないが君は厳重に監視されていた。戦いが始まる前に気どられずに連れてくる機会はここしかなかった」
「禁忌の島絡みって奴か」
「それもあるが……元々特憲はノーファクションの頭領の子供としてお前を警戒していたのだ」
「特憲……そうだったのか。じゃあ今回はとことんやってやる」
「さらに相手にはアイゴア以外に取り得る手段として十志剣がいる」
「立会人最高峰の武装集団だな」
「ああ。武器の相性を利用して連携してくる対猛者専門部隊だ。ティンフィストをも撃退したらしい。この集団は連携を得意とするため屋外の増援部隊として現れるかもしれない。仮に収監所内にいた場合は必ずカンと合流して戦うように」
「了解だ。叩きのめしてやる」
「作戦の概要は以上だ。細かい調整は別途持ち場に応じてチームごとに行う」
「よーし、分かった。やってやる!ニール待ってろよ!必ず助け出してやる!」
特別憲兵隊ひいては都市連合と戦うことを決めた者たち各々は不退転の覚悟を持ち、来たるべき戦いに備えて準備を進めるのであった。