Kenshi -20years later-   作:さわやふみ

156 / 177
150.収監所の死闘①

「どけ!オラぁ!」

 

カンの怒号が室内に響き渡った。

収監所の外にいた衛兵を早々に蹴散らしたルイ等は坂道を駆け上り、玄関の真っ向から突入を開始したのだ。

 

【挿絵表示】

 

 収監所に駐屯していた都市連合の侍たちは突然の侵入者に慌てつつも各々武器を持って襲いかかってくる。気負わされずに戦いを挑む侍はさすがと思われたが、容赦ないカンの斬撃に対して何もできずに順に肉片と化していった。

 

「めぼしいのは上かぁ!?砂!後は任せるぞ!」

 

1階にツワモノがいないと判断したカンは予定通りその場を砂忍者に任せて2階へ駆け上っていく。事前調査によると2階には収監所の管理人ら上官の待機スペースがある。その者はメイトウ十手を所持しており、収監所において一番の使い手だ。これにカンをあてて抑える予定であった。

 ルイが後を追って2階に到達すると、既にカンは侍集団と対峙していた。その中に光り輝く十手を持った男が先頭にいる。恐らく管理人であろう。他の侍とは異質なオーラを放っている。

 

「貴様らぁ……生きて帰れると思うなよ」

 

長らく収監所の管理を任され、暗い部屋で数々の囚人や政治犯を拷問、虐待し、その悪名をこの地に轟かせていた者だ。陰湿な粘り気のあるダミ声で脅し文句を垂れる。しかし対峙するカンは臆することなく指示を出す。

 

「少しは骨のある奴がいないとな。ルイ、場所を替える。お前らは3階に行け。油断すんなよ」

 

「わ、分かった。気をつけて」

 

「ふん。誰に言ってんだ。早くいけ」

 

カンのごつくて大きな背中に頼もしさを感じつつもルイはそのまま最上階である3階を目指す。既に館内には警報が鳴り響いていてハチの巣をつついたような騒ぎとなっており、3階への道においても警備兵が武器を抜いて駆け下りてくるところであった。ルイは無想剣舞を使いそれを難なくかわしていく。浮浪忍者にいた時の経験は自分が思った以上に力量を高めたようで、都市連合の一般兵も最早、苦にならないようになっていた。そしてあっという間に襲い来る敵を片付けると3階の薄暗い空間に到達する。

 

「なんだここ……すごいな……」

 

直立型牢獄がところ狭しとばかりに不規則に並べられているのだ。もはや牢獄を使った迷路である。所々に政治犯のような活きの良くて気性が荒そうな囚人が閉じ込められており、こちらを見て開けるように叫んでいる。

ルイはそれに構わずにありったけの声で叫ぶ。

 

「ニール!サッドニール!助けに来たぞー!いたら返事しろー!」

 

「うっせーよ!早くここ開けろや!」

 

返ってくるのは見知らぬ囚人の声ばかりでサッドニールの返事は聞こえない。

 

「おい!お前は最近スケルトンがここに入れられたのを見てないか!?」

 

「あ?知らねーよ!それより俺を早くここから出してくれ!」

 

目が合った囚人に手当たり次第に聞いても有益な情報は返って来ない。

 

「ルイ。停止させられている可能性もある。慎重に探すぞ」

 

ピアは言うなりルイを押しのけて奥の方へ足を踏み入れていく。レヴァもその後を追っていく。

 

「待て!1人で行くなよ!ピアと私はこっち探すから、てめぇらはそっち探せ!」

 

浮浪忍者組が行くのを見てルイ、ジュード、フレイムの3人は別の通路を見ていく。

 

「気をつけろ……物陰から襲ってくる可能性もある。フレイムは後ろを見ていてくれ」

 

ジュードはルイの真横に並び一緒に前に進んでいってくれる。その真後ろをフレイムが続く形だ。

 

「ニール……!いたら返事をしろ……!」

 

ルイ達は牢獄に捕らえられている囚人の視線を浴びながら奥底へと進んでいく。そして3階においては抵抗らしい抵抗を受けないまま突き当たりに差し当たる。ここまであらかたの牢獄を確認した限りサッドニールが捕らえられている牢獄はなかった。残りは目の前にある部屋だけだ。

 

「ここは……開かないな……」

 

ガチャガチャと扉の取っ手を操作してもガッチリ鍵がかかっているようで扉はビクともしない。

 

「ピア!そっちにはいた!?」

 

「いない!」

 

簡潔な返事がドーム型の天井を反響して遠くから返ってくる。

 

「くそ!この扉、壊せないかな!?」

 

「……いや、大分頑丈そうだ。カンチームにいるボーという解錠のスペシャリストに頼もう」

 

扉に触れて厚さを確認しているジュードに聞くも、無理そうな返答が返ってくる。

 

「そうだな。3階は敵がいないし、まずは2階の支援に行こう!」

 

呆気ない3階の制圧に拍子抜けしながらもルイ等はそのまま2階に向かった。しかしここでも同様な事が起きていた。

 

「おう、お前らか。サッドニールはいたか?」

 

既にカンチームが2階を制圧していたのである。床には侍達の死体が転がっており、先程まで威勢を放っていた収監所の管理人らしき人物も転がっている。そしてカンチームにいるソルジャー型スケルトンのアグヌとスタップズモムソーという丸刈りの頭をした見た目がヤンキーなグリーンランド人は既に暇そうにしていたのだ。

 

「も、もう倒したのか?」

 

「ああ、張り合いなかったな。1階の砂も終わらせてるぞ」

 

「何だって?そしたらもうこの監獄所は全体を制圧出来てるってことか?」

 

「3階も終わったのか?だったらそうなるな」

 

「こ……こんなものなのか?最大級の監獄なんだろ……?」

 

「まぁ今回の襲撃組の戦力は戦争起こせるぐらい準備と大金を注ぎ込んでいるしなぁ。相手が何も備えてなかったんだとするとあり得ない話ではないが……」

 

さすがのカンも手応えが少なすぎたようで釈然としないようだ。

 

「とにかく、ボーさんに解錠してもらいたい扉があるんだ!連れてっていいか?」

 

「いいだろう。ボー、ついでに3階の様子を見てきてくれ」

 

「オーケイだ」

 

ボーは元々、反奴隷主義者の一員で若い頃に檻を解錠して回っていたらしく、まさに脱獄のスペシャリストであった。そして今回は特別に支援の名目で参加してくれていた。

 早速、ルイ達は3階の奥にある開かずの扉の前に来たがボーの険しい表情を見て難しさを悟る。

 

「この扉の解錠となると……相当な時間がかかってしまうな」

 

「どれくらいですか……?」

 

「3時間……かそれ以上か」

 

「……そんなに!」

 

収監所を制圧出来たとしてもそれは一時的なものであり、時間が経てばたつほど都市連合が軍隊を連れて増援に来てしまう恐れがあった。そうなると国家ほどの戦力を持たないノーファクションではとてもではないが戦闘の持続力がなく太刀打ちは出来ない。目標時間は長くても30分ほどであった。

 

ガンガンガン!

 

「ニール!いたら返事をしてくれ!」

 

ルイは力任せに開かずの扉を叩くが中からの反応はない。

 

「一体、この部屋は何なんだ?やけに厳重だな」

 

レヴァが他人事のように扉の固さに感心していると後ろの方から声が聞こえてくる。

 

「そこを開けたいのかい?」

 

どこかで聞いたような知らない男の声にルイたちは勢いよく振り向くが、その先には牢獄に閉じ込められた男がニヤついていた。ボロキレを着たグリーンランド人で長い事閉じ込められていたのか、髪や髭が程よく伸びていた。ルイは胡散臭さを感じつつも問いかける。

 

「あんた囚人のようだけど開けられるのか?」

 

「ああ、カギの場所を知っている」

 

「どこだ?」

 

「俺をここから出したら教えてやるよ」

 

「…………」

 

この男の言い分は自分が抜け出したいだけの駆け引きのようにも聞こえるが、ルイにとっては藁にもすがりたい状況である。捕らえられている時点で都市連合の敵だろうから、こちらの邪魔をする可能性も少ない。取りあえず試してみたい気持ちが先行し、自然と皆の様子を伺ってしまう。

 

「コイツ自体の牢獄はすぐに開けられそうだ。ルイたちがいいな解放するぞ?」

 

ボーは特に抵抗はないようだ。

 

「じゃ、じゃあ頼みます」

 

ガチャ

 

ルイの言葉と同時ぐらいにボーは呆気なく男が閉じ込められている牢獄のカギを解錠していた。

 

「早っ……」

 

「これぐらいは朝飯前だ」

 

鈍い音と共に牢獄の錆びついた扉が開くと、男は首をグリグリ回しながらゆっくりと出てきた。

 

「カギはどこだ?」

 

ルイたちは男に警戒しながら問いただす。

 

「たしか衛兵はこの辺りに隠していた」

 

そう言うと男は棚に山積みにされた物をゴソゴソと漁り、いびつなカギを見つけ出す。

 

「これだ。使ってみろ」

 

男から放り投げられたカギをルイは片手でキャッチした。そして恐る恐る鍵穴に差し込み、ゆっくり回し込む。

 

ガチャリ

 

すんなりとカギは回転し、心地良い機械音が鳴る。

 

「開いた……」

 

そのままルイはゆっくりと扉を押し開けると鈍い摩擦音が静かな空間に響き渡った。

目に入ってくる部屋の中はさらに薄暗く、少し明かりがさしこんだだけでもゴミのような機器が乱雑に散らかっているのが分かる。そして誰かがいるような気配はない。

 バードによる釣り出すための罠だったとしても、政治犯等の都市連合を脅かす者たちはこの収監所に全員幽閉されていると思っていた。ここにいないとなると宛がなくなってしまう。

 ルイが入るのを躊躇っているとカギを見つけた男が声をかけてくる。

 

「随分前にスケルトンも連れてこられていた気がするぜ。ちゃんと中も見てみろよ」

 

男の言葉に微かな希望を持ちつつ、ルイは中に入っていった。すぐ後にジュードが続く。

 

「誰か……いないか?」

 

周りに窓がない10畳ぐらいの小部屋で中は鼻を突く嫌な匂いが立ち込めている。よく見ると床には血のりも飛び散っており、ここが何のために使われる部屋なのか容易に想像がついた。

 

「尋問や拷問に使っている部屋だろうな。都市連合に仇なす者は全員ここに入れられて◯☓△%#……」

 

ジュードの言葉は途中から耳に入らなかった。

横に山積みにされているガラクタ機器を見て、ルイの頭は悲壮感で満たされていたのだ。

 ルイの目には鉄のガラクタの山の中からボロボロになって突き出ている一本の金属の腕がうつっていた。それは幼いルイをよく抱えていた、冷たくて硬いが温もりを感じるスケルトンの腕であった。フザケて噛んだ人さし指の傷すらそのままだった。

 

 世界を知りたいという好奇心からニールと2人で始めた旅。素晴らしい出会いや楽しい発見があると心を躍らせて住み慣れた小さな小屋を飛び出した。

 

しかし

 

世界は想像とは逆で残酷だった。

 

「あ……あ……」

 

過呼吸のような症状になり、尋常ではないルイの様子にジュードも事態を理解したようであった。

 

「サッドニールさん……なのか!?」

 

「…………」

 

応えたくない。

この質問に応えると認めてしまう事になる。確定してしまう気がする。トゥーラという親友に続き、育ての親サッドニールも失ってしまうことになる。

 

サッドニールと同じ型のスケルトンはそれなりにいる。偶然似たような傷がついていただけかもしれない。微かな希望で自分の正気を保っていると、ジュードが続ける。

 

「た、確かにこんなに早く処刑するとも思えない。ちゃんと調べよう」

 

この言葉にルイも小さく頷くが、何年も身近で見ていたスケルトンの腕を見間違えることはない。ルイの中で、抱いていた希望は脆くも崩れ去っていくのであった。




やっと本エピソード締めのバトルに入れました(´Д`)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。