Kenshi -20years later-   作:さわやふみ

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152.収監所の死闘③

収監所の北方周辺に展開する反乱農民部隊

 

 ノーブルサークルによる圧政に反感を持った農民の一部が立ち上がり出来たこの組織は今回ノーファクションが収監所を襲撃するにあたって一時的に盟約を結び支援隊を送っていた。都市連合を内部から破壊するためホーリーネーションにより密かに訓練されていたこともあり、ギシュバ8人衆ニムロッドのように戦闘能力に長けているアウトローは数人いた。しかし部隊を指揮するようなリーダーのような人材は不足していた。今回も指示を受けて現場に到着したものの、迫りくる都市連合部隊にどのように立ち回るべきか判断がつかず、動揺が広がっていた。

 

しかし、そこにカンとアグヌが到着する。

 

「よぅ、あんたら何人で来た?」

 

カンの呼びかけに対して、辛うじて隊員をその場に留まらせていたであろう隊長らしき人物が応える。

 

「20人だ。俺たちはほぼ威嚇程度の役割と聞いて来ている。向こうは50人はいるぞ。どういうことだ」

 

「大丈夫だ、俺たちをフォローするだけでいい。あんたが隊長か?」

 

「ああ。隊長の二ムズだ。やばい時は俺の判断で退却するからな」

 

「へぇ、反乱起こした者たちの割には意外と臆病だな」

 

「こんなところで命をかけてられないだけだ」

 

「都市連合の最重要施設を襲撃中なんだぜ?ここで命をかけないでどこでかけんだよ。捕まっているあんたらのお仲間も脱獄出来るかもしれないぞ?」

 

「……!」

 

カンは狼狽えている反乱農民軍の隊長を一瞥すると、じっくりと敵陣の状況を見始めた。そして連れてきたスケルトンに声をかける。

 

「アグヌ。お前は自由に暴れてくれていいぞ。撤収合図だけ聞き逃すなよ」

 

「アグヌ!」

 

アグヌと呼ばれるスケルトンは遠い過去に音声機能を壊してしまったようで、一定の単語しか発せられなくなっていた。

 

「俺らの相手はどうやら十志剣だ。張り合い

があるぞ」

 

ノーファクション勢が目をやる方向から迫ってきている都市連合部隊の先頭には商人の格好をした10人組がいたが、その風貌の者たちが十志剣であることは既にノーファクションの者たちは把握していたのだ。

 

 

 

 一方の十志剣側もカンらを見るなり鋭い形相になった。そしてその中の隊長らしき人物が隊を制止させると、ため息をつきながら呟く。

 

「あの男……カンだな。まったくノーファクションは誰にあたっても面倒だな」

 

「テネンバウム様。あいつはデータによると斬馬刀持ちでオールラウンダーです。そして俺らのターゲットはここにはいないようですがいかがします?」

 

板剣を持った者が手持ちの紙きれを見ながら隊長らしき者に尋ねる。

 

「かといって我々全員がここを離脱するわけにもいかないだろう。奴の隣にいるスケルトンも確かアグヌと言う怪力だ。我々がいないとこちらの都市連合兵だけでは苦戦しそうだ」

 

「ええ!?相手は少数の烏合の衆ですよ?俺らは向こうの戦闘現場へ急ぎましょうよ」

 

「いや、ノーファクションの面子が問題なのだ。カンもやっておかなければ。テンドウ、いけるか?」

 

隊長らしき者が斬馬刀を持った小柄な青年に声をかけた。

 

「いけます。早めに殺って後から合流します」

 

「油断するな。カンを抑えておくだけでも充分だ」

 

「でも今回のターゲットを殺るには僕がいないと」

 

「自惚れるな。お前がいない陣形でも何とかなる」

 

「それですとこちらに被害が……」

 

「黙れ。この戦いは我々十志剣の目的以上に勝たなければいけない重要な戦いだ。全体の状況を優先する」

 

「……承知しました」

 

隊長らしき者に一喝された斬馬刀持ちの青年は何か言いたげな表情を抑えて押し黙った。そこに先ほどの板剣持ちの者が茶化す言葉をかける。

 

「テンドウは甘ちゃんだな。俺たちを過小評価しすぎだぜ」

 

「サクマさんも気をつけて」

 

「おう。じゃあ行ってくる。後でな」

 

そう言って、斬馬刀の青年を1人残して十志剣のうち9人が戦場を離脱する。その様子を見ていたカンは呆気にとられていた。

 

「おいおい、殺人集団が一丁前に仲間の心配してんじゃねぇよ。十志剣が単独行動してくれるなんて好都合過ぎるぜ。お望み通り1人づつ狩ってやる」

 

カンはズカズカとその場に残った十志剣の1人テンドウのもとに歩み寄っていく。対するテンドウも斬馬刀を抜き臨戦態勢となった。

 斬馬刀持ち同士の戦いはすぐに始まった。カンは若いテンドウを見て体格差で勝っていると判断し、両手による力任せの斬撃を繰り出した。しかしテンドウはそれを受けずに素早い身のこなしで後ろに避ける。この動きを見たカンは一気に間合いを詰めて決めにかかった。相手が受けない(筋力的に受けきれない)ならば様子見して目が慣れてしまう前に押し切ろうと判断したのだ。

 

 この判断は定石通りであり間違っていない。事実テンドウとしてもカンの重くて速い斬撃は軌道も読めず、刃を合わせようにも当て方によっては武器が破壊されそのまま一瞬で殺られてしまうリスクがあった。しかし十志剣の虎の子テンドウはその類まれない戦闘センスによりカンの初太刀から次の攻撃パターンを予測していた。そして見事にカンの斬撃軌道を読み2撃目を受け流すことに成功したのだ。

 

「!!」

 

これはカンにとっては衝撃的なものであった。見た目二十歳に及ばなそうな青年が、筋骨隆々の自分の斬撃を見切って見事に流したのだ。そしてさらにそのままカンに対してカウンターとも言える袈裟斬りを繰り出してきた。カンはそれを弾きつつも戦慄を覚える。

 2撃目を受け流したのは明らかに偶然ではない。この若者は初めて剣を交わした相手の攻撃パターンを癖や機微な動きから直ぐ様解析してみせたのだ。カンがこの領域に到達したのは30歳台過ぎた頃であり、それまで多くの実戦の場数を踏んだ後であった。

 

(あの若さでそれだけ実戦を積んできたか、または天賦の才能か……)

 

相手が並の人間ではないと悟ったカンはいったん追撃を止めた。そして横を見る。自分の戦いが長引くと判断してアグヌの様子を伺ったのだ。アグヌは言われた通り都市連合の侍集団のほうへ斬りかかり始めていた。

 

 ノーファクションにはかつて3体のスケルトンが在籍していた。サッドニール、バーン、そしてこのアグヌである。スケルトンがゆえに長寿であることを理由にこの3体は仲間から三耆宿(さんきしゅく)と呼ばれ、過去の法律を元にした身内の公正公平な裁定や情報の保持等で活躍していた。そして時にはその力量から敵と対峙することもあった。中でもアグヌは骨格がソルジャー型として造られており、最大出力においてはバーンを上回るほどの膨大な筋力を生み出すことが出来た。そのアグヌがマサカリ型の長柄武器を振り回し侍集団に斬り込んだのである。

 バーンの時と同様にあっという間に侍の前列が肉塊に化していくのを横目に見つつカンは再度視線をテンドウに戻した。安心して目の前の敵に集中出来ると判断したのだ。しかし、その目の前にいたはずの斬馬刀持ちは視界に入らない。

 

「どこに……」

 

呟いた瞬間。カンは寒気を感じる。人生においてそうそう起き得ないこの感覚はカンを大きく後ろに下がらせる理由としては充分であった。下がり始めると同時に脚元からテンドウの逆袈裟斬りによる高速に光る刃が浮かび上がってくるのを視界に捉える。

 スレスレでそれをかわしたカンの額には一筋の汗が滴り落ちた。

 

「お前……若いくせにやるじゃないか」

 

仕切り直す形で両者は斬馬刀を構えあった。

 

「あなたもね。どうです?ここはお互い引きませんか?」

 

急な申し出にカンは面食らった。

 

「あ?何を言っている?」

 

「あなたはこちらの都市連合部隊を蹴散らしたいのでしょう?僕は向こうの戦場に行きたいので思惑は一致しているのでは」

 

反乱農民の部隊は士気が低く、今でこそアグヌの奮闘で持ちこたえているものの、いつ崩れるかは分からない。しかし目の前にいる青年の申し出を受けた場合、その分バーン側が大変になるだけであった。カン少し考えた後、すぐに不敵の笑みを浮かべる。

 

「どうだろうなぁ。こちらもお前みたいのがいたのは想定外なんでね。お前をここで討ち取っておく事のほうが後々のためにも優先度が上がっているかな?」

 

「……交渉決裂ですか。仕方ない。では再開しましょう」

 

先ほどより少し早口で喋り終えるとテンドウは一気に間合いを詰めていく。そしてこれまでよりさらにギアを上げてカンに斬り込む。その異常な速さにカンも数手を受けのみに集中せざるを得なかった。

 

(コイツ……軌道も分かりずれぇ……!下手するとまじで飲まれる……!)

 

シェク人は多くの者が戦闘狂と言われるほど血の気が多く、ノーファクションにおいても在籍していた4人とも全員が武闘派であり、シェク4人衆として名を上げていた。中でもカンはその筆頭として突出しており、当時既にシェク王国が誇る精鋭百人衆に匹敵すると自称さえしていた。

 そして戦闘のプロとして数々の修羅場をくぐり抜けてきた感覚から目の前にいるテンドウはその見た目とは裏腹に相当な脅威になり得る存在だと認めたのだ。

 

 カンも数少ない攻撃の切れ間を狙ってジャブのように単発の反撃を繰り出すが、テンドウはそれを読んでいるのか、受け流してから自分の攻撃を再開する。

 端から見ればテンドウがカンを圧倒しているかのような光景であったが、ここでカンの表情が険しく変化し、同時にこれまでの斬撃速度とは異なる袈裟斬りを繰り出した。テンドウは咄嗟に受け流しに掛かったが、今度の斬撃は重さも違った。

 ギャリギャリギャリと凄まじい刃の擦れる音をたてると、踏ん張っているテンドウの足が砂地にめり込んでいく。耐えた際に食いしばったのか唇から血が滴り落ちていた。

 

「ちっ……これも耐えるか」

 

カンには一撃の重さがある。受け流しが失敗すれば直接死にかかわってくることをここでテンドウも理解したようであった。互いに余裕の表情は消えていた。

 気がつけばアグヌと反乱農民の勢いも都市連合部隊の数に押されて膠着状態になっている。ここの戦場はふとしたきっかけでどちらに勝利が転んでもおかしくない状況となっていた。

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