Kenshi -20years later-   作:さわやふみ

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149.前哨戦

「おーい、そこの農民さん。あんたらここで何やってんだ?」

 

ガルベスは板剣を持ちながらズカズカと農民らしき格好をした集団がたむろするキャンプに足を踏み入れていく。

 

対するその集団はガルベスを見ると顔つきを変えて、近くに積んである籠に急いで向かう。しかしガルベスはそれを許さなかった。振りかぶった板剣により数人の集団は背中からなぎ倒されたのだ。

 

「て……敵襲ぅ!!」

 

慌てて集団の生き残りが叫ぶが、声に反応して増援が来る様子はない。ガルベスはそれをあざ笑いながら距離を縮めていく。

 

「仲間は来ないぜ。あんたら農民じゃないのバレバレなんだよ。収監所で異変が起きた場合の待機兵だろ?」

 

「……っ!」

 

集団はそのまま為す術もなくガルベスに蹴散らされていった。

 

「こちらも片付いたようだな」

 

闇夜からスケルトンの駆動音が近づき、抑揚のない声が聞こえてくるが、ガルベスは驚くこともなくその声に応える。

 

「ああ、ここまで増援用の偽装農民キャンプを設置しているとは。何も知らずに収監所を襲撃していたら大量の侍が駆けつけることになってたな」

 

バーン等遊撃隊は収監所の周辺に展開している都市連合の待機兵を事前に排除して攻略しやすくしていた。

 

「しかし、手応えのない新兵ばかりだ。特憲の備えはさすがにこれだけではあるまい」

 

「こいつらは本隊が到着するまでのただの時間稼ぎってことか」

 

「今回、本隊まで相手にすることはないだろう。可能ならば来る前に引き揚げる」

 

「収監所はそんなに簡単にいくのか?都市連合が誇る要塞だぞ」

 

「カンがいれば容易だろう。それにルイもいる」

 

「いや、さすがにルイは戦力にならないだろ。士気を上げるには充分だが」

 

「ああ、君は知らないのか。ルイは無想剣舞を極めて今や技術だけならモールに匹敵する力を持っている」

 

「何だって!?あり得ねぇだろ」

 

「うむ。異常な成長スピードだが、あの子はローグの子でもある」

 

サラリと述べられたバーンの言葉にガルベスは驚愕し、昔にルイと出会った頃を思い出す。

 

「……なに!!だからあの時アイツはアイゴアの話を……」

 

「そろそろルイたちが突入を始める頃だ。周りの増援も排除出来たし予定通り続行する」

 

「ああ、早く戻ろうぜ」

 

バーン等遊撃隊はそのまま闇夜に紛れて姿を消していった。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 同刻、ルイ等、収監所襲撃隊も音を消し警戒しながら暗い夜道を進んでいた。

 遠い砂漠の中央には要塞のような巨大建造物の頂上が顔を覗かせている。それを見たルイはポートサウスに攻め込む前のことを思いだしていた。あの時はトゥーラを救うためとは言え、犠牲を出した。今回もサッドニールを助けるためにたくさん犠牲者が出る可能性がある。特憲が待ち構えていることもあり、その数はポートサウスの比ではないかもしれないのだ。

 バーンが特憲を潰す目的のために大規模要員を招集してくれたことで襲撃する決意が生まれたが、この選択は本当に良かったのかといまだに何度も自身に問いかけてしまう。これから起きるであろう死闘に自分の身を投じるのが怖いわけではない。むしろ自分の命を賭けるだけで良いならそうしたい。この不毛かもしれない戦いに多くの命を賭ける必要性があるのか。終わった後の結末を自分が受け止められることが出来るのか。ルイはそこに一抹の不安を感じていたのだ。

 周りからの視線を感じハッとして我に返ると、ジュード等ルイチームの面々がこちらを心配そうに見ているのに気がつく。

 

「どうしたんすか?ルイさん」

 

最年少のフレイムも感づいているようで声をかけてくるほどだ。

 

「いや……お前さ、今度は絶対に戦おうとするなよ」

 

「今度?僕は今回初陣ですけど」

 

「そ、そうだったな」

 

このやり取りをジュードは深刻な表情で見ているのが分かった。ルイがポートサウスの戦いで戦死したシャイニングをフレイムに重ね合わせているのを察知したからだろう。あいつは一番苦しい時もルイを見限ることはなく励ましてくれた。最期も一生懸命尽くそうとしてくれた結果の戦死だった。フレイムも少しお気楽な性格もあるが、母親レッドの仇を取ると息巻いている。無茶をしてしまわないか心配なのだ。

 ジュードが何か言おうとした瞬間、それを遮って喋りだしたのは深編笠を被った男、砂忍者として合流したワイアットであった。

 

「よぉ、久しぶりだな。また随分と顔つきが変わったようだが、何かあったか?トゥーラはいないのか?」

 

「ああ……いない。そういやあんたトゥーラの事が好きだったな……」

 

「はぁ!?ち、ちげーし!」

 

砂忍者の頭領が部下の前でも狼狽えているのを見てトゥーラのその後の事は言えなかった。

 

「何であんたもここに来ているんだ?」

 

「利害の一致ってやつだ。俺も特憲に思うところがあってバーンの誘いに乗ってやった」

 

ワイアットは貴族となったギシュバの元を離れて、都市連合に敵対する盗賊の砂忍者となっていた。これまでの経歴を捨てて盗賊に落ちぶれた意図は不明だったのだが、特憲と何かしらあったのかと思うと納得がいった。

 

「ふーん……そうか。あんたの持ち場は収監所一階の占拠だけど大丈夫なのか?今回、特憲は罠を張って待ち構えているかもしれないんだ」

 

「はは!生意気な口を叩けるようになったな。そんなことより自分のミッションを気にしとけ。牢獄の解錠は出来る奴いんのか?仲間を救出しようとしてんだろ?」

 

「その辺は大丈夫だ。バーンが解錠のスペシャリストを用意してる」

 

「ほう。まぁ今回はあのノーファクション総出なんだろうからいらぬ世話だったか。カンも襲撃組にいるんだしお前は少し肩の力を抜いたらどうだ」

 

「私の仲間1人を助けるためにこんな大人数の人達が動いてくれてるんだ。適当には出来ないだろ」

 

「そりゃそうか。じゃあそうやってずっと肩に力いれとけ」

 

ワイアットは嫌味な笑みをこめながら自分の隊のほうへ戻っていってしまった。しかし彼が今回の襲撃前にルイたちの状況をフォローしに来てくれたのだということはこれまで経験を積んできたルイにも理解できるようになっていた。

 

(作戦前のコミュニケーションって奴か。性格は相変わらずだな)

 

思い返せば彼はなんだかんだポートサウスの時もそのような動きをしてこちらを気にかけてくれていた。砂忍者ではあるが根は良い奴なのかもしれない。だからこそそんな人間をなるべくこの戦いに巻き込みたくはなかった。今、ちょうど目が合ったジュードも同様だ。チャドの弟子としてついて来てくれたが師範の命を奪われても、また戦場に身を投じようとしてくれているのだ。

 彼からの言葉もワイアットと同じようなものであった。

 

「ルイ。彼の言う通りだ。俺は特憲を倒し、チャド師範の仇を討ちたいと思っている。例え俺が命を落としてもそれは俺が選んだ選択だし皆も自分で判断してついていきている。ルイは考えすぎなくていいんだ」

 

「ジュード……。ありがとな。そしてこれからもよろしくお願いします」

 

「な、なんだよ、改まって……」

 

「いや、今回の件が終わってもお前とはずっと一緒にいたいと思ってさ」

 

「え!!?」

 

ルイにとっては信頼のおけるメンバーでひっそりとテックハンターを続けていければと思っての発言であった。しかし驚いたようなジュードの意外な反応に少し不安にさせられる。

 

「え……だめか?ナパーロとニールも復活したら皆で誰にも邪魔されない場所に行きたいんだ。目処がついてるなら無理強いはしないよ」

 

「あ、いや!そういうことね!俺ももう行く所はないんだ。一緒にいてもいいなら是非こちらからお願いしたいよ」

 

「そうか!よかった」

 

「そしたらこんなところで死んでらんないな」

 

その後は喋る者は特におらず皆、皆、ただ黙々と目的地へと足を進めた。

 

 

 

 

 

 

 そして数キロ歩いた先にて、ついに目的の建造物が顔を見せる。これまで見た建物の中では一番巨大な代物だ。頂上が球状であるドーム型のこの建物は高い壁の上に造られており、入口まで長い坂道を駆け登る必要がある。入口に入ってからは3階層に分かれており、牢獄は3階の頂上と想定される。

 坂道の前にも数人の侍が屯しており、とてもじゃないがバレないように侵入するのは不可能に見えた。

 

ルイ一行は相手から発見されないよう、砂丘の窪みに約束の時間まで待機していた。

 

「さて、時間だ。バーンから中止の信号は上がらなかった。周辺の増援組排除は上手くいったようだな」

 

カンはゆっくりと腰を上げると背中から年季の入った斬馬刀を取り出す。

 

「各自の持ち場は予め示し合わせた場所から変わらねぇ。後は俺が撤退判断した際は速やかに引くぐらいだ。制圧したとしても気を抜くなよ」

 

あまり喋りたがらないカンがいつもより饒舌に指示を出していることに違和感を覚えながらも、これから大規模な戦いが始まるのを実感する。全員が生きて帰れるのが望ましいが、特憲を相手にしたらそんなわけにもいかないだろう。

 今はもうただただ憎悪の念に身を任せて修羅と化すしかない。そして被害が出ないよう相手を殲滅するしかないのだ。

 

「よし、行くぞ!斬って斬って斬りまくれ!!」

 

カンのかけ声と共にルイ、カン、ワイアットチームの面々は一斉に伏せていた窪地から飛び出していく。ルイも雄叫びを上げながら猛然と“テングの収監所”を目指して走り込む。

 遠目で見ていた収監所は近づくにつれてその禍々しい姿を見せつけてくる。これまで何者の侵入も拒み続けてきたそり立った壁は全てを飲み込まんとばかりに視界を覆うのだ。

 

「ノーファクションだ!奴らが攻めてきたぞ!」

 

やはり事前に襲撃の可能性は伝えられていたらしく、衛兵たちはパニックになることなく迎え撃つ構えだ。その中でも特に屈強そうな侍武者が前に出て声を上げる。

 

「ここは警備強化地域だ!すぐに立ち去れ!最後の警告だ!直ちに立ち退……ごぱっ!」

 

全てを言いきる前にその侍の頭はカンの斬馬刀により吹き飛ばされていた。死闘が幕開けしたことを誰もが認識した瞬間だった。

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