Kenshi -20years later-   作:さわやふみ

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151.収監所の死闘②

教えてくれ……トゥーラ

 

私はこの非情なる現実を乗り越える事が出来るのだろうか……

大切な人たちを失ってまで歩み続ける意味があるのだろうか

 

 ルイは積まれた鉄くずから突き出ているスケルトンの腕を優しく引き抜くと震えながら膝をつき、その腕をそっと両手でやさしく包みこんだ。

 ルイには分かる。覚えのある手触りだった。幼い頃この手で服を着せてくれた。布団をかけられた。頭をなでられた。数々の思い出がフラッシュバックのように頭をよぎり、視界が涙で霞んでいく。

 ジュードは何も言わずにポンとルイの肩を叩くと部屋を出ていった。気を遣って出ていってくれたのだろう。ルイはしばらくスケルトンの腕を抱えながら放心していた。

 

 するとフレイムが急に部屋に入ってきて声をかけてきた。

 

「報告します!多数の敵部隊が東の方角に現れました!……その腕はまさか……」

 

ルイは頬をつたう涙を拭うとゆっくり立ち上がり、背中に装備しているデザートサーベルを抜いた。

 

「敵の増援が来たのか……?」

 

「は、はい。僕、様子を見てきます!」

 

ルイの泣き顔に気まずいと思ったのかフレイムはそのまま部屋を出ていった。

 

そうだった。こうなったら今はもう泣いてはいられない。悲しむのは後にしなくてはいけない。仲間を無事に家に帰すため、出来る限り多くの敵を殲滅し、特憲が2度と自分たちに手を出そうと思えなくなるぐらい叩きのめしてやるのだ。悲しみの殺意がいまルイを覆おうとしていた。

 

 ふと気がつく目の前に男が立っている。

先ほど牢獄から解放しカギを見つけてくれた囚人だったが手には野太刀を持っている。ルイは警戒しつつ探りを入れてみた。

 

「……どうした?一緒に戦ってくれるのか?」

 

「いや、お前とは少し話をしてみたくてね」

 

男は呟くと後ろの扉を閉めカギをかけた。

 

「どういうつもりだ?そこをどけ」

 

扉が閉まる音に気づいたのか扉を叩く音とジュードの声が外から聞こえてくる。

 

「ルイ!どうしたんだ!?扉が開かなくなったぞ!敵の軍勢が迫ってきてるらしいんだ!早く撤収しないと!」

 

しかし目の前にいる男は扉を開ける様子はなく、ニヤついている。

 

「……お前、誰だ?」

 

「分からねぇか?まぁそりゃあそうか。顔見せたことねーしな」

 

「どうでもいい。どかないなら押し通る」

 

「やれやれ……つくづく癇に障る奴だ。俺に勝てると思ってやがる。じゃあ分からせてやる……よ!」

 

男は喋り終えると同時に野太刀をしならせながらルイに斬り掛かった。そしてルイにはこの太刀筋に見覚えがあった。

 

「……スケサーンか!!」

 

いつも鎧を着込んでいて素顔が分からなかったが、独特の剣法とどことなく聞き覚えのある不快な言動から分かった。スケサーンの曲がる軌道で迫りくる剣先はルイの無想剣舞でも避けきることが出来ず、コートを切り裂いた。

 

「くっ……」

 

「俺も崖っぷちなんでね。本当は戦わずにお前を人質にする予定だったがケリをつけてやる。お前を討ち取れば全て元通りだ」

 

「サッドニールはお前がやったのか……?」

 

「ああ、そのガラクタの山に埋まってるよ。スケルトンは悲鳴すらあげなくてつまんねーのな?淡々と命乞いする割には”仲間には手を出すな”と言う図々しさ。解体も無駄に時間かかるしよ」

 

「もういい。黙れ」

 

「そもそもスケルトンが人間の真似事なんてできねーだろ。あいつらには感情がねぇ」

 

「黙れ!!感情がないのはお前たちだ……!」

 

「聞いておいて黙れはないだろ。相変わらず自己中だな。自分の都合のために世の中を乱す悪党共め。俺が成敗してやる」

 

「お前たちが振りかざす偽物の正義はもううんざりだ。私ももう会話は無用だと思ってる。早く済ませるぞ」

 

「ふーん……では早速!!」

 

言うなりスケサーンは素早い動きでルイに斬り掛かっていった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 収監所の周辺を制圧したバーンたちは東から向かってくる砂ぼこりを見ながら収監所チームの報せを待っていた。横にはどこからか持ってきた死体を背負ったグリーンがおり、虫のような目で遠方から迫りくる敵の動きを読んでいた。

 

「軍隊規模だな。2方向から来てる。まだ狼煙は上がらんのか?」

 

「“制圧”の後、“撤収”の狼煙がない。サッドニールが見つからないのかもしれない。我々と反乱農民部隊の2隊でそれぞれ足止めしよう」

 

「反乱農民のほうは抑えられるか?」

 

シュライクが心配していると後ろから声が聞こえてくる。

 

「俺が行く」

 

振り返るとそこには収監所襲撃チームのカンとアグヌが来ていた。

 

「む。カンか。制圧の後の撤収連絡をなぜしない?どうしてここに来た?」

 

「制圧後に開かずの部屋にルイが怪しい男と共に閉じ込められた。今、ボーが解錠を試みている。モムソーも念のため置いてきた」

 

「怪しい男?誰だ?」

 

「牢獄に捕らわれていた者らしいが……そいつが隙を突いて中からカギを閉めやがった」

 

「なんだと。ルイを人質にするつもりか」

 

「ああ、それが狙いだったのかもな。自力で出てきてもらうか、解錠しか手はねぇ。時間がかかりそうだ」

 

これを聞いたバーンは暫く沈黙していたが、やがて小さく口にを開く。

 

「……敵も痛いところを突くじゃないか。とにかく時間を稼ごう。では反乱農民側の支援はカンに頼もう」

 

「おう」

 

「グリーンはいつも通り遠くから狙撃の支援をしてくれ。シュライクとガルベスは各々好きに暴れたまえ。私が援護する」

 

ガルベスは驚いた表情でバーンに聞き返す。

 

「さすがに俺たちだけではきつくないか?相手の増援は相当いそうだぞ」

 

バーンの周辺確保班には傭兵やテックハンターがいたが敵の待機組を排除した後に契約終了で解散しており、バーンらノーファクションの者しかいなかった。

 

「足りないかね?私の計算上、このメンバーに隙はない。じきに反奴隷主義者と後詰めのグリフィンも来る。やれるさ」

 

「マジか……すごい自信だな……。オーケイ、俺も腹をくくるか」

 

東方の砂埃は徐々に近づいてきてやがて人の一団であることが目視出来るようになる。侍の甲冑が擦れあう音。砂地を踏みしめる音が鮮明に聞こえるようになった頃、その一団の先頭に特憲隊長バードがいることも見て取れた。ガルベスの共有通り顔を隠す特有の仮面をつけたその者はバーンと会話が出来る程の距離まで近づくと片手をあげて一団を制止させた。対峙した後、しばらく睨み合いが続いたが、先に喋り始めたのはバーンであった。

 

「なるほど。私の20年前の吟遊詩人の記録との一致率は68%。確率としてはまだ疑いの余地の範囲ではあるが、事前に知っておかなければ君が吟遊詩人だとは気づけなかった」

 

バーンはレンズのピントをバードに合わせながらフラグメントサークルを背中から取り出した。

 

「久しぶりだな、バーン。どうやって事前に知った?……いや、もはやどうでもいいか。お前たちはここで殲滅する」

 

「私も君を殺してノーファクションの因縁を終わらせることにするよ。その後、道化を演じていた君の黒歴史は世間に広めておく」

 

「スケルトンにしては煽りも一流だな。やはりお前は他の個体とは違い心理学、人間科学を理解しているようだ」

 

「それは君もだろう。君の場合は天性の自己流か。あらゆる人格を模擬出来るのかね?」

 

「大げさな。得意だったから任務に利用したまでだ。ポートノースで私の情報を見たのだな」

 

「あの情報で君がスパイだったと確信が持てたよ。私のサーチにも引っかからないわけだ」

 

「ふっ……こちらも分かったことがある。やはりルイはお前達の弱点だったのだな」

 

「…………なに?」

 

「撤収しないのはルイが足止めを食らっているからだろ?どうやらスケサーンは上手くやったようだ」

 

「ははは、もしや君が仕掛けた罠はそれだけだったのかね?案外たいした事ない人間だったな」

 

「しかし効果は充分だ。反逆者を一箇所に集めてくれたおかげで今日で一網打尽に出来る」

 

「はたして上手くいくかな?」

 

「お前たち3人で何が出来る。では……かかれ!」

 

吟遊詩人こと特憲隊長バードのかけ声のもと、多勢の都市連合侍部隊がバーン、シュライク、ガルベスに襲いかかる。

 数の差から一見すると一方的な展開が予想でき、侍たちの表情も余裕に溢れていたが、数歩あるくとその者たちは自分が死地にいることを自覚する。それが最期の瞬間だと悟ったと同時に。

 横薙ぎに放たれたバーンの武器フラグメントサークルは何者の抵抗も許さず、触れた直後に対象を肉塊にしていった。声すらあげられる者はおらず、ただひたすら死に直行していく様はまるで工場の流れ作業を彷彿とさせる。そして、それが3振りほど続いたところで武骨な侍たちも異常な状況に気がつく。このスケルトンに真っ向から挑むことは無謀に等しいと。しかし彼らは引くことがない。今回バードに同行して来ている侍は都市連合の中でもエリート中のエリートであり、ノーファクションが特定脅威組織に指定されたことにより派遣された都市連合の正規軍が誇る皇帝直属の近衛部隊であった。

 

その中の侍軍曹が叫ぶ。

 

「下がるなぁ!お主ら侍魂を見せろ!どんどんかかれ!」

 

この声にまた侍たちは狂気に満ちた表情でバーンに襲いかかる。しかし当然ここでバーンは手加減するような者ではない。問答無用で新手の侍をなぎ倒していった。そして相手の動揺を誘うためか挑発までする余裕を見せる。

 

「軍曹殿。君も叫んでいないでかかってきたらどうかね?是非、君の魂を見せてもらいたい」

 

「おのれ機械の分際で!御前会議大会第4位の実力を見せてやろう!」

 

「1位じゃないのかね」

 

「その口、黙らせる!死ねぇえ……ぴぎゃ!!」

 

バーンに対してかけ声と共に突進していった軍曹は番狂わせを起こすこともなく、そのまま頭を叩き割られて散っていった。侍たちは軍曹の実力に一目置いていたのだろう。もはや立ち向かう闘志は消えかかっているようであった。

 バーンは統計上このタイミングが蹴りをつける時だと知っている。待ちの姿勢から一変して侍の集団に斬ってかかる。ここから都市連合の兵士たちは多大な犠牲を出して1人のスケルトンに押され始めた。それを横で見ていたガルベスも呆気にとられてついつい呟いてしまう。

 

「あいつ……支援するって言いつつ1人で一団を押し返しやがった……!」

 

バーンの無双に勇気づいていたのだ。そしてそれはシュライクも同様であった。スコーチランド人の彼女はノーファクション古参として早いうちから活躍していた。槍のポールアームを扱う実力者である彼女はグリフィンチームの主力として活躍していたが、件のスパイ疑惑もあってノーファクション最後の戦いとなった”毛皮商の通り道”における戦闘には参加出来ていない。その屈辱と悲しみと怒りが今ここで爆発していた。トレードマークであるサングラスの内側で鬼の形相となって侍たちをなぎ倒していった。これにより侍の前線はついに崩壊し、退却を始める。

 

「逃がさん!我らの恨み思い知れ!」

 

シュライクは勇敢にも単身で追撃を開始する。しかしスケルトンのバーンにとってこれは予定外の事であった。人間の積み重なった積年の恨みを過小評価していたのである。

 

「シュライク!戻れ!持ち場を死守しろ!」

 

いくらノーファクションが猛者集団であっても数には勝てない。連係せずに離れれば個別に撃破される恐れは充分にあった。そして振り返り収監所を確認するもやはり“撤収”の合図は出ていない。

 

「ルイ……何をしている。……ガルベス!シュライクのフォローをお願いしたい!」

 

単身で追撃するシュライクが分断されないようにするためだ。

 

「了解だ!」

 

ガルベスもシュライクの後を追って追撃を開始するが、いつの間にか特憲隊長バードの姿も見えなくなっている。

 

(奴は後ろに下がったか……?または反乱農民隊のほうへ?アイゴアもここにはいないのか?あまり良い流れではないな)

 

バーンは一息をいれるように、戦闘で圧力があがった体機構のガスを抜いた。




ついに冒頭部分到達・・・長かった。。

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