Kenshi -20years later-   作:さわやふみ

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153.収監所の死闘④

「どうですか?感触は」

 

特憲のフグはバードに問いかけた。

彼らは戦闘が始まってすぐに戦場の後方数百メートルの場所に下がっていたのだ。フグの問いかけに対してバードは飄々と応える。

 

「やはりノーファクションは一筋縄ではいかないな。第1波は僅か3名に押し返された」

 

回答を聞いたフグも特段慌てる素振りを見せなかった。

 

「でも予定通りなのでしょう?」

 

「ああ。そうだな」

 

「収監所には()が行っているのですか?」

 

“彼”というキーワードで誰のことを言っているのかバードには伝わったようだ。

 

「 そうだ。しかし事情柄、あの人は単独だ。我々もタイミングを合わせて駆けつけなければならない」

 

「まぁこちらとしても切り札ですしねぇ。でもバーンとカン以外で彼に太刀打ち出来る方は見当たらないでしょう」

 

「どうだろうな」

 

「ところで隊長。あなたに伝えておきたいことがあります」

 

「なんだ?」

 

改まって居直るフグに対して、バードは気にする様子も見せずに前を見据えながら聞き返す。

 

「ネムラはノーブルサークルに忠実です。だから変な夢は諦めてくださいね」

 

唐突に切り出された話題に2人の間に一瞬静寂が流れる。空気が冷えつき、ふとしたきっかけでお互いが今にも斬りかからんとするほどの殺気がぶつかり合うような気配だ。しかし2人は変わらず前方を見ながら会話を続ける。

 

「何のことだ」

 

「隊長はちょっと高い理想をお持ちのようなので、間違った道に進んでしまわないように忠告しておきたかっただけですよ。鉄蜘蛛の制御権はちゃんとノーブルサークルに移譲させますのでご安心ください」

 

「……ふっ、なるほど。何を勘違いしているか知らないが、いらぬ気遣いだ」

 

「あら、そうですか?」

 

「それよりもそろそろフグ(お前)の出番は近いぞ」

 

「そうでした。ここは派閥の概念を超えて共闘しないと乗り切れない戦場でしたね。狙撃手としての頂点を決める戦いにもケリをつけてきますわ」

 

フグは背負った交易用のバックパックを開けると中からボーガンの部品を取り出し組み立て始める。

 

「グリーンはバーンの近くに潜んでいる」

 

「そんなこと分かりますよ。彼とは長い付き合いですし。ここは私怨やプライドは捨てて確実に勝ちにいきますわ」

 

そう言って不気味な笑みを浮かべるとフグは1人いずこかへ消えていった。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

収監所の玄関

 

ノーファクション勢による制圧後。閉じ込められたルイの救出作業にばボーやモムソーがあたり、玄関にはピアとレヴァが待機していた。外部から敵の反撃があった場合に逃走経路を確保するためだ。

 

「遅い……。まだルイの野郎は出てこれねぇのか……?」

 

レヴァはイライラしながら収監所を見上げた。ピアもつられて見上げると不安そうに呟く。

 

「脱獄したあの男……。奴が中からカギを閉めた事とかすかに聞こえてくる会話を聞いた限り敵だった……」

 

「怪しい奴だとは思ってたけどな。しかし結局待ち構えていたのはその男だけだったんだろ。さっさと殺して出てこいってんだ」

 

「手強いのかもしれない……」

 

僅かの沈黙の後、ここでレヴァは思い切った提案をする。

 

「いったんルイを置いて撤収しないか?大分都市連合の部隊が迫ってきている。ここにも別働隊が

来ないとも言い切れないぞ」

 

レヴァにとってノーファクションと都市連合のいざこざは興味のない物であり、亡きモールの指令で帯同しているだけである。この発想に至るのは仕方のないことではあった。しかしピアは全くそのつもりはなかった。

 

「ルイを置いてはいけない。あの子は我々の希望なんだ」

 

「んなわけあるかよ。夢見すぎだぞ。ルイの価値と言ったらモールのために無想剣舞を後世に残せることだろ」

 

「いずれ新しい世代が何かを成し遂げていかなければならないんだ。それを牽引していけるのはルイ以外にいない」

 

「ホモ共に肩入れしている奴だぜ?その時点で見込みねぇっつの。……ん!?」

 

レヴァは話し終えると同時に西から近づく一団に気がつく。都市連合の甲冑とは異なりスチールで胴体のみを覆ったシンプルな出で立ちをした者が20名ほどだ。

 

「……あいつらの格好……ホリネだぞ!!こんな時に攻めて来やがったのか!?」

 

「レヴァ、落ち着け。バーンが言っていた部隊かもしれない」

 

「グリフィンのことか?西の守りだろ。ここまで接近するって聞いてたか?怪しいぞ!」

 

ピアとレヴァは忍者刀を抜いていつでも戦闘に入れるよう警戒を続けた。対して近づいてくる集団の先頭にいる大柄の男がゆっくりと彼女たちのもとに歩み寄ってきた。

 

「ピアですね。懐かしい。元気にしていたかな?」

 

「グリフィン……」

 

ピアにとって聞き覚えのある声であり、その風貌からもすぐに対象を特定することが出来た。しかしピアが何か言い出そうとしたのを遮ってレヴァが叫んだ。

 

「そこで止まってここに来た理由を述べろ!」

 

「君は三忍のレヴァか。“制圧”後の“撤収”が遅れているのだろう。遅い場合、我々も助太刀する手筈だった」

 

「そんな話、聞いていないな!」

 

「バーンには伝えていた。万が一我々が接近することを君らが知っていたら拒絶していただろう」

 

「当たり前だ!ここはいいからとっとと失せろ」

 

「そうはいかないな。ピア、なぜまだ撤収していないのです?もう制圧して大分時が経っている」

 

グリフィンはレヴァとの対話は避けてピアに話しかけた。

 

「ルイが中で閉じ込められてて、今、解錠を試みている」

 

「何……。よりによってルイですか……」

 

考え込んでいるグリフィンに対してまたレヴァが会話に入ってくる。

 

「なんだ?あんたもルイファンの1人か?アイツたくさんたぶらかしてんだなぁ」

 

グリフィンはレヴァに構わず独り言を言う。

 

「それで東方で戦闘が始まっているのですか。どうやら特憲の思惑通りになっているようだな」

 

「はぁ?収監所の襲撃自体は成功したぞ?他愛もない場所だった」

 

「ピア……やはりアイツだったのか?」

 

グリフィンは尚もレヴァを無視してピアに問い質した。

 

「裏切り者のことだな。どうやらそうみたいだ。吟遊詩人が特別憲兵隊の隊長バードだ」

 

元グリフィンチームにとって、複雑な心境になる話であっただろう。特にグリフィンはリーダーとしてメンバーの潔白を証明するための活動をしていたのだから尚更だ。

 

「……そうか。残念だ。ならば奴は我々を知り尽くしているということか。厄介だな」

 

「やばけりゃルイを置いて一時撤退すりゃいいだろうが」

 

事あるたびに口を出していたレヴァに対して、沈黙を続けていたグリフィンであったが、ルイの話題になると初めて言い返す。

 

「レヴァよ。我々はルイを置いて引くことは絶対にない。例え全滅してもな」

 

「……!ほんっと気持ち悪いな。お前らはよ!」

 

レヴァは半ば呆れるように吐き捨てた。

 

 気まずい雰囲気のまま時間が経過するが、今度は会話が途切れたのを見計らってピアが静かに喋りだした。

 

「グリフィン、何時ぞやは襲撃して悪かった……。依頼されていたんだ。他意はない」

 

ピアは浮浪忍者として一度司祭であるグリフィンを攻撃しており、その際に護衛のパラディンを数人仕留めていた。対してグリフィンは静かに笑みを浮かべた。

 

「ふふふ。ピアらしいね。その襲撃の依頼主は私だったのだよ。間接的に頼んでいた」

 

「なに?どうしてそんなことを?」

 

「ホーリーネーションの司祭として内側に認めてもらうためだ。浮浪忍者に襲われたほうが箔が付くし信用されるだろう」

 

「ふっ……ゲスいな。司祭らしい気はするが本格的に目指すことにしたのか?」

 

「いや……司祭という職はあくまで手段に過ぎない。私の願いは人類の救済だ」

 

この会話を聞いていたレヴァは吹き出すように悪態をつく。

 

「キモ!キモすぎる!大きいこと言いつつ襲撃には加担するのはとんでもない坊主だな!」

 

「レヴァ、恐怖の象徴であるこの収監所を落とすことは後に多くの命を助けることに繋がるのだよ」

 

「お前らはいつもそうやって何らか理由をつけて自分たちの悪行を正当化してるだけなんだよ!いい加減気づきやがれ」

 

「君に対してここで私がいくら言葉を並べてもあまり意味はないかもしれないね」

 

「ああ、言っている事とやっている事が違うのはお前たちの得意スキルだからな!」

 

レヴァが言い放った直後のことだった。

 

 

ゾ…………

 

 

険悪な空気を崩すほどの悪寒が3人を襲う。長年、戦闘の場に身を置いてきた者たちが経験する野生生物が五感をフルに活用するようなまさに生き残る上での動物的な直感であった。異様な空気が収監所の明かりがあたらない暗がりから1人の影を伴って近づいてくるのを察知したのだ。

 

「…………」

 

人影はやがて証明に照らされてその正体を現す。注視していた者たちはその風貌を見て驚愕する。レヴァに至ってはその者を見るなり悲壮感ただよう表情になる。

 

「おいおいおい……マジか……なんでアイツがここにいんだよ……」

 

ピアも冷静を保とうとしているが、心の整理が出来ていない様子だ。

 その者は昔、都市連合の最強将軍として君臨し、前皇帝を暗殺したという噂の後、S級賞金首となって姿を消したソルジャータイプのハイブ人。誰もがすぐに気がつく特徴的なピンク色の肌とその巨躯。そして世界に知れ渡った残忍性から敵としては絶対に出会いたくない相手として認識されていた。

 

「くそ……!早く撤収しないからだ」

 

あのレヴァの口から戦意ある言葉は出てこない。グリフィンも言葉が出てこないようであった。

 

 伝説級の生ける武闘家ティンフィスト、西方でシェクを狩る不死のバグマスターに並び、単体で国家を脅かすほどの実力を持つとされる死神アイゴアが姿を現したのである。

 

「グルルルル……」

 

アイゴアは巨獣のごとく大きな足音を立てながらゆっくりと近づいてくる。スケルトンの腕となった右手にはメイトウのデザートサーベルが握りしめられており、これから殺戮を始めんとする意気込みを感じられる。その敵意を向けられる者たちは生きた心地がしなかった。

 

「た……タイミングを合わせて離散しよう。追いかけられた者は運が悪かったと思うしかない」

 

アイゴアから視線を外さずにレヴァが小声で提案する。しかしピアは震えながらもそれに反発する。

 

「それは駄目だ………。私たちがここにいる理由は撤退経路の確保のためだろう」

 

「バカ!私たちだけじゃ時間稼ぎすら出来ねぇよ!今は被害を減らすことだけ考えるしかない!」

 

S級賞金首に指定される者は戦闘慣れした浮浪忍者の3忍でさえ戦う気力を持たせないほど、かけ離れた異質な存在である。浮浪忍者の3忍は当然実力だけでなく判断力も兼ね備えており、いかに相手の力量を見極めて立ち回ることが生き残るポイントであることを理解しているのだ。それは弱小組織が国家に対抗するために身につける知恵でもあった。

 

 ではかつてノーファクションにチームリーダーとして在籍し、現在大国ホーリーネーションの司祭をしているグリフィンはどうか?

 彼は慌てる素振りどころか微動だにせずアイゴアを見つめていた。そして迫りくる巨躯を前に自らの巨体を立ちはだらかせる。

 

「ふぅ……随分と前に殺生は禁じていたのだが……」

 

アイゴアと対峙するように前に出るグリフィンの背中には三角形の刃がついた重武器”トライアングルジョー”が背負われていた。

 

「お、おい……あんたまさか……」

 

前に出るグリフィンをレヴァは唖然としながら見ていた。

 

「お前たちは他の襲撃者を警戒してくれ。私がアイゴアを抑える」

 

「マジかよ!今さらカッコつけなくていいんだぞ!?」

 

「強がりではない。多少の時間稼ぎなら私も出来る。それに我々にとって奴は仇敵だ。司祭ならざるほど今、私には殺意がこみ上げてきてしまっている」

 

ピアもグリフィンの戦いを間近で見てきた1人であり、この言葉を真に受けている。

 

「レヴァ。彼の言う通りだ。グリフィンなら乗り切れるかもしれない」

 

「……そ、そうなのか」

 

「グリフィン。私たちの支援は必要か?」

 

「……いや、いい。新手に対応出来るようにしておき、ルイを絶対に逃がすことに集中してくれ」

 

グリフィンは背中で語ると、”トライアングルジョー”を取り出し、アイゴアに単身で向かっていった。

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